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蒼月夜  作者: くまおやG
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毒龍

-15年前-


「ねえお父様、私あの踊りを習いたいの!いいでしょ!」

 幼いシャルロットは7つ、母の死から5年の月日が経っていた。

 国王とアビゲイルは再婚し、生まれたヴィヴィアンは4つになっていた。

 先ごろ行われた舞踊大会に世界中から名だたるダンサーがライグランドを訪れ、東国出身のドゥジュェンという踊り子が妖艶な舞を披露して、見事栄冠に輝た。

 それ以来、シャルロットはドゥジュェンに御執心で、なんとしても城に呼んで踊りを教わりたいと言い出したのであった。

 ドゥジュェンとは、もちろんあの毒龍が人に化けた姿であった。

「国王様、シャルロットがああ言うのですから、例の異国の踊り子ドゥジュェンを召抱えてはどうでしょう?」アビゲイルが進言した。

「ほら!お父様、義母様も言ってるのだからお願い」シャルロットは小声で「ありがとう」とアビゲイルに言うと、ウインクをした。

「うーむ……しかしあの踊りはいささか刺激的というか……」

「お願いお父様。嫌いな人参も食べるようになるから」

 懇願するシャルロットを見て遂に国王は縦に首を振った。

 そもそも、この手の話で国王が勝利した試しがなく、最初から勝負がついていた。

 しかし、このたび国王は「人参」という限定的ながら手柄をあげ、少し上機嫌だった。

「おい誰か、あの踊り子を連れて参れ」


 しばらくすると、きらびやかな衣裳に身を包み、なんとも色っぽい東洋人が現れた。

「この度は、お招きいただき恐悦至極に存じます」東洋人は意外と流暢にライグランドの言葉をしゃべった。

「先日の舞、見事であった。それで相談なのだが、これにあるわが娘シャルロットに踊りを教授願えないか?」

「は!まことに名誉なことでございます。無論、異存はありません。私如き卑しき者の踊りでよろしければお教え致します」

 それから、週に何日かレッスンは行われた。

 ドゥジュェンは意外にも優しく、踊りを基礎からシャルロットに指南した。

 きらびやかな衣裳を着ていない、普段の練習着姿で薄化粧のドゥジュェンは、それはそれで美しかった。

 城内では大変な評判になり、用も無いのに覗きに来る男連中が引切り無しだった。

 シャルロットは、今日はこんな踊りを教わった、こんなステップを教わったと、ことあるごとに国王の前で踊って見せ、国王の目尻を極限まで下げた。


 そんなある日のことだった。


「大変で御座います国王様」

 現れたのは、シャルロットの世話をする女官だった。

「シャルロット様が、大変な高熱で御座いまして……」


 急遽、医者が呼ばれ、シャルロットは診断された。

「でシャルロットは直るのか?」国王は医者に問うた。

「恐れながら国王陛下、この病を治すのは砂漠の向こうの岬に咲く花を煎じた薬が必要で御座います」

「あ……あの化物がいる岬の花か?」

「そうで御座います。しかし、今から取り寄せても姫の衰弱が……そこまでもつかどうか……」

「姫を連れて行ってはどうでしょう?」そう言ったのはアビゲイルであった。

「半分の時間ですみます」

「しかし……」国王は狼狽した。

「国王、ここで待っていたら姫は助かりません。時が移ります、私が行って直接指揮します。ご決断を!」アビゲイルの迫力に圧され、国王は余計オドオドした。

「そ……そなたが赴くのか?」

「薬に心得のある私が適任だと思います」

「そう……そうであったな……行ってくれるか?」

「御意」そうと決るとアビゲイルは早速、用意を始めた。

 国で一番大きな馬車の座席が取り外され、簡易な寝台が作られた。

「薬草部隊」が国内の屈強な兵士で編成された。

 大きな荷馬車に何人も乗り、御者を交代しながら行軍は夜通し行われた。

 そんな必死の行軍も虚しく、シャルロットの容態は悪化する一方だった。

「シャルロット!しっかりして!シャルロット……」

 アビゲイルが必死に声を掛けたが、シャルロットの目蓋が開くことはなく、唇は紫色に血の気が引き、カサカサに乾いていた。

 かろうじて、息はあった。まさに虫の息だった。


 全軍、食事を兼ね森の中で休息を取った時のことだった。


「コンコン」何者かが馬車のドアを叩いた。

「誰じゃ?今その扉を開くことはまかりならん!」

「私です女王様、ドゥジュェンです」

「ドゥジュェン?なぜそなたがここに?」

「姫を助ける方法を知っています。ここを開けてください」

「なに?」アビゲイルは馬車のドアを開けた。

「お……お前、何をした」

 アビゲイルの目の前には、精鋭部隊の死体が無数に転がった情景が広がっていた。

「アビゲイル様、彼方は知っているでしょうか?東洋に伝わる反魂の呪法を」ドゥジュェンは片側の口角を上げて、皮肉めいた笑みを浮べた。


 アビゲイルは思った『もはや、この者に従うほか無い』

「さあ、こちらへ」アビゲイルは誘われるがままシャルロットを抱け上げ、ドゥジュェンの後に付いて行った。

「ここです」ドゥジュェンの松明が指し示したのは、大きな洞窟だった。

 ドゥジュェンは、洞窟の中にどんどん進んでいった。

 進んでいった先に大きなドーム状空間が広がっていて、魔方陣のような物が中央辺りの地面にに書かれていた。

「さあ、その円の中に姫を置きなさい」アビゲイルは、言われるがままシャルロットを横たえた。

 そして、二人に大きな影が覆いかぶさった……


ちょいとばっかり解説。


 この後、二人は毒龍に喰われてしまうのですが、大きく違うのはシャルロットはソックリの分身に記憶を刷り込まれて生み出されて、アビゲイルはドゥジュェンそのものが化けてるんですね。

 龍の一族は基本森の外では人の姿に成れませんが、化ける対照を喰えば化けられる、もしくは分身を生むことが出来るって設定です。

 文章の中に説明が足りなくて本当にすみません。


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