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39.接近遭遇


39.接近遭遇





 ザルナークは殺風景な通路をひたすらに歩いていたが、急に立ち止まった。ライラもそれと同じくして柱の影に身を潜める。ここは寒い。なにかしら原因のわからない冷気が漂っている。不穏な空気。ライラはそれを感じていた。コウテンの奴らにも感じるものなのだろうか。それとも俺が敵であるからこそ感じる冷気なのか? キングの居場所にしてはお粗末なところだ。

 ザルナークはそもそも数少ない側近たちを数名しか連れていなかったが、その数名をある扉の前に待機させ、1人で扉の中に入って行った。側近たちはその扉の前で綺麗に隊列を組み、警備体制をつくった。

 ふん、本命到着か。先は読めないが……。ライラは薄らと口に笑みを浮かべ胸のペンライトを握りしめた。12人の衛兵。余裕かな……。


『ミレー、行けるか?』

 ライラから緊張感のある通信が入る。

『あと少し! 待って下さい! いくらなんでも1人で出ないで下さいね!』

 ゴウンゴウンゴウン……

 何かしら歪な音がライラたちがいる廊下に響いた。ザルナークの側近たちも何人かその音に反応する。

『了解だ。待機する』

 この音。まぁいい。隠密作業は終わった。ライラは一つ息を吐いた。確かに、あいつらはもうすぐここへやってくるだろう。あの12人の衛兵はたかがしれてる。だが、あの先頭に立つ『団長』とやら。あいつはてこずりそうだ。ライラはそう感じていた。





―キングの書斎―



 キぃ……

 扉は開く。

 カツ、カツ、カツ……

 もうひとつ、目の前に扉が見えてきた。

「入れ」

 ザルナークがノックをする前に中から声が聞こえた。

「……どこまで来た?」

 壁へと顔を向け、ザルナークに背を向ける形で座っているアヴァンネルが落ち着いた声でザルナークにそう聞いた。侵入されることは前提のように。

「もう、すぐそこまでです」

 片膝を地につけ、ザルナークはそう答えた。

「立て。そしてそのソファーにでも座ってくれ」

 アヴァンネルはくるりと椅子をまわしてザルナークの方を向くと力ない笑みを浮かべて優しくそう言った。

「は……。しかし、私もすぐ任務につきます」

「そうだな……。私はここで大人しくしているから、お前も前線へ行け。蛮族の出方もまだ警戒しないといけない今、私の護衛なんてものに力を割くな」

「ええ。私は前線へ行きましょう。代わりに腕の立つ兵を選んで連れてきました。アヴァンネル様も、私の指示がありますまで動かれぬよう……」

 ザルナークが話している途中からアヴァンネルはクスクスと笑った。

「? どういたしました?」

「ここの警備? しなくていい。私は迎え撃つだけだからな。手練の者ならなおさら前線へ連れて行け。邪魔者を排除しろ」

 ザルナークは眉を潜めた。

「……迎え撃つ?」

「……ああ」

 どことなく余裕の表情を浮かべるアヴァンネルにザルナークは不信感を覚えた。

「お言葉ですが……、襲撃を予測されていたかのごとき振る舞いですね」

 ザルナークはコーネルたちのことを思うと、いくらか強気でキングへともの申さずにはいられなかった。我々は、『アヴァンネル騎士団』。自ら駒となりキングを敵から守るためだけに存在するもの。しかし、そのキングは、『キング』でなければならない。命を懸けるだけの存在でなければならない。我々は、自分の家族ではない、このキングを守るための騎士団なのだから。

「……古き友よ。お前は、未来永劫誰も攻めてこないとでも思っていたのか?」

 アヴァンネルは優しい瞳でザルナークを見た。

「それこそが間違いなのだよ。忘れたか? あの日を。そして知らないのか? そのまた昔の出来事を」

 その瞳は、もう表情を読み取ることのできないひどく曖昧なものへと変わった。ザルナークはアヴァンネルの心情をうまく読み説くことができなかったが、自分の心がざわついていることはわかった。キングの重圧を体で感じていた。

 この御方は『キング』なのだ。

「も、申し訳ございません」

 ザルナークは深く頭を下げた。

「いいんだ」

 アヴァンネルはそう言うとにこりと笑った。

「本題を言い忘れるところでした。こたびの敵の正体がわかりました」

「……」

 アヴァンネルは目を鋭くさせザルナークの次の言葉を待った。

「ネスだという情報が入っています」

「……ネス」

 アヴァンネルはそう呟くと両手を組んでその手に顔を押し付けるようにして何かを考え込んでいた。

「……アヴァンネル様?」

「いや……、そうか。ネスか……」

 アヴァンネルは顔を上げた。

「はい。少し、やっかいですね。しかし奴ら、あの地でこんな戦力をつくれるとは」

「この地でできることは、ネスにだってできるだろう」

「そうでしょうか?」

「ああ」

 アヴァンネルは迷うことなくそう断言した。ザルナークも今の現状を目の当たりにしているのでそれが真実であることも渋々認めざるをえなかった。

「しかし、今更……。ネスとの交流はもう何十年も前にとまっているはず」

「交流というような代物でもないがな。確かに、ごく少数しかしらない秘密の関わりはあった。貧しい星であったことは確かだろう。こうやって我が愛しきコウテンへ攻め込んでくるその姿。褒めてやろうじゃないか。だがしかし、この星はやらんぞ」


「……もちろんですとも」

 ザルナークはその言葉に士気を高めた。私が守るのは、このコウテンを愛し、守らんとするこのキングで間違いない。その確認をすることができた。






『5カウントだ。お前らのドタバタ音はもう聞こえてる。穴を開けて抜けてこい。キングへの扉前、敵12。敵の隊長はいない。数を腕で覆せるチャンスだ』

 ライラからダクト内を移動中の3人への指示が入る。3人とも、緊張している余裕もなかった。目標が目の前にある。ただ、己のするべきことをするのみ。

『はい!』

 3人とも厳しい声で応答した。


『5……、4……』

 カウントを取りながらライラは黒の団服を着たままであることに今気付く。ち、あいつら間違えないよな? 少し不安だった。まぁいい、時間もないし……。

『ぎゃあっ……!』

 ドスン……! ガガッ……

 ノイズ音と悲鳴と共に、赤い風呂敷が天井から降ってきた。

「いったー……」

 ミレーがライラのカウントを待たずフライングで落下してきた。ちょうどそれは黒の衛兵たちのど真ん中だった。

 事があまりに急すぎてザルナークの側近たちも反応が遅れた。


 バシュッ! そこに赤い閃光が飛ぶ。黒の衛兵の首が飛んだ。

「俺はあいつらよりもまずお前を殺したいな」

 ライラがミレーを抱え込み黒の側近たちの包囲から逃れた。

「……すみません」

 さすがのミレーも自分のドジさ加減にやっと反省の色を示した。

「ち……」

 それに優しさの欠片もなく舌打ちでライラは返した。


「あーあー、もー、やってらんねぇよ!」

 バインズも渋々と言った様子でミレーの落ちた場所へと降り立った。そしてすかさずライラの元へと駆ける。

 黒の騎士団も動きだす。

『団長! 扉前接近戦に入ります!』


「同感だな、バインズ。団長とやらが来る前にできるだけ殺れ! 奇襲でもなんでもなくなっちまった」

 ライラが不機嫌を顔にあらわしてそう指示した。

「はい」

 バインズとミレーも不機嫌だった。

「怒んないでよぉ、バインズ」

「俺、お前とはもー組みたくねぇ」

 ランドバーグのがマシだったとは……。バインズは本気でそう思った。


『アリス、お前はそこから狙撃だ』

 ボソ、とライラはアリスに指示した。

『はい』


 ダクトに留まったアリスは、自分の武器、遠距離型のスコープ付きボーガンを手に取り敵を狙う。急に現れた3人にコウテンの兵士たちは気をとられている。狙いやすい。ネスの「ソリアシン」と呼ばれる葉の成分を含んだ矢は、人間が発する匂いに敏感で、少しの誤差なら修正して人間に吸い込まれるように命中してくれる。

 バタバタ……


 気付かぬまま、2人の黒の騎士団はその矢に体を貫かれた。

「なんだ!?」

 混乱。


 ライラはフッと笑う。

「混戦。劣勢。燃えるね」








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