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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第4章 動き出す物語
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50話 アルメルのお願い

 あれから、2日が経った。皆、各々(おのおの)の修行を(とどこお)り無く完了させ、戦争の準備を済ませたらしい。


 いやまぁ、『らしい』という言葉を態々(わざわざ)使うのは俺が修行の監修を殆どせず、アリスのご機嫌取りにせっせと精を出していたせいなのだが……



 いや、やったよ!?最低限修業の方向性は示したし、手合わせだってしたし、カールだって無詠唱魔法をそこモノにしたよ!?みんな結構強くなってたし、実力も充分な域に達してたと思うよ!


 でもさ!アリスの奴が、全然機嫌を直してくれ無いから、気になって気になって……!


完成された吸血鬼(スクレ・ヴァンピール)』も相変わらず皆の前では発動し無いし、もう、散々なんだよ……!


 ……はぁ…不安だ……こんな調子で、大丈夫かねぇ…?


 ーーいやまぁ、どうにかなるか。多分。


さてと、話を進めよう。


 俺の目の前には、デカく、美しい藝術的(げいじゅつてき)な洋館がある。左右対称に造られたこの屋敷は、周囲の貴族の屋敷を遥かに上回る装飾を、天へと高らかに自慢していた。


 ここは、共和国の王族の別荘で、所謂(いわゆる)『大使館』と呼ばれる類の建物だ。他の奴らは皆仲良く貴族御用達の激励パーティーへ足を運んで……というか、ここの庭で開かれているパーティーに参加している。


 では、何故俺が一人大使館の玄関につっ立っているのかーー



 コンコン。



「アラス・アザトースです。御忍びでアルメル様の元に参上仕りました」



 暫くすると、ギィ…という音と共に扉が開いた。そこには、例の助手が突っ立っていた。あいも変わらず鬱陶しい亜麻色の髪を肩まで伸ばし、剣呑な表情で俺の事を見ている。というか、眉間に皺をよせてない状態のこいつを、俺は見たことが無い。


『いつも不機嫌な奴』


 それが俺の持つ助手へのイメージだった。



「アルメル様は先程休息を取るという口実でパーティーから一時退場なさった。話が出来る時間はそう長く無い。急げ」



 うるせぇこんちくしょう!なんでお前は何時も上から目線なんだよ!だいたい、俺は呼ばれて来たんだっつぅの!お客様として扱えこの野郎!



 ーーとか、言っても面倒な事になるだけだよな……



「分かった。ジョシュア・レネメード殿。急ぎ案内願いたい」


「こっちだ」



 そう言って助手は屋敷の中を歩き出した。メイド達が両脇に壁を作り出している。何処もかしこも、上品な赤色で包まれていた。暖かい、屋敷だ。


 後ろで、2人のメイドが扉を閉めた。

 助手の後に続く。



「わざわざパーティーの主催者がそのパーティーを切り上げてまで、俺と話しがしたいとか、買い被られたもんだな」



 暫く歩き、メイド達が見えなくなった後、俺は面倒な畏まった口調をやめて話しかけた。両脇の壁には金の額縁に入れられた様々な絵が飾られている。


 この屋敷に飾られる程なのだから相当な出来なのだろうが、その辺の知識に疎い俺には、絵の具をぶち撒けただけの絵に見える。



「アルメル様の本気の一撃をお前は無傷で止めたと伝え聞いた。ここ数日の手合わせでも分かった事だがーーお前は、常軌を逸して強い。だから、アルメル様はお前に誰よりも期待しておられるのだ」


「へー」


「……気の無い返事だな」


「いや、お前が俺と話をしてるってのに声を荒げ無いからな。珍しいな…と思って」



 またまた角を曲がる。一体、何時になったらつくのやら。この手の屋敷はいつもそうだが、会うまでに滅茶苦茶な時間がかかる。恐らく焦らす事が目的なのだろうが、はっきり言ってウザったい事この上ない。早く、用事をすませてエルフィの手料理を食べたいものだ。



「別に、もう、明後日には戦場に立つのだからな。精神を乱す訳にはいかないと考えているだけだ」


「そりゃ殊勝な心掛けだな。でもーー多少は強くしてやったが、あんまり調子に乗るなよ?お前は良くも悪くも優秀だ。そして、秀逸止まりだ。(はしゃ)ぐとーー死ぬぞ」



 ーーいやまぁ、アルメル姫殿下様の護衛を任される程度には強いんだけどなぁ…なんか、物足りないんだよ。弱いってわけじゃ、無いんだけど。



「ーー分かって、いる」


「そうか。ならいいよ。先に言っとくけど、アルメルはお前の事を本当の本当に大事な人間だと認識している。アルメルを護りたいなら、まずはお前が死な無い事だ」


「……感謝する。部屋に着いたぞ。俺はもう行く。ーー呉々(くれぐれ)も、妙な気を起こすなよ?」



 え?妙な気?一体何をおしゃっているのか分かりませんね。当然、部屋で二人きりになった瞬間に……ゲフンゲフン。なんでも無いですとも。多分。



「妙な気を、起こすなよ!?」


「約束は…出来ませんね」


「約束を、しろよ!」



「ーーーふぅ………そんくらいで、いいんだよ。気負うな面倒臭い。気を張り詰めていても、弱い奴は弱い。逆に、強い奴はそんな風に緊張する必要はない。お前は、『強い奴』の域に片脚を突っ込んでるんだ。心に、余裕を持て」


「そう…か。分かった。でも、変な気を起こすなよ!」


「約束………………しよう」


「信用出来無い!」


「はいはい。アラス嘘つか無い」



 ま、本当に襲ったりはしないよ。

 色仕掛けでも仕掛けられ無い限り。



「んじゃ、行ってくる。盗み聴きしようっても、俺は直ぐに分かるからな」


「……わかった。出来るだけ早く済ませろ」



 その言葉を境に、助手は屋敷の闇へと姿を消した。少しでも気が紛れたならいいが…微妙だなぁ……


 コンコン。漆黒の扉を2回叩く。中々に精緻な彫刻が施してある分厚い扉で、様々な四角形が複雑に絡まり合い、掘られた溝には溶かした金が流されている。



「アラス・アザトースだ。入れろ」


「アルメル・シル・セルエトが許可してあげるわ…」



 そりゃどーも。


 俺は部屋に入った。元々こいつが生活している部屋とは別物だろう。『少々味気ない客間』。そんな感じがした。


 部屋には天蓋付きのベッドに、机、2つのソファー、本棚など、とってつけたような家具が点在していた。


 俺はズカズカと部屋に入り、アルメルの正面のソファーに腰をかける。アルメルは深紅のドレスを着、いつも通りその黄金の髪をツインテールにしている。天上の絹のように柔らかいそれは、ソファーの上に2つの渦を産み出していた。


 駄々をこねる子供のような表情をしているせいだろうか?いつもより、童顔に見える。



「……で?何?元気が無いみたいだけど」


「元気、出ると思ってるの?そんなわけ……無いじゃない」



 さいで。



「愛しのジョシュア君に慰めて貰ったらどうだ?」


「じょ、ジョシュアはそういうんじゃ無いわよ!!」



こりゃまたあからさまな……これで隠せてるつもりなんだろうか?



「はいはい。で?この私目(わたくしめ)を呼び出しなさったのは、一体何用があっての事でしょうか?ーーって、(うかが)い申し上げているんだけど?」


「……本国では…既に、戦争が始まったと、昨日の夜に報告を受けたの…」



 昨日の夜……か。この世界の情報伝達手段は馬を使って手紙を届ける程度の発展しかみせていない。共和国からこの国までの距離を軽く見積もっても、戦争が本格的に始まったのは2日前。ソフィーナに心臓を突き刺された日だということになる。


 俺に今日御忍びで屋敷に来て欲しいという手紙が届けられたのは昨日、迅速な対応だな。


 それにしても、それはーー



「かなり…きつい、な」


「うん…じゃなくて、ええ!そう、まずいのよ!」


「いや、別に『うん』でも、『ええ』でもどっちでもいいけど、無駄に大人ぶっても仕方ないだろ」



 お前に短気でガキっぽい所があるってことは、初対面の時にすぐ気付いたし。



「まぁ、お前の国には冒険者ギルドの本部があっただろ?冒険者の助力があれば、そこまでの問題でも無いんじゃないのか?ほら、冒険者は自分が生活している国で戦争が起こった場合、助力する義務があったはずだろ?」


「全然大丈夫じゃ無いのよ!あの決まりは、魔界との戦争時にしか効力を発揮しないんだから!!」


「……………っえ?そうなのか?え?いや、え……?」



 完っ全に初耳なんだけど。っていうか、俺、普通にその決まりを計画の中枢にぶち込んでたんだけど……え?じゃあ、共和国が単体で保持してる戦力って、クッソ少ないんじゃ……



「や、やっべぇ……」


「え?し、知らなかったって言うの!?常識でしょう!?そもそも、戦争というのは人界と魔界の間で起こるものじゃない!?人界の国同士が戦争をするなんて、歴史上でも数える程しかないんだから!!」



 ーーああ常識よ、お前はいつも邪魔をする……



 って、そんな常識知らねぇよ!!

 ギルドで説明を受けた時『魔界と〜』なんて条件は出てこなかったよ!



「ーーはぁ…ふぅ……よし。落ち着いた。まぁ、それでも多少は協力してくれているんだろ?冒険者」


「本当に、『多少』ね。ーー私が貴方をこの場に呼んだのは、他でもないわ」



 アルメルは、それまでの巫山戯た雰囲気をなりに(ひそ)めた。いやまぁ、巫山戯た雰囲気を生み出してたのは俺なのだが。



「成る程、そのおっぱいを揉ませてくれると」


 『成る程、俺に重要な話があると。』


「おっ……!?も、揉ませるわけ……!!!」



 あ、やべ、本音の方が出ちゃった!!いや、だってそのドレス、メッチャ胸元開いてるじゃん!?お、俺は悪く無い!おっぱいが持つ魔性の魔力が悪いんだ!!!



 ーーアルメルは、そのまま『無いでしょうが!』と続けようとした自らの口を閉じ、顔を真っ赤にしてモジモジし始めた。可愛い。何なのだろうか?小動物的な可愛さで、俺を煩殺するつもりなのだろうか?


 よぉし、かかってこい!

 寧ろ、かかってきてください!!



「ーーそ、その、貴方が戦争をどうにかしてくれたら、か、考えてあげなくも、無いわ!!」


「………………」



 こ、これはーーい、色仕掛けだ!間違いない!あのガキっぽいアルメルが、国を救ってくれるなら身体(からだ)を差し出すとか言ってるんだ!!


 ーーって、共和国に災厄を(もたら)したの、俺じゃん……流石にその条件は飲めねぇよ…

 にしてもーー



「ジョシュアは?あいつはどうなる?」


「じょ…ジョシュアの事は関係無いじゃない!!」


「はぁ……無いわけ、無いだろ。俺はさっきまで彼奴(あいつ)と一緒にいたが…かなり、気負っていたぞ。あいつ、今回の戦争でデッカい戦果を上げるつもりみたいだ。断言は出来ないが、恐らく間違いない」


「そ、そうなの…?で、でも…」


「身分違いの恋ーー然も、両想いってか。そんな女が差し出した身体なんて、好き勝手出来るわけねぇだろ。報酬は後々どうにかしてもらう。取り敢えず、あいつが馬鹿な気を起こさないように忠告するんだ。いいな?」



 手柄を上げる必要が、あいつにはあるのだろう。それは分かる。でも、死なれては余りに目覚めが悪い。腰を少しあげ、より深くソファーに身を沈める。ギシリと、重たい音がした。


 悩ましげな表情を浮かべるアルメルは、どこか壊れかけの人形を思い起こさせた。



(うれ)いを覚えるのも分かるんだけどなぁ……何か?あいつには、屍の山を築き上げる程の実力があるのか?敵将の首を討ち取る程、戦乱の中を進める運があるのか?それらが無いとして、何だ?あいつはどうやって手柄を立てる?」


「ジョ…ジョシュアならきっと……!」


「ーーお前まで……期待してるってなわけか。まぁ、俺も他人の色恋沙汰に首を突っ込むほど野暮じゃない。ただ、戦場のど真ん中でロマンティックな愛憎劇でも演じて見ろ。死ぬぞ」



『死ぬぞ』



 そんな物騒窮まりない言葉を吐いたのが、本日2度目だと気付く。アルメルは今にも泣き出しそうで、ドレスの裾を皺が出来る程握り締めていた。



「ジョシュアに……忠告…して、おくわ」


「はぁ……諫言(かんげん)は、したぞ?」



 どうなっても知らんぞ。マジで。



「ーーで、話を戻そうか。俺に話って、何?」



 アルメルは、俺がその言葉を口にした瞬間に表情を一新した。か弱い恋する乙女から、民衆を(うれ)いる気丈な姫へと。自然と、部屋に静謐(せいひつ)な気配が漂う。



「貴方の事ーー信用しても、いいのよね?」



 ………あぁ、うん。まぁご(もっと)もな疑問だわな。出会って大した時間も経っていない、謎の男。しかもそいつは最近人界を騒がせている『紫水晶の魔王(サタナ・アメティスト)』ときた。


 裏切られるかも…?


 という不安も、一際(ひときわ)なんだろう。



「まぁ…いいんじゃね?信用出来るかどうかって聞かれても、なぁ……」


「そ、そんな曖昧な答えじゃ困るわよ!!」


「困るとか、言われても、なぁ……」



 困るのは、どちらかと言うとこっちの方だ。別に、俺はこいつの味方でも無ければ、共和国に対する罪悪感から行動する訳でもない。


 というか、今回の戦争に関しては人界そのものの問題だと認識している。魔界と友好的な関係になる事が困る帝国が戦争をどこの国に吹っかけようと、俺の責任じゃない。問題の芽を摘み取らずに放置した阿保共が悪いんだ。


 じゃあ、ラファエールに依頼された『例の3事案』に関連する事象なのか?と、問われれば首を横に振るしかない。


 別に、現在進行形で勃発している戦争を止めろだなんて、あの女神様には頼まれていないのだから。


 俺はーー(ひとえ)に、ランドに頼まれたからこの戦争に参加するんだ。他に何らかの理由は必要ない。出来るだけ、戦地での死者数を減らす為に片側の兵を潰して回る。


 ただ、それだけ。


 まぁーー



「俺は、強いよ。心配する必要なんてない。裏切って帝国に寝返る可能性は0だと断言できる。ランド達にあんな事をした奴らを助けてやろうとは、小指の先ほども思わないしな」


「……なら…いいわ」


「ま、精々期待してーー」



 そこ、だった。そこで俺は言葉に詰まった。唐突に、先日ソフィーナが言っていた言葉が心臓の奥に栓をした。



『戦争、きっと厳しい戦いになるけど、死んじゃだめだよ』



 ーーあいつは、俺が不死だと理解していた筈だ。



 獣のように動き回る敵の太腿を正確に撃ち抜く技術が如何程(いかほど)のものなのか、暗器を多用するあいつには、分かっていた筈だ。


 暗い、雨粒を全身に受け、去り際のソフィーナの事を思い出す。小さな頭に合わない大きなフードに、溢れるほどの金の髪。煌びやかに星を讃える美しい瞳ーー


 ゾクッ…!と、肌が粟立つ。背中に空洞が空いた感覚がする。思考に銀色の釘が突き刺され、全てがぼやけていくーー



『死んじゃダメだよ』

『きっと厳しい戦いになるけどーー』



 そんな言葉が、脳髄をグルグルと掻き回した。



「ーース!……トース!アラス・アザトース!!!」


「えっ?あっ、はい?」


「はい…って、どうしたのよ!急にボーっとして!!」



 そうか…俺、ボーっとしてたのか……はぁ……なんだか、眠いな……それも…耐えられ無い、くらい……



「眠い」


「は、はぁ!?」


「もう寝る」



 天蓋付きのベッドへと歩み寄り、ばたりと前のめりに倒れる。

柔らかいベッドは、まるでマシュマロのようだ。




 アルメルの(やかま)しい叫び声を聞きながら、俺は闇夜の世界へと旅立ったーー




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