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異世界転生・転移の文芸・SF・その他関係

それなりの年齢にさしかかった冒険者のお話/試作品

作者: よぎそーと

(どうすっかな)

 この先の事を考えてしまう。

 特に何があったというわけでもない。

 仕事は変わらずやってくるし、そこそこ働ける。

 それだけのレベルはあるつもりだし、細々と食って行くのに困る事はないはずだった。

 しかし、どういうわけか先の事を考えてしまう。

 一年後や二年後ではない。

 十年、二十年といった先の事を。

 それを考えた時、男は不安と疑問を抱いた。

 ……今のままで良いのか?

 ……先々どうなるのだ?



 ある意味、標準通りの人生だった。

 人口の大半が農村の出身であるこの世界において、ごく普通に農家に生まれた。

 税金の代わりに兵役に入り、北の戦線でモンスターと戦った。

 運良く生き残り、年季が来たところでお役ご免。

 他の多くが割とよく選ぶ道である冒険者になっていった。

 身につけた技術を活かそうと思ったら、傭兵か冒険者くらいしかない。

 傭兵としてやっていった場合、働くのはモンスターとの最前線になる。

 それを厭うつもりはなかったが、募集定員が優秀な者達で埋まってしまったので軍での生活を続ける事は出来なかった。

 実家に帰っても良かったが、食い扶持があるかどうかもあやしい。

 身につけた技術で食っていけるものを探した結果、これが一番良いと思ったからでもある。



 仕事はそれなりにあった。

 兵役のおかげで戦闘技術と野外活動技術を得る事が出来た。

 大半はレベル2であったが、冒険者としてやっていくには十分だった。

 戦闘についてはレベル4に達していたものもあるので、それらが護衛としての仕事を呼び込んでくれた。

 モンスター退治も含め、仕事にはそれなりにありつけた。

 そこそこの収入にもありつけ、まずまずの生活が続いた。

 そんな中で思った。

(いつまで続くんだろ)



 体の動きが最近鈍い。

 ちょっとした事である。

 仕事に支障が出るほどではない。

 日頃の不摂生や鍛錬を怠ったからかもしれない。

 しかし、それだけだろうかとも思う。

 村を出て、兵役に就いて、冒険者になって。

 それからどれだけ経っただろうか?

 気がつけば結構な年月が経っている。

 レベルも上がり、稼ぎも手にしているが、失っていったものもある。

 その一つが実感できる形であらわれてきたのだろう。

(年だな……)



 そう感じた時、この先何があるのだろうと思った。

 蓄えは多少はあるが、膨大とは言えない。

 冒険者の多くが願うような、田舎に戻って農場を作ったり、店でも構えて商売を、というのはほど遠い。

 例え元手があっても、土を耕す技術はない。

 商売を始めても、軌道に乗せる手腕もない。

 この先上手く生き残っていったとしても、更にその先でどうなるかなど何も分からない。

 そこまで生き残る冒険者もそう多くはないから、先々の事を考える者もあまりいないが。

 それに、無事に引退できた者がいたとしても、成功した者以外は話題になる事もない。

 だから情報が極端に少ない。

 ごくごく平凡にそこまで行ったらどうなるかは、想像するしかない。



(まあ、どうにもならんか)

 考えても良い結果は見えてこない。

 この世界、独身で人生を終わる者が多いので、その事はあまり悲観してない。

 村でも町でもだいたいそうだが、家を継いで結婚して子供を残していくのは長男だったりする。

 厳密な意味で「最初に生まれた男子」なのかというと、そこはまた違ってくる。

 魔術はあるが医療技術の発達と普及が進んでないこの世界、子供の死亡率は高い。

 乳幼児はもとより、幼少期における死亡も多い。

 五人から十人ほど生まれるのがこの世界の通例だが、そのうち成人を迎えるのは半分ほどになる。

 事故や怪我が無くても、病気などで亡くなる者は大勢いる。

 だから長男というのは、

『成人まで生き残る事が出来た、一番年長の男子』

ととらえた方が良い場合もある。

 何にせよ、そういった者が血筋と家をつないでいく役割を求められる。

 他の兄弟は、家の手伝いで人生を終え、家庭を持てないが普通だった。

 新たに田畑でも開けば違ってくるだろうが、そういう可能性は滅多にない。

 それがまた、町に出る理由にもなる。

 もっとも、それでなれるのは冒険者がせいぜいである。



 死亡率などについてはモンスターの存在も大きい。

 町や村は魔術によるモンスター除けがなされている。

 近隣の魔術師や神社によってそういった措置が施されている。

 ある程度定期的にそれらはかけ直され、それなりに効果を生み出している。

 町や村など人の集まる集落を結ぶ街道も概ね似たような措置がなされている。

 主要な街道が対象だが、それによる、ある程度の行き来には安全が保たれている。

 余談であるが、これを持ち運べる大きさにしたお守りなどが、行商人や冒険者の携行品として売り出されている。

 それなりの値段がするので、手にしている者はそう多くはないけども。

 こういった対処方法があるが、それでもやはりモンスターによる被害は大きい。

 モンスター除けも完全ではないし、範囲も限られる。

 範囲の外にある田畑や、街道における硬貨範囲の隙間で襲われる事はある。

 効力もまちまちで、一定以上の強さを持つモンスターには効果が期待できない。

 弱小モンスターでもそれなりの規模になった場合、モンスター除けの魔術を振り切る事もある。

 集団心理が働くためではないかと言われている。

 かくて毎年モンスターに襲われたという事件は後を絶たない。

 これらがこの世界における死亡原因に入ってくる。

 それがまた冒険者の存在意義を高めてもいる。



 兵役終了者の流れ着く先がたいてい冒険者である。

 だから、臨時で護衛を求める行商人などが冒険者に依頼をする事が多い。

 仕入れ品を大量に動かしてる大規模な商店や商会(企業に等しい)も同様である。

 独自に護衛を雇ってる所もあるが、それだけでは手が足りない場合に冒険者に声がかかる。

 商店や商会にしてみれば、自分達の兵隊を潰すより、冒険者に危険を担当させよう、という考えもある。

 一回限りの使い捨て…………という考えの所は少ないが、身内を部外者より優先した場合、どうしてもそうなってしまう。

 村からモンスター退治を依頼される事もある。

 そういった事は、本来村を預かる領主の仕事なのだが、まともに兵士を抱えてる所は少ない。

 いるにしても、手持ちの兵力では足りなかったり、兵士の損失を恐れる者がほとんどだ。

 そこで冒険者を用いる。



 そんなわけで、冒険者の死亡率は高い。

 再起不能の怪我を負う事もある。

 村から町に出て来た丁稚奉公の者達もそうだが、そんな者達と結婚して所帯を持とうなどという者は少ない。

 冒険者が結婚する事もあるが、たいていは冒険者同士だったりする。

 女の冒険者は数少ないので、これもまたかなり希な事になる。

 それでも食っていくのがやっとで、子供をもうける事はあまりない。

 出来たとしてもまともに育てる事も難しい。

 それでも一緒にいる事で相手が気になる事もあり、恋人になる事はある。

 さして長続きせずに分かれるのが大半だった、死別を除いても。



 何にしても先が無い。

 多少の金が手に入っても、将来に続く何かを持ってる者は少ない。

 危険な仕事なので、どこかで死ぬかもしれない。

 蓄えを作っても、それを用いる前に死ぬかもしれない。

 だったら我慢や倹約なんかしてどうなる……という考えにもなる。

 死ぬ前に少しでも楽しい事をしようと、享楽に耽る者は多い。

 そうして楽しんだ後に迎える次の仕事で、本当に命を落とす事だってある。

 遠い将来を心配するより目先の難題を解決出来なければしょうがない。

 冒険者とはそういったものである。



 そこをくぐり抜けてしまったからであろうか。

 男は例外的に先の事を考えてしまった。

 これからどうする、何をすると。

 何も思い浮かんでこない。

 結婚して家庭をもって、子供を作って…………というのも想像しにくかった。

 貯金額が今の十倍もあれば違っただろうが、手持ちの金では家庭を支えていくのも難しい。

 この先引き受ける仕事で命を落としてしまったら、家族はどうなるのかを考えてしまう。

 結局これからも死ぬまで冒険者をやる事になる。

 そこに一般的な生活や幸せを持ち込むのには無理がある。



(まあ、それならそれで……)

 どうとでもなれ、と思えてきた。

 先があるわけではない。

 いずれどこかでくたばるだろう。

 なら、変に心配しても仕方がない。

 他の多くの者達と同じように、一日一日を楽しめばいいだけかもしれない。

 だが、それがどこか刹那的なものに思えてしまう。

 それしかないかもしれないが、他になにかないだろうかと求めてしまう。

 せめてもっと何かがないかと。

 特に何か打ち立てなくても良い。

 誰かが褒めてくれるような事も期待しない。

 自分が納得できるような、自分が満足出来るような何かがないかと思ってしまう。

 自己満足と言えばそれまでである。

 それでも男は、そんなものを求めた。

 誰かに迷惑をかけるつもりはないが、自分が満足出来る何かを。



 先々の事を考えた時に、男が求めたのがそれだった。

 どれほど豊かであっても、自分が満足できなければ意味が無い。

 困窮にあえいでる中で満足を求めるのも無理があるが、自分のしたい事、求める事と状況・環境は必ずしも一致しない。

 何かを求めているなら、それを手に入れない限り満たされる事はないだろう。

 男は今そんな状態になった。

 自分を振り返る余裕が生まれたからかもしれない。

 周旋屋の雑魚寝部屋のベッドの上、横たわった目にうつる上の段の底面を見ながら。

 自分に何が出来て、自分は何がしたいのか。

 どうせこのまま死んでいくなら、何かをしたいと思ってしまった。



 どうせ、いつか死ぬ。

 当たり前の事実と向かいあう。

 その時まで何をしているのか。

 何をすれば良いのか悩む。

 何をしたいのかもよく分かってない。

(どうしたもんだかな)

 迷っていても結果はでない。

 結果が出ないから迷ってる。

 誰かに聞いても答えは出ないが、自分が出さなくてはならない答えがどこにあるかも分からなかった。

(このままじゃ、野垂れ死にだな)

 分かってるのはそれくらいである。

 仕事をしていてそうなるのか、金も尽きてついに最後を迎えるのか。

 どっちも似たようなものである。

(好きなようにやってみるか)

 なるようになれ、といった自棄にも似た思いがこみ上げてくる。

 どうせ、いつか死ぬ。

 なら、好きにやってみようと。

 何をやるにしても、どこに行くにしても。

 終わりは見えている。

 だったら、好きな事をやってみようと思った。



 後日。

 装備を調え、預けていた金や道具をまとめて男は旅だった。

 ただ一つ、目的とも言えない目的を持って。

 この世界にあらわれた、モンスターの出現する場所。

 奈落を目指して。

 男は旅だっていった。

 その途中のどこで倒れてもかまわないと思いながら。

 まあ、こんなもんも考えたという事で。

 やってみようと思うも、なかなか書く時間も得られず。

 こんな形でもいいから、とりあえず出すだけ出しておこうと思った。

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