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蒼月夜  作者: くまおやG
18/19

冤罪

 パカッパカッと馬が歩く音が、早朝の城下に響いた。

「なんだあれ」

 こちらに向かってくる影を指差し一人の門番が言った。

 馬に乗る人影2人、縄に縛られた人影1人。

 馬上の人間はアズハルとシャルロット、縛られた人間はテリュースだった。

 アズハルは門まで来ると「罪人テリュースを連れて参った、国王陛下にお目通り願いたい」と門番に告げた。

 一行は、玉座に座るライグランド国王とアビゲイル王妃の前に通された。

「おおシャルロット、父は心配のあまり夜も眠れなんだぞよ!」

「ただいま戻りました。ご心配おかけ致しまして、申し訳御座いません」

 シャルロットは無表情に短く言った。

「良いのだ良いのだ、無事で何よりだぞ」

 親子の会話にアズハルが、割って入った。

「国王様、王妃様、約束どおりテリュースを捕まえてまいりました。私とシャルロット姫の結婚をお許しいただきたい」

「おおそうであったな。アズハル殿、この度はなんと申したらよいか!礼を言うぞ!結婚についてはもちろん依存は無い……」

「失礼ながら!!」

 縛られたまま膝を付き俯いていたテリュースが口を開いた。

「国王陛下は嘘偽りを仰せか!!」

「何を貴様!罪人の分際で!!!」

「国王陛下は、ドラゴンを討伐したものに娘との結婚を許すと申された。あの言葉をお忘れか!!シャルロット姫はドラゴンで、私こそがドラゴンを捕まえた!!シャルロット姫との結婚をお許し願いたい!!!」

「ぐぬぬぬぬ……貴様のような奴を盗人猛々しいと言うのだ!!軟禁した公爵と婦人を連れて参れ!!3人とも即刻首を刎ねよ!!」

「待ってくださいお父様!!!」

 そこへ現れたのは、ヴィヴィアン姫であった。

「テリュース様の言うことは、真に御座います。私は姉上がドラゴンに姿を変えるのをこの目で見ました!!!」

「な……なんだと……それは真か?」

「はい、真に御座います。そして、姉上をドラゴンに変える呪いを掛けたのは、他ならぬ母上に御座います!!!」

 そう言いながら、ヴィヴィアンはアビゲイルを指差した。

「ヴィヴィアン!そのような無礼な物言いは、娘とは言え許しませんよ!」

 アビゲイルは激怒し、物凄い形相でヴィヴィアンを睨んだ。

「いいえ、私がこの事を今の今まで口にしなかったのは、この事が知れれば私もまた呪われると思ったから。でも、テリュース様の居ない世に未練はありません。あなたをもう母とは思いません、この魔女め!!」

「ぐぬぬ言わせて置けば!!」

 アビゲイルの形相に国王はアワアワと慌てふためき「これ、ヴィヴィアンもアビゲイルもいい加減にせぬか……」と言うのが精一杯であった。

「ちょっと待ってください。アビゲイル様……まさか、アッサウディーアにドラゴンを嫁に出すつもりだったのですか?」

 アズハルはアビゲイルに問うた。

「わらわの窺い知らぬことじゃ」とアビゲイルはしらを切った。

「知らぬでは済まされません。輿入れした後にドラゴンにでもなられたら国際問題。場合によっては戦に成りかねませんがよろしいか」

 その言葉を聴いて国王の顔は青ざめた。

 アッサウディーアといえば、勇猛果敢で知られる大国。戦争にでもなれば敗戦必死なのであった。

「まぁまぁ何事かしら?孫が帰ってきたと聞いて、来たのだけど」

 そこへエリシアが現れた。

「あら!シャルロット!その服は異国の服ね!綺麗だわ!どこで買ったの?私も一着買おうかしら?あらあら、どうしたの?テリュースが縛られているではないの?」

「お婆様、お願いがあるのです」シャルロットが口を開いた。

「何かしら?」

「お婆様の真実を映し出す水晶玉で、私を占ってほしいのです」

「……ショルロット本気なの?それは貴方が何者かここに居る全員に知られる事になるけど……」

「そうです。私の正体がドラゴンでなぜそうなったのか、私をドラゴンにしたのは何者か……すべてを明かして欲しいのです。でないと、テリュースと公爵夫妻が打首になるのです」

「まぁ酷い!まさかミッターマイヤー殿あなたがそんな酷いことを言ったのですか?分かりました……占いましょう。水晶をこれへ!」

 しばらくすると侍女が水晶を持ってきた。

「母上、まさかこの者達の世迷言を真に受けるのですか?」アビゲイルが、少し慌てた様子で言った。

「あらアビゲイル、あなたも占い師の端くれならばわかるはず。占わずとも慌てると言う事は、すなわち……あなたは私の娘の偽物ということ……」

「ぐ……かくなるうえは!!」アビゲイルはワナワナと打ち震えた。


「まってください!もうあなたが何者であろうとどうでもいいわ!!」

 シャルロットがアビゲイルの前に立ち、目を見据えてそう言った。

「だって私、もうとっくの昔に死んでいて、今ある体はドラゴンのものなんだもの……と言うことは、この国の姫ではないわ。だから、出て行くのは私。私はテリュースと暮らすことにする。公爵夫妻もテリュースも姫をさらったわけでは無いのだから、無罪放免なはず。そうですよねお父様……では無くて国王陛下」シャルロットは、国王の前にひざまずき、頭を下げた。

 立ち上がり振返ると「アズハル!そういうことなんで、私は姫でもなんでもないの、せっかくの申し出だけどお断りするわ。さっ行きましょうテリュース」

 シャルロットはナイフでテリュースの縄を切った。

「最後にお父様とここに居る皆さん、早く逃げてください!!」

 言うや否やシャルロットとテリュースは、手を繋ぎ一目散に駆け出した。

「ヴィヴィアン姫、エリシア様こちらです。逃げましょう!」アズハルも駆け出した。

 城の大広間に居た面々は一瞬呆気に取られた様子であったが、アビゲイルの様子を見て蒼白になった。

「うわー」何者かが叫び声を上げて逃げ出すと、一斉に蜘蛛の子を散らすように方々に逃げ出した。


「あ……アビゲイル……余はそなたを信じるぞ」国王の笑みは引きつっていた。

 アビゲイルが一瞥すると国王は腰を抜かし、その場にしりもちをついた。

 アビゲイルを見る国王の視線はどんどん高くなっていき、大きな影が国王を覆いつくした。

「た……助けてくれ……だれか……」国王が、懇願する目で辺りを見回したが、既に大広間には人っ子一人残っていなかった。

「あわわわ……」国王はその場で小便を漏らした。

 大きな影は、一歩二歩と後退しバサバサ羽ばたくと飛び立った。

 次の瞬間ガラガラと音を立てて大広間の天井が落ちてきた。

「あ……ああ……」

 国王は、哀れにも下敷きになり絶命した。


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