表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

ページ13~狂い出す……

ようやく、R15っぽい展開なのですよー!!

 学校に重いカートを運ぶ。


 「頼みがあるんだけどね」

 郷野がおもむろに言った。


 「何だ? 郷野」

 俺はそう郷野に声をかける。


 「家の様子を知っておきたいのね。でも、一人では心細いから着いてきてほしいのね」


 「別に良いけど」


 「相棒が行くなら俺もついて行く」

 相棒も着いてきてくれるようだ。


 「あっ、その後俺も家に戻りたいんだが着いてくるか?」


 「相棒の家か、行ってみたい」


 「それも良いね」

 郷野の家の後、相棒の家に行くことになった。


 「相棒は家には戻らないのか?」

 相棒にそう聞かれて秀二の顔を思い浮かべてしまった。


 「嫌だ」


 「そうか、相棒が嫌ならいいんだ」

 相棒は優しく俺の希望をくみ取ってくれる。ありがとう、相棒。


 「怖いの? 遠藤」

 郷野の言葉で俺が怖がっているのだと理解した。


 なにを? 俺はなにを怖がっている?


 「なあ、相棒。相棒がなにに対して怖がっているかだいたい目星がついている。言おうか?」

 相棒の声は優しかった。だけど……


 「分かった。言わない」

 相棒は本当に俺の気持ちをくんでくれる。


 俺の頭の中でいろいろな物が渦巻いている。家族のことヌナのことこれからのこと学校のこと昔の知り合いのこと。


 本当にもういないのかな? いない。夢じゃないのかな。体が重いな。自分が押している二つの買い物用カートを見る。たくさん入っている。それを道路で押している。こんなの現実じゃあり得ない。それに、この二人も相棒も郷野も疑問に思っていないらしい。この二人を今殴ったらどうなるかな?




 今、俺はなにを考えていた?


 相棒をまた殴ろうとした? 郷野をまた殴ろうとした?


 意味が分からない。理由も分からない。怒りとか嫉妬じゃなかった。殴ってでも奪いたい物があるわけでもない。なのになんで……


 ヌナの全員の願いを叶えたいんだろ? だからあの時、聞いたんだよな。なのに何で。


 誰を殴ったらスッキリする? これは果たして殴ったらスッキリするのか?


 いや、一人殴られて当然の馬鹿がいるじゃないか。カートを置こう。


 頬と拳が同時に痛む。しびれもある。もう一発殴ろう。


 次は額だ。良い、気持ちいい。涙が出てきた。楽しい。


 そうして何発か殴っていたら相棒に両手を押さえられた。


 「いきなり、どうした? 相棒」

 ああ、相棒の声が優しい。俺はこんな相棒を……


 拳に力を込めたが相棒をふりほどけず諦めたら、声が出た。言葉にならない声が。奇声が。


 これは笑い声だ。奇声を漏らしながら理解した。


 「正気なの?」

 郷野の言葉で分かった。俺は正気じゃないんだ。まともな判断力が残ってないんだ。


 「相棒、深呼吸だ」

 相棒に促されるまま吸って吐く。吐いて吸う。


 「ありがとう、相棒」

 俺は思うままに行動する。相棒への感謝は本物だ。


 「遠藤。頭がおかしくなったの?」

 郷野がとても失礼なことを言ってくる。でも、間違っているとは言えない。


 「郷野」

 相棒が咎めてくれる。


 「相棒、いいんだ」

 でも、郷野の言葉は不思議と落ち着いた。相棒の優しげな声よりも郷野の馬鹿にしたような声の方が落ち着くのだ。


 「遠藤の頭がおかしくなるのはそんなに変なことじゃないからね。情報の洪水を浴びるとどうして良いのか分からなくなるのは当たり前だね。さっき自分を殴っていたのは一種のリストカットだね」


 リストカットと言われて今の自分の行動を理解した。


 「たぶん、原因は嫉妬なんだよね。あえて言うね。腕が上がらなくなるまで自分を殴ってみるんだね」

 郷野の言葉を聞くうちに俺の心が静かになっていった。でも、一発顔を殴った。力の入ってないパンチだった。

 腕がだらんと落ちる。



 「誰もいないところで思いっきり自分を痛めつけて、自分への恨みつらみを叫べば楽になると思うね」

 郷野の言葉が正しい。郷野の言葉通りにやろう。そう思った。


 「止めないのか!?」

 相棒の声は怒気をはらんでいた。


 「止めるのが重要じゃないしね。遠藤が幸せになれればいいんだよね。幸せを得る過程でなにしようが別に良いしね。リスカなんてオナニーと一緒、目の前で見せられたら文句言って良いけど裏でこそこそやる分には咎める意味がないんだよね。カラオケボックスとか声が響かないところでやってきたらいいじゃないの?」

 郷野の言葉を否定できなかった。


 「どうしたの? やらないつもりじゃないよね」

 郷野はそう言ってカートを置いて去って行った。


 俺と郷野を交互に見て相棒もカートを置いて郷野に着いて行った。

 

 俺は呆然と立ち尽くした。まるで自分の心と体の間にある線のようななにかが切れてしまったようだ。体が動かせない。


 ためしに手を上げてみる。上がった。上がるには上がった。でも妙に反応が悪いような感じがする。




◇◆




 「何で相棒にあんなことを言ったんだ!!?」

 相棒の声だ。怒ってる。俺のために怒ってくれてる。別に良いのに。


 相棒の姿は見えない。郷野の姿も見えない。おそらく、俺の前で怒らないように耐えてくれたんだろう。ありがとう、相棒。



 「頼むから…… 静かにしてほしいね」

 郷野のかすかな声は静寂がなければ聞こえなかっただろう。人がいないだけでこんなにも街は静かになる。


 「は?」

 俺のためにすっごい怒ってくれている。でも、郷野のさっきの言動も俺のためを思っての行動に感じた。俺のためを思ってくれた二人が険悪になるのは嫌だ。そう思うと足に力が入った。心拍数も上がる。


 「あと、十秒だけでいいから待ってほしいんだよね……」

 郷野は本当に辛そうな声をしている。


 数秒の沈黙の後、いらついたままに相棒が口を開く。


 「なんで、なんであんなことを言った!?」


 「だって、遠藤は嫉妬でおかしくなってるからね。他人へ攻撃するのに向いたりしない優しい性格の所為で屈折して自分を攻撃してたんだよね」


 「別に比べる意味なんてないだろ!?」


 「人が意味あることだけやれるなら苦労はないね。それに嫉妬も心の原動力だからね」


 「なにが言いたい!?」


 「つまり、嫉妬は人を強くするんだよね。その感情を消そうだなんてもったいないと思わないの?」


 「は!? それで相棒が苦しんでる!」


 「苦しみを先送りとか見ないフリしても非効率なんだよね。膿はさっさと出すに限るんだよね」


 「自分を殴ったら出せるって言いたいのか!?」


 「まあね」


 「また相棒が苦しくなったらどうする!?」


 「また自分を殴ればいいだけの話なんだよね」


 「ふざけるなよ!?」


 「ふざけてるわけじゃないんだよね!」

 郷野の語気が強くなった。


 「僕は真剣に遠藤の事を考えているんだよね。別に遠藤や元木に嫌われても良いって思っちゃったんだけどね。堪えるんだよね」

 郷野にかける言葉が見つからない。


 「苦しみからの解放なんて生きているかぎり無理なんだよね。でも、苦しみとの向き合い方がなんだろうと良いんじゃないの? 元木が迷惑をかけられないかぎりね。迷惑だったの? なら、元木が心配するのは遠藤にとって迷惑じゃないと言い切れるの?」

 俺は元木(相棒)が心配するのを迷惑に感じている? そんな事ないそう断言したい。



 「そんな訳ないだろ!」

 相棒の怒った震えた声で全身を押さえつけていた感情の正体が分かった。罪悪感だ。相棒の声は罪悪感をかき立てる。それが迷惑じゃないとは言い切れない。でも、でも、


 「気づいてないの? 元木が僕に怒る度、遠藤がもうしわけそうな顔をしていたんだよね」

 自分の表情の変化に鈍感になっていることに気がついた。今の俺はどんな顔をしている?


 顔にぴたりと触れる。熱かった。眼は湿っていたが涙は垂れていなかった。


 「そんなこと!」

 相棒の声は言葉にもなりきっていない。もういい。


 「怒っちゃうと頭の中がそれだけになっちゃうんだよね。いつもなら僕が殴られて終わりなんだけどね。このご時世、そうも言ってられなくてね」

 郷野の声からひょうひょうとした感じがした。まるで虚勢を張っているような。


 「なにがおかしい!?」


 「このご時世の狂い具合だね。地球という閉鎖空間で脱出先も救出の当てもなくその辺のガキが寄り集まってんだよね。男女比も8:2だしね。トラブルが起きて当然なんだよね。そんな事も分からないの…… そうだよね。相棒を護るために怒ってるんだもんね……」

 郷野の語調が弱くなっていった。


 「当たり前だろ!」


 「だったら、その相棒の幸せを考えてやれよ!!」

 郷野の言葉に覇気が宿った。


 「あいつは寂しいんだよ! 遠藤はな。これまであって当たり前だと思っていたものがなくなってわけが分からなくなっているんだよ!」

 郷野の声はうわずっていた。泣いているのか?



 「じゃあ、俺はどうしたらいい。相棒になにをしてやればいい? もう心配で気が狂いそうなんだよ!」


 相棒の言葉は嬉しかった。でも、なぜか素直に喜びきれなかった。


 「元木も狂って良いんだよね。狂ったまま相棒のことを思えばいいんだよね。一回自分を殴ってみたらどうなの? 遠藤の視点が少し分かるかもしれないね」

 郷野の声は今まで聞いたことのない分類の優しく諭すようだった。


 


 「どうだったの?」

 わずかの沈黙の後、郷野の声がした。



 「思ったより痛くない」

 相棒の声だ。


 「それで、それで」


 「でも、残ってる」

 相棒は自分を殴ったらしい。


 「どんな気持ち?」

 郷野の声から好奇心が抑えられないことが伝わった。


 「さっきまでの怒りに水をかけられたような。まだ、熱いし火は消えていないけど激しさは収まった」


 「元木はいま楽なの?」


 「悔しいけど」

 相棒の声は自分の中の何かを押し殺しているようだ。


 「さっきから思っていたんだけど、相棒相棒うるさいんだよね。二人は互いに相棒と呼び合って僕のことは名字で呼ぶのがなんか仲間外れにされているみたいで嫌なんだよね」

 郷野の言葉には少し納得した。


 「だから?」

 相棒の声は呆れていたが、さっきまでの嫌悪感はなかった。


 「そうだね、なんでもないね。僕の大親友の元木 励」


 そんな郷野のごまかしに相棒は笑った。


 俺もつられて笑ってしまった。

爽快不快困惑孤独の要素を全て拾えたのですよー

実際、今回みたいな回を作りたくてこの作品を作り上げたところはあるのですよー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ