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ページ16~告白の後

 えっ、良いよ えっ、良いよ えっ、良いよ えっ、良いよ えっ、良いよ

 俺が告ったはずなのになぜ俺がOKしているんだ?


 えっと、つまり告白は成功したという事なのかな。

 失敗はしていない。


 喜べばいいの? まあ、悲しむ理由はない。でも、どう喜んでいいのか?


 「よっしゃああ、彼女いない歴=年齢の呪縛から解き放たれた。最高だ」

 そう言いながらガッツポーズと全力笑顔で大きくリアクションしてみる。合っているのか間違っているのか? そもそも正解があるのか? 正解通りに行動しなきゃいけないのか?


 分からない。でも胸の中の穴が歪に埋まったような感じがする。

 それが俺にとっても桜風にとっても良いことなのかは分からない。


 「よかったな、相棒」

 相棒の言葉から寂しさを感じた。


 「遠藤はこれでよかったの?」

 郷野がよく分からないことを聞いてくる。


 「もしかして迷惑だった?」

 そういう桜風の申し訳なさそうな顔を見るのは嫌だった。


 「違う」

 強く言い切る。


 「桜風のせいじゃない」

 そう言って桜風を思いっきり抱きしめた。


 「えっ、ちょっと」

 桜風の声から伝わる驚きが体を熱くする。


 桜風は少し抵抗したが少しして諦めたように脱力した。


 頭の中が少しずつクリヤーになっていく。俺は桜風を、俺の桜風を、俺が桜風を、俺に桜風を。

 俺は桜風を抱きしめている。俺の桜風は俺だけの物であって欲しい。俺が桜風を必要としている。俺に桜風を愛す権利はあるのか。


 胸が胸に当たっている。立っているのは桜風にも伝わっているだろう。恥ずかしさを隠そうと抱きしめる腕に力が入る。


 「痛たたたた」

 右腕が痛い。なんだこれ。


 「止まれ エンデュー サクカゼの 顔 見ろ」

 狩加の声だ。


 桜風を離して促されるままに桜風を見る。


 桜風は安心した顔を浮かべていた。そしてこっちに申し訳なさそうな笑顔を向けた。


 「サクカゼ 止めて よかったか?」


 狩加の問いかけに桜風は答えない。でも、分かる。桜風は俺から解放されて心底安心している。


 「そうだ サクカゼ エンデュー ちょっと 待ってて」

 狩加はそう言ってダッシュで学校に戻る。


 「相棒、なぜあんな事をしたんだ!」

 相棒の怒声が胸に染みる。本当になんでこんな事をしてしまったんだ。


 「元木、ストップしてね。落ち着いてね」

 郷野が相棒を止める。


 「俺、どうしちゃったのかな。ずっと変なんだ」

 そんな言葉が口から出る。そう、ずっと変だ。ずっとずっとずっと。


 「遠藤は壊れてるんだよね。欠けた物を埋め合わせるには長い時間といろいろな愛がいるんだよね」

 いろいろな愛?


 「僕も壊れたし、たぶんこの状況なら他の人もいつか壊れるだろうね」

 郷野が壊れている?


 「そうだろうな」

 伊勢木が会話に入ってきた。


 「でも、壊れてもいいんだ。辛いならまた作り直せばいいし、幸せそうならほっといてやる」

 伊勢木は朗らかに笑った。


 壊れててもいいのか。俺は辛いのか。正直、壊れていること自体は辛くない。けど、俺が壊れているせいで他の人に迷惑をかけるのが辛い。


 「辛いなら、少しずつで良い。なりたい自分を明確にイメージしろ。五年後で良い。五年かけて良いからそいつ以上の男になれ。ああ、別に女でも性別不詳でもいい」

 伊勢木はそう言って俺の背中を叩いた。


 「えっほ」

 何かが出た。涙だ。嗚咽だ。


 精一杯泣いた。


 


  体の中を空っぽにしたくて顔から出せるだけ出した。


 「なんでエンデュー泣いてんの?」

 狩加の声だ。狩加が戻ってきたんだ。


 「サクカゼは エンデューに どうして 欲しい?」

 狩加が桜風に聞いている。


 「今、秀一君に同情してる。恋なのかは分からない。でも、ここで秀一君を突き放したくはない。だけど、怖い」

 桜風を怖がらせてしまっている。駄目だ。嫌だ。仕方ないけど。それでも、嫌だ。


 「サクカゼにプレゼント」

 桜風に狩加が何か白い物を渡した。涙でかすんでなんだかよく見えない。


 「それで 思いっきり エンデューを 叩いて」

 狩加の声の後、脳天に軽く衝撃が響く。


 涙を拭うとハリセンを持った桜風が目の前にいた。


 「エンデュー サクカゼの 気が済む まで 叩かれて」

 狩加の口が閉じるやいなや右の頬に一撃。左の頬にも一撃。打たれる度体から悪い物が抜けていくみたいで気持ちよく痛い。でも、痛い。シャレになるかならないかギリギリの痛さだ。でも罰としてはちょうど良い。せめて気持ちよく叩いてくれ、桜風。さっきからずっと左上からしかハリセンが飛んでこない。


 桜風のあえぎ声が聞こえる。ちょっと股間が反応する。



 あれ、止まった。終わりかな。いつのまにか閉じていた目を見開くと。なにかが眼前に迫って来ている。


 苦しい。痛い。


 空が綺麗だ。俺は地に伏せていた。俺は今、広い空に抱かれている。鼻から何かが垂れている。この味は血だ。鼻血が出てるみたいだ。



 「サクカゼ ストップ」

 郷野の声だ。呼吸音が聞こえるぐらいに桜風は過呼吸みたいだ。


 「よいしょっと」

 伊勢木の声と一緒に体が持ち上がる。前に相棒と殴り合った後と一緒だ。また持ち上げられている。


 「水道も止まっているかな」

 伊勢木はそう言いながら俺を運んだ。


 靴を脱がされたと思ったら、室内に運ばれ、ベッドに寝かせられた。ここは保健室のようだ。


 ティッシュを鼻に突っ込まれて止血される。


 「おっ、まだ溶けてないな」

 そう言って伊勢木は俺の頭に冷たい物を置いた。


 氷水が入った袋だ。頭が冷える。


 「痛いところないか?」

 伊勢木に聞かれたとたん鼻が痛み出す。


 「膝蹴りされたもんな」

 伊勢木に言われてさっきの桜風のあれが膝蹴りだったと理解する。


 「提案 がある エンデューを 大統領 辞めさせる」

 狩加の提案をそんなもんかと俺は認めてしまった。


 「セーギに やって 欲しい」

 代わりは伊勢木みたいだ。それならいいや。


 「賛成の 人 手を 上げて」

 そう言った狩加がまず手を上げる。


 「相棒には荷が重かった。推薦した俺が悪かった」

 相棒が続けて手を上げる。


 「そうね、秀一君は向いてない」

 桜風も手を上げた。


 「僕は最初から伊勢木の方が向いてると思ってた」

 勉も手を上げる。


 「今の遠藤はちょっと辞めといたほうがいいかもしれないね」

 郷野も手を上げた。


 「ちょっと待て、俺はやるなんて一言も言ってないぞ。大体、全員が揃っていないこの場でやって良い事じゃないだろう」

 伊勢木は手を上げなかった。


 今、ここには俺を含めて七人いる。ヌナは今、全体で十一人。大統領を伊勢木に代えたいのが五人で過半数まであと一人だ。そう分かると俺のするべき事が分かった気がした。


 「俺なん…… 俺は伊勢木がするべきだと思う。これで過半数だ。ただ、その前に一つだけルールを作りたい。自虐禁止。もう自分を卑下したりすると壊れそうなんだ。そういうのを見たり聞いたりしたくない。こっちまで壊れそうで、だから自虐禁止」

 言いたいことを言い切ってかなり楽になった。そして俺も手を上げた。



 「あんまり良いやり方とは思えないが分かった。やる」

 伊勢木がやるって言ってくれた。おかげで俺は気が抜けた。


 「サクカゼと エンデューの 関係は どうする?」

 狩加が俺の気になるところであり知りたくないところを突いてきた。


 「さっき、膝蹴りしたのを秀一君が許してくれるなら続けても良いかなって」

 それだけされても仕方ないことをしたのに、俺が悪いのに許してほしいだって、なんて桜風はいい子なんだ。それに比べて俺は。


 「えっ、別に良いよ。俺が悪いんだし。桜風は気にしないで」

 なんで俺が許しているんだ。


 「そっか、それなら良いんだ」

 そう言いながら桜風はハリセンを強く握りしめた。


 「じゃあ 嫌なこと あったら エンデューを それで 思いっきり 叩け」

 エンデューはそう言って桜風の持つハリセンを撫でた。


 「サクカゼに 叩かれたら 逆らうな エンデュー」

 言われなくてもって思ったがそれよりも俺と桜風のことを考えてくれた狩加に感謝だな。


 「ありがとう。狩加」


 「よせ 照れる」

 そう言って狩加はどこかへ行った。


 「なあ、勉。暇か?」


 「ああ」


 「ならちょっと手伝ってくれ」

 そう言って伊勢木と勉もどっか行った。


 「ねえ遠藤、これからどうするの? 僕たちは予定通り僕と元木の家に行くんだけどね」

 郷野が相棒と俺を交互に見ながら言った。


 「ここに置いてってくれると嬉しい」

 本音だった。


 「そうなのね。元木、行こうね」

 相棒と郷野も行った。


 これで、ここには俺と桜風が二人っきりだ。


 「ねえ、私はなんであんな事をしたのか分からない」

 桜風は辛そうに言葉を吐いた。


 「俺も分からない。分かる方がおかしい」


 桜風は俺の額の上の氷水の入った袋を払いのける。


 「そっか、じゃあなんでこんなことするのか私にも分からない」

 そう言って桜風は俺の唇に唇を重ねた。


 キスされた。接吻だ。口づけだ。息が止まる。でも心臓は本気出す。苦しいけど、けど好きだ。大好きだ桜風。


 上唇と下唇が離れる。先に離したのはどっちだったか。どっちでも良い。わずかな隙間に舌を入れろ。でも…… 臆病になって舌を戻そうとする。なにかが滑り込んできた。桜風の舌だ。俺も思いきって舌を入れた。


 口内と舌以外の感覚が消えた。桜風の舌が俺の上あごを撫でる。


 俺は舌を上下にバタバタ振るので精一杯だ。



 「離さない」

 桜風の声が聞こえた。テレパシーとは違う。桜風の唇は塞がっている。なのに、聞こえた。


 今度は桜風から俺を抱きしめてきた。俺の腕ごとだ。桜風の鼓動が伝わってくる。


 鼻の中にはさっきまで浴びていた煙の匂いが充満してロマンのかけらもなかった。


 本気出している心臓がどっちの物だか、はたまた両方か分からなかった。

DTの作者なりに書いてみたのですよー

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― 新着の感想 ―
[一言] 「DTの作者なりに書いてみたのですよー」←このあとがき 思わず「それ今言うか!」と突っ込んだのですよー
[良い点] 同情から始まる恋なのか、自棄じみた何かなのか? おかしくなっちゃってますが、まぁそんな恋愛も有りかなと思えました(笑) [一言] 秀一くんがMにならないか心配(笑)
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