34.フラニーの追尾機能
34. フラニーの追尾機能
パシュ、パシュ。
サイレントレーザーでコウテンの門番は倒れる。
「ハルカナ」
「……遂に来たのね」
ミズとハルカナは小声で囁きながら、コウテンの裏から侵入をはたす直前だった。
「……中の構造、よくわからないんでしょ?」
「ああ、改めてなんで特攻したのか意味がわからなくなったよ。ジャスはどこにいるのかわからないし。犠牲を出してでも誰かが先に辿りついてないといけなかったんだ」
ミズは噛みしめるように言った。
「……」
複雑な心境のハルカナ。しかしそれはミズとて同じことだった。でも、だいぶ外の軍事機器は潰したし、なんだかんだ言って、コウテンの城に侵入できたし、母艦を投入させても対抗できるかもしれない。ミズはカチカチ、と通信機のカフスに手を当てつつ迷っていた。
「スペースシフタ-?」
ハルカナがそれに気付いて言った。それを突入させたら、私たちもろとも沈んじゃうんじゃ?
「乱戦になった方が辿りつけるかもしれない」
「ミズ! あれは最後の砦だよ。まだ早いんじゃないの?」
ハルカナが厳しくミズに言った。
「……」
ミズはその言葉にふっと力が抜けた。
「はは」
そして思いがけず笑った。
「何?」
笑うところなんてこの状況でないじゃないの!? ハルカナは当然そう思う。
「いや、そうだよね、おかしいな。いまいち調子がでないよ。ハルカナのが優秀だ。探りを入れよう。きっと、このドアを開けた瞬間に敵が待ち伏せしてる訳もないしね」
ミズは笑ってそう言った。
だから、笑う状況なんてないってば! とハルカナは思うがミズが笑うと肩の力が抜けるし、安心する。たった、2人なのに。
「じゃ、突入しよう」
「うん!」
裏口のドアノブを持つ。そしてそのドアを押すと、ギギ、とかすかにさびれた音がした。今まさに、コウテンの王宮に足を踏み入れようとしている。
「……あれ?」
ミズはそのドアを開けた瞬間に何か違和感を感じた。
「どうしたの?」
「いや……」
ズキン、「つっ……」。ミズの左目が痛む。なんだろう、この感じ。
「ここは……? なんだか迷路みたいに細い通路にでちゃったわね」
まるで袋小路。間違った道を選んで敵と遭遇したらもう逃げ場はないって感じだな、ミズは左目を押さえつつそう思った。
キ……。
その少し後、かすかにドアの音がしたことに、2人は気付いていなかった。
「どうする?」
ハルカナはペンライトを握った。小ぶりな武器のほうがいい。まるで下水管の中のように細く狭い道。一直線に続く道なら迷わずに行けたが、あいにく、枝葉のように別れ道がいくつも存在していた。
「裏口の侵入が簡単だったのは、裏口はすべて迷路への入り口になってるからじゃないの?」
「……ご名答」
ミズが笑って言った。
「ミズ!?」
「でも、迷路だから、出口はあるでしょ」
痛みの治まった左目から意識をそらし、道の先を見定めた。そして進んでいく。
「わかるの?」
歩き出したミズに続くしかないハルカナ。
「いや……なんとなく」
「えぇ!? 大丈夫なんでしょうねっ!」
なんとなく……、いや、確信的に、臭う。なぜか、呼ばれるようにわかる。ネスの基地にも同じように隠し通路はある。僕がつくった。似てる、ネスとコウテンは似てる。どういう仕組みでこの通路をつくるのか、迷路に入り口はあり、出口は……ない、どこかに繋がることなんてない。でも、そういう意味じゃなく、出口はある。どこかにつくってある。それも、コウテンぐらいの敷地なら、一つや二つじゃない。どこそこに、いつでもここを袋小路にできる仕組みを整えるはず。その出口を探すんだ。
「簡単だ」
ミズは呟く。
「え? あっ!」
ハルカナが反応する暇もなくミズはある曲がり道をサッと曲がり姿を消した。多少それにイラッとくるハルカナ。もー……、私のことも考えてよね? 初陣で内心冷汗もんなのよ。
ハルカナは愚痴を心の中で言いつつもミズの背中を見失わないようにと走った。
「ここだ」
地面のわずかな段差をミズは見過ごさなかった。
ミズは磁石の取っ手を出した。ガチン、と吸い込まれるようにその地面の鉄板は取っ手にくっついた。
「え? 何それ」
「開くぞ」
「……」
「様子見だけ、少し、覗いてみよう。この下の様子がどうなのか。上手くいけば、直接本命までいける通路に出れるのかもしれない」
「あのー、ミズ?」
ハルカナは言いにくそうに切り出した。
「ここって、一階だよね?」
「ああ」
「さらに地下に行くっていうの?」
……。そう……だな。でも、これは明らかなる出口だ。一階にこんな袋小路をつくる。どこか壁にぶち当たる。
「ねぇ、まさしくここは本当の袋小路。入り口と出口は同じなんじゃないの?」
「……」
「何か言ってよ、ミズ」
ミズはハルカナの顔をじっと見たまま考え込んでいた。
「確かに……。でも、それはこの下を見てからだ」
地下からだっていける。本命とは程遠いところへ出るとしても。城への侵入なんだ。地下の方がいいのかもしれない。
「ハルカナ、少しだけ、持ち上げるんだ。そっとだよ。僕が中を確かめる」
コクン、とハルカナは首を軽く動かして返事をした。
ぐっとハルカナが取っ手に力を入れる。重い……。言われなくたって、少ししか持ち上がらないわよ……。ハルカナの額から汗が滲みでていた。
そんなハルカナが開けてくれたわずかな隙間からミズは目を凝らして中の様子をうかがう。一瞬、その目を細めた。白い。ライトの光か? 地下通路が広がっていると思いきや、そこは白い床が見えるキレイな部屋だった。どこかの一室だ。
「ハルカナ、もう少し開けて」
人の気配は感じられない。ミズはハルカナにそう言った。しかしミズの視界はひらけそうにない。
「ハルカナ、がんばってくれよ」
しかしピクリとも動かない。「?」、ミズは不思議に思い、顔を上に上げた。
「!?」
その瞬間にミズは後ろへ飛んだが、ガツッと壁に背をぶつけた。
カツ、カツ、カツ、
その足音に耳を澄ます。
なんだ? 誰だ? そしてハルカナはどこだ?
「チェック!」
この声……。ミズはペンライトを握りしめた。赤いボタンに指を添えて。
「……今度こそ、やっと、会えた」
?
「2人きりね」
恍惚とした表情を浮かべていた。なんだろう、この女。僕に危害を加える様子はない。殺気も何も感じない。そして、なぜ1人でいる?
お前は、あの時の、一軍隊の隊長だった女じゃないか!
「……まだ、ダメなの?」
リアは、白いコートに映える漆黒の髪を揺らし、ほんとうに悲しそうにミズの目を見た。
「なんだ……、よ。お前……」
おかしい。すぐにでもこいつを倒さなくてはいけないのに。なんで、ペンライトを持つこの手が動かないんだ?
「ねぇ……」
コツ……
動けっ!
バチッ! 赤い閃光が、飛んだ。
「くっ……」
リアは間一髪でそれを避ける。二発目が来るのを、取っ手を苦し紛れにひっぱりその扉を盾にして避けた。
「中に入って! あなたに大事な話があるの!」
「は?」
「あの子を生かしているのよ? 私は悪人じゃないわ」
ハルカナ……!?
「ハルカナっ!」
ミズはリアをすり抜けて飛び出しハルカナを呼んだ。そこには壁に寄りかかり意識を失ったハルカナがいた。
「ハルカナ!」
近寄って聞こえてくるのは、「ス―……」、寝息。
「はぁ……」
ミズは安堵の声を漏らした。
「ね、私は話がしたいだけよ。私とあなたで話をすれば、大きく戦況が変わるかもしれない」
「……なんで僕なんだ? まるで、僕のこと知ってるみたいに!!」
ミズはリアの飄々とした態度に怒りを覚えた。
「……知らないわよ、あんたなんか。出会ったこともなわいわね。そんな瞳をする人間なんて、私は一度も会ったことない。なによその目、まるで自分が正義のヒーローみたいに!」
リアは黒目を真っ黒に染めて光のない目でミズを見下ろした。
「話がしたいだけじゃ、なかったっけ?」
その目を見たミズは戦闘態勢に入った。
「……」
2人は見つめ合う。
「そうよ、ごめんなさい。熱くなっちゃって……。これだけの損害を与えられるとは思わなかったから……。ネスの特攻隊長はコウテンの軍隊長ナイトを撃破しちゃったし……」
「ジャスかっ!?」
「ジャス? さぁ? 一緒に落ちてったって、コーネルの部下はカンカンになって言ってたけど。その怒りがなぜか私に向いちゃってるのも癪な話なのよねぇ……」
一緒に落ちた?
「許せないわ。その顔」
?
「ねぇ、決めてよ、話をするの? しないの?」
リアの顔は真剣そのものだった。リアにとってなかったはずの話をしない選択肢も出てきた。ミズは少し好戦的になったリアの殺気を感じる。
ハルカナのことを殺さなかったのは、僕との信頼関係をつくりたい証だろう。何かの情報を持っていると言うことだ。それを聞いてからでも遅くない。
いつだって、僕はこの女への警戒を怠ることはない。ハルカナを殺さなかったとて、誰も、この星の者はだれも信用なんてしない。
ミズはペンを胸ポケットにしまった。
「話をしよう。そのほうが、生産的だからね」
クス、とリアは笑った。
「生産的?」
「なんだよ」
「いえ、話を聞いて頂く機会をもらえて嬉しいわ。さ、あなたの見つけた出口が合ってるわ。出口であり、この城の地下への入り口でもあるこの鉄の扉。どうぞ、お先に」
リアは歪に笑ってみせた。
「いや、お前からだ」
ミズはぴくりとも表情を動かさなかった。
「そりゃ、そうよね」
そういうとリアはスッと扉の中へと入って行った。トン、と着地した音が聞こえる。
ハルカナ……。待ってろよ、すぐ戻ってくる。そしてそこは多分、安全な場所のはずだ。
ミズは後ろを振り返りそう言うと、意を決して中へと入った。
ガシャン……!!
重い音。
それにも動じない女が1人、目の前に立っている。
「で? 話って?」
「移動しましょう。見せたいものがあるの」
「ハルカナ……」
眠るハルカナにそっと手を触れる女がいた。
「やっぱりあいつ……、ミズのことずっとついてきてた。お、おかしい」
私と一緒! こっそりミズの後ろをついてまわってたら、いつもあの女の後ろを追いかけることになってた。渡さない! あの女、何か狙いがあるんだわ。
フラニーは残された取っ手を思い切りひっぱった。「うグ……」。重い……。
「うっ、がぁぁ……!」
ミズのことを頭に思い浮かべた瞬間、とんでもない力が発揮された。その衝撃でポロッと取っ手が外れた。「あっ!?」
ガバッと勢いよく開いた扉は反動で再び勢いよく閉まろうとしていた。やばい! もう力が入らない! その間をすり抜けるようにフラニーは中へと入った。
ガシャン……!
ドサッ!
カラン……
扉の閉まる音。フラニーが落ちる音。取っ手が落ちる音。
「……何も、ない」
落ちた部屋の中はしん……と静まり返っていた。
「はっ!」
フラニーは鼻をふんふん、と動かす。壁に手をあて、耳を当てる。
「聞こえたっ! ミズの足音」
フラニーの追尾はとまらない。標準は常にミズ。呆れるほど頼もしい限りだった。




