42.白熱
42.白熱
バン バン バン ……!! シュン…… !!
「うわぁっ!」「ぎゃあっ!」
叫び声と銃弾の音。
カシャン バチン
剣と電磁波のぶつかり合い。
すこぶる奇妙な戦いだった。同じ人間。しかし使う武器には差があった。個人個人の能力、技能にあった武器を使うライラたちネス。武器として最適であるものを統一して使っているコウテン。
いや、1人は別だ。
バチン バチン、
ライラが放つシルバーホールの電撃。それはザルナークの剣さばきでキレイにはね返される。
「ったく……」
ライラは苦い顔をした。当たれば砕けるように造っとけよ、機械班。
「くっ……」
少し考え事をしていると、反応が遅れザルナークの剣につかまってしまう。ライラは少し髪の毛の先を何本が持って行かれた。
「チッ……」
違う、剣を吹っ飛ばす威力なんてなくていい。生身の体に俺がシルバーホールで穴をあければいいだけなんだ。人の所為にするもんじゃないな、とライラは謙虚にそう思った。あの二つの刃は異常だとは思うけど。
「ふん、若造めが!」
ザルナークは小柄で俊敏に動く。そして二本の剣で舞うようにライラの身を削ごうとたちまわっていた。その迫力、威厳のせいで小柄であることを忘れてしまう。ザルナークの存在は大きかった。その剣先をとらえることができる人物は、もはやコウテンには存在しない。つまり、この宇宙には存在しない、とザルナークは自負していた。それゆえに、自分はアヴァンネル騎士団の黒の騎士団ルーク、団長を名乗れるのだから。自分が誰かよりも弱かったのならば、すぐにでもこの地位を手放す。『団長』にはそれほどの責任と重みがある。
「褒め言葉かな?」
ライラはそのザルナークの鼻息荒い言葉を聞いて言った。
「私からすれば皆ひよっこだ」
「まぁ、そうかもしれないが、こいつらと一緒にしないでもらいたいな」
ライラは周りの戦況を見た。ミレーの後ろからミレーを狙う線を感じ取ったので、姿が見えるより先にミレーの背後の殺気に向かって電撃を飛ばした。
ドサリ
柱の影に隠れていたであろう黒の騎士団の兵士は倒れたことにより姿が見えた。
「……」
ザルナークは少し汗をかいていた。ザルナークにとってこれは珍しいことだし、喜ばしいことではなかった。そもそも戦闘が好きなタイプではない。才能はあるが。
「ふん、部下のお守をしながら私と戦っていたというわけか。バカにされたもんだな」
ザルナークはそう言った。
「おたくはいいよね。多いからさ」
「だいぶ減ったさ」
「……もっと減るよ? お前も含めてな、団長さん」
フッとライラは笑った。
「あまりなめるなよ」
キングの元へと行かせるものか。こいつらの狙いはコウテンの侵略というよりも、『キングの命』だ。それ故にここまでこれたんだ。派手な行動は起していない。最低限のものでここまで辿りついている。なぜだ?
バンッ!
ザルナークは間一髪で避けたが、頬が少し焦げた。ライラの電撃はザルナークの頬をかすめた。
「そっちこそ。考えごとできるほど甘くないぜ。状況は段々とこっちに有利になっているんだからな」
周りで戦っている黒の騎士団たちの数は減っている。床に倒れている人数は増えている。
「どうかな……。ここが我らの星であることを忘れるなよ」
ザルナークはそれでも強気で言った。
「いつだって、俺たちの方が有利なんだよ」
地の利。それはいつだってコウテン側にある。
「俺たちは、お前らの王様が死んでくれれば退散するぜ」
「なぜ……、そんなにもキングの首を狙う」
ザルナークの純粋な疑問だ。
「こっちの王様は優しいんでな。キングが死ねばそっちの士気は下がり、俺たちのことなんざ忘れてくれるだろうって思ってんだよ。俺は別に、この星ごとふっ飛ばしてもいいと思ってるんだがな!」
バチン!
「何を言ってる?」
ザルナークの剣はライラの目の前。振り下ろされた刃をシルバーホールで受け止めていた。
「あ?」
ギチ……
「話し合いにきたんじゃねぇ! 戦いに来たんだ! 誰1人宇宙に出るんじゃねぇ! 俺たちの場所へ来るな! 俺たちの目的はそれだけだ!」
ライラは声を荒げた。ザルナークの力が少し抜けるのを感じた。「?」。ライラはそれを不思議に思ったが、見逃してやることはしなかった。
「団長!」
シルバーホールの装備を解除し、お気に入りのネスのペンライトでザルナークの腹に穴を通してやろうとライラが思った時、別の兵士がザルナークを庇い、ライラの光線銃を受けた。
「ふーん。慕われてるんだな」
ライラはそう呟いた。
「貴様っ……!」
ザルナークの殺意はライラをピリッとさせた。
「ライラ隊長……」
その様を見ていたミレーとバインズは複雑な気分になっていた。
「おい、よそ見する暇ねぇぞ。俺が何回援護してると思ってんだ」
そんな2人に対してライラは冷たくそう言い放った。
「……っ!」
ミレ―とバインズはその言葉にただ前を見て戦った。生き残るための本能なのか、もう、殺すことがなんなのかなんて、自分は何をしているのかなんて、考えることをやめた。
「お前は随分と人間ができていないようだな」
「お前らにだけは言われたくない。偽善者が」
「大きな憎しみを目に宿らせておるが……、なぜだ? その目をお前たちがするのはおかしい。攻められるは我々。平和を脅かされているのは我々だ」
今度はライラが首を傾げた。かみ合わない感情。状況。ノリが悪くなってきた。
「頼むから……、死んでくれ」
もう面倒になったライラはそう言うと口を閉じた。『悪』は、確かにコウテンなんだから。そのために、俺たちはここまできたんだから。憎しみを宿らせることがおかしい? 生まれてこのかた、誰かへの、または見えない何かへの憎しみが常に心にあった気がする。ライラは自分の人生を振り返るとそんな風に感じた。それは、とても悲しいことだった。
「断る」
ザルナークは当然そう言い放った。それは気持ちのよい返事だった。
―ジャスティー―
「はぁ、はぁ……」
ジャスティーはひたすら回廊を走っていた。イリスが教えてくれたキングの元へとつながる秘密の通路。家族だけの、秘密の通路。
ジャスティーの息が上がるなんて珍しい。体力は十分すぎるほど残っていた。しかし、イリスの部屋でも『疲れた』と思った。実際疲れていた。それはほとんどが精神的な面からくるものだった。ネスの砂漠を走るなんてへでもない。つまりこの通路を走るなんてへでもない。ジャスティーはそう思う。だけど胸騒ぎがして……。何か悪いことが起こっているし、これからもっと悪いことが起きる予感がして、それが重く体と心にのしかかる。
きっと、この矛盾するものに気付けているのは俺しかいない、ジャスティーはそう思い、ひたすらに走った。俺たちが『悪』になるなんてバカげた話じゃないか。
コウテンにいる人間たちが、何一つ俺たちと変わらない人間だったなら……。俺はバカでなんにもわからなくて、疑問を抱かずミズやみんなの言う通りにただ生きてた。だけど、これだけは確かめなくちゃいけない。そもそも、レイスターとミズは影でこそこそしてた。俺をバカにして……。まぁ、バカだけどさ。
でもミズ……。ミズにだって間違いはあるよね。それはミズもまた普通の人間ってことだ。ミズ……、もしかしたら、俺たち戦わなくていいのかもしれないよ。
今すぐにでもネスに帰って、アスリーンにただいまを言って、2人で青碧の湖畔に行こう。
「……はぁ……はぁ……」
そのジャスティーの遥か後方で、息を切らし、立ち止まりつつも前進を止めないお姫様がいた。
「ば……化け物ですわね、騎士団の兵士は……」
イリスはそう言うと一筋の汗を額から垂らした。似合わない。イリスはその汗を手で乱暴に拭った。
「まぁ、このくらい離れてるなら……気付かれないし……」
アザナルには大目玉くらっちゃうな、イリスはふとアザナルのことを思った。だけど、私もキングの娘。コウテンの未来に責任があるの。
イリスは厳しい目をして、力強く歩きだした。
「足が痛いんですもの……」
誰に言うわけでもなく走らない言い訳をしていた。




