Lv9
「まだ寝ぼけてんのあんた?自分が誰かわかる?というより、何故あそこにいた?何故黒焦げの炭の中に居た?」
開口一番矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「あー……なんて言えばいいか」
「答えろ」
(言い逃れることはできなそうだな…このタイプは正直苦手だ)
仕事場にも気の強そうな女性は居た。が、この人は今まで会った中で一番キツい感じがする。しかしなんだろう、この人を見てるとなんだか胸がざわつく。美人だからか?いや、そんなトキメキめいたものじゃない。もっとこう…なんというか、
「……正直、起きてひどく混乱してる。記憶が曖昧で、、、」
ドカッ
ドア横の壁を殴りつけ威圧しながら彼女は言う。
「手間かけさせんじゃないよ。さっさと喋りな」
なんというか、ワクワクする胸の高鳴りだ。
どうして……
「ちょっと落ち着いて。まずは自己紹介くらいしないか?」
「偉そうな口きくガキだね。まぁガキ相手に大人気ないことするもんでもないか、あたしはナナ。このナーブヘルム王国の四番隊兵士隊長をしてる者だ。以上」
「随分な紹介……オレの名前は、、、」
(あまり詳しく色々喋っても理解はしてもらえなそうだ。それに、敵か味方かもわからないし様子をみないとな)
「オレはチハヤだ。記憶が曖昧なのは本当だし、名前以外ロクに思い出せない」
「チハヤ、変な名前。まああんたヒトじゃないしね。亜人はこの国には入れないはずだし、どうやってこの国に入った?」
「すまないけど思い出せないんだ...どこから来たのかも、わからない」
「記憶喪失ってわけ?」
「たぶん......」
「はぁ、、、まあいい。サッサとこれに着替えな」
ボスっと服を投げつけてきた。
「国王がお呼びだ。着替えてついてこい」
「王様が...?」
「直々に話がしたいとのことだ、光栄に思え。わかったらさっさとしろ」
バタン
そう言ってナナは部屋から出て行った。
(国王と謁見...嫌な予感がするけど、今は身動きとれなそうだな)
小説にでてくるような様々なイベント展開が頭をよぎる。
(いきなり正体不明の怪しい奴と言われ奴隷扱いを受けるか、それとも勇者のような扱いを受ける...まさかそれはなさそうな雰囲気だな)
考えながら無意識に頭をかく仕草をすると手が頭にはえてる物にあたる。
(ていうかコレ・・・角、だよな)
まわりに鏡はない。耳の上後ろから後頭部あたりまで伸びた太めの角を触ったり掴んだりしてみる。
(意外とツルツルしてるんだな、鏡で見てみたい。それにしてもこの手足...)
今度は自分の両手両足を見てみる。
(中学生、、、いや、小学校高学年くらいか・・・)
ドンドンドン!!
『おいっ、いつまで時間がかかるんだ!さっさとしろグズ、女子か!?』
ドアの向こうでしびれを切らした赤髪の女が吠えてる。
(はぁ...前途多難)
「わかってる、すぐ行くよ!」
とりあえずは、大人しくしていよう。
―――――――――
急いで服を若干小奇麗な服に着替え部屋を出た。
角が邪魔で着替えにくかったのは言うまでもない。
今までの人生でなかったものだ。
朝起きて突然角がはえてたら誰もがそうだろう。
徐々に慣れよう。
「けっこう遠いな」
「本当、口の減らないガキだねあんた」
城の中をナナに付いて進んでいく。
目にするがすべて珍しすぎた。中世ヨーロッパの城の中のようだ。とはいってもいった経験はないのでテレビか映画の知識でしかないが。
もともと早足なのかもしれないが、ナナの歩くスピードがやけに速く感じる。
身体が子供サイズになったせいもあるかもしれない。
「ほら、着いたよ。シャンとしな」
石畳の廊下の先にかなり大きな扉があった。
豪華な装飾がしてあり、両脇には番兵が立っている。
「おぉ、なんか緊張してきた。オレ、もしかして悪い立場なのかな??」
「知らないね。あたしはただあんたを連れてくるよう命じられただけ。まぁ、速攻で死刑宣告されないことを祈りな」
「マジか。。。」
そうか、そんな可能性も無きにしも非ずなんだな。
ナナが番兵に声をかけると大きな扉が重そうに開かれた。
「ついてこい」
ナナに言われ真っ直ぐに敷かれた赤絨毯を歩いていく。豪華なシャンデリア、壁や天井にはこれまた豪華絢爛な絵画が描かれておりまさに『王の間』である。
奥の方には段差の上の中央に大きな玉座、その両脇に少し小ぶりな玉座が並んでおり豪華な衣装に身を包んだ人たちが座っている。
豪華って言葉を使い過ぎだがこれしか語録がないしでないのだ。段の下には宰相か大臣か、そんな感じの人たちが控えている。
ある程度進んだところでナナが跪いた。
「跪け」
ささやかれ、オレも同じようにする。
「四番隊隊長ナナ、ご苦労であった」
「はっ!ありがたきお言葉」
大臣風の初老の男がナナに声をかけた。
「そこの者、面を上げい」
続いてオレにも声がかかる。
言われるままに顔をあげ、目の前の王様たちを見る。
中央の玉座に座っているのは茶色い顎鬚が特徴的な壮年の男性だった。40代か50代か、見た感じ普通の人の印象を受ける。そして両脇の小さめの玉座には女の子が二人座っていた。
左の子は茶色の長い髪を右サイドポニーにまとめた女の子。
右の子は茶色の長い髪を左サイドポニーにまとめた女の子。
この子達、顔が同じだ。
「お父様、ねえお父様」
「あの子、角が生えてるわ」
双子が喋る。これまたおんなじ声だ。
「おお、姫たちよ。そうだ、この者はヒトではない。だが隣国に住んでる亜人でもこのような角の生えた者は見たことがない。報告によると真っ黒い焼けた岩の中から出てきたと聞く。伝承の“竜の子”で間違いなかろう」
王様は皆に聞こえる様に言った。
周りがざわめく。
「この者があの…」
「国に富と栄光を授けるという…」
「伝承は誠であったか…」
「これで我が国は世界の…」
(竜の子?伝承?なんだ??)
「お父様、わたくしがお世話してもよろしいかしら?ねぇセーラ」
「いいえお父様、わたくしがお世話してもよろしいかしら?ねぇレーラ」
双子が揃ってオレの世話をするという。
拾ってきたペットか。
「まぁまぁ二人とも気を急くでない。ともかく竜の子よ、我が国のため身命を賭して尽くすが良い」
「ちょっ、尽くすって一体??そもそも竜の子って一体、、、」
ガシッ!ガッ!!!
「ぐっっ!!?」
「勝手に喋るな、無礼者」
ナナに頭を掴まれ床に叩きつけられる。
こいつ、、、女と思えない力だ。
痛すぎる。少し手加減してくれ。
「ふむ。。。竜の子には少々躾が必要であるの。ナナよ、しばらくの間お前がこの者の教育をしろ」
「はっ!お任せを」
「我が国に逆らうことのないようにな。いきなり姫達に噛み付いたりしたらかなわんからのぅ。それでよいな?セーラ、レーラ」
「「わたくしが躾けたかったのに…仕方ないですわ」」
二人揃って渋々承諾していたが、オレに選択肢はないか……
まぁ速攻首を飛ばされなかっただけマシと思おう。
というか、離せよ。
マジ痛ぇ…