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蒼月夜  作者: くまおやG
10/19

決意

「しかし、友人を疑うなんてヒドいぞ」

「すまぬ!余も母上の事で一杯だったのだ。母上が病床ゆえ満足なもてなしも出来ず、重ね重ねすまぬ。ささ、皆様、ご遠慮無く。足りなければ、どんどん運ばせます」

 充分に豪華なもてなしだった。

「じゃぁ……遠慮なく頂くかの」

 ソは、高そうな酒をガブガブ呑んだ。

「お客人、良い呑みっぷりですな」

「酒は、百薬の長だからのう」

 ソは、ご機嫌だった。

「ささ、姫君とお嬢さん、甘い物も用意しますよ」

「ありがとう、アズハル」

 シャルロットはにこりと微笑み、ユンユンはペコリと頭を下げた。

 ユンユンにとって見れば、見たこともないご馳走ばかりだった。

「どういたしまして、愛しのシャルロット姫」

 アズハルは、中々の美男子でシャルロットも悪い気はしないのだが、気になって横目でテリュースの方を見た。

 テリュースは、その視線に気づき微笑むとウインクをした。

 シャルロットは、赤くなった。

 そのやり取りを、アズハルは見逃さなかった。

「あれ?なにお前達目配せなんかして……ひょっとして……」

 テリュースは、照れくさそうに言った。

「実は、正式にプロポーズした」

「なに!それは捨て置けぬ!」

「断られたがな」

「お!ふられたか……それは可哀想にな……うふふ」

 アズハルは、言葉と裏腹に笑った。

「いや……あの……断ったというか……」

 シャルロットは、シドロモドロとした。

「断られたが、シャルロットは自分がドラゴンだから断ったのだと思う。だから、晴れて人間の身に戻ったら再度プロポーズするつもりだ」

 シャルロットは、耳まで赤くなった。そして、あまりに嬉しい言葉に涙があふれた。

「ああ!貴様!泣かしたな!ゆるさん!」

 アズハルは、手刀でテリュースのおデコにトンと叩くと笑った。

 テリュースも笑った。

 そして、ソもユンユンも笑った。

「シャルロット姫!」

 アズハルは急に改まった。

「姫、本当に薬草を採って来てくれるのですか?」

 シャルロットは、うなずいた。

 シャルロットは、自分の母が亡くなった葬儀の際、アズハルの母が優しい言葉で慰めてくれたことを覚えていた。

 アズハルの母はアズハルと年齢の近いシャルロットを不憫に思い、シャルロットを抱きしめ優しく髪を撫でてくれたのだった。

「私の母の葬儀の時、優しくして頂いたご恩が有ります。優しく抱きしめて頂いた時、母が帰ってきたのではないかと思いました。そのご恩返しです」

「危険ですぞ」

「それは、承知の上です。だけど今、母君を助けなければ一生後悔します」

 母を亡くしたシャルロットは、アズハルの気持ちが痛いほど分かるのだった。

「ありがとう」

 アズハルはシャルロットの前にひざまずき、深々と頭を下げた。

「アズハル、そんな……私の力が人の役に立てるのは、嬉しいのです」

 シャルロットは、呪いたいほど嫌だったこの身体が役に立つと思うとそれは本当に嬉しいのだった。

「それで、そのルフの巣までどの位かかる?」

 アズハルに、テリュースが尋ねた。

「1日かな?」

「うーむ……では、明後日の早朝出掛けよう。夜には、着けるかな?」

「そうだな、いけるだろう。馬を用意する、どの馬も最高の馬だ」

「確認するが、明後日は満月であったな?」

「うむ」

「シャルロット、明後日出発するぞ。満月に合わせてな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 一行は、ルフの住む断崖へ向かった。

 1個中隊を率いた、幾分派手な行列だった。

 城からは、川沿いの街道を進み海に出た。

 海沿いを西に進むと岬があった。

 道中、一行は馬車に揺らるだけだったので、随分楽な旅だった。

「着いたぞ」

 アズハルが、馬車のドアをあけた。

 それは、この世の物とは思えないくらい絶景の岬だった。

「きれい」

 シャルロットは、海に沈もうとする太陽を眺めそう言った。

「うへー……凄い崖じゃのぉ……わしぁ高いところは苦手じゃ」

「姫、よろしいですか?足元気を付けて」

 シャルロットは、アズハルに呼ばれた。

 アズハルは、岬の先端まで来ると下を覗き込み「あれです」と言った。

 シャルロットは、下を覗き込むと吸い込まれる様な間隔がして、怖くなってしゃがみ込んだ。

 岬の突端の断崖を降りていくと、途中平らになった『棚』の様な部分が在り、そこに小さな可憐な花が咲いていた。

「あの花を摘んできてください」

「はい、分りました」

「しかし、あの棚の後ろに洞窟があり、そこはルフの巣です。気を付けて下さい」

「……はい」

 そう言うと、シャルロットは一旦馬車に戻り、次に出てきた時には頭からスッポリとローブを被って出てきた。

 ローブの下は、裸だった。


 太陽が沈み、夜が訪れた。

 シャルロットは岬の先端まで行き、ローブの前を開け放った。

 海風が悪戯にローブをなびかせ、シャルロットの美しい肢体が月明かりに映し出された。

 次の瞬間、その身体は変化を始め、背中には羽が生え、首が伸び、身体は金色の鱗に覆われ、ドンドンと大きくなって行き、遂には美しいドラゴンの姿に成った。

 ドラゴンはその端正な美しく長い首を下に向け、断崖の棚を確かめると、一気に下に飛び降りた。


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