38.間奏
38.間奏
「アスレイ! いいからこっちに来い!」
スペースシフターに戻り、アスレイはレイスターに一言の挨拶もなく格納庫で自分のスピードの修理をしていた。
「……」
アスレイは機体に潜ったまま動かない。手だけは動いているようだ。カチャカチャと作業している音は聞こえる。
「アスレイ!」
レイスターは地べたに手をつき、もう片方の手でアスレイの手を掴んだ。アスレイはその時初めてレイスターの存在に気がついた。レイスターの声なんて聞こえていなかった。集中しすぎていた。我に返ったように驚いた様子でレイスターの顔を見た。
「……少し、休め」
「……総長」
アスレイは機体の下から身を起こし、レイスターの前に立った。いつだって顔色の変わることない冷静沈着で可愛げのないアスレイにも疲れと焦りが顔に滲み出ていた。
「無理をしたと聞くぞ。機体のことはハートに任せて、現状を聞かせてくれ。ライラからいつでも出れるようにとの連絡ももらっている。お前の力をかしてくれ」
「……」
「アスレイ!」
「はい。俺もスペースシフターで戦いましょう。あまり時間もないみたいですしね。突入は上手く行きましたよ。ライラ隊長がそう命じたのならば、いつでも出れるように準備をしておきましょう。今城へ向かった♦艦隊だけでなく、より多くの援護が必要になるはず」
アスレイが疲れを見せたのはほんの少しの間だけだった。今では涼しい顔をしてレイスターに意見を述べている。やっぱり可愛げのない奴だった。
「あ、ああ。頼む」
レイスターはなぜか複雑な心境になったが、気を取り直してそう言った。ミズがいない今、頼りになるカードがスペースシフターに戻ってきてくれた。
「あっらー! おかえりぃ。アスレイくーん!」
ダリアは満面の笑みで指令室に入ってきたアスレイを出迎えた。アスレイはダリアに一瞥をくれた。
「……俺はおそらくコウテン側の隊長格の兵士と戦っていた。『団長』と呼ばれる通信も何度か傍受した。主力はすでに出てきているということになる。数は確かに多いが、♠がコウテンの隙を突いた形となったのは確か。コウテンは明らかに反応が鈍い。遅れている。後手後手にまわっているように思える。それにより勝機が見える」
「……」
レイスターは腕を組んでアスレイの話を真剣な面持ちで聞いている。
「ライラ隊長がキングを捕らえると同時でもいい。きっとそのくらいに出撃の合図が来る。とにかく、この戦争。思ったよりも早く終わる」
アスレイはそう言いつつ窓からコウテンの無機質な景色を眺めた。
「……今のところ誰1人欠けていないな?」
「コウテン侵入後、ジャスティーとフラニーの行方は誰にもわかっていない」
「まだジャスはもたついているのか」
レイスターは唇を噛んだ。
「……今は大局を見ましょう。俺も……それに徹しますよ」
アスレイは残してきたシスカのことを思った。いつも一緒にいたけど……、あいつのこと、何も知らない。それが今になってせつなく胸を締め付ける。あいつは俺のことを勘違いしている。俺は、ちゃんとあいつのことを認めてるのに……。きっとそれは伝わっていない。いつだってあいつは不器用な笑みを浮かべて、俺の機嫌を確かめるように接していた。
「とりあえず、俺のスピードも動かせるようにはしておいて下さいよ」
アスレイは暫く黙りこんでそれだけ言った。
「ハートに任せておけ」
レイスターはそう答えた。
『……ミレー。どこだ?』
ライラは囁くように言った。
『えぇッとぉ……隊長のぉ、何メートルか後ろです』
『……』
無言のライラの眉間の皺は深く刻まれた。
『安全なルートは探せたってことだな』
ライラなりの優しさでそう返事をした。
『はい。ばっちり』
『どれくらいで着く?』
壁にべたりとくっつき、ザルナークを常に視界の端にとどめながらライラは囁く。
『出口があればすぐにでも』
『チッ! 出口なんぞなければ作ればいいだろうが! スペースシフターを呼ぶぞ! さっさと来い! 俺はキングを見つけ次第動くからな!』
ブツ。
「こっわー!」
ミレーたちは狭いダクトの中をほふく前進しながら着実に進んでいた。しかしライラの怒りを買ってしまった。ミレーの頭の悪さが原因だ。
「俺はお前がこえぇよ」
通信を聞いていたバインズはげんなりした様子でそう言った。
「私たちもだいぶ奥まで来たよね。きっとキングに近いと思う。ライラ隊長も興奮しちゃうよ」
アリスが軽くうなずきながら、自分に言い聞かせるように言った。
「ライラ隊長でも1人で出ちゃうのは無謀でしょ」
「バッカ! だから早く行くぞ! お前のせいで俺たち全然役に立たないように思われてるじゃねぇかよ!」
バインズがミレーに怒鳴るように言った。
「早とちりで死んじゃっても自業自得でしょ!」
ミレーは心ない。
「……でもライラ隊長が死ぬ想像はできないなぁ……」
1人は無謀だろうが、死ぬ想像もできないということは1人でもやれるのだろうか? ミレーの考えていることはそんなどうでもいいことだった。
「誰1人だって死ぬ想像はできないよ!」
アリスの真っ直ぐな目は2人を正しい道へと導く。今一度改めて、3人はその足を速めた。ライラ隊長、待っていて下さい。アリスは綺麗なブルーの瞳の奥に、強い意志を秘めていた。
「シスカ!」
「どした?」
ルイとシスカは並行飛行でケイトたちの撤退に距離を置いてついていく形をとっていた。そんな中ルイが叫ぶ。
「左の奥。森がある」
「……」
シスカはルイの言った方向へと視線を向ける。少し目を細めた。
「本当だ。高い建物に紛れてわからなかった」
「……鳥?」
ルイはそんな中黒い点のようなものを発見した。ミズの指示によってハートが飛ばしたバートンが森をさまよっていた。ルイにはそれが鳥にしか見えなかった。
「あ、あれは……」
シスカには身覚えがあった。
「ミズさんのバートンだ!」
「何? それ」
「カメラだよ。自由飛行型のカメラ。本物の鳥にカメラが着いただけ、と思ってもらっていい」
「ふーん……。機械班羨ましいな……」
ルイはボソと呟いた。
「今更? 僕だってちょっとしか顔出してないよ」
「ミズが飛ばした……。ミズも出てきてるのかな……」
ルイはバートンを見ながらぼんやりと呟く。
「……。なんか気になるなぁ」
ルイは前方の白の騎士団の尻についていくか、バートンを確かめに行くか迷っていた。
城への到着が目的。しかし、城へ到着してから、僕ら2機でどう動けばいいんだ? 誰とも連絡が取れない状況で。
「……ルイ。バートンの方へ行けよ」
シスカが言った。
「え?」
「バートンがいるってことは、誰かはそっちへ行ったはず。ミズさんの確率が高いけど。安全な侵入ルートかもしれない」
「じゃあシスカも……」
「僕はこのままあいつらを追って城へ行ってみるよ。城外乱戦中の可能性もあるし。まぁやばくなったら逃げるし。安全圏を出来るだけ守って、無理につっこまないようにするよ」
シスカは軽く笑ってそう言った。
「……そのほうがいいのかな……」
ルイは迷う。
「ルイの勘はあたる。正解なんてわからないから、二つのルートがあって2人がいるのなら、それぞれがそれぞれのルートを進もう。目的地が同じなら、また会える」
ルイの迷いをシスカが拭った。
「そもそもジャスの援護から失敗してるし、こうなりゃ♠J班は全員単独行動だね」
ルイは自嘲気味な笑みを浮かべてそう言った。シスカもそれにクスッと小さく笑う。
「シスカ、気を付けて」
「うん。そっちもね」
「また、会おう」




