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蒼月夜  作者: くまおやG
2/19

変身

 その日の午後。


 イルハン兵士長の前に伝令兵が、やってきた。

「報告いたします。村人の証言を基に森を捜索した結果、沢山の死体と共に姫を発見し、身柄を保護いたしました」

「おお!でかした」

「しかし……」

「なんだ、言ってみろ」

「大変申し上げにくいのですが…あの……」

「それでは、伝令にならんではないか!はっきりと報告せよ!」

「は……はい……姫は、そのー……全裸でして……」

「な……なに!」

イルハンは口をパクパクし、驚きを隠せなかった。

「この事は他言無用、現場に居た兵士たちにも、そう伝えよ」

「は!」

 伝令兵は、去っていった。


『さて、国王になんと報告して良い物やら……』

イルハンは、重い足取りで国王の間へ向かった。


「なに、シャルロットが見つかったとな!」

「はい」

「でかしたイルハン!褒美を取らす!」

「有難き幸せで御座います……が……」

「うん?なんだ?褒美は要らんのか?」

「いえ、そう云う事ではなく、姫の事ですが……あのう……全裸で発見されたそうです」

「な・な・な……なんと申した!」

「はだかで見つかったそうです……」

「なにーーーーー!!見つけた兵士を呼べ!!!!!!全員打ち首じゃ!!!!!」

「国王陛下!兵士には何の落ち度も有りません!平にご容赦を!!」

「ぐぬぬ……わ・分かっておるワイ……」

 国王は不満そうだった。

 そこへ王妃が現れた。

「話は、聞きました。まさかと思うが、身分卑しき者達に純潔を奪われたのではあるまいな!」

 イルハンは目を白黒させた。

『もし仮にその様な事が在ったら、衛兵を立てておきながら姫を城外へ攫われた責任はま逃れないな……』


「姫の御体は、現在、城付きの医士に調べて貰っております。万一の事が仮に在ったとしたら、このイルハンの首で部下達の不始末はお許しください」

「その言葉、よく覚えておれよ」

 その言葉を残して、王妃は立ち去った。


「心配有りません、乱暴された形跡は無いです」と医師は言った。

 その言葉に一同「ほっ」と胸をなで下ろした。

 中でもイルハン兵士長の安堵の表情は、ひとしおであった。

『しかし、ならば何故裸だったのだろう?』

 イルハンは、ふと浮かんだ疑問を振り払った。

『これで、一件落着。下手に騒ぐのはやぶ蛇だ』

 こうして、暫くは何もない日が続いた。


 ドラゴン騒ぎも誘拐騒ぎも忘れ掛けたある夜の事だった。

 シャルロットは、また同じような夢をみた。

 いや、それが夢なのかどうかハッキリしない。

『また飛んでる……きもちいい……月がキレイだわ』

 しかし、しばらく飛んでいるとこの前の出来事を思い出した。

 そして湖畔に降立った。

『この前は、ここでお祭りをしていて……私も混ぜて欲しくて……』

 シャルロットは、その後起きた惨劇を思い出し身震いした。

『怖い……侍女たちが噂していた……ドラゴンが現れたって……』

 シャルロットは、自分の手のひらを見つめてみた。

 しかしそこには、ゴツゴツとした鱗に覆われた指と、鋭いカギ爪が有った。

『ああ……』

 シャルロットは、湖に自分の姿を映して見た。

 そこに映るのは、恐ろしくも美しいドラゴンの姿だった。

『これは夢よ!夢に違いないわ!……でもこの前は……気が付くと裸で……沢山の人が死んでいた……私が殺してしまったの……』

 シャルロットは泣いた。

 その涙は湖に落ち、落ちた涙は美しい宝石になった。

『そうだわ……この前は、帰れなくて大騒ぎに成ったから……今日はちゃんと帰ろう……そうすれば、私さえ黙っていれば……だれもこの事に気づかない』

 シャルロットは飛び立った。

 そして、城の近くに来ると

『どうしよう……こんな大きな身体じゃ部屋に入れない……』

 仕方なく、城の塔の天辺に留まりしばらく月を眺めていた。

「コケコッコー」

 鶏の声が聞こえ、夜が白々としてきた。

『どうしよう……このまま元に戻らなかったらきっと、撃ち殺されてしまう……城の皆と戦えばきっと死人が出る』

 そうこうする間に日が昇ってきた。

 シャルロットは、自分のドラゴンの手の中に、薄らと人間の手が見えることに気が付いた。

『あ!夜が明けると、もどる事が出来るんだわきっと!』

 大慌てで太陽が昇りきる前に、自分の部屋のバルコニーに降立った。

 すると見る見る人の身体に戻っていった。

 シャルロットは、大喜びで裸のままバルコニーで踊りだした。

 そこへ侍女が、入ってきた。

 侍女は裸で踊るシャルロットを見て、目を白黒させた。

「まぁ、姫様!なんと言う……」

 続く言葉を失った。

 大急ぎでベッドのシーツを引き剥がし、シャルロットに被せた。

「姫様、とにかく湯浴みをしましょう」

 そう言って、そのままの姿で浴室に向かった。


 そして、湖畔近くの村の家。

「ねぇねぇ、おかぁちゃん!!!!見て見て!!!湖で拾ったの!!!!」

 子供が、宝石を見つけ親に見せた。

「これは……大変高価な物だわ」

 大人達は、慌てて湖に行った。

「確かにこの辺だったんだな」

「うん、そうだよお父ちゃん!」

 湖の浅瀬にキラキラと光る物が見えた。

 そんなに沢山では無いが、確かに宝石が落ちていた。

 その家族はその宝石を市場に持って行き、商人に売り捌いた。

 3年は遊んで暮らせる金になった。

 そして、その日の内に大変な噂になり人々は湖に群がった。

 がしかし、宝石はもう落ちていなかった。

 人の妬みとは恐ろしいもの。

『宝石を拾った家の女は、魔女に違いない』と言う噂になり。

 その噂は、ついに王妃の耳に届くまでになった。

 ついには、『魔女を捕らえよ』と言う命が下りた。

 捕まった母親の「子供が湖で拾った」と言う言葉は聞き入れられず。

「湖に自然に在る物ならば、なぜ今取れない」とされた。

 そして、財産没収の上、子供達の面前で火炙りにされた。

 シャルロットは、またもや自分のせいで人が死んだと嘆いた。

 しかし、その事は誰にも言えなかった。


 シャルロットは、自分があるきっかけでドラゴンに成ってしまう事に気付いた。

 それはどうやら、満月の晩と言う事にも。

 そして、多くの人がその事で死んだ事を悲しんだ。


「どうして、こんな事に成っちゃたんだろう」

 幾ら悩んだところで、何の解決策も見つからなかった。


「とにかく、満月の晩には誰にも会わないようにしよう」


 コンコン!

 誰かが、ドアをノックした。

「お姉様いらっしゃいます?」

 妹のヴィヴィアンの声だった。

「どうぞ、お入りなさい」

 シャルロットは、ヴィヴィアンを部屋に迎えた。


「お姉様、近頃お元気ないみたいだから、ヴィヴィが元気付けてあげようと思ったの」

 ヴィヴィアンは腹違いの妹だったが、幼い頃に母親を亡くしたシャルロットに取って、朗らかで優しいヴィヴィアンは心の寄りどころで有り、城内で本当に心の許せる数少ない存在であった。

 シャルロットは、ヴィヴィアンの優しさについ涙がこぼれてしまった。

「あら、どうしたのお姉様、ヴィヴィがいけなかったの?」

「違う、違うの…ありがとう」

「ヴィヴィは、いつでもお姉様の味方よ。たった二人っきり姉妹だもの」


 シャルロットは、ヴィヴィアンに悩みを打ち明ける決心をした。


「あのね……」


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