国境越え
「すごーい!勝っちゃった!でもなんか、まぐれっぽい……」
「ふふふ、まぐれじゃないよ」
「だって、あんなに酔っていて……」
「年寄りと娘二人で大陸を横断するんじゃよ、自分の身は自分で守れないとな……盗賊も居るしな」
「へー……」
「こう見えても、昔は名の知れた武闘家だったんじゃぞ」
「すごーい……でも、まぐれっぱい……あ……ごめんなさい」
「いいんじゃよ……それも、技のうちじゃからな」
シャルロットが、ソと談笑していると、野次馬を掻き分け一人の男が近づいてきた。
「やっぱりここに居た!」
テリュースだった。
「テリー……追ってきたの?」
「なんじゃ?嬢ちゃんの知り合いか?」
「すみません、シャルロットが世話に成ったみたいで」
「いや、礼には及ばんがのう」
「さぁ、一緒に帰ろうシャルロット」
「いや、帰らないわ」
「みんな、心配してるぞ」
「分っている、でも、今のままじゃ帰れない」
「事情をちゃんと話そう」
「だめよ!義母さまは、ドラゴンが化けたに違い無いって私を殺すわ!」
「……その時は、俺が守るから」
「だめ、彼方は義母さまの本当の怖さを知らないのよ!この呪いを掛けたのも義母さまだもの!」
「えっ!あのアビゲイル様が……あの様な立派な方が……信じられない」
「私、東国にある龍の泉に行くの!そこでこの身体を直すのよ!」
「な……直るのか?」
シャルロットは、ソの方を見た。
ソは、黙ってうなずいた。
「ご老人!それは本当の事か?」
「ワシは、この件に関してウソをついても一銭の徳にもならん。ウソはつかんよ」
「うーーーむ」
テリュースはしばらく腕を組んで考え込んだが、ポンと手を叩いた。
「よし!シャルロット!!!ならば、俺もお供しよう!」
「え……」
「長旅になる、男手も必要だろう。それに、俺、東国に行った事あるから」
「ほほぉ!それは頼もしい!嬢ちゃん、こう言ってるんだ、ついて来て貰いなさい」
「チョット待って、馬を売ってラクダを買ってくる。それから、この重い鎧は要らないから売ってくる」
「そうと決まったら、膳は急げ。わしらも旅の支度じゃ!」
しばらくすると、テリュースが帰ってきた。
マントと革で出来た胸当てと手甲、さっきまで帯刀していた長剣は、ヤリになっていた。そして、ラクダを引いていた。
「武器屋のオヤジ、公爵家の家紋が入った剣を売りたいって言ったら、『こんな高価なもの買い取る手持ちがありません』だって。だから、一番上等なヤリと交換しろって言ったら『とんでもない、どうぞお持ちください』って、でも荷物になるから無理やり置いてきた。そうしたら全部一式くれたよ」
『ああ……あの長剣の値段に比べたら、そんなものゴミみたいなもん。お坊ちゃまじゃのぉ……』
「うん?なんでしょうご老人」
「その、ご老人ってのやめてくださらんか?蘇化子と申す」
「失礼した。ソ殿」
「さて、どうやって国境を越えるかの?」
「そうですね、マトモに行ったら姫の捜索願いも出ているので……下手すると誘拐犯って事に成りかねないですね」
「うーーん……やはり裏街道しかないかの……出来れば避けたかったが」
「そうですね、アソコなら夜は誰もいないですからね」
「しかし、アソコの夜はゾッとしないのう……」
「ええ、なんせ死霊の森ですからね」
現在の場所は国境の町だが、当然マトモな表街道の国境は警備隊が配備されており、捜索願が出ている姫が通れる訳がない。
なので、一旦北上して裏街道から国境を越えようって訳だ。
もちろん裏街道にも国境警備隊はいるが、そこは死霊の森、夜には警備に出る者もいない有様なのだ。
そもそも、裏街道は訳ありな人間の通る道。
裏街道の国境付近の峠道は山賊が跋扈し、金品を奪われ殺された人間が打ち捨てられた森がいつしか死霊の森と呼ばれるようになった。
そこここに白骨死体が転がり、昼なお暗い森は、まさに死霊の森の名にふさわしい森であった。
「とは云うものの、あの付近でこのワシに喧嘩を売る奴は居らんがの」
「そうなんですか?」
「この辺の街道で、赤鼻のソを知らん奴は居らん」
「すごいですね」
「伊達に永年商売しておらんよ。だが、夜は駄目じゃ……亡霊はシャレが効かんからの」
「はぁ」
「でも、ほかに道は無いな」
4人は裏街道「死霊の森」に向かうことを決めた。