49.コウテンの目覚め
EP3の完結です。EP4に続きます。
49.コウテンの目覚め
「お父様!」
イリスは混沌とした城内の中、その名を呼び走り回っていた。
「イリス……!」
アヴァンネルはそんなイリスの姿を捉えると駆け寄り、イリスを強く抱き寄せた。
「ご、ごめんなさい、抜け出してしまって」
イリスは抱きしめられるとは思っていなかった。イリスにとってのアヴァンネルは、穏やかさと厳しさを伴った、冷静なるキングだった。それは、家族に対してもそうだった。
「無事ならいいんだ」
イリスは少し不思議に思ったが、黙って抱きしめられていた。
しかし、アヴァンネルの手が少し震えていることに気付くと、イリスはやはり不安になった。
「イリス!」
そこに、その父と娘のとても繊細な雰囲気を切り裂く厳しい声が響き渡った。
そこらにいたポーンたちは頭をスッと下げた。アヴァンネルもイリスもそんなことはさせない。顔を上げることが無礼だと言う者は、この城においてこの人だけだった。
「どこへ行っていたの!」
そこにはコウテンのクイーン、ローズの姿があった。戦場と化したこの場に相応しくないドレスを身にまとい、プライドの高さを表すつり上がった目と大きくて高い鼻は、人をたじろかせるのに適していた。
内面から滲み出るもの。それも、キングとは正反対のもののように思えた。
「お母様、すみません……」
イリスは父の腕から離れ、ローズの前に顔を伏せた。
「クイーン塔でどんな騒ぎが起こっていたのか、衛兵たちがあなたを探して本来の守備ができずに困っていたわ。一体、なんのための称号だと思っているの!」
守られるべき地位。クイーンとキングの娘。
「も、申し訳ありません」
イリスは謝ることしかできなかった。
「あなた……、どうなってしまうの? どういうことなの?」
イリスから顔を逸らすと、ローズはアヴァンネルへと顔を向けた。アヴァンネルはしおらしくなったローズを見て、暫く言葉を発することなく押し黙っていた。ローズが首を傾げるにまで至ったとき、口を開いた。
「侵略者だ。ネスからの攻撃を受けた」
「ネス!? ネスって、あのネス!?」
「ローズ!」
アヴァンネルは声を荒げた。キングがクイーンに声を荒げる姿など、イリスを含め誰も見たことがなかった。それを見ることは不可能だった。なぜなら、今まで一度も、実際にそのようなことは起こらなかったから。
ローズは、その名の通りのバラの花がふんだんにあしらわれた赤いドレスを着ていた。アヴァンネルの声に体を大きく震わせ、驚きのあまりに首の装飾品がシャラッと音を立てた。
「お父様?」
その様子を不安気な顔で見るイリス。
「取り乱すな。我が星存命の危機ではない。しかし、体勢を整え、次の戦闘に備えなければならない。各隊、各自、状況を確認、整理しろ!」
コウテンのキングとしてのアヴァンネルは威厳を取り戻し、その場にいる兵士たちに指示を出した。一斉にみなは動きだす。
「すまない、ローズ。今は忙しい。イリスとアゼルを頼むぞ」
「こんなことになったのはっ!」
ローズがカッとなって口を開いたが、アヴァンネルの光のない瞳を見たら、続きを言うことができなくなった。
「お母様、お父様、大丈夫です。わたくしはきちんと自分の部屋へ戻ります。キングよ」
そう言うと、イリスはアヴァンネルの前に跪いた。
「どうか、正しい判断でこの星を、私たちを守って下さい」
「ああ……必ず。お前は安心して休んでいなさい」
アヴァンネルは凛とした娘の言葉に思わず顔がほころんでしまった。
ローズはそんなキングと地に跪くイリスとを交互に見やった。ギュっと唇を噛みしめる。そんな表情、私とアゼルにはしないじゃないか、そう思っていた。
「ザルナーク!」
アヴァンネルは踵を返し叫んだ。
「ハッ!」
ザルナークはキングの前に素早く現れる。
「ケイトと協力して作戦をたてろ。あと、イリスを必ず守ってくれ」
「……必ず」
ザルナークもまた、意を決したように拳を握りしめた。
「恐れながら……キング」
「なんだ?」
「ご存知ではないかもしれませんが、イリス様には心に決めた方がおられました」
ザルナークは少し声を震わせていた。アヴァンネルの顔も真剣になる。
「アザナルと申す者です」
「アザナル……、あの黒のナイトか」
「例の光で、あいつは死にました」
アヴァンネルはぴた、と足を止めた。一瞬ザルナークがキングの前を歩くかたちとなってしまった。
「キング……?」
「私の家族をいつも奪っていくのは……」
アヴァンネルは怒りに震えていた。ザルナークはハッとする。
「あの場から、アザナルのモノが何か残っていないか、我が隊を動かしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。だが、そういう任は、お前の信がおけるもので固めろよ」
「はっ」
アヴァンネルは力のないキングだと思われていた。しかし今のキングを見てそう思う騎士団はいないだろう。怒りに震えるキング。それはコウテン全体の士気を高めるのに十分だった。
「キングが目覚めた」
アヴァンネル騎士団は今一度結束し、総力をあげて敵を潰すために全てを捧げる、真の恐ろしい軍事特化集団になりつつあった。
「イリスお姉様っ!」
「アゼル……」
イリスの部屋の前に小さな妖精がいた。
「お母様が心配するわよ」
イリスはその愛らしい少年を優しく抱き寄せた。
「お姉様がいないって、聞いたんだ、だから僕心配して……」
「ああ、ごめんなさい。あなたにも心配かけたのね」
イリスは強くアゼルを抱きしめた。
「お姉様? 大丈夫?」
「アゼル!」
「お母様!」
アゼルがその声に振り返る。イリスはその手を離した。
「イリス! しっかりしなさい! 弟を危険に巻きこんだら許さないからね!」
「……申し訳ありません」
「お姉様……っ」
アゼルはそれでももう一度イリスに手をのばした。しかしイリスはローズの目が怖くてその手に応えてやることができなかった。
「ジャスティー……」
イリスは部屋に入るなり、ジャスティーの飲みかけの紅茶を見た。きれいなオレンジ色。
ジャスティー、あなたのことを一目見た時から、なぜか、なぜか他人の気がしなかったの。どんな感情かも言い表すことはできなかった。とても罪深いことだけど、アザナルを殺したのがたとえあなたでも、なぜだろう、私は、私の心を説明できない。私の心なのにどうしてこんなにわからないの?
ねぇ、私は、アザナルよりもあなたを助けたいとそう思ってしまたの。
「ごめんなさい。アザナル……」
本当に……、ごめんなさい。許して……。
ジャスティー、だから。
だから必ず真実を見つけて……、正しい行いをする者だと、私はあなたを信じたの。
「……やっべぇ腹減った……」
ジャスティーは草むらの中を歩いていた。背中の剣がやけに重く感じる。
「はぁ……、俺……死んだと思われてるかなぁ……」
ジャスティーは呟いた。
「バインズにまた、嫌われちゃったよなぁ……」
いや、全員だ。全員の信頼を失った。
それでも……。
ジャスティーはただ前を向いて歩いた。それが今自分にできることだから。自分に課せられた罰だから。悲しみ嘆き、いく晩もこの場で立ち止まったまま泣き過ごすことだってできた。だけど、それはしない。前に進む。それが、俺の罰であり、なすべきことなんだ。
ジャスティーの戦いは今はじまった。
読んで下さった方々、ありがとうございました。
EP2、EP3が終わりました。次はEP4に続きます。当初の予定は6部作でしたが、おそらく5部作になりそうです。完全完結まで頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!
更新頑張ります! このEPは我ながら時間かかりすぎたと反省してます。
では、またです!




