26.天国への侵入者(2)
26.天国への侵入者(2)
『シールド展開。ブルー』
アスレイは冷静な声で指示を出す。
「シールド展開……ブルー……」
ランドバーグは震える声でそう言い、震える手でスイッチを押す。
「っしゃ! シールド展開!」
それとは対照的なミレー。スピードは大きな水滴の中に取り込まれたような半透明の青いシールドに包まれた。
「そ……そっか。シールドがあったか……」
ランドバーグはそれすら忘れていた。
「こら! ランドバーグ! あんた何怖気づいてんのよ! ジャスの足元にも及ばないわね!」
「なっ、なんだとハルカナ! 僕がいつ怖気づいた!」
「遅いってんのよ!」
いつのまにか速度が落ちているランドバーグ。
『少しは自信を持っていいぞ。この機体は別に奴らに負けてないさ』
アスレイは言った。
「団長! 来ます!」
白の騎士団。ルーク隊のポーンが叫ぶ。
「見えてる!」
ケイトは叫んだ。ふん、シールド? 我が国の化学兵器に通用するとでも思ったか!
「蛮族戦の憂さ晴らしだ! 蛮族と思ってやれ!」
「はっ!」
「行け! 第一部隊!」
『来るぞ』
アスレイは目を少し細める。それに続く皆は唇を自然と噛みしめていた。
バンッ!
弾ける音。それは白の戦闘機からのミサイル発射音であり、そこから先の破壊音は聞こえない。
「なんだ、よゆー」
ミレーは言った。
「油断しないで」
ハルカナが横からミレーを注意する。
「わかってるって」
アスレイを先頭とし、飛び交う光線銃や弾道を軽やかに避け、両機は近づいていった。さすがは訓練を受け続けた♠隊だ。自分たちの命をかけて、守るべきもののために、確かなもののために訓練を受けてきた。それぞれは決して弱くない。白の騎士団の下っ端には負けないぐらいの技術は持っていた。
アスレイたちは無駄な戦闘は避け、スピードをうねらせわずかな隙間をぬっていく。アスレイの目は冴えていた。
「さすがアスレイじゃん!」
後に続くのは楽だった。ミレーは口笛を吹きながら余裕の飛行を見せる。たまに無駄にレーザーを放ち相手を撃ち落とした。ミレーは武器や道具の扱いは上手だった。頭はそれほどよくないが。
「ミレー、今のは余計なことでしょ」
ハルカナはちゃんと見ている。
「はぁーい。でもさ、どうせ後で戦力になるんだからいいじゃん?」
バチンッ!
「うわっ!」
「ミレー!」
ミレーの機体に赤い光線銃があたった。それはシールドに吸い込まれただけだったが。
「危な―……」
ミレーが緊張感もなく呟いた。
『……、ライラ隊長じゃなくても怒るぞ。ミレー』
アスレイからの通信が入る。
「まったく!」
ハルカナは呆れたようにそう言葉を吐き、速度を上げた。
「真面目はつまんないねぇ」
ミレーにあまり反省の色はない。
「……」
遠目にその様子をうかがっていたケイトは眉を潜めた。何? あれ。銃を取りこんだ? あのシールド、ちゃんと役目を果たしてる。強い。
「突破されます! 奴ら、速い」
ポーンたちがざわめく。多勢の方が戦況が不利になる場合もある。相手に交戦する気がないのならなおさら。
あくまで目的は突破、ということか。だらけきった空域防衛線が簡単に抜かれるわけだわ、ケイトは納得する。
だけど……
「しょせん虫けらは虫けらだ」
右に二発。4機後退して左一発。2秒間前方クリア。
アスレイは頭で計算をしながら目の前の白の騎士団たちの間をすり抜けていった。
すごい……、アスレイ。ハルカナはアスレイの後ろを飛びながら思う。ミレーは気分よくスピードを操縦していたが、それは大半がアスレイのおかげであることに気付いてはいない。アスレイが道を開いてる。
「ランドバーグ! 離れすぎると危険よ!」
ハルカナやはり速度がのらないランドバーグに向かってそう叫んだ。
一方のライラたちも同じようにして難なく進んでいた。目の端でアスレイの動きをある程度予測しながらライラは進む。
ライラ隊長……、信はおけないって思ってたけど、やっぱりすごい。後ろに続くアリスは思った。それはそのアリスの後ろに続くバインズも同じだった。
『一列になれ』
ライラは端的な指示を出す。
『抜けるぞ』
「りょ、了解!」
ライラは操縦桿を握る。コウテン部隊はこのスピードについてこれていない、180度射撃すりゃ穴があく。そこを突っ切って、終わり。ライラは淡々と戦況を読み、考えるという意識のないまま体が動く。
ドンドン! バンバンバン!
もちろん白の騎士団もスピードを撃ちおとそうと必死だ。
「うるさい音だな」
ライラは眉間に皺を寄せた。
シュン……
ライラの180度射撃は、扇子がキレイに開くように美しく赤い円を描いた。
バラバラバラ……
白の戦闘機は墜ちる。
『この音は悪くない』
『き、聞こえてますよ、ライラ隊長』
アリスは言った。
『ああ、いちいち面倒だからな。全機このまま俺の独り言にもつきあえよ』
趣味悪い……、アリスはやはりあまりライラのことが好きではないと思った。
『と……、そんな暇もないな』
『え?』
『シールド! 前方に集中!』
ライラは叫ぶ!
パンッ!
弾けるような軽い音だった。
「へぇ……、すごいわね。結構な至近距離だったんだけど……」
ケイトは言った。
『ライラ隊長……』
アリスは不穏な空気を読み取った。今までの白の戦闘機とは違う。
『アスレイ、ちょっと遅れる。先に行け』
ライラはアスレイにそう伝えた。
『……了解』
ケイトが笑う。
『チェック! やっぱりこっちがあたりよ。よかったわ気付けて』
『しかし、向こうが危ういですよ』
副官はアスレイたちの方を見る。
『いや……、この機だけは入れないほうがいい。あっちは黒に任せましょう』
ケイトはライラのスピードを見つめていた。
『アリス、バインズ、フラニー、隙をついて……』
ライラは言う。
『……フラニー?』
ライラはそう言った瞬間に気付いた。
『あ……』
アリスとバインズも気付く。やはりみんなどこか浮かれていたのか……。
『どこだあいつ』
ドンドンドン……!
『ッとぉ……』
ライラはスピードをくねらせる。
『構ってる暇はないな』
『アスレイのところですよね!?』
ライラがそう言ってもアリスはもちろん構う。
『アリス! ライラ隊長の言う通りだ! 構うな!』
バインズが叫んだ。
『え?』
『目ぇそらすと即あの世行きだぞ!』
パンパン! パン!
バインズはスピードを転回転回させ、アリスの周りの敵機を撃っていった。
『もう一度言うぞ!』
ライラは叫ぶように言った。
『隙をついて……、ここから離脱しろ!』
『え?』
アリスとバインズは同じ返事をした。
『伝わりにくい表現だったか?』
ライラは軽く笑ってそう言った。
『隙をついて、アスレイたちと合流しろ!』
『まっ、待って下さいそれじゃ……』
パンッ! アリスの前で白の戦闘機が弾ける。ライラが撃った機体だ。
『目を逸らすな。目指すはコウテンの城だ』
でも、さすがに隊長1人じゃ……。
『あいつは今、墜ちてもらったほうがいい』
ケイトを見据えてライラはそう言った。お互い、見る目はある。