21.自惚れ
21.自惚れ
ライラ率いる別働隊は、ジャスティーたちから真逆、遠く離れた位置から突入を仕掛ける。ライラにはジャスティーに何かあっても助けることはできない。特攻役を頼んだジャスティーには、いち早くコウテン部隊の指揮系統を司る人物を見極め殺してもらいたかった。隊長格との戦闘になると、敵の注意はジャスティーとその隊長へと向かうことは必然。その間を抜けて、数ではかなわない隙をついて突入をはかり、いち早くコウテンの中心、キングの城へと辿り着きたかった。
スピードの超速力によって、めぼしい砲撃機や軍事機関を先に潰し、スペースシフターと味方艦隊到着後から総力戦になった時、勝機が見出せるようにしたかった。もちろん、できることなら敵の主力とキングは♠隊だけで始末したいところだったが、情報が足りないし、そこまでできるかはライラにもわからなかった。
「……しかし、行けるかもしれない」
ライラは呟く。思っていたよりも敵が少ない。ルイと同じことをライラも思っていた。下手を打つ気はないが、この宇宙戦が1つの山場になるかもしれないと思っていた。しかしコウテン突入は問題なさそうだ。
「アスレイ、あの防衛艦隊の無線を傍受しろ。内地の通信座標より城を目指す」
「はい」
『♠8! 死んでないか?』
『はっ、はい!』
『予定通り突入する。先に行ってるから、必ず来いよ!』
『りょ、了解です!』
「あいつら、思ったより速い! 空域防衛隊はなにやってんだ」
リアの下につくポーンが舌打ちした。
「ま、なぜかキングはちょっと内地に力を入れすぎよね。傲慢だわ。空域防衛艦隊には天下ったような人間ばっかりだからねぇ。落ちぶれちゃった兵たちよ」
リアは見下すようにそう言った。
「……そ、そんな。そんなことを言ってる場合では……」
「私はちょっとあっちと話をしたいのよね……」
リアは後ろに転回した。
「は?」
「ビショップ隊! 隊を分断、私の側近だけでいいわ。副官はここに残ってあのちょこまかした虫けらを掃討して」
リアはそう言うとその場を離れ、後方へと飛び立った。
「え……、おっ、お待ちくださいっ!」
考える余裕もなく飛び立つリアの後ろを追いかけるしかない側近たち。そして残されたポーンたちは仕方なくライラたちのもとへと速力を上げた。
「まったく……。ほんと戦いづらい……」
ポーンたちから愚痴がこぼれる。
「俺らの隊長が実戦向きじゃないのは知ってたが……。はやくコーネル様の指示が欲しい」
この場に団長もナイトもいない。ポーンたちは不安だった。だが、
「黙れ! リア様の命令だ! それにそんな余裕もないぞ! コウテンの空域を突破されそうだ! 続け!」
そんな中、副官だけは頼りになった。そもそも、ビショップ隊は副官が指揮官も同然だった。
「はっ!」
ビショップ隊は気を入れ替え戦闘態勢に入る。
「ライラ隊長! 後ろから数機接近」
ミレーがビショップ隊を確認した。
「バインズ、ランドバーグ、後ろは任せる。たいした数じゃない。ハルカナ、アリス、俺の脇に回れ。最短で突破する!」
「了解!」
「たっ、隊長……。向こうが危ないです」
ナイト隊のポーンがリアたちの様子を遠目で確認し、不安を隠さずおどおどとした声で言った。
「…ち……」
コーネルは指示を出す余裕もなかった。
「バカ、話かけるな、それどころじゃないだろ、隊長の援護しろ!」
ナイト隊もいつもと違う戦いにくさがあった。
「援護って言っても……」
コーネルにつかずはなれずジャスティーはスピードをくねらせまわらせ踊るように砲撃する。
「くっそ。やりにきぃ……」
ジャスティーは唇を噛んだ。さすがに相手は飛び慣れてる。上手く隙をつくことができない。空は好きだけど……、やっぱり地上戦の方が得意だ。
「ええい! どこぞの虫けらだ!!」
ナイト隊の一機がジャスティーに射撃の標準を合わせた。
「シスカ、右」
ルイがすかさず言う。シスカはその一機を難なく撃ちおとした。
「はぁ……、なんでこんなことになったんだろ」
撃ち落とした機体を見ながらシスカが呟く。
「覚悟はできてるよね!?」
ルイがその言葉に怒った。
「あ、ああ。もちろんだよ」
ルイの珍しく強い発言にシスカは少し驚いた。ルイは、実戦となるとしり込みをするのでは、とシスカを含め多数が思っていた。気弱なイメージを持たれていた。それは、ジャスティーとハルカナという気の強い人間に挟まれているから余計にそのイメージが膨張してしまったのかもしれない。だが、当のルイにそんなものはなかった。ジャスティーと同じ。ライラと同じ。ネスの大地を守るためなら、なんだってする覚悟はできていた。それだけあの日々を、この手に取り戻したかった。
何気ない、日常。
「コーネル隊長が負けるわけない! 行くぞ!」
ナイト隊がルイとシスカに標準を合わせたようだ。
「おっとぉ……」
シスカが構える。
「そうくるよね……」
ルイも複雑に笑う。
「ま、これぞ作戦通り」
「ジャス! 思う存分やって!」
ルイが叫んだ。
「ああ……、当たり前だ!」
ジャスティーの動きがより俊敏になる。戦闘機での接近戦。コーネルはとてつもなくやりにくかった。が、そこはコウテン、アヴァンネル騎士団の白のナイト。ジャスティーのがめつく攻撃に一定の距離をとって応戦する。
「ふん、離れりゃこっちのもんだな。あの砲撃、射程距離が短い」
コーネルは回転し、ジャスティーとの間合いを取る。
「逃げんな! 文明大国のくせに!」
ジャスティーは叫ぶ。
「そのあり余った力を……、人間を抑圧するために使うんじゃねぇ!!」
ガツンッ……!!
2機は接触する。
「逃がす気なんてねぇぜ。ここで決着だ。いつまでも気取ってんなよな」
ジャスティーはコーネルの機体に体当たりをした。
「ぐっ……」
アホなのか、こいつ。コーネルにはわけがわからなかった。
「別に砲撃戦だけが空中戦じゃねぇだろ」
「ジャス!?」
「コーネル隊長!!」
それぞれの兵士たちが2機を見て声を上げる。
接触したままジャスティーは速度を上げ、コーネルの機体を押しこんだ。双方の機体が熱くなっていく。
「ちくしょ……」
なんだこいつは……。コーネルは未だかつて出会ったことのない未知の存在と戦っているみたいだった。蛮族としか戦ってこなかった自分は、言われてみれば抵抗されたことなんてなかったんだ。地上で戦う黒の騎士団とは違う。空からの傍観者。
そうだ、どうしてコウテン星はあんなに武装しているんだ。軍事力に力を入れすぎだ。蛮族は、もう俺たちの進みすぎた科学攻撃についてこれなくなっているというのに……。
予想してた? キング……? この日が来ることを、誰か知ってた?
「力を持つ度量のない奴が……、力を持つんじゃねぇよ!!」
コーネルが考えに耽ってしまった一瞬のことだった。
ジャスティーはコーネルの機体を押しこんでいた速度を一気に緩めた。それにより空間が生まれる。ちょうどいい距離だ。射程距離内近距離。
「俺が……、ネスを守る!!」
その瞬間、ジャスティーは操縦桿のスイッチを押す。二本の腕から電気を帯びた砲弾が生まれる。それはスローモーションのようにコーネルには見えた。
ネス……? 視界が光で白くなる中、コーネルの頭にその二文字が浮かんだ。
バンッッ……!!
そして、すさまじい破裂音が、静かなはずの宇宙に響いた。