Lv21
「誰だ!?」
ナナが動く影に向かって叫ぶ。
でもさ、実際こういう状況で誰?って質問どうなんだろ。少しは様子見ね?
いや、いいんだけどさ。
クレーターの底に居た影は動きを止める。
目を凝らしてみると底には、、、
「トカゲ……か?」
大きさは中型犬、いや、バスケットボール位か。手足は短めで背中には…翼?
「いや、トカゲじゃないよあれ」
「……やれやれ、あんたらは下がってな。あれは小さいが恐らく竜だ」
「竜っ!?」
竜って随分居るなと思いながらもオレとアルは思わず身構えた。
そしてナナが腰の剣を抜こうとした時、
シュバッ!
「なっ!?消えた!」
「ど、どこに行ったの!?」
ナナとアルが辺りを見回す。
「もが、もが〜!もが〜!!」
「「えっ?」」
ナナとアルがオレの方へ向く。
「な、、、」
「チ、チハヤ!?」
「もがもが、もがもが〜!」
息が、、、苦しい。。。
ベリっと顔についたものを剥がすように引っ張った。
「ぶはっ!はぁ、はぁ、、、なんだこいつ!?」
「キュイー」
「紫色の、、、竜?それも子供??」
オレは両手で掴んだ竜と目があった。
どっかで見たことあるような姿……
あ!あれだ!!
ドラゴン◯ピーにそっくり。
オレあいつ気に入ってたんだよな、オリハルコンの◯装備させてラスダンまで連れてってって。
『子供じゃないわよ』
「……えっ?」
『波動を辿って来てみたらすでに居ないし。あの人の匂いがすると思ったら、、、まさかのヒト…じゃないね。なんなの貴方?』
「えっ?えっ?」
「チハヤ、大丈夫!?」
「なんなんだそいつは!?」
「お、おう大丈夫だ。オレにもわからんけど……てか、こいつ喋っ、、、」
パチンッ
目の前で持ち抱えた子竜が短い両手でオレの両頬を挟むように掴む。
『しっ!言ってることがわからないふりをしなさい、面倒くさいわ。貴方にしか聞こえないみたいだし。というより、貴方なんであの人の匂いがするの?不思議ね。とりあえず貴方の匂いは覚えたわ。また後でお話ししましょ』
「お話って、、、」
バサッ!
「おわっ!」
バサバサバサバサ……
「飛んでっちゃった・・・」
「おいガキ!なんだあれは!?」
「オレが聞きてーよ」
「竜つながりでなにかわからんのか!?」
「無茶を言いなさる・・・」
でも、あいつの角は綺麗な紫だったけど、形はオレの角によく似ていた。
–––––城下町–––––
あの後しばらく洞窟内を探索したが特になんの情報も得られなかった。魔物は夜になると活発化するといい、日が暮れる前に帰ることになりオレたちは町に戻ってきた。
「ててて、、、」
帰り道ゴブリンに噛み付かれた。
「チハヤ大丈夫?」
「ああ、すぐ治るさ」
「まったく。弱すぎだな、娘男の方が強いんじゃないか」
「いや、それオレも思った」
「そ、そんな僕なんて……身体能力じゃ全然かなわないし、きっとチハヤも武器を手に戦ったら僕なんかより、、、」
「ふむ、武器か……」
「いやいや、そんなの関係ないと思うけど」
実際体捌きや反応速度は訓練を受ける前より格段に上がってはいるがいかんせん経験値が足りなすぎる。
「よし」
ナナはそう言って一軒の店に入っていった。
「ここは、、、」
「武器屋?」
入ったと思ったらナナはすぐに出てきた。
「ほれ」
ポンッ
「ん?なんだこれ??」
「武器だ」
投げ渡されたのは1組の手袋。
拳の当たる部分に鉄が仕込んである。
「皮ナックルだ。ここの主人はそこそこ腕利きでな、下手な店より質が良い。それにお前は下手な得物を使うより拳の方がいいだろう」
「なんでそんなこと、、、」
少しは剣とか憧れてたんだが。
「そこの岩、割れるか?」
オレとアルの後ろに丁度腰掛けれるような大きさの岩があった。
「割れるかは、、、わからん」
「それをつけて殴ってみろ」
「、、、マジか」
オレはいそいそと皮ナックルをはく。
お。意外と手にフィット。
オレのサイズも考えてくれたのか?
岩を前に、瓦割りのような格好で少し腰を落としてみる。
でも、
殴ったら痛そう…
絶対痛いよなぁ……
「、、、なむさん!!」
バゴッ!
「、、、おお!砕けた!!」
木っ端微塵とは言えないが、確かに岩は砕けた。
「いってーーー!ふぅ、ふぅ!でもやっぱり痛かった」
皮ナックルは大丈夫そうだな。
もらってすぐ破壊したらオレが破壊されかねんしな。
「でも、これと剣となんの関係が…?」
「はぁ、、、言うより見た方が早いか」
スラッ
「持て」
ナナは腰の剣を抜きオレに差し出した。
皮ナックルを外し、よくわからないまま受け取る。
「そこの木を切りつけてみろ」
指差した先に細めの木が生えている。蹴っただけでも折れそうな気がする。
「舐めんなよ……うりゃっ!」
振り方も知らないオレは剣を振り下ろした。さっきの岩を殴ったダメージは回復済みだ。
バキッ!
「あり?切れないで折れた…」
なんか、難しい。
イメージでは鉄の剣で切ればスパッといきそうな気がするんだが…
「チハヤ、持ち手を少し広げて手はこう……そうそう。そして当たる瞬間に絞るような感じで切ってみて」
アルが教えてくれた。丁寧で優しい。
「ぷっ」
「笑うな!知らないからしかたねーだろ!」
そして隣に生えていた同じ様な細木を前に再度構える。
「、、、そりゃっ!」
ズバッ
「さっきより切れた」
折れたと言うよりはマシな切り口ができた。
「すごいすごい!あれだけですごいよチハヤ」
「次はあんただ、娘男」
「えっ、、、、ええっ!僕が!?」
「あんたはアレだ」
ナナが目で差したのはオレが切った木より遥かに太いまさに“木”という感じの木。幹は今のオレが両手を回しても届くかどうか、という太さだ。
「あんなの、切れませんよ…」
「ったく。いいか……ゴニョゴニョ」
ナナがアルに何か耳打ちしている。
「いいか。言われた通りにやれ」
「は、はい……」
アルが木を正面に構える。
普段は可愛らしい乙女、、、失礼。女の子の様な優しい顔をしてるのにその表情は真剣そのものだ。雰囲気も、変わった。
あれ、、、
オレ、口元が緩んで、、、
アルを見てたらなんだか笑みが。
「すーーーー、ふっ………はぁっ!!」
アルが切った。
動体視力がかなり鍛えられたオレにもほとんど剣筋が見えない。
ピッ、、、、ズズズ……
ズドン!
太めの木がまるでマンガみたいにズレて落ちた。
「で、、、できた!やった切れたよチハヤ!!」
ポンポン飛び跳ねて喜ぶアル。
「ちっ、、、まさか本当に切るとはね」
「お前がやれって言ったんだろ。しかもアドバイスみたいなことしてたじゃないか」
「あたしは“切る”んじゃなくて“斬れ”って言っただけだ」
「わけわからんこと言う無茶苦茶な女だ、、、あだだだだ!!!」
「そのわけわからんひと言であいつは斬ったんだ、わかる?」
あんだすたん?みたいな表情でオレの顔面を掴み持ち上げる赤い鬼。
いわゆるヤイヤンクロー
足浮いてる!浮いたらヤバいやつ!!
「娘男の鉄の剣は良く手入れされているがあたしの剣ほど切れ味はない。あたしのは特注のスティールソードだからね。つまり、あんたが使った良い剣より切れない剣であいつは何倍もの木を切ったんだよ。聞いてるかクソガキ?」
「先に、、、はなし、やがれ、、、」
おっと、という気付きませんだした的な感じでオレの顔面を手放す。
「いでで、、、んで、アルの方がオレより剣が上手いのはわかってるさ。だけどなんで…」
「お前には『剣気』がない」
『剣気』??
「娘男、あんたはこのクソガキに『剣気』を感じるかい?」
「それは、、、」
「なんだよアル。だから『剣気』ってなんなんだよ?」
「バカなあんたにもわかりやすく説明すると、剣の才能ってとこさ」
「剣の才能、、、?」
「あたしも『剣気』を持ってるからね。娘男は前にも言ったがなかなかのものを持ってるのを感じる。だけどあんたにはそれを感じない。そのかわり、異様な回復力と身体能力がある。だから力に任せて暴れるのが一番いいんだよ」
確かにゴブリンやスライムは滅茶苦茶に殴る蹴るの暴行で倒したけど。
「ちなみに娘男は剣を持つことを許してまだひと月も経ってないからね」
「えっ!?ウソだろ!」
「いやはは、、、本当なんだチハヤ」
「まぁこればっかりは持って生まれたものが大きく左右するから、諦めな」
加えて、『剣気』がなくても努力で実を結び強くなる者は居るが、高レベルの戦いになるとどうしても超えられない壁が出てくるそうだ。
「なるほどな、適正ってやつか。まあそれなら仕方ない。オレはオレに合った戦い方を見つけるとするさ」
「それはすぐわかるよチハヤ。隊長、チハヤにも千手検気を受ける許可を与えて欲しいです!」
「千手、、、なんだそれ?」
「そうだねぇ……よし。今日はもう暗くなっている。明日は午前中に教会に行け。娘男、案内は任せたよ。それじゃああたしはこの辺で子供の引率は終えるとしよう」
「わかりました!よかったね、チハヤ。詳しいことは後で教えるから、晩御飯食べよう。気合い入れたらなんか僕、お腹すいちゃった」
「そうだな。なんかよくわからんけど、その千手なんたらのことも頼むぜ、相棒」
さんきゅーアル。
「あ、相棒って、、、相方ってことだよね。相棒、相方、あい、あいい……」
めっちゃ赤くなってる。抱きしめたい。
しかし、こんな可愛い顔して剣の達人の卵とはな……
「よし、オレも腹減ったしマズいメシでも食いに行こうぜ」
「もう、そんなこと言ったらジークさんまた怒るよ」
ナナと別れたオレたちは、暗い道を食堂目指して歩いて行く。




