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蒼月夜  作者: くまおやG
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秘めた思い

「これから暫くは、湖畔の別宮で過ごすとしましょう。シャルロットの体調が優れないとして。あそこなら、人目に付かないし」

「ええ!いいな~!ヴィヴィも行きたいな!」

「私もその方が、心強いな……」

「分かりました、国王に私から頼んでみましょう。」


 そうして、三人は湖畔の別宮に移り住むことになった。


「ねぇねぇお姉様……今日、一緒の部屋で寝てもいいかな?」

「今日と言わず、ここに居る間はずっと一緒でよくてよ。……たのしみね……うふ」

 シャルロットは、使用人に命じてベッドを運ばせた。

 エリシアと二人は、かつて3人で暮してた頃を思い出した。

 傷ついたシャルロットの心は、一時の幸せを感じた。

 そんな日が幾日か続いた。


 ある夜の事、ベッドでヴィヴィアンがシャルロットに言った。

「ねぇお姉様……お姉様は、好きな人居る?」

「え……」突然の問いかけに、シャルロットは驚いた。

「あのね、私……テリュースが好きなの……きゃっ……言っちゃった」

 テリュースとは、公爵家の子息でシャルロットの1つ年上、ヴィヴィアンの3つ上だった。

 二人とは幼き日より机を並べ勉学を学んだ仲、平たく言えば幼なじみだった。

「え……テリーを……」

「そう、彼ハンサムだし……優しいし」

 シャルロットには乱暴で意地悪だったが、ヴィヴィアンの事は本当の妹の様に可愛がっていた。

「そう……素敵ね!応援するわ!」

「嬉しい!お姉様が応援してくれれば百人力だわ……うふ……この話……誰にも内緒よ」

「解ってる。さぁ寝ましょう、もう遅いわ」

 その夜、シャルロットは密かに泣いた。

 シャルロットもまた、テリュースに思いを寄せていた。

 しかし、『自分は化け物だ。化け物は、恋なんかしたらいけない』

 そう思ったら、泣けてきた。

『私なんかより、かわいいヴィヴィアンとの方がお似合いだもの』

 シャルロットは、ポロポロと流れる涙で枕を濡らした。


 明くる日、城から早馬がやって来た。

「お伝えいたします。本日、国王命にて、ドラゴンの討伐命令が下りました」

 伝令兵が、持ってきた書簡の内容は、

『見事ドラゴンの首を取った者は真の救国の英雄として、平民階級の者も騎士の称号を与え。シャルロットまたはヴィヴィアンの夫として迎える』と言うものだった。


 それを読んだヴィヴィアンは、シャルロットが口を開くより早く

「私たちに相談もなく、こんな事を決めてしまうなんて酷い」

 そう言うと寝室に閉じ籠もってしまった。

『ヴィヴィアンはきっと、私を殺す命令が下りたことより、そのことによってテリュース以外の人と結婚しなくては成らないかも知れない事がショックなんだろうな……』


 そこへ、馬に乗ってテリュースが、現れた。

「失礼します、エリシアさま」と丁寧に祖母に挨拶をした。

「シャルロット、病気って聞いてたけど元気そうで何よりだね」

 シャルロットは、自分を殺す命令を親から出されたショックが少しテリーの出現で癒された。

「あ!ヴィヴィアンも居るのよ、呼んでくるわね」

 そう言って、寝室のドアを叩き「ヴィヴィアン、テリーが来たわよ」と言った。

 ドアの向こうで「えっ」と言う声とアタフタと身繕いをしている音がした。

 ドアが開くとペロッと舌を出してヴィヴィアンが現れた。

「さぁいきましょ」シャルロットは優しく言った。

 応接間にて、テリュースはエリシアと談笑していた。

 そこに二人が現れると、テリュースは急に改まってシャルロットの前に片膝をついた。

「シャルロット、俺は必ずドラゴンを倒す。そうしたら……お・お・お・俺と結婚してくれ」と言った。

 シャルロットとヴィヴィアンは二人同時に「えっ!」と声を上げた。

 そして、ヴィヴィアンは駆け足で出て行ってしまった。

「ヴィヴィアン!!」シャルロットが後を追おうとすると、テリュースが手を掴み「返事は貰えないのか?」と言った。

 シャルロットは「嬉しい、正直凄く嬉しいわ。だけど、私はどうしてもその約束をすることが出来ないの……ごめんなさい」そう言って、手を振り解きヴィヴィアンを追いかけた。


 ヴィヴィアンは、独りで森の中に入って行ってしまった。

 シャルロットは、それを追いかけた。

 テリュースは、シャルロットを追いかけた。


「おーい!おーい!」テリュースは、シャルロットを探した。

 そして、木の根元にうずくまり、泣き崩れる少女を見つけた。

「シャルロット?」と近づくとそれはヴィヴィアンだった。

 ヴィヴィアンは、テリュースの顔を見るとまた泣き崩れた。

「ヴィヴィアン……その……なぜ泣くの?」

 テリュースは、無神経な事を聞いた。

 ヴィヴィアンは、わんわんと泣きながら

「この鈍感!!!!!貴方が好きだからよーーーーーーー!!!!!!」とより一層火が付いたように泣いた。

「ご……ごめん……俺……ヴィヴィアンの事は、本当の妹の様に思ってたから……」

「いいわ!どうせドラゴンを殺したら私と結婚することになるから!」

「え?なんで?」

「ドラゴンの正体はお姉様だからよ!」

「何言ってるの?そんなはず無いだろ!」

「殺したら解るわ!お姉様の死体と結婚すればいいのよ!」


「ぱきっ!」

 小枝が折れる音がした。

 二人がそちらを振り向くとシャルロットが立っていた。


「ご……ごめんなさい!お姉様!本心から言ったわけじゃないのよ!」

 ヴィヴィアンがそう言うと、シャルロットは大粒の涙をポロポロと流した。

 その涙は、見る見るうちに宝石になった。

 シャルロットの背中からコウモリの様な翼が生えてきて、そしてシャルロットは飛び立った。

 遠い東の空へ……

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