43.忘れもの
43.忘れもの
袋小路を無言で歩く。
嫌な雰囲気が流れているせいで、一分が一時間のように感じる、と言っても多少の過言にしかならない。ルイとハルカナは嫌な汗をかきながら自分たちの靴音だけを聞き、ただ歩いていた。
「……これは……」
耐えきれずにルイが言葉を発した。
「敵の術中にまんまとハマったのかな?」
そして苦笑いでそう言った。
「……なんか、ムカついてきたわ。私たちだけこんなところで足止め?」
ハルカナも口を開く。
「ねぇ、でもミズがいたのは確かなんだよね?」
「……」
ハルカナは考える。
「ねぇ?」
ルイは答えを急ぐ。
「……」
無言のハルカナに疑問を抱き、ルイは後ろを振り返りハルカナの顔をライトで照らした。眩しい表情を一瞬みせたが、ハルカナは何かを考え込んでいるようだった。ライトで自分の顔を照らされても怒鳴らなかった。
「……」
ハルカナの意外と素直じゃないところ、ルイは知っている。何かヘマをしたな? とルイは推測した。
「言ってごらんよ」
ルイは冷たくそう言った。
「私だって、気を失ってたのよ!」
言い訳から入るハルカナ。
「わかってるよ。だから、何か思い出したんだろ!? 別に何も責めやしないよ。無駄な時間を使ってたとしてもね」
一言多いと思うがついついルイは言ってしまう。
「……いや……、ミズはさぁ、出口があるって言ったんだよねぇ」
「それは聞いたけど?」
「ミズはさぁ、地下にいる」
「は?」
「確か、隠し扉があって、そこから別の場所に繋がってるの。私、ミズの後ろ姿を今思い出したわ」
ハルカナは半笑いでそう言った。頭を打ったせいだろう、そしてこの場所のせいだろう、思ったよりもハルカナの頭は混乱していたんだ、と、ルイはハルカナのことを許すことにした。実際何分を無駄にしたのかはわからないが、精神的には何十時間分だぞ、と、大袈裟にルイは不満を心の中で言った。
「はは。忘れちゃってたのよねー、作者と一緒よ」
ハルカナは変なことを言った。が、ルイは無視した。
「……まぁ、いいや、思い出してくれただけでよかったよ」
ルイはため息をつく。
「でしょ? 打ち所が悪かったら、私たち一生彷徨ってたかもよ? 感謝してよ。そして怒るべき相手は私じゃないくて、私を気絶させたやつなんだから!」
ハルカナの言うことにも一理あった。
「そうだね、で、どこ? その出口」
「……」
また沈黙。ハルカナの沈黙は悪い予感しか感じさせない。
「どこそこにあるのよ。でも……」
「でも……?」
言葉を溜めるハルカナの顔を、ルイはじっと覗き込んだ。
「地下だって言ったでしょ? すっごい重い鉄の扉を開くことは、私たちにはできないと思う」
「……なんで?」
ハルカナのその説明だけではいまいち納得がいかなかった。ミズに開けられたのなら、僕にだって……。
「取っ手が、ない」
「……」
ルイはすぐに理解することはできなかったが、少し歩いた先に見つけた微かな段差を発見すると、ハルカナの言っている意味がわかった。
「なるほど……ね」
でも、なんでミズはこの扉を開ける取っ手を持っていたんだ? ただの磁石といっても、それを常備しているなんて。ネスにもあるのか? ルイは深読みする。
「……さて、わたしたちはどうすりゃいいのかしらね~」
「……出口が下にしかないって、その仮説を捨てよう」
ルイは言った。
「自信ないなぁ……」
ハルカナは弱気に言った。
『誰か……応答願います』
ルイはダメ元でカフスをいじる。
『……ルイ?』
すぐに返事はきた。予想外のことにルイは驚いて暫く口をぱくぱくとさせてしまった。
『あ……、あ? スペースシフター?』
『はい、ハートです。みんなもいますけど』
『ルイ!?』
『レイスター!』
思わずルイは懐かしくレイスターの名を呼んだ。昔はルイもハルカナもレイスターと気軽に呼んでいた。いつからか、『総長』、『キング』その名で呼ぶようになってしまったが。
『コウテン城の地下にいるんですが、袋小路にはまってしまって、方向感覚を失ってしまいました。僕らがどこにいるのか、そちらのモニターで確認できませんか? 電波悪いし、無理ですかね』
『えーと……』
レイスターが口ごもった瞬間ハートが割り込んでルイの通信に入った。
『ルイくんの電波キャッチしましたよ! バートンが近くにいることによって鮮明にわかります。バートンはアンテナの役割も果たすんですよ。スペースシフターから離れるとみんなの電波が悪くなったから、これはバートンの出番だなって思って、ミズさんももっと早くバートンを……』
『ハート! 一刻も早くここから出してくれ!』
ルイはハートの言葉を遮った。無駄な時間とはこのことだ。僕らが迷っていた時間よりも無駄だ。
『はい……』
ハートはぶすくれてルイに従った。私って、こんな子どもにまでこんな態度とられるわけね。いじけていた。
『……、戻りましょう。バートンを外に待機させておきます。バートンからカフスに電波を送るので、それを感じ取って入り口に戻って下さい』
『……この先に道はない?』
『なんとも……、モニターでは正確に確認できません……。その場所は入り組みすぎています。早くそこから出た方が賢明だと思います』
そのハートの言葉にはどこか含みがあった。
『出るの? レイスター』
『ああ、出る』
『わかった』
ルイは納得した。
『早く脱出しろ』
『了解』
ルイとハルカナは顔を見合わせた。
「始まる……」
「うん……」
「ミズはどうなるの?」
ハルカナは不安げな声で言った。
「わからない……。みんな……、わからない」
「伝令! 伝令!」
黒のポーンの姿をアザナルは捕らえた。
「お前はルーク隊の……」
「アザナル隊長に伝令!」
その伝令役の顔には何か深刻な状況を物語るものがあった。
「手短に」
アザナルは努めて冷静にそう言った。
「キングの間でザルナーク隊長、他ルーク隊数名交戦中。応援要請!」
「なにぃ!?」
冷静、という言葉はすぐに吹き飛んだ。
「なぜそこまで許した! 俺らが見落とすわけないだろうが!」
またしてもアザナルは伝令につっかかる。
「敵は、3人です……。少数ゆえ……あと……、かなり腕の立つ奴がいます」
3人?
「……バカにしてんのか……」
呟くようにアザナルは言った。ポーンの胸ぐらをつかむことはしなかった。
「ビショップ隊! ここは任せる!」
黒のビショップに向かってアザナルは叫んだ。
「……ああ! ……いや……」
力強い返事のあとに黒のビショップの言葉が途切れる。
「?」
アザナルは黒のビショップが見つめる先を自然と見やった。♦艦隊だけならビショップ隊で十分だろう。
「……なんだ? あれは……」
♦艦隊から後方に、大きな影が見えた。それは……。
「チッ……」
アザナルは舌打ちせずにはいられない。
「いい! 行け!」
黒のビショップ、アレンは言った。
「だが……」
あの禍々しいオーラ。本命の母艦が出てきたに決まっている。ここじゃ守りきれない。アザナルは自分の最善の行動を見つけようと必死だった。
「ナイト! キングをとられたら負けなんだ」
ビショップはそう言った。
「戦争は、そういうことだ」
その言葉にナイトは動いた。
「キングの周りにいる敵の駒は三つだな?」
伝令にアザナルは今一度問う。
「はい」
「そこにルーク、ナイトが揃えばキングはそう簡単にとれないだろ」
アザナルから迷いが消えた。
「アレン! 俺の隊も任せる!」
「いいのか?」
「こっちは3人だぞ!?」
すでに走り出しながらアザナルはそう言った。その言葉にふっとアレンも笑う。
「まぁ、そうだよね。こっちは大丈夫さ。俺の予想じゃそろそろ……」
不穏な異物がコウテンの空を舞いこの城に近づいてきているが、その前にこの城へ辿りつくであろう白い天使がアレンには見えた。
「ほら、こっちにはルークとビショップと大量のポーンだ。ヘマするんじゃねぇぞ、ナイト」
アレンは余裕の笑みでアザナルを送り出した。




