40.動く
40.動く
戦闘の音が聞こえてくる。
「……ぬかったか……」
ザルナークはキングの元へと続く通路の先まで敵の侵入を許したことを悟った。
「本当、ぬかったんじゃないか?」
アヴァンネルは顔に微笑を浮かべ緊張感なくそう言った。ザルナークの胸は熱くなっていたのに、キングの力ない優しげな微笑を見てしまったのでその熱は冷めてしまった。
「頭のいい奴がいるな」
「……、余裕すぎますよ!」
ザルナークはそう言わずにはいられなかった。
「そう怒鳴るな。お前がここにいることは幸いだろう。どんな手練か知らんが、負けるとは言わないよな、黒の団長?」
相変わらず気に食わないアヴァンネルの余裕を感じながらもザルナークは冷静になるよう努めた。
「……その通りでございます。これもまた運命でしょう。もうすぐこの戦争とも呼べない茶番劇は終わります」
「それなら……いい」
少し含みのある言い方でアヴァンネルは呟くように言った。ザルナークはもう何も考えないことにした。目の前にするべきことがある。それを片付けるのみ。黒の騎士団の真の役割。王の護衛。そしてこのコウテン星の護衛。守るべきものを守るため、ザルナークはしっかりとアヴァンネルの目を見た。
コウテンのキングはザルナークと目が合うと軽く頷いた。ザルナークはそれを確認すると頭を垂れ、スッときれいに立ち上がった。
そして部屋から去っていくその後ろ姿を、アヴァンネルは睨みつけるように見ていた。
「伝令! ナイトに伝えろ! ここが前線だと!」
急に扉が開いたと思ったら同時に声が響き渡った。その声にライラは瞬時に反応した。
「きゃっ……」
ミレーの背後に現れたザルナークは言葉を発するとともにマントの下に隠れていた二つの刀をスッと抜いた。
ミレーよりも先に反応したライラはミレーを押しのけ、その刃を青いシールドで受け止めた。
「……」
無言でザルナークとライラは見つめ合った。
「団長……!」
黒の兵士の1人がそう呟いた。
「伝令!」
ザルナークは叫ぶ。
「はっ!」
「簡単に行かせるかよ!」
バインズがそれに立ち向かった。
「1つ、聞いていいか?」
この緊張状態の中ライラはザルナークに問いかけた。
「なんだ」
「団長ってのは何人いるんだ?」
「そんなことが気になるのか?」
「どうでもいい質問だってわかってるだろ? 純粋な興味なんだ」
ライラは笑ってみた。おそらく。
「……2人だが」
「……よかった」
ライラはそう言うと青いシールドを解除し、すかさず赤い閃光を放つ。ザルナークは瞬時に後ろへ飛んだ。
「まったく、どうして俺ばっかり」
ライラは笑っていた。
「面倒な奴らばっかり押しつけやがって。あのバカは何してる」
嘘ばっかり、ライラに守ってもらったミレーはそう思った。何、あの嬉しそうな顔。そして『あのバカ』が誰を指しているのかも、あまり頭のよくないミレーにもわかった。
「バカにするなよ、小僧が」
ザルナークは冷静にライラを見た。
「まぁ、そこまで若くないんだけどな」
ライラは相変わらず笑っていた。ネスではこんなライラの表情なんて拝めない。まるで恍惚しているかのよう。
「ミレー、もうドジは踏むな。ちゃんと自分の身は自分で守れよ。俺はこれからあいつに集中しなきゃならない」
指示だけはきちんと出した。隊長としての役割は忘れていないようだ。
「はい」
その言葉にミレーも気を引き締めた。
「ザコどもを一掃しろ。援軍が来る前にな。目標は目の前だ」
「……私がここにいる限り、君たちの思うようにはいくまい」
ザルナークはそこでやっと笑った。
「はぁ……、はぁ……もうもたない……。疲れた……」
一匹の虫が城から逃げた。
「げっ! なんでだよ!」
しかしやっと逃げだせたと思えば前方にかすかに見えた白い軍機を見ると右に急旋回した。逃げ足は速い。
「アスレイはやられたのか? あの白い奴らってあれだよなあれ……」
ランドバーグは1人でぶつぶつと呟く。
「と、とりあえず僕は戻らなきゃ」
スペースシフターへ。先発の♦艦隊が城外戦をやってくれてるし、僕の降り立つ隙なんてなかったし……。
ランドバーグはかなり距離をとって白い軍機がコウテンの城へと戻る様を見届けていた。
「……あぶねぇ……」
ピンピン…… そこで音がした。
「うぎゃあ!」
情けない声を出してランドバーグは驚いた。
レーダーがスピードを捕らえた。
『ランドバーグか!? 無事なんだな!』
ランドバーグはなぜかその味方の声を聞いてもうれしくなかった。
「シスカ……、お前も無事だったんだな」
「どうした? 引き返して。何かあったのか?」
「機体の損傷」
堂々と嘘をつく。
「どこ? 外から調節できることならするよ」
「いや……」
ランドバーグは口ごもる。
「?」
「と、とにかくシフターに戻るよ。大丈夫だ。他のやつらはちゃんと城内に辿りつくことができた。僕は……」
ランドバーグの言葉が途中でこと切れた。シスカは一瞬だけそれを不思議に思ったが、すぐ背後に黒い巨大な影に覆われたかのような重圧を感じ、その感じるままに後方を見た。
改めて飛行するその姿を見ると、それはおぞましいもののようにシスカには思えた。正義の味方が乗るようなものじゃない。その巨大な二本の鋭利な翼。強力な砲撃を浴びせる飛び出た目。原動力となるエネルギーを放出する螺旋のような尻尾。
悪魔のお呼びがかかったと、コウテンの人間なら思うだろう。今、客観的にシスカはそう思った。
『何してるんだ? 遅いぞお前ら。スピードのくせに』
アスレイはスペースシフターの指令室からそう2人に呼び掛けた。
『出てくるんだね!』
シスカはアスレイの声を聞くと気分が高まった。なんて力強い援護だ。
『ミズからもライラからも連絡がない。お互いに切羽詰まった状況と見た。合図より先に出る』
『了解! あ、そういえばランドバーグが……』
『な、なんでもありません!』
ランドバーグはすかさずそう言った。母艦も出るなら自分のスピードに乗っていた方が自分の身は自分で守れそうな気がした。『逃げる』という行為のしやすさだけを考えていた。
『……そう、まぁ、僕がざっと感じる印象としてもその機体はキレイと思うんだけどね』
シスカは若干の疑いを込めてランドバーグにそう言った。
『あ、ああ。まぁ、調子悪かったら離脱するかもしれない。その時はごめんな』
なんとも頼りない奴だ。その通信を聞いていたネスの人間たちはみなそう思った。
『さ、行くぞ!』
気を取り直して、と言った様子でランドバーグが声を上げた。
『お前だけは言うな』
アスレイがカチンとした様子で冷たくそう言い放った。




