7話 テンプレ
新章が始まりました!
襲われている馬車を見つけたアラスは....?
さて皆さん、テンプレ。
というものをご存知だろうか?そう、俺の目の前に広がっている光景の事だ。
「おい!テメェ!!見やがったな!?お前ら、こいつをやっちまえ!!」
何と言うことでしょう。特S級危険区画である"死の森"から出てきた俺の、記念すべき初異世界人(師匠とリリィを除く)は盗賊だったのです!!
「ーーはぁ?いや、なんかさぁ、この世界俺に冷たくね?前の世界でももうちょっとマシな待遇だったよ、俺。何?もしかしてラファエールまだ怒ってんの?しつこいよ、しつこすぎるよ……あの日からもう3年も経ってるんだぞ…そんなんだからまだ独り身なんだよ……」
とブツブツ言っていると、彼らはいきなり襲い掛かって来ました。
(神様に結婚という概念が存在するのか?本当に彼女は独り身なのか?そんな事は俺も知らない)
〜少し前〜
ついに師匠の呪縛から抜け出した私は、そこそこ整備された道を、鼻歌でも歌い出しそうな最高の気分で歩いていました。
すると、森の方から叫び声が聞こえたのです。最高の気分を害された私は、眉を顰めながらも、この叫び声が女性のものであることに気付きました。
「あれ?これってフラグ立てのチャンスじゃね?」
おおっと、いけないいけない。ついつい声に出してしまった。この、思ってる事を声に出してしまう事も、私の短所の一つです。
最近痛い目に合ったばかりなのだから、少しは改善しなければいけません。あ、叫び声が大きくなってきました。
「ま、ここで助けないほど外道じゃないさ、
願はくば、可愛い子と会えますように……」
よし、戦闘前だし真面目な思考回路に戻そうか。≪万能の指輪≫の<完全索敵>によって捉えた人の反応は8つだ。
ーー反応は…どれも小さいな…いや、あれ?壊れてんのか?俺と同じくらいのサイズの奴がいる…!?
これは魔力の大きさで反応が変わる。頭の中に丸いレーダーのようなものが薄っすらと見えるのだが、これは魔力以外にもその相手の大きさなども計算に入れて、強さそのものを示してくれる。
まあ、師匠に破られた時点で<完全>の名前は返上だが。結局、何故師匠に反応しなかったのかは分からずじまいだった。いつか突き止めてやる。
地獄の修行で鍛えまくった俺に勝てる奴がいるとは思えないが、念のため≪紫水晶の魔眼≫を発動する準備をしておこう。(必要ないと思うが)なんにせよこんだけでかい魔力の持ち主のことも気になる……
「さて、この世界の奴らは平均的に、どのくらい強いのかなぁ〜?早速、試させてもらとするか」
その後、どうなったか?
それは冒頭に戻れば分かる事である。
〜元の時系列に戻る〜
「オラァ!ぶっ殺してやんぜェ!!イケメン君よ〜!しかも貴族みたいな格好してやがる!こいつは儲けもんだぜ!!」
と、ギャハギャハ笑ながら、5人の盗賊が一斉に襲い掛かってきた。最初は俺を見た瞬間に固まってしまった彼らだったが、俺が声をかけると直ぐに意識を取り戻した。一体なんだったのだろうか?
それにしても、イケメン君かぁ〜、いや、うれしいんだけど、こんな奴らに言われてもな………
どうやら、襲われていたのは中々の大貴族らしい。馬車が豪華過ぎる。全体的に白色で、所々に金の装飾がしてある。どれ程高いのだろうか?
もう生き残っているのは2人だけで、他の奴らは6人の盗賊に負けてしまったらしいが。
残りの2人は馬車に乗っているようで、性別は分からないが、可愛い女の子だったらいいな〜。と、一人ごちる。
そうそう、今襲いかかって来ている5人だが…はっきり言ってゴミだ。
「ウザイ、死ね」
それだけ言った俺は闘気を纏った手、腕、足で5人を瞬く間に片付けた。返り血は思ったより浴びなかった。運がいいな。
「弱過ぎじゃね……?」
いくらなんでも予想と違い過ぎる!武器を抜く必要すらないとか…
「な、何なんだお前は!?」
恐らく盗賊のリーダーなのだろう、それなりにいい体躯を持った男は、まるで化け物でも見ているかの様な目で俺を見てくる。
(あれっ!?ちょっと顔が赤い、まさかこいつ……気のせい、だよね……?)
いや、俺からしたらお前らは弱過ぎる珍獣にしか見えんぞ……!
「チッ…!いくら何でもこれはねえだろ……オイ!そこの騎士達はお前らがやったのか?」
俺の中では騎士って言ったらそこそこ強いイメージがあるのだ。俺の予想は強いモンスターに会った騎士達は、そのモンスターと相打ちになり、騎士達が全滅した所でこいつらが現れた。というものだ。
(妄想とも言う)
そうだ、騎士がそんなに弱い筈が無い!俺の頭脳は女神様が保証してくれてるんだ!
間違えてるはずが無い!!
「ああ、俺たちが殺ったが…そ、そんな事はどうでもいい、頼むッ!見逃してくれ!俺には待っている家族が居るんだッ!!」
な..何だとッ!?こいつらが殺っただと?
いや、もうこの脳味噌には余り期待して無かったし、そんな気も薄々してたが…騎士、弱過ぎじゃね?死んでる騎士はざっと9人は居るぞ……こいつら、6人の盗賊に負けたのか…ま、俺には関係無い話だがな。
自分は人を殺しておいて家族が居るからとか言って命乞いしているクソの首を手刀で切り落とす。人殺しに対する罪悪感は不思議と抱かなかった。そんな生温い心構えでは、師匠の修行についていけなかったのだ。
だいたい、こいつが殺したヤツの中にも家族がいた奴が居たはずなんだ。殺すのは構わないが、せめて勝者としての自覚を持てよ。
じゃないと、殺された奴らが惨めすぎる。
さて、気分を切り替えよう。返り血で汚れた体と服を水魔法と時空間魔法の複合魔法、
≪瞬間洗濯≫で綺麗にする。
先程死んでいる騎士の中に女性の騎士を見た。さっきの悲鳴が彼女の物だったとしたら女性が馬車に乗っている可能性が薄くなる。
馬車に乗ってるのは男か女か?
「さあ、どっちだ!!」
またまた悪い癖を発動させてしまった。だが、仕方が無いのだ!だって、気分が高揚してるんだもの!
と、考えて扉を開くと……
「死ねィ!!」
という掛け声と共に一人の女が切り掛かって来た。
「は?いや、何で!?」
という断末魔の叫び声と共に俺はぶった斬られた。いや、冗談では無い。マジで襲われた。
「痛ッ!ちょ、痛いよ君!!助けてあげたのに何でいきなり斬りかかるんだよ!!」
巫山戯んなよ!普通の人間だったら今ので間違いなく死んでたぞオイ!
あり得ねぇ!どうしてこうなった!?
と、頭の中で考えながらも、不思議と血は出ていない。そう、≪神魔の衣≫を着ている俺の体はどこも切れてはいなったのだ。とは言え、痛いものは痛い。くそ重い棒で思いっきり殴られたらどうなるだろうか?
痛いにきまっている!
とは思いながらも、俺は≪神魔の衣≫の防御力の高さに感心していた。すごいな…こいつは対魔法での性能の方が高いはずなのに……
一応、≪完成された吸血鬼≫の緊急発動はしていないはずだ。アレは、常に身体の状態を最高にしておく効果があるから、ただ痛いだけでも発動する危険性がある。
相手は女。俺も余り怖がらせたくないのだ。いきなり瞳の色が変わったら間違いなく怖いだろう。何と言っても俺は紳士だからな!!
とか考えていると、
「助けた?命乞いしている相手まで殺して何が助けただ!!相手は家族がいるとまで言ってたんだぞ!?」
うーん、かなりの美人さんって所だな。赤髪翠眼で、ポニーテールとは…可愛らしい組み合わせだな。うん。意思の強そうな瞳が、どんな性格なのかを如実に表している。
胸も十分にあるな。
にしても……こいつの考え方甘過ぎるぞ、だいたい、あの言葉が嘘だって事くらい丸分かりだろう。まあ、本当に家族がいた可能性も無いでは無いが。
……いや、気付いた時には家族を捨ててしまっていたオレにとって、『ソレ』は絶対の禁句だったのだ。 オレに対して、『ソレ』を理由にする。という行動を取った時点で、あいつの最後は決まっていた。
俺みたいなクズに会った時点で、なのかもしれないが。
それにしても、こんなアホみたいなヤツじゃ、師匠の修行に半日もついていけないだろうな……あの人は優男みたいな風貌の癖に、
ドSなのだ。
そんな事を考えていると、もう一人も出てきた。なんと!女の子じゃないか!!2人共女の子!!ゆ、夢じゃないよな?というか、この子だなでかい魔力の持ち主は!!いやまぁ、超絶弱そうだけど
一体全体どうしたって言うんだ世界よ…
正直、ちょっと怖いぞ……
ま、まあ、プラスに考えてみよう!リリィと同レベルの可愛い女の子が現れたのだ!
しかもラファエール似の!!
.....って、え?あれぇ?ラファエールだよね?最早、ラファエール似と言うか、ラファエール本人だよねぇ?え?
女神様、こんな所で何してんの??
「ダ、ダメですよエリス!命の恩人に斬りかかるなんて!大丈夫ですか?そこの貴方!?」
…うん、彼女とラファエールるは別人だな、よくよく見てみると彼女の身長は150cm程度しかないし、なにより胸がラファエールより小さい。まあ、十分でかい方だとは思うけどね!
(それにしても喋り方まで似てんな……)
「ああ、大丈夫だよ。死にかけたけどね!
もうちょっとで死んじゃう所だったけどね!!」
と、もしかしたら≪完成された吸血鬼≫が発動しているかもしれないから、と、保険として顔を隠していた手をどけながら言うと、
突然、2人は顔を真っ赤にして口をパクパク動かし始めた。あれ?ちょっとおふざけで死にかけていた事をアピールしただけなのに、ひょっとして怒らせちゃったのか?
幾ら何でも、心、狭すぎじゃね?
「お、おーい!どうしたんだ?2人とも顔が真っ赤だぞ!そんなに気に障ること言ったか?俺」
と話しかけて見た所、先程ラファエール似の女の子にエリスと呼ばれた赤髪赤眼の女の子が、
「お、お前の顔が刺激的過ぎるんだッ!か、顔を早く隠せッ!!」
とか言ってきた。
か、顔が刺激的すぎるだって!?幾ら何でも酷く無いか?いや、いくら俺でもあんまり馬鹿にされたら怒るんだぞッ!!大体!俺の顔は女神様に言わせたら最高…………あっ!
そう言うことか、カッコよすぎるからって事か、ふっふっふ〜!
いや〜、正直あの屋敷にいた時は他の2人が美し過ぎて顔は殆どコンプレックスに成り掛けてたからな、完全に忘れてた。
(あ、さっきのヤツは俺の美貌に見惚れて顔を赤くしたんだな。うん。そうに違い……ない、よね?)
それにしてもさっきまで殺そうとしてた奴の素顔を見ただけで殺気を収めるのはどうかと思うけどね?エリスとやら。
「すっ、すいません!失礼だとは分かってるんですけど、出来れば急いでくれた方が…」
と、ラファエール似の女の子にまで言われてしまった。って、お前は俺と大して変わらんだろう。と思いながらも左手で顔を覆い隠す。
(片眼鏡邪魔だな…)
「ーーこれでいいか?正直、顔が刺激的とか言われると流石にショックなんだけど……」
と、いかにも不機嫌ですよ〜、という声を出して見たりする。さっきは不発だったからな!悪く思うなよ!!
「す、すまん。別に悪い意味じゃ無くてだな……その…」
と、エリスが何かを言いにくそうに言葉を濁している。
「ん?その…何だよ?」
まあ、何を言いたいのかはだいたい分かっている。だが、俺は言わせたいのだ。何たって俺はドSだからな。こ、これは師匠に感化されたからであって真性じゃ無いぞ!
ホントったらホントなんだよ!
……っと、まあ、これ以上イジメても可哀想だし、何より話が進まない。
取り敢えず、あわわわわッという擬音がピッタリな状態であるラファエール似の女の子に声をかけてみるとするか。
「ねえ、ラファエール似のそこの君。とりあえず名前を教えてくれないか?」
あれ?いかにもナンパじみた声掛けになってしまったな。というか、ラファエール似とか言われても分からんだろう。
「え、ええっと……それって私の事ですか?それにラファエール似って…」
ま、まずい!変なやつだと思われたか!?
「ああ、ゴメンっ!ラファエールって言うのは俺の友達の名前でさぁ!何か雰囲気が似てたからついつい言っちゃったよ〜アハハハハ……」
「え、ええッ!?ラファエールという名前の知り合いが居るのかお前?良く生きてられたなぁ、その子」
やっと復活して来たエリスが、いきなり随分と物騒な事(?)を言ってきた。
「はあ?生きていられた?何言ってんだよお前?」
たかが名前ごときで大袈裟だなぁ、全く。
「ま、まさか知らないんですか!?ラファエール何て名前を付けたら、ラファエール教教徒に一族郎党皆殺しにされるんですよ!?」
ハ、ハハ……いや、何?ラファエール教教徒?じゃあラファエール教とかあんの?……そういえばあいつ…女神なんだったな……そうか…信徒とかいんのか、アイツに。
あ、あり得ん……
うーん、これはちゃんと知っといた方が良さそうだな……
「なあ、そのラファエール教についてなんだけどさぁーー」
▲▽▲
俺はこの後様々な事を聞きまくった。
ちなみに彼女たちの本名はラファエール似の少女のほうがラフィス・グランデールと言い、驚いた事にアルテール王国の四大公爵家、グランデールの次女なんだそうだ。ちなみに俺と同じ16歳!なんと目的地も同じで、王都の魔法学園に入学するために別居していた屋敷から馬車で移動していた途中だと言う。
赤髪緑眼のポニーテールの女の子のほうは
エリス・アルラルドと言い、中流貴族の出で、ラフィスの護衛役。護衛の為に学園には余り行ってなかったらしいが、一応学園の3年生だそうだ。
「それにしてもお前と目的地が同じだとはな」
やっとの事で一応の和解をしたエリスさんが、俺に話しかけてくる。
護衛の騎士たちを埋葬した後、俺たちは馬車で移動し始めた。ちなみに俺はラフィスに頼まれ、馬車の護衛をすることになった。何でも屋敷まで送ってくれればお父様に紹介する。との事。
まあ、正直、紹介とかはどうでもいいのだ。俺は2人と一緒にいたいだけ。
護衛の騎士達を埋葬する際、2人は静かに涙していた。それにしても、自分たちの護衛を殺した人の為に怒れるとは…エリスは優しい奴だな。俺には真似出来ない。
馬が死んでいなかったのは僥倖だった。あの騎士たちが守ったのだろう。≪完成された吸血鬼≫の<眷族化>を使って生き返らせてもよかったが、記憶を失ってしまうし、何より何か禁忌を侵しているようであまりいい気がしない為、やめておいた。
「はい。貴方方と目的地が同じだとは……私も驚きました」
「なあ、お前…その敬語やめないか?はっきり言って気色悪いんだが」
失礼な。俺の敬語が気色悪いだと?……そう言えば前に師匠にも言われたな…そんなに下手くそなんだろうか……?
いや!だが目上の人に対する敬意は必要だろう。俺はそこまで常識知らずではない!!
「いいえ、目上の人に対して敬語を使うのは当たり前です。まあ、どうしてもだと言うなら考えますが」
と俺が言うと、ある程度俺の素顔に慣れた彼女は、俺の目を真っ直ぐ見据えると
(いや、ちょっとキョロキョロしてるが)
ハッキリとこう言った。
「どうしても、だ」
こうして後ろで寝ているラフィス、俺、エリスの3人での旅が、今始まった。




