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ページ20~逃・飛行

ちょっと新展開。ノンストップでお楽しみくださいなのですよー

 白い光を放つものがこっちに大きくなったり小さくなったりしながら近づいてくる。かなり遠くからかなりのスピードで。


 まるで、この世の物じゃないようで、近づいたら危ない。そう直感した。異質なのは眼の邪神と一緒だ。ただ、眼の邪神には感じられなかった敵意があった。まるで、いつものなんでもない街中でライオンが舌なめずりしているようなあり得ない恐怖だ。



 ヤバい。どうしよう!?



 桜風が俺の手を掴む力を上げてきた。いや、桜風だけじゃない、俺も強く掴んでんでいた。


 息が切れそうだ。腹から口へ、口から腹へ絶えず空気を交換する。心臓が痛むほど強く打ってる。


 体が上手く動いてくれない。


 「大丈夫だよ」

 桜風のかすれた声だ。


 「()()()()()()()()

 桜風に怒鳴ってから後悔する。桜風も不安だろうに俺を気遣って言ってくれたのにって。


 「落ち着かなくていいから逃げるよ」

 かすれた声でそう言いながら桜風は俺を引っ張った。


 線路に沿って桜風は飛ぶ。電車が作った死角に桜風が入ってくれて一安心した。大きく息を吐ける。鼓動のペースも落ちる。



 息を大きく吸って生と安全を確認しようとした矢先。停車した電車から白い光が漏れた。驚きのあまり息を吐いてしまう。呼吸が乱れる。





 息を整えるのに数秒かかる。その間、少し頭が真っ白になった。


 その光は人の形をとっていく。見続けていたいと逃げだしたいという二つの思いが頭の中で交差する。


 桜風の顔を見て、握った手から桜風の温もりを感じて、答えは決まった。


 「逃げるぞ」

 そう言って桜風を引っ張って走る。走ってもそこそこの速度は出る。後ろは見ない。


 とりあえず逃げねば、どれくらいの速度で逃げればいいのかは分からないけど。昨日走ったレールを逆方向に走る。昨日は走るだけで幸せだった。でも、今は走るのが苦しい。昨日は一人で走っていた。今では桜風を連れて白い光を放つ人型の存在から逃げている。ちょっとは良い方に進めたかな?



 あれが何か、そんなことはどうでも良い。あれは近づいてはならないものだ。


 「ねえ、秀一君。あれってアカシをつけた人じゃないかな……」

 確証のなさが桜風の声から伝わってくる。


 否定するか、肯定するかされたいんだろう。ただ、アカシの白は光らない。だから、あれはアカシをつけた人じゃない。


 「あれは違う。人だとしてもアカシじゃない」

 そう吐き捨てながら、わき目もふらずに走る。



 「そうだよね」

 桜風がそう言葉を絞り出すと桜風の速度が上がる。


 俺は桜風に引っ張られる。そうだ、俺は一人じゃない。だから捕まるわけにはいかない。


 あの白いのに触れられたらおそらく消える。さっきの電車の破壊跡を思い出すにあれに触れられたらその部分だけ跡形もなく削られるだろう。


 だけど、逃げるのは削られるのが怖いとかそういう理由じゃない。


 ただ、怖いんだ。正体は分からないし、生まれて十七年この方初めての感覚で、言い表せないけど怖いんだ。


 いつのまにか浅羽駅にたどり着いていた。人が消えたとき俺がいた場所だ。そうだ、良い例えがあった。そこそこ人がいる場所でいきなり静かになって、服や靴や鞄が散乱しているような恐怖。


 ただ、それと違うのは、遠くに離れられればその恐怖から解放されるという確信。


 桜風が高く飛び上がる。白いのとの間にホームとホームの間の空中通路が入るように移動した。


 「で、どうすれば良いの?」

 桜風の声からは焦りが感じられた。


 桜風が止まった。桜風に引っ張られている俺も。


 ホームとホームの間の空中通路から白い光が漏れる。俺はアカシをいつのまにか出していた。


 桜風は呆然と止まったままだ。白いのは一直線にこちらをめがけてくる。白いのに四本爪が生えていた。


 その爪が桜風に迫る。大きな敵意・悪意またはそれに類するものを感じて動きが鈍る。だけど、桜風を失いたくない。


 白いのには目の邪神と同じくおでこに立てた目があったことに気がついた。


 俺は息を噛み殺し桜風を白いのから守るように抱きしめた。


 後ろからいつ白いのの爪が俺を貫くか分からない。だけど最期の一瞬まで桜風のことを考えていたい。


 『桜風、好きだ、永遠に一緒にいたい、この一日は一生のうちで一番刺激的だった。桜風になにも返せちゃいない。ふがいない彼氏でごめんな。俺なんかでごめんな』


 涙があふれてきた。


 背中に軽い衝撃。まるで小学生にこづかれたような。その程度の衝撃。


 悲鳴が聞こえた。俺の物でも桜風の物でもない。俺の後ろからだ。いや、悲鳴と言うより叫び声だ。心を抉るような、思わず顔をしかめたくなるような、背を向けているのに顔を背けたくなるような、痛々しい叫びだ。


 だけど、その白いのには悲しみも怒りも恐怖も弱みもある、人間と一緒だと分かって親近感が少しだけわいた。


 振り返ったらなにもなかった。だけど緊張から解き放たれたことからくる全身の脱力感虚脱感や心臓の鼓動の早さ、息の切れ具合、そしてホームとホームの間の空中通路人一人がギリギリ通れるサイズで貫通した穴。これらがさっきまでの事が真実だったと示している。


 「もう(はぁ)安全(はぁ)なのかな(はぁ)

 桜風のあえぎ声混じりの聞き取りにくい台詞でようやく余裕が出てきた。


 俺は桜風を抱きしめている事を再認識して恥ずかしくなった。いつの間にかアカシも出していた。俺の抱きしめる力がゆるまり桜風を離してしまう。


 桜風が俺を抱きしめた。


 「さっきの、すっごい情熱的で嬉しかった」

 桜風のささやき声が耳元で聞こえた。俺はようやく心底安堵できた。


 そして気がつく。さっきの考えがテレパシーで漏れていたことに。


 

 「自虐禁止、自分で破っちゃったね。秀一君」

 そう言われて胸のどこかが窮屈になった。痛い、辛い、嫌だ。桜風、桜風。


 桜風のことを考えると苦しいままに苦しいことがどうでも良くなる。


 桜風、ありがとう。だけど照れくさくて口に出せないな。桜風には感謝は口に出せって言われたけどできないな。


 不器用で、照れ屋で、そんな俺を愛してくれてありがとう桜風。


 桜風の温もりが俺を芯に伝わる。


 そうだ、さっきの事をヌナのみんなに伝えなきゃな。


 スマホを使って写真を撮ろう。


 桜風を離してホームとホームの間の空中通路の上に降り立つ。何とか軟着陸できた。


 「前から思ってたけど秀一君って結構強引なところあるよね」

 桜風の言葉で自分の知らない一面を知れた。ちょっと喉の辺りがくすぐったくなる。


 「そうかな」

 できうる限り平静を装って答える。スマホを取り出して開いた穴を撮影する。



 穴を試しに撫でてみると恐ろしいほど滑らかだった。


 「あっ、すっごいスベスベ」

 思わずそう口に出してしまった。


 「えっ、どれどれ秀一君。どんな感じ?」

 桜風がそう言って降りてきた。


 この穴は異質だ。この穴の奥に駅構内と線路が見える。屋上は無機質で吹きっさらしだけど明るい、駅構内は少し暗いし服が散乱しているが清潔だ、そして一番奥の線路は暗く少し薄汚れているようにも感じた。


 一つ一つの面ごとに全く違う世界があって隣り合っているけど普段は交わらない。だけど、あの白いのみたいな異常な存在が穴をぶち抜く。なにかに似ている気がした。まだうまく例えられないけれど。

あの白いのはなんなのでしょうね

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