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44.すれ違い


44.すれ違い



 ドガッ!

 扉の開く音はその扉に体当たりでもしたかのような大きな音だった。

「はっ!」

 頭より先に体が動くジャスティーは扉を勢いよく開けた瞬間に我に返った。やべ、と能天気に思う。しかし、そこは静寂の中だった。

「あれ? イリスはキングの部屋に繋がるって言ってたよな……?」

 何も考えずに扉に突っ込んだジャスティーは敵の待ち伏せや衛兵の存在を忘れていた。袋叩きにあう可能性もあったのだが、それはなさそうだった。

「まったく、コウテンの奴らってよくわかんね……」

 ジャスティーは呟く。イリスも勝手に外にいたし、キングの部屋はこんなに静かだし?

「……なんで……」

 ジャスティーが飛び出してきたそこは、キングの部屋といえどいくつかの扉がある空間のような場所だった。キングの領域に入ったのだろうがそこはジャスティーが考えるような部屋、ではなく1つの拠点のような広さがあった。

「イリスの奴……。これじゃ説明不足だ」

 どこにキングがいるのかまた探すのかよ。


 ドガンッ! バンッ! ガンッ!


「わっ!」

 今までの静寂は偶然の賜物だったようで、ジャスティーがため息をつくとすぐさま戦闘の音がうるさく響いた。

 ここにキングがいることは間違いなさそうだ。ちゃんとネスのみんなは目的地まで着いている。作戦はこの上なく順調、これは変わらないことだ。いろいろなトラブルはあったけど、目的を達してここを離脱することはそう難しくないことのように思えた。だって……。ジャスティーの胸がぐっと締めつけられた。

 ここはキングの部屋だぞ。


 パン、パン、パン……


 ジャスティーは辺りを見渡した。右に3つ。左に1つ。前方に1つ、扉が見えた。戦闘の場所は間違いなく前方の扉の先だろう。聞こえてくる音の方向でわかった。

 後は……、わからない。どの扉も同じような装飾だった。『キング』の主室としらしめるような派手な扉はなかった。そして、驚くほど静かだった。

 意識を集中させても、キングの居場所がピンとこない。いないのかもしれない。ジャスティーはなんとなくそう思った。

「まぁ……いるほうがおかしい気もするし……。イリスの部屋から繋がる通路があるように、キングの部屋から他へと繋がる通路もあって当然だ」

 こんな前線と化したところに留まるのもバカだしな、イリスは『絶対逃げない』なんて言ってたけど……。なら、俺は何しにここまできたんだ? キングに問うためだっけ? 今から、何をするんだっけ?

 キングがいないことを少しだけホッとする自分がいたことに気付く。ジャスティーはそんな自分自身に腹が立った。

 なんだよ、こんなところまできて! キングに聞くために来たんだ!


「出て来い! キング!」

 ジャスティーは叫んだ。イリスの言うことを信じるなら……。

「お前は逃げてないんだろう!?」

 たとえここが戦場になろうとも。


「ふっ」

 しばらくしてジャスティーは小さく笑った。なんだよ……。

 隠れてるじゃねぇか。


「ぐあぁっ!」「ぎゃああ!」


 外の音が激しくなってきた。

「ダメだ……」

 ジャスティーは誰かが傷つき倒れ、死ぬ音を聞いてると自然とそう呟いた。

「ダメだ……。無駄死にかもしれないなんて……。俺たちが侵略者だなんて……」

 今の俺がすべきことは、ここで得た情報を伝え、今目の前で起きている戦闘を止めることだ。一旦休戦させなければ。なんの大義もない戦いになってしまう。そんなことはだめだ。みんなが傷つく……。イリス……、お前のお父さんなんてな、できれば殺したくなんてないよ……。そのためだけに訓練を積み、今まで生きてきたとしても。


「やめろっ!」

 ジャスティーは駆け出した。入ってきた時と同じように体当たりするように扉をけ破って戦場へと向かった。



「……」

 キングは静かに息をしていた。

「入ってこないのか」

 そしてそう呟いた。ジャスティーに感じられなかったキングの気配。だが確かにキングはそこにいた。近くにいた。どこかの扉を開ければ、すべての扉を開けていれば、ジャスティーはこのときコウテンのキングと出会っていた。

「行ってしまった……。私を殺しにきたのではないのか?」

 1人冷静にキングは淡々とそう言った。来て欲しかったかのようにも聞こえる口調だった。

「いや……、私が出会うことを拒否したんだ。身を潜めたのは私……」

 キングは1人呟く。誰だったんだ? そして心が騒ぐのを不思議に思った。




「やめろぉぉ!」


 ジャスティーは再び何も考えず飛び出した。

 戦場のど真ん中に。


 パンパン、バチンバチン、パシュ……


 しかしジャスティーの無防備にでかい声ですら様々な音にかき消された。それほど乱戦の場と化していた。そんな中、ザルナークだけは気付く。

「なっ……!」

 なんだ? あいつは。ザルナークはジャスティーを見て率直にそう思った。キングの部屋から出てきたぞ……。そして……、あれはコウテンのマント。

 コウテンのマントはザルナークの動きを一瞬止めた。

 バチン……!

 その一瞬とも呼べる時間はライラとの戦闘においては命取りになるほどの長さだった。

「くっ……!」

 ザルナークの肩が痺れ、左手に握っていた剣を落とした。双剣のザルナーク。戦を重ねてきた経験により、今の自分の状況がすぐにわかる。それは皮肉だ。冷汗がでるほどに。


「あっ!」

 それを見たジャスティーはライラに駆け寄る。

「ライラ! ダメだっ!」

「ん?」

 ライラの目がジャスティーへと向かう。ザルナークにとってそれは幸運なことだった。とてもとても幸運なことだった。

「ちっ!」

 すかさずライラは舌打ちした。ザルナークの体勢が戻り、右手の剣を優雅に回しながらライラへ一撃をいれようとした。

 しとめられたのに……! ライラはそう思った。チェックメイト寸前。まさか……、お前が邪魔をするとはどういうことだ。

「何しやがる! 何していやがった! このクソガキが!」

 ライラは怒りを露わにして怒鳴った。

「え?」

 ミレーがライラのその声に反応し、ジャスティーの存在を確認した。バインズもアリスも同じだった。

「あいつ……」

 バインズは興奮した。自然と顔がほころぶ。何が起こっているのかは、自分のことで精一杯ゆえに判断できないが、ジャスティーの姿が見えたことに鳥肌が立った。

 生きていた……。


「ライラ! 違うんだ!」

 ジャスティーは必死に訴える。

 しかし、ライラはザルナークとの戦闘でジャスティーに目を向けてはいられなかった。

「……、ジャスティー?」

 天井裏のアリスはそんなジャスティーを見て不思議に思った。どうしたの? 

「……クソ……、小僧め……」

 ザルナークは呟く。

「誰のマントだそれは!」

 ザルナークの目標はライラからジャスティーへと移りそうだった。

「……コウテンのみんなもネスのみんなも聞いてくれ!」


「何やってんだ? あいつ……」

 バインズもさっきまでの興奮は冷め、ジャスティーへの不信感が生まれた。

「キングの無事を確認しろ!」

 ザルナークはなかなかライラの隙をつくることができず、部下にそう指示を出した。

 やっぱりキングの部屋なんだ。

 ジャスティーは思う。いたのか……? いや、いる……のか? ジャスティーは今一度出てきたばかりの扉へ視線をやった。

「させるなぁ!」

 ザルナークがすかさず叫ぶ。


「わっ!」

 黒の兵士たちがジャスティーへと向かってくる。ジャスティーは背中の大剣を抜くほかないのか……と思ったがそれはしなかった。

 フォン……。

 青のシールド。

 それを見たライラはジャスティーさえも殺そうかと思った。

 黒の兵士たちの攻撃から身を守ったのは当然のことだが、そこにライラの赤い光線銃が青のシールドに吸い込まれた。

「貴様……何してる」

 完全にライラはジャスティーを見た。ザルナークから目を放した。しかし、ザルナークもその様子をうかがうように見ていた。

「ライラ……、聞いてくれ。何かがおかしいんだ。ライラにだってわかるだろ?」

 ジャスティーは青のシールドを解くことはしなかった。今、ライラは味方ではない。

「お前……、もしかして裏切り者なのか?」

「はぁ!? 何言ってんだ! 頭に血ぃのぼりすぎだろ!」


 ライラのジャスティーを見るその目は、完全に人のそれではなかった。ぐっと覚悟を決めるようにジャスティーはその目を見据え、心を落ち着かせなければならなかった。

「聞いてくれ……。コウテンは、ネスの侵略など計画していなかったのかもしれない」

 ジャスティーはそう言った。

「はぁ!?」

 それにすかさず反応したのはバインズだった。

「お前マジでどっか頭でも打ったか!? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

「本当なんだ!」

 しばしの間、ジャスティーとライラは見つめ合った。ジャスティーはライラの目の光が戻ればいいな、と思った。

「……今更……そんなことはどうでもいい」


 しかし、そんなはずはなかった。

「ライラ!」

 ジャスティーの声はむなしく響く。ジャスティーへと向かう黒の騎士団の銃弾をシルバーホールで叩き落とし、ジャスティーからは目を背け、再びライラはザルナークを見た。

「このアホうが……」

 ザルナークはライラを『悪』と見なした。

 ジャスティーの声は虚しく響くだけだ。誰の心にも届くことはない。

「なんで……」

 ジャスティーはどこそこに倒れている黒の団服を着たコウテンの兵士を見やる。違う……。


「ちょっと! ジャスティー! 戦わないと死んじゃうよ!」

 ミレ―がジャスティーの様子を見てそう叫ぶ。

「頼むからバカは卒業してくれよ!」

 バインズも叫ぶ。


 違うんだって……。



「いいから! 俺の話を聞いてくれ!!」


 ガチン……!

 ジャスティーは剣を抜くはめになった。目を血走らせた黒の兵士が自分を殺しに剣を振るってきたからだ。

「なぁ……、俺たちが悪かったから……、話を聞いてくれ……。武器を置いてくれ……」

「ジャスティー? 何言ってるの!?」

 ミレーは信じられない、と言った様子でジャスティーを見た。

「早く、殺せ!」

 バインズも叫ぶ。

「殺さない……。何が本当かわかるまで、殺せない。すでに、間違いを起こしてしまったのかもしれないけど……」


「……帰れ。お勤めご苦労だったな」

 そんなジャスティーにライラは冷静にそう言った。

「ここにいても邪魔なだけだ。なに、責めはしない。このコウテンに侵入できたのはお前の功績だ。空域防衛戦線で、確実に指揮官級を墜としてくれただけで結構だ」


 その言葉に過敏に反応する者が、その場に2人いた。

 ザルナークだけじゃない。


「……それは……、コーネルのことか……?」


 ジャスティーの心臓がドクンと大きく音を立てた。『コーネル』。そしてその声のした方へ目を向ける。


「アザナル……」

 ザルナークは新たにこの戦場にやって来た者をそう呼んだ。






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