死霊の森
一行は、焚き火を囲い休息を取っていた。
「ときに兄さん、中々の槍捌きじゃの」
「いや~それほどでも」
「いやいや、中々どうしての物じゃったぞ」
「我が家は、代々国を守護する武門ゆえ」
「しかし、あの技は西洋の物ではないのぉ」
「はい、李書文先生に師事しました」
「おぉ、あの神槍の弟子か?」
「はい、李先生を招き、教えて貰いました」
「なるほど」
「先生には、お前はヘタクソだから右払い、左払い、突きのみやっておれと言われ、ひたすらそれのみをやってました。先生が御帰りの際、船で東国まで私が御供したのですが、船の上でも毎日それのみ……」
「うむ!それこそ極意じゃ!」
「そう言う物ですかね?」
「ちがうかね?」
「……そうですね」
「さ、飯も食ったし、そろそろ行くかの」
蘇化子は、そう言うと立ち上がった。
「いいかいお嬢ちゃん、これから何が起こっても見て見ぬ振りをしなさい」
「はい」
シャルロットは、何のことか分らないが頷いた。
「では、行くぞ」
一行は、真っ暗闇の峠道をランプだけを頼りに進んだ。
国境に着いたが、案の定門番は居なかった。
アッサリと国境を越えることが出来た。
一行がしばらく進むと……
少女が1人道端に座り込み、しくしくと泣いていた。
『おいでなさったか』
一行は、無視を決め込んで通り過ぎようとした。
がしかし、シャルロットは振り返り駆け寄った。
「どうしたの?」
「お父さんも、お母さんも居ないの……」
「わかったわ、お姉さんも一緒に捜しましょう」
『ああ……注意したのに』
テリュースは、シャルロットに駆け寄った。
「行くぞシャルロット」
「テリュース、貴方は何て薄情なの!この様な幼子を1人こんな暗い森に置いて行けと言うの!」
「シャルロット、よくその子の足元を見てごらん」
そこには、まだ子供の物と思われる白骨死体が転がっていた。
「……」
シャルロットは、息を呑んだ。
「亡霊だよ、親を捜しに森に入ると二度と出られなくなる。そしてお前も骨を転がす事に成るぞ」
「……」
「わかっただろ、行くぞ!」
テリュースは、シャルロットの手を引いた。
『ごめんなさい』
シャルロットは、心の中で謝った。
「だめよ!お姉ちゃん一緒に捜してくれるって言ったもん!言ったでしょ!ウソつくの!」
亡霊は、しつこくまとわりついてきた。
「うそつき!うそつき!うそつき!」
そう言って、シャルロットの袖口を引っ張った。
「離れろ」
テリュースがその手を払うと、手首がボロリと落ちた。
傷口にウジがわいていた。
つまづき転んだ少女を哀れに思い、シャルロットが抱き上げると両の目はダラリと飛び出し、 目の穴からミミズやムカデが這って出てきた。
「ひい……」
シャルロットは、思わず手を離した。
再び亡霊は、うつ伏せに倒れた。
そのまま、クビが180度後ろに回り「お姉ちゃんのうそつき!」と言った。
シャルロットが後ずさりしながら視線を上に送ると、森の中に無数の亡霊が浮かび上がった。
遂にシャルロットは気を失い、その場に倒れてこんでしまった。
亡霊の少女はケタケタと笑いながら、シャルロットに這い寄って来た。
「シャルロットを連れ去る気じゃ、気を付けろ!」
亡霊の少女が、シャルロットの足に手を掛けようとしたその時だった。
不意にシャルロットは目を開き、少女を睨み付けた。
その目は、赤く爛々と光っていた。
「ひぃ……」亡霊の少女は、その目を見て怯えた。
「ひぃぃぃぃぃ……化け物だーーーー」
亡霊は、消え去った。
再び、シャルロットは気を失った。
ソが、シャルロットに気合入れを起こすと、シャルロットは何事も無かったように目覚めた。
「お化けは?……」
「シャルロットのこと『化け物だーーーー』って言って逃げてったよ」
「えーひどーい!」
「そうだな……ぷっ……はははは……」
「なに!テリュースったら!」
その場に笑いがこぼれた。
一行は、歩を進め山の麓に着く頃には白々と夜が明けてきた。