27.現る
27.現る
「うっ、うわぁぁぁ!」
ジャスティーは叫ぶ。必死にドアノブを掴んでいる。無意識だった。
「お静かに!! 隠密行動だと申しませんでしたか?」
イリスはいたって真面目にジャスティーを注意する。イリスとジャスティーはイリスの乗ってきた車で城へと向かっていた。
「いっ、いや……」
こっ、こわすぎる。ジャスティーの顔は車に乗ってから強張ったままだ。こっそり来たと言うだけあって道なき道を進んでいる。断崖絶壁。林に隠れてよくわからなかったが、なかなかの高度がある。それは、たまにその密林が開けた時に見える空、その景色でわかった。
「……!」
ガクン……!
「きゃっ!」
崖に沿う左の後輪が、脱輪した。
ジャスティーは声すら出せなかった。死ぬ……。殺される……。
「かっ! 代わって下さい! どうか俺に運転をさせて下さい。イリス様は俺に道を案内してくれればよろしいのでっ!」
ジャスティーは言った。はじめからこうすればよかったが、突然のコウテンのお姫様との行動はジャスティーの頭を混乱させていた。
「いいえ、わたくしが……。ここは道が悪く、こういうことはよく起こるのです。恐れることは……」
少し興奮気味のイリスのハンドルを握る手に、ジャスティーはそっと優しく手を置いた。イリスの手は震えていた。
「イリス、大丈夫。慣れてないんだろ?」
ジャスティーは少し笑ってそう言った。
「……!」
イリスの顔は赤くなる。図星だ。その顔を見て、かわいい、とジャスティーは思った。
「ぼっ、坊やだって慣れてないはずだわ」
意外と負けず嫌いだな。
「俺の名前、ジャスティーだってば。さ、代わって下さい。下っ端だけど、絶対イリスよりは上手いし」
「なっ! 失礼ですわ!」
「もういいじゃん、お姫様より運転下手かったらどうしようもないって」
ジャスティーはいつのまにか調子を取り戻していく。やっとハンドルを握らせてもらえそうだから。
「そ……そうですわね。下っ端でも、アヴァンネル騎士団ですものね」
イリスは少しふてくされた様子で何気なくそう言った。
ハタとジャスティーの動きは止まる。
「? どうしました?」
「い……、いえ……、そうですね……」
アヴァンネル騎士団……。
「もう! ジャスティー! 慣れない敬語はやめて! 紳士としては失格ですけど、友達としては大丈夫ですわ。私たちは秘密を共有しなければないないのですから、私を姫と思わないで下さい!」
「は……はい」
あまりのイリスの力強さに、ジャスティーはなぜか『はい』と自然に答えてしまった。そもそも、『お姫様』ってのもあんまりわかんないんだけどな、ジャスティーはそう思っていた。偉いんだよな、確か。
「イリス、もう着くか?」
「イリス?」
「スー……」
「えっ!?」
お上手なジャスティーの運転は、イリスを夢の国へと連れて行ってしまった。
「マジかよぉ……」
―♠隊―
『アスレイ!』
ライラから離れたバインズがランドバーグの後ろまで追いついた。
『もう抜けるか?』
『まだだよ、見りゃわかるだろ』
アスレイはバインズの通信に不機嫌に言葉を返した。バインズは少し首を傾げる。
『……』
アスレイもまた、通信を切らずにブツブツと独り言を言っていた。聞きとれない声で。
『アスレイ?』
ハルカナも心配になる。
一応順調に飛んでるけど……。ライラ隊長のことかしら?
『うん、やっぱりそうだよな』
アスレイは爽やかにそう言った。
グインッ
『わっ!』
アスレイは急転回して停止した。後ろに続いていたハルカナ、ミレーは間一髪で避ける。
「え? えっ!?」
ミレーはアスレイを通り越し、後ろを振り返りはどうすればいいのか迷っていた。止まるの? 止まるならなぜ指示を出さない?
『アスレイ!?』
バインズに前方で停止するアスレイが見えた。
『止まるな、バインズ。お前が先頭に立て』
『はぁ!?』
『ライラ隊長と代わってくる』
『え?』
『あの人がいないとダメだ』
アスレイはそう言うと、視線をおよそライラとケイトがいるであろう方向へとむけた。
『でも、私たちには……っ!』
ハルカナが叫ぼうとしたその時、
ズズン……。重い空気が漂う。
そして次につむじ風が舞う。
「あ……」
スピードは結局敵中に全機が止まってしまった。
『やっぱりピンチか』
場にそぐわない軽いその声が♠の皆に聞こえた。
「♠10」。機体にはそのしるしがあった。
『アスレイ! 大丈夫?』
『……はい。その機体は大丈夫ですか?』
『うん、とりあえずは』
『ミズさん、ライラ隊長から連絡が?』
『うん』
『やっぱり、あの人がいないと……。ここを離れていいですか?』
『もちろん、こっちは僕に任せて。アスレイ、気を付けてね』
アスレイはその言葉を聞くと、超速力でその場から飛び立った。あいつ……、絶対自分の機体だけイジッたな……。ミズはアスレイの後ろ姿を見送りながらそう思った。
『ミ……ミズ!?』
ハルカナたち皆の反応は遅かった。
『こんなに早い出番だとは思わなかったけど、こんなに早くコウテンに侵入できるとも思ってなかった。みんな、行くよ!』
『はっ、はい!』
ミズがスピードに乗って現れたことにより、♠の士気は一気に高まり保たれた。
『バインズ、後ろ頼む』
『了解!』
バインズは後退する。
「おい! さっさと行け! ランドバーグ!」
しかしランドバーグだけは相変わらず覚悟が決まらないようだ。
「お前を庇って死ぬのだけはごめんだ!」
心の底からの言葉をバインズはランドバーグに投げつけた。




