酒仙人
「うーん……」
シャルロットは、目を覚ました。
見たこともない場所にいた。
大きな、天幕の中の様だ。
そこへ少女が、現れた。
黒い瞳に黒い髪。
小柄で、幾何学模様の刺繍を施した極彩色の衣装を纏い、団子を二つ頭に乗せたような髪型をしていた。
彼女は、シャルロットが起きたのを見ると、何か分からない言葉を喋った。
シャルロットが首を傾げると、天幕から出て行った。
暫くすると、パンの様なものとチーズのようなもの、そしてミルクの様なものを運んできた。
少女は、しきりに口に運ぶ物まねをした。
食べなさいと言っているのだろう。
シャルロットは、正直言ってこのような粗末なものを口にした事は無かったが、今にも目が回りそうなほど空腹だった。
恐る恐るチーズのようなものを一口かじった。
「美味しい!」思わず声が出た。
「こんな美味しいチーズ、初めてよ」
それを聞いて、少女は満面の笑みを浮かべた。
そこへ老人が現れた。
少女と同じ様な衣装を着ていたが、刺繍はなく紺色の地味な服を着ていた。
「それは、ラクダのチーズじゃよ」
それを聞いてシャルロットは驚いたが、既に全部平らげていた。
「お爺さんは、喋れるのね?」
「わしらは、遥か東方よりこの地を訪れた商人じゃよ」
「そうですか」
「あんた……なにもんかね?」
「えっ?」
「あんた……龍の姿をしていた」
「見たの?」
「ユンユンが見つけた」
「ユンユン?」
「娘の名前ユンユン、私の孫」
「あの子……ユンユンって言うのか~」
「私の国では、龍は神様。ユンユン、あんた神様の使い思ってる」
「私は、神の使いじゃない」
「ではなんで龍の姿してる」
「分からない」
「では、辞めれば良い」
「出来ないの……人の心臓を食べないと戻れない」
「そんなことはない。それも1つの方法だが、龍の泉に入れば龍の心なくなる」
「えっ!そんな場所あるの?」
「ある」
「お願い!連れて行って!」
「連れて行ってやってもいいが……」
「ホント!」
「親御さんに言わなくても良いのかな?」
「はい!構いません!」
「うーん……今、ライグランド国の東の果て、帰らずの砂漠の入口じゃ……生半可では砂漠は渡れんよ」
「私……この国の王女なの……でも……お父様は、龍に討伐命令を出したの……ここに居たら殺されてしまう!」
「なる程……わかった!では助けよう!」
「お礼は、必ずします……今は……」
「知っとるよ、裸だったからのう」
「ありがとうございます。あの……名前教えて下さい」
「蘇化子と申す。赤鼻のソと呼ばれてます」
「ソさんにユンユンさんね!宜しくお願いします!」
こうして、シャルロットは遠く東の国に旅立つ事に成った。
そこへユンユンが衣装を持ってきた。
「これ……きる……」
それは、ユンユンの着ている東方のエキゾチックな衣装だった。
「素敵……いいの?」
ユンユンは、ニコニコしながら着る様に即した。
「ありがとう!とっても素敵だわ!」
「それから、これ……」
それは、幾つかの宝石だった。
「落ちてた」
「……これ、取って置いて……お礼代わりに成ると良いけど」
ユンユンは、ソを連れてきた。
「おう……これは立派な……これだけ有れば相当な額になるよ」
ソはご機嫌だった。
「じゃ、これを元手に街でメシでも食うか?いろいろ準備もしなきゃだしの」
3人は、国境の街に出向いた。
「ここで、待っておれ」
ソは、二人を街の食堂に置いて両替商の元に訪れた。
一粒だけ宝石を両替した。
「ほっほっほっ」
ホクホクの笑みを浮かべながら店を出た。
食堂に戻ろうと路地を曲がると、何やら柄の悪い男たち二人が道を塞いでいた。
「ごめんよ」
ソが道を通り抜けようとすると
「おうっと待ちな!ここは有料道路だぜ!有り金置いて行きな!」
「それはこまったのう」
数分後……
ゴロツキ二人は道端にのびていた。
「ふふふ、相手が悪かったのう」
ソは、食堂に向かった。
「やぁやぁお待たせ!ささ!美味しいのなんでも頼んでいいよ!俺は……酒!」
ソは、無類の酒好きだった。
「おい!おねぇさん!どんどん持ってきて!」
3人のテーブルは美味しそうな料理で一杯になった。
「これ、うまいのう」
子羊のシチューだった。
挽き肉を様々な香草と練って、串にさして焼いた物も気に入った様だった。
バタン!!!!!!
誰かが、店のドアを乱暴に開けた。
「兄貴!あのジイさんです!」
さっきソにのされたゴロツキだった。
「おうおう爺さんよ!この俺の舎弟を可愛がってくれたらしいな!」
「ふん!さっき負けたのにまだ解らんか!こっちは食事中なんだ!帰りな!」
ソは、負けずにまくしたてた。
店の主人がやって来た。
「おじいさん、奴等はこの街で幅を効かせているヤクザ者です。お代は要らないから、騒ぎは外でお願いします」
「わかった……ユンユンこれでお代を払って置きなさい」
「爺さん!どうした!金さえ置いていけば、命だけは助けてやるぜ!」
「ここでは、店の迷惑に成る!表に出ろ!」
ソは、外の広場に出た。
『ナンダナンダ』とあっという間に黒山の人だかりになった。
「ユンユン!酒!」
ユンユンは、酒の入った瓢箪をソに投げた。
ソは、それをガブガブと飲み始めた。
店でも相当量飲んでいた。
「じいさん、いける口だね」
ヤクザ者は薄笑いを浮かべていた。
ソは、よろよろと千鳥足で男に近づくと『ブー!』っと口に含んだ酒を吹きかけた。
「なにしやがんでぇ!!!」
男は、目に酒が入りめちゃくちゃに拳を振り回した。
「ほっほっほっ」
ソはその拳をヨロヨロとした千鳥足でひらりひらりと避けた。
拳は、まったくといって当たらなかった。
「コンの野郎!!!!!!!!」男は逆上して短剣を抜いた。
「おお!おっかねぇ!」
男は、ぶんぶんと短剣を振り回してきた。
「ほい!よっ!ほれ!」
この攻撃もことごとく当らない。
「ほれ!」
ソは突いてきた短剣を避けた。
次の瞬間『ボッ』と風を切る音がするとソの繰り出した拳が男のノドに食い込んでいた。
男は、もんどりうって倒れた。
ソはおぼつかない千鳥足で男に近づくと、ヨロけてつまづいた。
そして男の上に仰向けに倒れこんだ。
『ドスン』と言う音がした。
ソの猿臂(肘)が男の喉元を突き刺していた。
ソは立ち上がったが、ヨロけて尻餅をついた。
尻餅をついた場所は、男の顔面の上だった。
『ぶうううううう』
「こりゃいかん!公衆の面前で屁をこいてしまった!がはははは!御恥かしい!!」
周りで見ていた野次馬たちは、一斉に爆笑した。
「よっこらせっと」ソは立ち上がった。
今度は、転ばなかった。
「兄貴!!!」舎弟が男を抱き起こした。
「覚えてやがれ!」
お約束の捨て台詞を吐いて、逃げて行った。
「そう言えば、東方に呑めば呑むほど強くなる男が居るって聞いたことがある」
野次馬たちが、なにやら話はじめた。
「えええっと、たしか……赤鼻のソ!酔拳の蘇化子だ!!」