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35.白のビショップ



35.白のビショップ





 コツコツ、コツ、コツ。

 リアの足音が響く。妙につやつやとした光沢のある白い床。

「……」

 いつでも戦闘できるよう、背中のホルスターに銃は備えてある。ペンライトにおいては右手に持ったままだ。しかし、ミズにはリアの次の動作が全く読めなかった。

「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」

 リアはミズの心まで読めるようだ。

「……敵地に堂々と案内されて、警戒しないほうがどうかしてる」

 ミズはリアの後ろ姿に向かってそう言った。

「まぁ……、そう言わずに……」

 なんだ? ミズは戸惑う。この落ち着きよう。

「ここはね、私しか入れないのよ」

「え?」

「だから大丈夫。地下にある隠し部屋であり最大の秘密研究所」

 ミズはそう言われると、ぐるっと辺りを見渡してみた。リアの挙動に集中しすぎて周りが見えていなかった。至るところに実験の後、匂いがする。戸棚には茶褐色の瓶に白い瓶。何かしらの液体が入ったものがずらりと並び、雑に扱われているように思われる実験台には試験管になんともいびつな色をした液体が入ったまま放置されていたりした。

「……なにかしら熱心なのか、放置しっぱなしなのか、わかったもんじゃないな」

 ミズは呟いた。こんな施設があるなら、僕は……。体がうずく。

「そうね、昔のある地点から、時は動いていないのかもしれない」

 意味深にリアは答える。

「私は白のビショップ」

「ビショップ……」

「術士……って意味よ」

「研究者?」

「……そう。だから、あまり実戦は得意じゃないんだけど、白のビショップの信頼が薄くて、あまり研究にキングが費用を出してくれないのよね。渋々実戦もやらされることになってる。別に、私がいてもいなくても変わらないのに」

 リアはため息まじりにそう言うと、いかにも、という分厚い黒い扉の前で立ち止まった。ツタと花の紋様がキレイに彫られていて、無骨な中にも何かしらの気品は漂っていた。それが逆に不気味だった。

「私はね、ただ待っていただけ。代役に過ぎない。前ビショップ様の足元にもおよばない」

「……。化学兵器は、お前が主に指揮をとってつくっていたのか?」

「……化学兵器?」

「森が腐っていた。ここは、このコウテンは、もともとは自然が支配する国だったはずだ」

 ミズはリアを睨みつけた。

「……ああ。森を腐らそうと思って腐らせたんじゃないわよ。結果としてあの代償が必要だっただけで」

「結果が見えた時点でやめるべきだった。自然にはパワーがある」

「……そう。偉大なるパワーがある……」

 リアは不気味に笑ってミズの目を見るとそう言った。なんで笑ってる? やはりミズにはリアの考えていることなんてわからない。そもそも、この女はコウテン星からもどこかはずれたところにいる気がする。星の命運がかかっている時に、敵と内通して、何をしようとしているんだ? 

「偉大なるパワーは、暴走すると止められなくてね……」

 それは独り言のようだった。

「それより……、お前の言っていた場所っていうのはここなのか?」

「……、ああ、ごめんなさい。扉の前で立ち話なんて。ちょっと、心の準備が……」

 ? リアは震えていた。

「ふぅ、やっと、やっとよ」

 ……。なんだ? この雰囲気は。漆黒の扉から、目に見えないはずの黒い煙が漂っているような錯覚をミズは覚えた。開かずの間。ここは、禁断の……。

「……やめた方がいい」

 ミズは思わず口にした。

「……いえ、やらねばならないの。ほかならぬ、あの方の御命令だもの」

 『あの方』?

「待てよ、僕となんの関係が? 誰かに会わせるつもりか!?」

 キングとのご対面ってことはないよな?

「お前はさっき、ここには私しか入れないって、そう言ったんだぞ!」

 ミズはリアの肩を掴み、強引に自分の方へ顔を向かせた。

「……そう、そうよ。間違ってない」

 ダメだ。なんでそんな表情をしているんだ。ミズはリアの恍惚とした表情に一瞬で顔が青くなった。

「約束を果たせます……」

 リアはミズの力の抜けた腕を振りほどき、再び扉の方へ顔を向けると震える手で金色の鍵を取り出した。ミズはもうその作業をただ見る他なかった。

 ガチ、ガチ。興奮しすぎて手が定まらず、鍵穴に上手く鍵が入らないようだった。そんな様子を見ているとますますミズの顔は青ざめていった。

 なんだ? この感じは。そしてこの女は。敵の待ち伏せでもない、キングでもない、この女は今、この戦争の中、僕に一体何を見せようとしているんだ?

 命の危険は感じない。しかし、何か想像の範囲を越えたとてつもないものが襲ってきそうで怖かった。


 カチャ……


 鍵が、開いた。

「……どうぞ、お入り下さい」

 そして続けてリアは言った。

「……――様」








―アザナル―


「ザルナーク団長!」

 味気ない地下通路から抜ければ、いかにも貴族らしい絨毯が優雅に敷かれた廊下に出た。

「アザナル」

 そこですぐにアザナルはザルナークに会うことができた。

「団長! 奴らもうこの城内に侵入しましたよ!」

「今お前のところへ伝令を送ろうとしたところだ」

「俺、前線に行っていいですよね!?」

 アザナルは食い気味にザルナークに向かって言った。

「……キングの守備には私が就こう」

「……団長も前線に!」

「前線とはどこだ? 最悪の状況を考えて動くことも忘れるな。何かしら目的があって敵は襲撃をしている。それは、『王の首』かもしれん」

 ザルナークは厳しい顔でアザナルを見た。アザナルは唇を噛むだけで言葉は出て来なかった。

「今のお前にキングの護衛をしろとはいわん。キングも直属の近衛兵だけで事足りると言い張るだろう。だがしかし、少し気になることがあるのでな。精鋭部隊だけひきつれて私はキングの護衛にいく。他はお前につかせる故、しっかり食い止めろよ」

「はっ!」

 アザナルは今まででいちばん気合いのこもった素晴らしい敬礼をした。ザルナークは心から頼りになる、と思った。少しだけ顔がほころぶ。

「……? 笑ってる場合か?」

 それを見たアザナルはそう言った。ザルナークは笑いながら血管を浮き上がらせた。

「わかっとるわい! かわいくないやつめ! さっさと行け!」

「うわあっ!」

 尻を蹴られるようにしてアザナルはザルナークから離れ前線に戻る。来た道を帰る。通路の脇で聞き耳を立てるライラの横をきれいに通り過ぎ、アザナルは再び地下へと潜って行った。

「ふーん」

 ライラは張り付いた壁から少しだけ顔を出した。ザルナークの後ろ姿を目視する。

「次は、あいつね」

 にやっと笑ってそう言った。笑い事だ。ライラにとってはすべてが。

「にしても、いよいよ、本命近しって雰囲気だな」

 ライラにしては、コウテンに来てからのほうがネスにいた時よりも笑う機会が多いようだ。

「俺が頂いちゃっていいのかな……」

 こんな見たこともないような家ン中で。ライラは自分が育った貧困地区を思い出していた。ふんぞり返っているであろう貴族様たちを、特別な恨みはないが、めちゃくちゃに撃ち殺しても、いいんだよな……。

 そこで、ザルナークがふっと後ろを振り返った。ライラは瞬時に顔を引く。

「……」

「どうされました?」

「……いや、なんでもない」

 ザルナークは一つ間を置いた後、再び前を向いた。


 いけないいけない、ライラは呼吸を落ち着かせた。殺気だっていた。チャンスはそうそうない。俺だけの問題でもない。早くこい、♠隊。

コツコツ、ライラはカフスに手を当てた。通信機の調子はいつになったら戻るんだよ。意味ないんじゃないか? これ。邪魔だから外そうかなぁ……。

「一人で殺しちゃうよ……」


『……隊長、聞こえてます』


『あ?』


『独り言だったんですか? 全部』

『……ミレー。お前、ほんと生意気だな。俺の位置、わかるか?』

『えーっと……、ポインターに写ってるのがぁ……』

『ミレー、お前じゃない奴に機械は持たせろ。お前は道具の扱いが下手だからな』

 間髪いれずにライラは言った。

『あいにく、機械に強い奴は全員バラバラですよ』

 ミレーは無表情でそう反論した。

『……隊長こそ、なくしたんでしょ? ポインター』


『……』

 衝突の際に壊れたんだよ! 心の中でライラは怒鳴った。

『バカ! ライラ隊長に向かって何言ってんだ!』

 ガガッ。ノイズが走る。バインズがミレーの頭をはたいた。

『ランドバーグに持たせろ。その辺は頭がまわるだろ』

 ライラは怒りを表すことなく呟くようにそう言ったが内心、ミレーを殺してぇ、と思っていた。

『……、いません』

『……』

 くそ、死ね。全員死ね。

『死んだのか?』

『死んでません! ちょっと囮になってもらってるんです!』

 アリスが怒鳴るように言った。

『……おい、その役目あいつでいいのか?』

『隊長がいないからでしょ! それに、ミレーにだってわかりますから! ポインターの扱いぐらい! すぐに合流しますよ!』

 アリスの正義感というか、なんというか……。なぜかライラはため息をついた。苦手かもしれない……、と珍しくライラは思った。

『ゆっくり来い。目立つ格好になっちまってるからな』

『このスピードが歪すぎるんですよ。足で歩くほうが簡単だわ』

 ……。

『いいから、来い』

 ブツ。


「あっ! 切った! 信じられない! ライラ隊長通信切りましたよ!」

 アリスが叫ぶ。

「まぁ、いいんじゃない。やっとつながったし。合流の兆しも見えたし」

 ミレーはもう飄々としていた。

「でも、実際ランドバーグは……大丈夫かな」

 城の後ろに上手く周り込み、石で造られた外庭の一角にスピードを着地させた3人は空を見上げた。煙が舞う。音も鳴り響く。

「……、きっと、ミズかアスレイか、どうにか救ってくれるはずだ」

 バインズは希望を込めてそう言った。

「うん」

 アリスも希望を込めて返事をした。

「こうなったら私が道案内するわよ!」

 ミレーが叫ぶ。

「バインズは前ね! アリスは後ろ!」

「はいはい」

 バインズは呆れるように返事をすると、気を引き締めた。とりあえず、第二段階突破ってことかな……。宇宙からのコウテン星侵入。そして今から……城内侵入だ。

「あの戸口から入ろう!」

「え? どこ?」

「ダクトシューターみたいなやつ」

「えぇ~?」

「いかにもって感じじゃん?」

「いや……、ちょっとやっぱり俺がポインタ―持つよ」

 そう言いつつバインズはミレーの持つポインターに手を伸ばすが勢いよくミレーはその手を払った。

「……いい? あってるから。絶対。足でのこのこ城内うろつけるとでも思ってんの?」

 ミレーは顎を上げ、見下ろすように2人を見た。

「うろつけるのは奇人変人のライラ隊長ぐらいよ」


「はい」

 アリスとバインズは2人そろっていい返事をした。

 3人は納得して城内侵入ルートを決定した。








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