28.交代(2)
28.交代(2)
「ふざけるな……!」
ライラはアスレイに向けて光線銃を放ちたくなった。
「ふざけてません」
ガガガガガ……。アスレイの機体とケイトの機体がこすれ合う。しかしアスレイのシールドは傷を負わない。
「お前……」
「いいでしょう? 機械班にも入れられたわけですから、自分の機体ぐらいイジリますよ」
「そうかよ」
ライラは少し諦めたように言った。こいつのこと苦手かもしれない。
「邪魔を……するな!!」
ケイトが至近距離からの砲弾をアスレイの腹に撃ちこもうとした。
「!?」
ピピッ すかさずアスレイはシールドを一点に集中させた。機体ははじけ飛び、再びケイトとの間に一定の距離ができた。
「お前……、イジリ過ぎだろ」
俺の機体が喰らってたら大破してたんじゃないのか? ライラは少し気に入らなかった。
「……別に。ちなみに、ライラ隊長の機体も少しイジっておきました」
「は?」
ウィン。ライラは目を疑った。アスレイの2本のか細いスピードの銃創が、フォルムを変えてロボットの手のような形となった。
カチン。
「おい、俺の後ろイジってないか?」
ライラは微弱の振動を感じ取る。
「ええ。座標を打ちこんでいます」
ピピピ、ピ。
「ちょっと待て、勝手なことするな! 戻れ!」
「大体……、ミズさんに応援呼んだのは誰ですか」
「何?」
「あんなことされたら、俺がこっちにきて、隊長があっちに行った方が効率がいいんですよ。俺の権限じゃミズさん動かせないし……」
あっち?
「ブースト、入れますよ?」
「は? お前さっきから何言ってるかわかんねぇんだよ!」
「ちなみに、ブーストのスイッチはメインコントロールパネルの裏にありますので。今後ご自由にお使い下さい。コウテンの王宮の中心に座標を合わせておきました。他の♠隊とは別のところへ向かうと思いますが、隊長なら大丈夫かと」
アスレイは淡々とそう言うと、座標盤を設置し終わったあとにその流れでブーストボタンを押した。
「おいっ……!」
グンッ、ライラの機体はまるで高度な技術を持った狙撃手から狙いを定められ放たれた砲弾のように勢いよく飛んでいった。
さよならの挨拶も何もなかった。
「クソッ……。アスレイ……っ」
ライラは自分にかかるGの強さを感じながら舌打ちした。
「……」
その間の時間は短いものだった。ケイトはぽかんとしたままライラを見送ってしまった。てっきり援軍が来て2機で戦うものだと思っていた。
「ちょっと……!」
『俺の方があなたとは相性がいいと思いますので』
『言うわね……』
でも……。ここで私が足止めを食らうわけにもいかないのよ……。
ケイトは唇を噛みしめる。
ドン!
「うっ!!」
「絶対に逃がしませんけど? 城へ戻りたいのなら、さっさと俺を倒すしかない」
旋回しようとしたケイトにアスレイは容赦なく砲撃した。
「僕ちゃんはぁ、すこーし勘違いしてるみたいねぇ。先を急ぐ今、もう一騎打ちじゃなくてもいいわ。少し彼と遊びたかっただけなんだけど」
ケイトの後ろに今まではいなかった白い機体が数機姿を現した。
「敵わないとわかったら増援ですか」
「……うるさいわね」
「ま、賢明な判断だ。しかし、命をかけて、俺はここで時間を稼ぐし、お前たちの羽根をもぎ取ることだけに専念する」
アスレイの声は深く深く心の奥底へと染みいるようなそんな空気を発していた。
「ルーク隊、たったの一機だ! 早く墜として城へ帰るぞ!」
―ジャスティーとイリス―
ガサガサ……。ガサガサ……。
「ん……?」
「お目覚めですか?」
「ジャスティー!?」
イリスは寝ぼけまなこをこすると、ジャスティーの顔を見るなり目をまんまるくした。
「なぁ、ここどこ?」
「ごめんなさい……。あなたの運転、なんだかとても気持ちよくて……」
イリスはジャスティーにむかって困ったように笑ってみせた、のも束の間だった。
「止まって!」
「えっ!?」
イリスはジャスティーのハンドルを取った。咄嗟にジャスティーはブレーキを踏む。
キキキィ……!!
「はっ、はっ……」
危ない……。車のすぐ目の前には大木が立ちふさがっていた。
「あっ、あぶねぇだろっ!」
「しっ!」
イリスはジャスティーの口を押さえた。なんだ? イリスは何かに警戒しているようだ。周りを注意深く見渡している。イリスはここの国のお姫様なのに、何を恐れているんだ?
「いないみたいね」
イリスはやっとジャスティーから手を放した。
「行き過ぎよ。途中で曲がらなくては」
「え?」
「ここは城の向こうよ」
「城の向こう?」
森の中を隠れて走行していたジャスティーにはいまいち境目というものがわからなかった。何かそれらしき風景の変化もなかったんだが……。
「蛮族が起きないうちに引き返すわよ」
「蛮族?」
「……なんで知らないの?」
「あっ、ああ、あのバンゾクね、あぶねーよな!」
ジャスティーは下手な芝居をした。
「冗談はよして。早く引き返して」
イリスの顔は真剣そのものだった。怯えている。「蛮族」というものに。何かの動物? わかんね。ま、関係ないことだな。
「だいたい、イリスが緊張感もなく寝るのが悪いんだろ」
「それはわかってます!」
甲高くイリスが叫ぶ。
「もう寝ませんから」
……。
「なぁ、大丈夫だって」
ジャスティーがなだめるように言った。イリスとジャスティーの目が合う。
「蛮族が起きてきても、なんででも、俺が無事にイリスを城へと送り届けるから」
ジャスティーは一瞬で曇ってしまったイリスの表情を和らげた。イリスは力なく笑う。
「ありがとう……」
「いえいえ。城までの警護が俺の……」
俺の……任務は、城の破壊じゃないか。
「ジャスティー?」
今度はジャスティーの顔が曇る。
「え?」
「どうしたの?」
「い、いや……」
「ちょっと遠くまで行き過ぎたわ。私、ほんとバカみたいに寝てたみたいね」
イリスが笑う。
「コウテン……の城に、帰るんですか?」
「当たり前でしょ?」
「……せっかく外に出たのなら……、どこか行きたいところとかないんですか?」
「何を言ってるの!? 今がどんな時かわかってるんでしょ!! 早く帰って、あなたも侵略者たちと戦わなくては!!」
イリスのキレイなブルーの瞳がジャスティーの震える瞳を捕らえる。
「……侵略者?」
「コーネルを撃ち落とした侵略者よ! あなたも見たでしょう? 彼はとてもいい人だった。白のナイトだったけど、彼は無意味な戦争を好むような人じゃなかった。ただ、私たちを蛮族から守ってくれていた、それだけよ……」
「違う!」
ジャスティーはブレーキを踏んで叫んだ。
「違う! 先に……コウテンが……」
「何?」
「……姫様には知らないことがあるんです」
ジャスティーはゆっくりと深呼吸を一度すると、心を落ち着かせ、エンジンをかけた。急がなくてはいけないが、スピードはあまり出さなかった。
「……私だから知っていることだってあるのよ……」
イリスはそれ以上は話をしなかった。
「王宮がいちばん安全だとお思いですか?」
「……」
「あそこは、きっと地獄になる」




