Lv7
――10年前――
物心ついたときには『生きる』というのは『強くなる』ということと同義だと思っていた。
「気まぐれであんたなんか拾うんじゃなかったよ!犬猫の方がまだマシだった!!」
あたしを拾ってくれた女は憎悪の目を向けながら言った。
原因は、娼婦にありがちな客離れといった理由だった。
自分の汚点か、もしくは客の気まぐれでしかない運めいたことなのに当り散らすしかないのだ。
(......だったら拾わなければよかったのに)
子供ながらにそう思った。
とはいえ、血は繋がってはいないとはいえ命の恩人。
まして母親として8才になるまで育ててくれた女性だ。
感謝こそすれど憎む道理は無い。
とはいえ、日々の食べるものを探すのに手いっぱいな暮らしの中で“どんな時でも暖かな笑顔で接してくれる”女性など物語の中にしか登場しないだろう。
育ての母親は、いたって普通なただの女性だったというだけだ。
今も堅い木の上に薄い薄い布を敷いただけのベッドの上でおとなしく座っているあたしに彼女はこう言った。
「もうこれ以上あんたを養っていく余裕はないからね!女なら身体でもなんでもつかって自分の食い扶持は自分で稼ぎな」
そういって家を出ていったきり、育ての親は帰ってこなかった。
あとから聞いた話だが、泥棒や強盗まがいのことを行って生活しているろくでもない男と一緒に居るのを見たのが最後の情報だ。きっと、犯罪が公になり街を追われたので逃げ出すことになり付いて行ったのであろう。特に何の感情も湧かない。
今はただ、生きる事だけを考えなければ。
喰わないと死ぬ。
生きるためには強くならないと。
動物だって食うために必死で戦う。
魔物だってそうだ。
ただ、弱いと喰うことはできない。
お金を持たないものは、弱い。
戦う力を持たないものは、弱い。
育ての親が唯一教えてくれた教訓。
一人になってからは色々なことをした。
屋台の売り物を盗み、畑の野菜を勝手に掘り起こす。
乞食まがいのお恵みをもらうこともあった。
街のスラム街にはそんな子供は珍しくもない。
縄張り争いでのいざこざもあった。
足腰が強く俊敏な動きをすることができたので、喧嘩も男顔負けの腕っぷしだった。
殴られた痣など見ると、自分は女だということを忘れることもあった。
年を追うごとに磨きがかかる自身の『女』という武器をつかって体で金を稼ぎ生きるということは考えもつかなかった。
無意識のうちにあの女と同じ道を進むことを避けていたのかはわからない。
「恋?そんなの腹の足しになるのか?」
というセリフを見た目の美しさに魅かれ声をかけてきたキザな成金風の男を一撃でノしたのは記憶に新しい。
素敵な旦那様との結婚、趣味はお花の世話、家でケーキを焼いて...なんて普通の女が考えるような頭はあたしにはない。
そんなあたしが。。。
――――――――――
「ほらほら、逃げてんじゃないよ!!それでも○キンついてんのかいあんた!?」
「ちょっ!ま...タンマ!待った!!」
「戦ってる相手に待ってくれなんて聞いてもらえると思ってるのかい!?そらっ!」
「うわっ!!!!っ、、、いってぇ・・・」
「情けないねぇ。そんなんじゃ今日も晩飯抜きだよ」
「......鬼だ、鬼が居る」
「そんな口をきけるようならまだまだ大丈夫そうだね。骨の一本は覚悟しな」
「くそっ!晩飯!食べたい!!」
(まさか子供の世話をすることになるなんて......)