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25.錯綜


25.錯綜



 アザナルは急いで白の機体のもとへ、ケイトのもとへ駆けつけた。

「あら、おかえりはいらないわよ。坊や」

 アザナルを見るとツンとした表情でケイトは言った。機嫌が悪いのが見てとれた。

「……なっ、蛮族戦は……」

「境界線に行っても、1人もいなかったわ」

「え?」

「気味悪いぐらい静かで。脅しに2,3発撃ち込んでみたけどてんで反応なし。どういうこと?」

 ぶつぶつとそう言いながら、ケイトは歩きだした。

「そっ、それじゃあ、ナイト隊とビショップ隊の援護に行けばよかったんじゃ……」

「何?」

 ケイトはアザナルの言っていることに心当たりがなさそうだった。

「団長が大勢引きつれていくから! 空域防衛線が突破されたんだ!」

 アザナルは全てをはしょって言いたいことだけを端的に言った。ケイトは気が短い。だから、言いたいことを尻込みもせずに言った。

「……」

 ケイトはアザナルの顔を暫く見つめたまま動かなかった。

「なんですって……!?」

 その顔は怒りに震えていた。

「……知らなかった?」

 アザナルはその顔を見てそう確信した。

「……突破されたのなら、うちのナイトとビショップは何をしてたのよ!」

 ケイトは大声で怒鳴った。その場に緊張が張りつめる。アザナルの後ろに並ぶ黒のナイト隊員、ケイトの後ろに並ぶルーク隊員は何が起こっているのかうまく状況が飲み込めず、ただ焦燥感を感じるだけだった。


「……死んだ」

 アザナルは言った。

「白のナイトは死んだ」

 もう一度。端的に。要点だけを。

「……、何を……」

 ケイトはもう一度怒鳴ろうとしたが、アザナルの顔を見るとそれは真実として捉えなければならない事実だとわかった。

「偵察部隊!」

 アザナルに怒鳴る代わりにケイトはそう大声を上げた。

「はっ!」

「ナイトの機体を確認してきて」

「……はっ!」

 ケイトは震える声でそう命令した。

「ありがとうございます。ケイト団長……」

 アザナルはそう言った。ちゃんとした確認をしたかった。

「忌々しい! 空域防衛戦を突破された!? ナイトとビショップが敗れたですって?」

 ケイトは手に持っていたヘルメットを地面に叩きつけた。

「で? のこのこと帰って来たビショップは?」

「……まだ、帰還してません」

「……。チッ、アザナル! 城壁を固めよ! ザルナークと話して共同戦線を引く。白の騎士団よ、すぐに飛ぶぞ! いつでも出れるようにしておけ!」


 全部がリアの言う通りになる。ビショップ隊……。

『ビショップはいわくつき』

 誰だっけ? ザルナーク団長だったかな。そんなことを聞いたことがあったな。アザナルはぼやっとそんなことを考えていた。




―♠A隊―


『ミズ、撤退していく敵機を追え。俺たちは最速で城を目指す。また今のやつらとかち合うのも面倒だからな。❤と♦を連れて追撃しろ』

『わかった。君たちの邪魔をしないように、こっちで対処しておくよ』

『ああ。ちょろいもんだ』


『ところで……』


『わからない。♠J隊とは連絡が取れない。指揮官級を撃墜したのは確かなんだがな……』

『……了解。ライラも気をつけて』


『ミズ、お前らもな』

『僕たちは……』

『いや、お前のことだから感じているだろうが、この戦い、何か変だ。こうやって、引き寄せられるように城に近づけるのも、何か釈然としない』


『……考えすぎだよ』

『だといいがな』


 ブツ。

 そこで通信が切れた。

 ミズは1つため息をつく。

「ねぇ、レイスター」

 そしてレイスターの名前を呼んだ。

「なんだ?」

「もしかして、僕らが侵略者になってるんじゃないよね」


「え?」

 さすがのダリアも真顔になってミズの言葉に驚いた。

「それはない。お前も知ってるだろう」

「……僕は、覚えてないから……」

「ちゃんと使いも送った。ネスから。お前の提案だった」

「そう、そして断られた。コウテンは唯一。ネスなんぞの頼みは聞けない。猶予があるだけありがたいと思え」

 ミズはレイスターに続くように言った。

「確かなことは、それだけだ。なぜ今更。士気に関わることを軽々しく言うんじゃない」

 レイスターは言った。

「なんとなく……、不安になっただけ。そうだよね、さっきの女も何か知ってたし。きっと、この上なく上手いタイミングで突入したことに焦っていただけか」

 ミズはやっと自分を納得させることができた。レイスターもそんなミズを見て安心した。全てが間違いだったらなんて? そんなことは考えたくないことだ。この10年間、コウテンを倒すことだけを考えてきたんだから。

「意外にも、早く片付くかもしれない。♠隊で終わっちゃうかな……」

「えぇ~、それじゃあこの主砲の出番がないじゃないのぉ~。記念に一発撃たせて頂きますわよ、何が起ころうとも、起こらなくとも!」

 ダリアが頬をふくらませて可愛くもない表情をした。

「はは」

 ミズは軽くそれを笑った。

「撃たないにこしたことはないよ」

 そして優しくそう言った。


「はぁ、ネスって本当に素晴らしい星だったんですね」

 それを聞いていたハートが物憂げに呟いた。

「何? 急に」

 ミズは聞く。

「だって、コウテンの奴らにとって、戦闘機も戦争も当たり前で、侵略とかっていうのも当たり前で。戦うことは日常で。文明の発達は軍事力の発達で……。ネスは、コウテンから攻められない限り、決して武器を手に持つことなんて考えなかったのに」

「貧しい地区は、武器を持ってたよ。ネスでも」

「……」

 レイスターは黙ったままだ。ミズは続ける。

「貧しくても、豊かでも、人間は、武器を持つものなのかな」


「でもっ! みんな武器を捨てたじゃないですかっ! 総長と副長が、ライラ隊長を立派に更生させて、人間の力でもって武器を捨てさせたじゃないですか! だから、コウテンとネスは違うんです! 人間が、人間を正すとき、そこに武器はいらないんです!」

 ハートは強い意思をみせた。珍しく強気で言ったその言葉は、スペースシフターの雰囲気をあたたかいものにした。忘れていたネスの故郷を思い出した。まだ宇宙に飛び出してから少ししかたってないのに。

「ハート」

 ミズは呼ぶ。

「うっ……、はい……」

 ハートはいつもの弱腰に戻っていた。

「その精神こそ、ネスの希望だ」

 ミズはそう言った。ハートはぽかんとしている。レイスターは優しく微笑んでいた。




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