告白
「あのね…ヴィヴィアン、驚かないで聞いてね」
シャルロットは、満月になると自分はドラゴンに変身してしまう事、そのために多くの人が、命を落としている事を告白した。
ヴィヴィアンは、初めのうち信じられない面持ちだったが、シャルロットの真剣な目を見て真実である事を悟った。
「例えお姉様が何であろうと、ヴィヴィのお姉様に変わりないわ!お姉様は、今も優しいヴィヴィのお姉様だもの!」
ヴィヴィアンは、強く言った。
「心配しないで!お姉様にはヴィヴィがついてるわ!」
ヴィヴィアンの眼は、みるみる大粒の涙が溢れ出しポタポタと音をたてて零れ落ちた。
「おお、ヴィヴィアン!なんて優しいの!」
二人は、抱き合って一頻り泣いた。
「お姉様、この事はお父様やお母様には相談した?」
シャルロットは首を横に振った。
「お父様は多分オロオロとするだけ、お母様は……」
シャルロットは、常日頃アビゲイルが自分を疎ましく思っている事を感じていた。
「お母様は、私を処刑するわ。ドラゴンが私を攫い、私を食べて私に化けているとして」
シャルロットは、そこまで言ってはっとした。
「本当にそうなのかも……あ……あぁ……よく思い出せないけど……ドラゴンに襲われた記憶がある……いや……あれは……夢?……」
シャルロットは、幼い頃に見た恐ろしい悪夢を思い出した。
それは、薄暗い洞窟でドラゴンに襲われ生きたまま食べられてしまう夢だった。
「あれは、夢じゃ無かったのかしら?」
洞窟の中でシャルロットは祭壇の様な場所に横たわっていた。
円の中に星印が描かれていて、星の角に当たる部分にロウソクが灯っていた。
何か読めない文字が円にそって書かれて有って、その中心にシャルロットは居た。
誰かが、呪文を唱えている。
何語かはサッパリ分からなかったが、洞窟の中で木霊してとても恐ろしく感じた。
暫くするとドラゴンが現れた。
そして、シャルロットは生きたまま貪り食われた。
そして、薄れゆく意識の中で最後に見たのは……アビゲイル……
しかし、シャルロットはこうして生きている。
やはり、アレは夢だったのか?
「お姉様、一人で考えていないでヴィヴィにも聞かせて」
シャルロットは、ヴィヴィアンの母が自分をドラゴンに食わせた夢と言うことは、流石に言うことが出来なかった。
「ううん、何でもない。昔見た不思議な夢の事を思い出してたの。でも、それは唯の夢」
「ふーん……そうだ!お父様、お母様に相談できないなら、お婆様に見てもらいましょう」
お婆様とは、ヴィヴィアンの祖母でアビゲイルの母の事であった。
アビゲイルの家系は、代々城に仕える占い師の家系だった。
政治の事、戦争の事、その他色々な事について国王に助言をする家系だった。
シャルロットの母が亡くなり、国王に対して色々と相談にのる内に恋仲になると言う……まぁ有りがちなパターンではあるが……
そんなことも有り、この祖母は執務で忙しい国王と王妃に代わり、幼いシャルロットとヴィヴィアンを育てた。
二人に取って、育ての親だった。
「そうよ、お婆様はとても凄い占い師だし、私たちの優しいお婆様だもの!きっと助けてくれる!」
「そうね!お婆様なら何とかしてくれるかも」
そうとなったら、善は急げとばかり祖母の部屋に二人で出掛けることにした。
二人は部屋を出ると、侍女と衛兵を呼び、祖母の部屋に出掛けると申し付けた。
二人は、祖母の部屋に着いた。
部屋と言っても城内にある離れで、それはとても豪華な豪邸だった。
二人の顔をみるや、途端に目尻のシワが増えて、それはそれはとても嬉しそうな顔に成った。
「アラアラ、どうしたの?」
祖母の名は、エリシア。
若い頃は、名の知れた占い師だった。
「そうだ!昨日、伯爵夫人が持ってきた美味しい焼き菓子があるの!城下で評判の店のなのよ~!お茶を用意しましょうね……」
エリシアは、二人の思い詰めたような表情をみて、只ならぬなにかを感じた。
「来なさい」と短く告げると、自分の部屋に招いた。
部屋に入るとエリシアは、本棚の3段目にある隠しレバーを引いた。
本棚が回転し、奥に隠し部屋が現れた。
部屋の中央に水晶玉の置いてある、テーブルがあった。
「座りなさい」
二人は、水晶玉の前に座った。
エリシアの表情が、曇った。
『なんてこと……私が付いて居ながら、ここまで気付かないなんて……』
「あの……お婆さま……」シャルロットが口を開きかけると、エリシアが遮った。
「この前のドラゴン騒ぎは、シャルロットが起した事だったとは……」
「え!私まだ何も言ってない」
「私は、こう見えても凄腕の占い師だったのよ。その位分かるわ」
「すごい」ヴィヴィアンは目を丸くして驚いた。
「シャルロット、お前のその身体、既にお前のものでは無いわ」
「えっ」
「まだ幼い頃に掛けられた、遥か東方より伝わる恐ろしい呪い」
「ドラゴンにお前を食わせ、体内にてドラゴンの子供と混血になり、ドラゴンの身体から再度産み落とされる」
「……え……」
それは、夢で見たと思っていた事そのものだった。
「ドラゴンは、お前の身体を繭として育ち、そして羽化する」
「そんな……」
「放って置けば、身も心もドラゴンのものに成ってしまうだろう」
エリシアは、この術が使える人間を一人だけ知っていた。
『アビゲイル……お前この子に何をした……』
「お婆さま、放って置けばって事は、放って置かなければ何とか成るの?」
ヴィヴィアンが訊ねた。
「呪いを解く方法は、無くも無い」
「本当に!」
二人は、同時に声を上げた。
「でも喜ぶのは、まだ早い」
「えっ!」
「呪いを解くには、人間の心臓を食べなくては成らないの……」
シャルロットにとって絶望とも取れる一言だった。