冒険の海
ザブーン
波の音がする。
冒険の海だ。
一行が目指すは、もちろん龍の泉のある東国。
アッサウディーヤの国母を救ったとして、アッサウディーヤが所有する船を貸し出して貰う事が出来た。
アッサウディーヤの女王ワルダは、何としてでもシャルロットを嫁にすると言い出し、シャルロットの身体を治す為なら、幾らでも援助を惜しまないと言った。
「どうだい?いいだろ余の船?」
アズハルは、自慢げに言った。
「ええ、素敵ね」
「そうでしょう、東国にだって直に着いちゃうからね」
「ええ、いよいよね」
「そうそう、そして余と姫の婚礼の日もいよいよ」
「いや……なんと言うか……それは、ちょっと……」
「余の母上もアビゲイル殿も公認の仲なんだから、この話は一気に決めさせて貰うよ」
テリュースがやってきた。
「アズハル、シャルロットが困ってるだろ」
「テリュース、聞く所によるとヴィヴィアン姫が貴様如きに思いを寄せてるとか……隅に置けんのぉ」
「関係ないだろ」
「テリュース、諦めろ。これは国家間の話し合いで決めるのでな」
「ちがうだろ!!!シャルロットが決める事だろ!!!!」
「なに?それではまるで姫が貴様を選ぶとでも言うのか?」
「それは……」
「ふん、余は母上に是が非でも姫を嫁にしろと命じられたのだ。後には引けぬ」
「だめだこりゃ、アズハルのマザコンには負ける」
シャルロットが慌てて言った。
「だめ、マザコンに負けないで!」
「プーーー!」
テリュースが吹き出した。
「な……余が……マザコン……えええい!!!だまれ!!!!」
シャルロットも笑いを堪えていた。
「姫まで!!!!!」
そこに伝令がやってきた。
「報告します!陸が見えます!」
「なに!」
一同は、船首に向かった。
アズハルは望遠鏡をしばらく覗いて「蘇化子殿を呼べ」と言った。
しばらくすると、ソとユンユンがやってきた。
「おお!陸が見える!」
遠く水平線に陸が見えた。
「間違いない、アレは私の故郷です」
「よおし!明日には上陸だ!」
一同は、潮風に吹かれ水平線に浮かぶ陸地をしばらく眺めていた。
「さて、陸に上る準備しなきゃだの……ユンユン、荷造りするぞ」
ソとユンユンは、船底の倉庫に行って自分達の荷物の運び出しの準備を始めた。
「今回の旅は、色々在ったのう、ユンユン」
「はい」
ユンユンは、少し複雑な表情を浮かべた。
確かに怖いことも在ったが、楽しい旅だった。
東国に着き、龍の泉に行けば……それは、シャルロット達との別れが近づいている事を暗示していた。
ユンユンは、シャルロットを本当の姉の様に慕っていた。
だから、出来れば永遠に東国に着かなければ良いとさえ思っていた。
しかし、同時にそれは、シャルロットの幸せを妨げる事なのであった。
「どうした?ユンユン浮かない顔をして?」
「いえ……なんでもない……」
そう言って、ユンユンは積み重なった荷物を少々強引に引っ張った。
『ガランガランガラン』
案の定荷物は崩れた。
「あーあー、やっちゃったのう」
2人は、崩れた荷物を片付け始めた。
「うん?」
崩れた荷物を退かすと、金属で出来た壺があった。
少々変わった形をしていた。
ユンユンは、興味をそそられ中を覗き込んだ。
覗いたところで何が見える訳でも無いのだが、両の取手を持ったまま上に持ち上げ覗き込んでみた。
『コロコロ』と音がすると中から何かが、転げ落ちてきた。
慌てて目を塞いでよけると、何かがオデコにコツンと当って落ちた。
足元を見ると、金色の指輪が落ちていた。
「これっ!ユンユンサボるんじゃない!」
そう言って、ソは荷物を持って階段を登って行った。
ユンユンは指輪を拾い、しばらく壺と指輪を見比べた。
すると、壷にヘソの様な窪みが在り、どうやら指輪をはめ込む事が出来そうだ。
ユンユンは、指輪をはめてみた。
すると、モクモクと煙の様なものが壷から出てきて丁度雲の様に浮ぶとピカピカと稲光のようなものが光り、『ボン』と言ってはじけた。
ユンユンが腰を抜かして尻餅を付くと、そこには髭の生えた如何にも人相の悪い大男が立っていた。
「お呼びですか御主人様?」と大男が言ったが、ユンユンは何を言っているか分らなかった。
「えーっと……御主人様??」大男が再度訊ねると、ユンユンは見る見る涙目になり、逆に棒を持って大男に殴りかかった。
「いたい!!逃げろ!!」大男は、空を飛び一目散に逃げ出した。
『バン』と船倉の扉が開くと大男が飛び出した。
続いてユンユンも飛び出した。
2人は甲板で向かい合うと、ユンユンは持っている棒を正眼に構えた。
「ちょっとまって!!俺は貴女の下僕です!!」
一同は、呆気に取られポカンとした表情のまま動きを止めた。
ユンユンが涙目のまま、殴りかかろうとするとその棒をテリュースが掴んだ。
「何があったんだ一体!お前は誰だ?密航者か?」
「違います~……私は壺の魔神です~」
「え?」
テリュースが呆気に取られているとユンユンがウーウーと唸りながら飛び掛ろうとしていた。
「あーーーーー御主人様、違いますって願い事が叶うんですよ!!」
「jかvは9ぱうじゃlfはjぃ」なにやら分らない言葉が聞こえた。
蘇化子が通訳した様だ。
「え?」
ユンユンは、しばらく考えてから意を決して叫んだ。
「私、シャルロットさんとずっと一緒に居たい!」
壺の魔神は答えた。
「その願いは、叶える事出来ません」
ソが通訳すると
「なんで?」
また、棒で殴り掛かろうとした。
壺の魔神は、頭を抱えながら答えた。
「既に叶えられた願いは、受けられません!」
ソが、ユンユンに言った。
「ユンユンや、ワシが姫に頼んだのじゃ、旅が終わったらユンユンを連れて行ってくれと」
ユンユンはソの顔を見ると、見る見る涙目になった。
「おじいちゃん……ありがとう」
壺の魔神が言った。
「御主人様、まだ願い事を言ってもらってませんが……」
ユンユンは、迷わず言った。
「シャルロット様の身体を元に戻して!」
「はい、かしこまりました。ただし、此処では無理です。龍の泉に行きましょう」
かくして、一行は東国の港に着いた。




