24.出会い
24.出会い
「クソッ、戻れ戻れ戻れ……っ!」
ジャスティーは落下していく中ひたすらにそう言い続けた。そしてガチャガチャと両手で操縦桿を動かす。
「どこケガしたんだ? 教えてくれ……。お前を捨てたくないんだよ……」
その時、急に空が明るくなった。コックピットに入る光が一瞬ジャスティーを盲目にした。
「うっ……」
くそ。コウテンに入った……。あんなに突入したくてたまらなかったのに。
落下速度はぐんぐん上がる。このままじゃ確実に機体と共に心中する。ジャスティーは流れるように飛ぶ外の景色を見ながら考えた。
「ま、こんくらい、想定内の失敗だよな」
ジャスティーは笑った。
「サンキュ、俺のスピード。俺をここまで連れてきてくれて……。後は俺、自分の足でなんとかするよ」
ジャスティーはそう言うと、緊急脱出用の非常スイッチを押した。
ボンッ!
「グえっ」
ジャスティーは変な声を出した。緊急用、なので今まで使ったことはなかったし、使わないにこしたことはなかった。まさによくできた緊急事態に備えられた非常スイッチは、押した瞬間にジャスティーのコックピットごと空へと放り投げた。
そして透明のガラスだったウインドウは白くコーティングされていく。空が消える。まんまるいコックピットは白い卵のような物体へと化した。
「え? 何これ? なんかすることあったっけ?」
明かりがついてない。パラシュートも出てない。これも墜落の危機!?
ドゴンッ!
ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、……
「……っ……てぇ……」
考える暇もなく確実にジャスティーは不時着した。高度が低すぎてパラシュートは出なかった。
しかしそのポッドは頑丈だった。どんな速度で着地しても丸いその形は全ての力を吸収して転がり続け、ダメージを消してくれているようだった。一通り転がった後、ジャスティーのポッドは停止した。
「……。クソッ!」
どうしてかその一言が出た。
「せっかくかっこよく敵のボスっぽいやつ倒したってーのに……」
ジャスティーはガンっ、と思い切りポッドの中を蹴った。
プシュー…… 扉は開く。
ジャスティーはやっと外の空気が吸えた。ああ、生きてる。今更になってそんなことを思った。戦っているときのことは、あまり憶えてない。熱中しすぎて、自分の頭より先に体が動くから。
「はぁ……」
1つ息をつくとジャスティーは立ち上がった。機械班のハートが文句を言いつつ作り上げた自分の武器を背中に担ぐ。ズシッと背中にめり込むような大剣。両手で持たずとも戦えるのはジャスティーただ1人だった。
「……さて、どうすりゃいいんだ?」
ポッドから顔を出し、辺りを見回す。「!?」
「……あれは……」
砕け散った機体。だけど、スピードではなかった。
白い翼に馬のモチーフが描かれてあるのが見えた。「あ……、あいつだ」
ジャスティーはまさに自分が撃ち落としたコーネルの機体の残骸を見た。胸が痛むのは、人間として当然の感情。あんなに血気だって撃ち落としたってのに、人間って不思議だ、ジャスティーはそう思いながらコーネルの機体に近づいていった。
「ん?」
ピクン、とジャスティーの肌が気配を感じ取って動いた。
「あっ! あれだっ! あれだぞ!」
ジャスティーは聞こえてきたその声に、近くの茂みへと急いで身を潜めた。
仲間か?
「……っ、コーネル様……!」
「コーネル様ぁっ!」
残骸。
悲しみを露わにする正規軍と思われる立派な白いコートを羽織った男たち。
コーネル……。
ジャスティーはその名前を覚えてしまった。慕われてたんだな……仲間から。でも……、そっちが悪いんじゃないか! 自分たちのことはそうやって悲しむくせに、俺たちを滅ぼすことはなんとも思わないなんて……。勝手が良すぎるじゃないか。
今のところまだ数人……。別れて捜索していたんだろう。
殺るか? ジャスティーは剣の柄を取ろうとした。
「あぁ……」
!? 声が聞こえた。ジャスティーの背後から。ジャスティーの心臓は体を突き破って飛び出しそうだった。
「本当だったの……」
え? その声は女の声だった。
「……すごく、良い人だったのに……」
そう言うと、少女は崩れるように座りこんだ。ジャスティーはその少女を見た。
「あ……」、ジャスティーは戸惑う。コウテンの人間だ。ど、どうする? でも、この子は何も知らないみたいだ。殺気も何も感じられない。
「ああ……。コーネル……様をお守りすることが出来なかった……」
ジャスティーはとっさにそう言っていた。
「いいえ! あなただけでも助かってくれてよかった!」
少女はジャスティーの手を取った。
「うわっ!」
ジャスティーはとっさのことに声を上げてしまった。
「しっ! 隠れて!」
少女はジャスティーの口を塞ぐ。「?」
「こっそり来てるの、私。見つかったら怒られちゃう……」
少女はそう言った。
「……」
ジャスティーは今一度まじまじとその少女を見た。まだ、幼く見える。そしてふわりとした青いドレス。そんなキレイなもの、見たことない。なんて言い表せばいい?
「いつも城に閉じ込められて、現状を見ることができない。現状を見ることができない私の意見は、誰も聞いてくれない。そんなの酷いじゃない」
城? ジャスティーはその言葉に反応した。
「……私、もう行かなきゃ……。アザナルに知れたら殺されちゃうわ」
「あ、危ないです! お姫……様。今1人で外を歩くなんて。私が、お供します……」
ジャスティーはそう言った。
「……」
少女は暫く考え込む。
「……ありがとう。本当はものすごく怖かったの」
ジャスティーはホッとした。
「でもあなたみたいな坊やに助けてもらうなんて……」
「ぼっ、坊やじゃない!」
あ……。
「ふふっ、ごめんなさい。私も子どもなのに」
笑うと一層かわいい。
「ねぇ、それすごくボロボロよ? それに、見たことない格好してるのね」
「えっ! あ、ああ。いや、俺、特殊部隊なんだ! 秘密の仕事してる」
「……そうなの? いろいろあるのね。私は、自分の星のことなのに、何も知らないのね」
少女は悲しげな笑みを浮かべた。
「し……知られては困りますから……。秘密だし……」
ジャスティーはそう言っていた。
「そうか! でも、君、自分で喋っちゃってるじゃない」
「あ……」
「あははっ! 面白いな、君。皆と何かが違う。秘密ならバレちゃだめね。ほら、これ、王宮の正式なマントなのよ。これを着て、身を隠して」
少女はそう言うと、ふわっとしたコウテンのマントをジャスティーにかけた。
「あ……、ありがとう」
「しばらく歩きましょう。向こうに車があるわ」
「あ、ああ」
「私はイリス。姫様なんて呼ばないで」
「……、お、俺はジャスティー……」
「ジャスティー、秘密部隊だってことは私が隠し通すから、ジャスティーは私をちゃんと守ってね」
全てがキラキラして見えるジャスティーの前にいるお姫様は、暴力や戦争なんてものが全く感じられない純粋な存在だった。その存在はジャスティーの心を癒す特別なものだった。
アリスに……少し似てる。
ジャスティーは自分の首にかかったアリスからもらったネックレスを触って確認した。