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30.ライラの不時着



30.ライラの不時着



 ビー ビー ビー

 警報が鳴る。ライラは丸い筒状の剣の柄のようにも見える己のコンパクトな武器を両の手にとった。シンプルであり近未来的にもみえるのは、宇宙の色らしいシルバーの光を放っているからかもしれない。

 服のポケットにもしっかりとペンをさした。実際、いちばん使いやすい武器はライラにとってはこの胸元の何気ない飾り物かもしれない。


「お……お前は……」

 ライラの前には黒い服を着た、見るからに温室育ちの衛兵が2人、銃を構えてライラを見ていた。

「……ここはどこだ?」

 ライラはダルそうに首を回しながら、そして体についた埃を落としながらその2人に近づいていった。

「とっ、止まれ! お前は誰だ!」

 そう言うと、一歩衛兵が後ろに下がった。

「フッ、お前が下がるなら俺が近づいてもいいじゃねぇか」

 ライラは不気味に笑った。

「きっ、貴様!!」

 

バチン!

 ドサリ


「ひっ……!」

 ライラは左手のシルバーホールから一発電気銃を放った。1人の衛兵はそれによる電気ショックであっけなく命を落とした。そして、もう1人の衛兵がその出来事に気を取られライラから目を放したとき、ライラはすでにその衛兵の後ろからシルバーホールをそのこめかみに押しつけていた。

「こんなしょぼくれた衛兵2人なんて、ずいぶん外してくれたじゃねぇか、アスレイは。まぁ、警報が鳴ってんだからこれから随分と人が集まってくるし、城内ってのは間違いねぇだろうけどな」

 独り言のように愚痴をこぼす。

「うっ……」

 全身から冷汗を流す衛兵にはなんの誇りも感じられなかった。正規軍じゃない。

「おい、キングのところに連れて行けよ。お前は、命が助かるほうを選ぶ男だろ?」

 天使の囁き。衛兵にはそう聞こえた。

「……、その保障は?」

「感じないか? 俺は、約束だけは守る男なんだ」

「どうせ、バレたら俺は殺される……」

「いや、このコウテンは沈む。終わりだ。キングも死ぬ。だからそこは問題ない。それに、こういうでかい城には幾つか隠れたルートがあるはずだ。お前らはそういうことをしないのか? ただこんな城の端でボケっと突っ立てるだけの日常かよ。にしても衛兵が2人とは少ないな」

 そこで、ある扉から人の足音が聞こえてきた。

「おい! シェルビー、なんの騒ぎ……」

 そこから、酒瓶こそ持っていないが、酒の匂いを漂わせた黒い服を着た男が数人入って来た。

「ほら、昼間っから酒飲んでらぁ、いい身分だな。あるだろ? 隠れて本命まで行けるところが」

「シェルビー……」

 男たちの酔いは一気に冷めたようだが、彼らにも実戦経験などはなさそうだった。

「隠し通路まで案内をしたら、後は自由だ」

 ライラとシェルビーと呼ばれる衛兵の後ろには死体が一体転がっている。男たちにはキングに命を捧げる気などないようだ。

「こ、こっちだ」

 ライラはにやりと笑った。


「ここは別に城の隅というわけではない。美術塔みたいなもんだ。公式舞踏会なんかはここで開かれる。お前がぶっつぶしたおかげで汚いが、よく見りゃ、芸術品の宝庫なんだ」

 酒の抜けた衛兵はなぜだか喋りだした。

「使ってないときの警備の薄さにはがっかりだな」

「所詮は飾られた場所だ。大事な物なんざ何一つない」

「星を冒涜するようなこというなよ。コウテン人が」


 ギギギ……。


「いかにもだな」

 1つの鉄のように重そうな扉が地下にあった。湿気が強い。

「ここが本塔へ繋がる隠し扉だ」

「なんだか気前がよすぎるな」

 こんなにあっさりと侵入したあげくこんなにあっさりと近道の隠し通路までみつけてしまった。

「……」

 ライラは自分が銃を突きつけている衛兵と、案内をしてくれていた他の衛兵を見た。全員の目はなにかの恐怖におびえていた。「?」、ライラは思う。

「何かしようって魂胆か? ここはお前らのホームだからな。この扉に入ったとたんに、ガスとか流したりすんのか?」

 ライラの言葉に、かすかに1人の衛兵の腕が動いた。その瞬間、ライラの手も動く。

 バン バン バン

 ドサ ドサ ドサ

「ひっ……! たっ、助けてくれ……!」

 ライラの手に収まっている衛兵は涙を流してそう言った。

「あ?」

 ライラは彼の顔に耳を寄せた。

「助けてくれるって言ったじゃないか!」

「お前と約束しただけだ。しかも、お前は嘘吐いたじゃねぇか、とんだ道草だ……」

 グシャッ…… ライラは衛兵を床に叩きつけ、シルバーホールをその体に向けた。

「……っその扉を進むと行き止まりになるのは確かだ。だが、あることをすればそこから出られるようになっている」

「あること?」

「シェルターだ。この場所はシェルターの役目も果たすし、牢獄の役目をも果たす。シェルターだから、この扉以外からも入れるようになっている。だが、そのあることってのは……、コウテン人にしかわからない」

 ライラは顔を歪めた。

「なぜそう言った?」

「はは……、ここまでは教えるが、そっから先は自分で考えな。どうせ、俺も殺す気なんだろ」

 微弱に震えるプライドが彼を少しだけまともな衛兵にみせた。

「約束は守ったさ」

「……」

 衛兵のプライドは揺れた。

「もう遅い。お前は俺を裏切った」

 バン!


「……っ」

 ライラは衛兵の頬をかすめるように外して撃った。

「もう一度問う、俺にはわからないのか?」

「ああ……人間にしかわからない」


 バチン!


「嘘つきが。どうみたって俺もお前と同じ人間だろうが」

 ライラは1人でその重い扉を開いた。

 ピション、ピション。

 随分と使われていない通路のようだ。水滴が通路の壁からじわりと浮き出ている。

「あいつら、まじでこんなシェルターしか作れないのか?とても近代的には見えねぇな」

 ライラは湿気を帯び、歩くと『ピション』と水の音がする通路をゆっくりと歩いた。警戒はするべきだろう。牢獄、もしくはシェルターとなる場所。『頑丈』であることには違いないのだろうが、いまいち納得がいかない。

 隠し通路。しかし近道ではない。結局、俺は騙されたのか。とんだ時間の無駄を食ったかもしれない、ライラは心底不機嫌そうな顔をしていた。

「わからない出口……ねぇ」

 かすかな望みを抱いて狭っ苦しい通路を歩く。自分の頭が悪いとは思わないが、あいつの言っている意味がわからなかった。『お前にはわからない』『人間にしかわからない』

 つまり、『コウテン人』にしかわからない、ということなのだろうか。では、ここはなんのための牢獄でありシェルターだ? コウテン人以外を閉じ込めるためだけの牢獄であり、コウテン人にとってはシェルターの役目をするもの。コウテン人以外のものには行き止まりであり、コウテン人にとっては近道となるもの。

「この星は、俺たち以外の星から攻められたことがあるのか? それとも別の種族でもいるのか?」

 ライラは呟いた。こういうことならアスレイやミズからもう少し情報をもらっておけばよかった、ライラはそう思った。頭の回転が早く、的確な指示もでき、知能指数も高いライラだが、勉強ぎらいの面倒くさがりだった。

 ピション、ピション、ピション、ピション……

「ん?」

 目の前に扉が見えてきた。

「なんだ? フェイクか?」

 この通路の終わり。ライラの目に、その扉の横に数字盤が設置されているのが見えた。

「暗証番号?」

 ライラはネスのペンライトをつけ、数字盤をよく見た。何か書いてある。


 解除 零 Ⅵ 弐 五 A K 

 なお、自動的にこの扉はロックされます。


「……」

 ライラはしばし言葉を失う。

 0から9までの数字盤。ライラはシルバーホールを腰のベルトに収め、ペンライトを握りしめた。そして、ゆっくりとその数字を素直に押す。


 0 6 2 5 1 1 3


 ピー 

 カチン


 扉のロックが解除された音が聞こえた。

「なんで開くんだよ」

 ライラは思わずそう呟いた。

「俺が言葉が読めないとでも思ってんのか?」

 そう言葉に出した瞬間にライラの頭に疑問が浮かんだ。コウテンの文字と、ネスの文字が同じ?

 いや、どうでもいい。とにかく出られるんだ。ライラはペンライトをしっかりと持ち、赤いボタンに手を添える。一歩足を外に出そうとしたが、そこでライラはその足を止める。頭上が騒がしかった。



 バタバタバタバタ……

「おい! 中央東だ! 美術塔に侵入者! 早く行け!」

「ビショップ! お前に任せる」

「ナイト。 白の団長に確認しろと我が団長からのお達しだ」

「いい! どうせあの女はでねぇよ。俺は本陣を固める」


「アザナル隊長!」

「なんだ!?」

「アザナル隊長! 姫君のお姿が見えないそうです!」

「はぁっ!?」

「ナイト。早く片付けてキングの守備位置につけ」

「うるっせぇな、わかってるよ! マジであの親衛兵どもぶっ殺してやる!」




 ……キングの守備位置。

「……あいつの後ろに続くか」

 ライラは黒の団服を着た。シェルビーの服。少し濃い黒だ。濡れている。だが、こんな事態になった今、それに気付く者などいないだろう。できるだけ影を歩きながらそれでも、あの男の後を追おう。ライラの行く方向は決まった。




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