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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第4章 動き出す物語
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46話 接触

鬱陶しくも雲の束縛を逃れ、顔を再び覗かせた太陽を仰ぎ見て、俺は本日数度目のため息をついた。


ーーカールに弟子入りを志願されてから3日。


あれからは修行の日々が続き、カールに続いてリューク、エリス、ジョシュアにも稽古をつけた。


女の子には戦場は似合わないと、エリスに対しては散々忠告したのだが、結局熱意に押され、ジョシュアに関してはお前なんぞに指事されるのは嫌だが、姫様が言うのだから稽古をつけさせてやるという生意気な小言を言われ続け、俺はストレスが積もりに積もって雪崩を引き起こす寸前にまで達していた。


しかし、俺がため息をつき続けているのはそれらのストレスが原因なのではない。


負けたのだ。

そう、アリス・フランチューレに。

つまり、あのアリスに、コテンパンにされたのだ。

3分の1の力の制約を解き放ち、それなりに全力でやったのに、それでも負けた。

戦いの最中、何故か、彼女らが見ている前では『完成された吸血鬼』の発動が出来なくなってしまうという事に、俺は気付いた。


今までは心の中で『完成された吸血鬼』、発動。

と、そう唱えるだけで当然のように効果を示していたものが、突然凍結したかのように発動しなくなってしまった。



マジでヤバイ事になったぞ…



俺はそう心の中で呟き、道端の石ころをちょんと蹴り転がした。


ーー鼻がピクリと動く。

香ってくる、お腹の虫の動きを活性化させるうまそうな匂いに気付いた。

どうやらアリスに負けて数刻、既に、太陽が広大な空の丁度真ん中に鎮座する時間帯になっていたらしい。


彼奴(あいつ)らはもうそろそろ剣を振るうのをやめて飯を食ってる頃だろうな…


と、そう考えながら手元にある一枚の紙を凝視する。

書いてあるのは鎧や剣など、戦で必要になる武器の類。

俺は、決闘の末、ついに珍しくマジ切れしたアリスにお使いを任せられているのだ。


あんなに怒るアリスを見たのは初めての事だった。

まあ、今になって考えてみれば怒りもするだろうと納得がいく。


剣での斬り合いでは隙を突かずにわざわざ剣そのものを狙い、体制が崩れたアリスを蹴り飛ばす寸前に足を止め。

挙句の果てには攻撃魔法に弱っちい防御魔法で対応してぶっ飛ばされ、戦闘訓練終了だ。


もしも俺がアルフレッドにこんな事をされれば、ブチ切れてあの屋敷を破壊している。

手加減とはつまり、侮辱なのだから。


やっちまったな…


と後悔するが、時既に遅し。

後で謝りはするが、許してくれるかは分からない。


取り敢えずアリスの言いつけ通り、貴族の中でも一部の人間しか知らない、最高レベルの武器を取り扱っているという武器屋に行って、皆の装備を買い揃えなくてはならない。


はぁ…腹減ったな…飯食いてぇ…そもそも、アリスとはいえ女相手にそんなマジになれねぇよ…


そんな事をぼやきながら、平民街と貴族街の丁度境目にあるというその店へと進む。

地図は貰ったのだが、ミミズがのたくったように下手くそな絵で描かれている為、読めたものではない。

ある程度勘を用いて行くしかないだろう。


しかしまあ、『ネロエスの花屋』という店の右隣にあるとは聞いている訳だし、最悪それを頼りに辿り着けるだろうと算段する。


現在地は平民街であるため、レンガのようなもので舗装された道ではなく、裸の地面が多くの影を背負ってどっしりと構えている。


その中を歩けば当然注目されるのだが、今日は土煙がよく立ち上っているため、≪神魔の衣(ディオブロ・クロイツ)≫のフードを被っていてもそう悪目立ちする事は無かった。


ジャリっジャリっ


と、荒い砂を踏んだ時のあの感触が足の神経通じて脳まで伝わる。

何故か安心感を与えてくれるそれも、この暑さの中では鬱陶しいものでしか無かった。


とんっ


と、そんな音と共に背中にぶつかるものがあった。

一体なんだと振り返る。

其処には、驚くほど大きなフードを被り、長い黄金色の髪を惜しげなく垂らした、女性がいた。


体つきは豊満だと表現出来るもので、事実、先程も背中に柔らかい何かが当たっていた。


しかし、顔は見えない。

頭を覆い隠して余りあるそのフードは、いっそ見事までに視界を遮り、それ故に当然、放たれる雰囲気から察する事の出来る、さぞ美しいのであろうその顔を女神のヴェールの内に隠し込んでしまっていた。


「ああ、ごめんごめん。ぶつかっちゃったや」


聞こえてきたのは、思っていたよりずっと陽気な声だった。

抱擁感があり、とてもじゃないが、こんな大きなフードで顔を隠している怪しげな人物の声だとは思えなかった。


ーーまあ、フードで顔を隠しているのは俺もなのだが。


「いえ、僕も道を急いでいて、周囲への注意が散漫でした。貴女こそ、お怪我はありませんか?」


「はは、大丈夫だよ。見ての通り、こけた訳でも無いしね」


「そうですね。それは良かった。ではーー」


その後には当然、先に行きます。という類の言葉が続く予定だった。

しかし、女性の驚くべき行動によってその声は遮られた。


ーー絡めてきたのだ。腕を。


いまアラスの腕は、女神ラファエールのそれと同様レベルの神なる谷間に挟まれ、沸騰した血液と共に、天国の象徴であるかのような幸せをが脳髄を襲っていた。


「ーーえっ?えっ!?」


と、驚く俺を無視して、その女性は有無を言わせず「一緒に行こう!」と声を張り上げた。


頭が正常に働かない。

全くもって意味の分からない状況だ。

道端で女性とぶつかる→二、三言言葉を交わす→魔性の胸を押し付けられる→一緒に行こう!



………マジで、意味わかんねぇぞ………



「あの…そうは言われても行き先が違ったり…」


「同じ方向だよ。ボクの勘がそう言ってるんだ」


ユミルに続き、2人目の僕っ子の登場に、俺は目をパチクリさせる。

そもそも、勘が告げているとはどういう領分だ。

そんな不確定なものを確定的に信じ、それを人に堂々と言うとは、なんと言うか、先程から訳の分からない女だ。


何より、先程かチラホラと視線が集まりだしているているこの状況はまずい。

もしもアラス・アザトースが名も知れない町娘と腕を組んで歩いていると知れれば、情報収集能力に恐ろしいほど長けているアリスの耳まで1日の間を置くこともなく届き、謝るどころか絶交されてしまう可能性も出てきてしまう。


「分かった。いや、よく分からんが一緒に行こうじゃないか。なんでもいいから、早く移動しよう」


「ボクはレディーなんだよ?いきなりそんな雑な口調にされると傷ついちゃうな…」


「ワカリマシタ。イキマショウ」


「片言じゃないか…まあいいや。ボクはソフィーナ。ソフィーナ・ゼルチュナーっていうんだ」


その名前に疑問を抱きながらも、無理やり魅惑の谷間から腕を引き抜いた俺は、手を乱暴に繋いで歩き出す。

ソフィーナが言うには、ネロエスの花屋に行く途中の、お忍びの貴族なのだとか。


それにしても、『ソフィーナ・ゼルチュナー』……何かの書類で読んだような気がするな…なんだったっけ?


「ほら、ボクの言った通りだったでしょ?君の行き先はエネループの武具屋。ボクの行き先はネロエスの花屋。行く方向が同じどころか、隣同士じゃないか」


「ああ…そうだな」


「ボクはレディー」


「エエ…ソウデスネ……」


どうしても片言になってしまう。

アリスとは何かが少し違うが、かなり似通った、俺の苦手とする面倒な女だった。

年は18との事だが、身長が低いことと声の高さから、接していると同年代の少女だとしか思えない。


それからはどういう状況かもよくわからずに暫く歩いた。

歩けば歩くほど、人気の無い、裏通りへと近づいて行く。

舐め回すような、粗暴な視線をぶつけられている事に、俺は先程から気付いていた。


「はぁ…これだから此処には一人で来たくなかったんだよね…いやらしい視線を向けられるのは、面白いものじゃないや」


「成る程…確かにここは、女が一人で来ていい場所じゃ無いな…ですね」


「まあね。幾ら貴重品を扱っているからって、此処まで深いスラム街に店を置くことは無いだろうに…」


「ん?貴重品を取り扱ってるなら貴族街の方が安全なんじゃ無いのか…と、思うのですが…」


「君はバカだなぁ…」


「なっ、なんだとッ!?」


「こんなスラム育ちの雑魚共、そこそこ腕のたつ人間だったらチリでも捨てるように倒せるだろう?貴族街で本当に貴重なものを取り扱ったら、下級貴族が金儲けの為に腕のたつ傭兵を雇って襲ってくるじゃないか…あのアラス・アザトースも、頭までは完璧超人というわけでは無さそうだね」


「ん?んん…そういうものなのか…?それにしても、俺はお前に名を名乗って無い気がーー」


「着いたよ」


言われた通り、目の前を見ると古ぼけた、風が吹けば崩れてしまいそうなくらいボロボロの店の前についていた。


「本当に、これが…?」


「外見だけだよ。カモフラージュなんだ。内装はちゃんとしてるし、魔道具だらけでちょっとした貴族の屋敷並の防衛力だよ。じゃ、ボクは薬草を買って待っておくから、君も買い物を済ませて早く出てきてね」


そう言って、謎ばかりの少女、ソフィーナは斜めに傾いたよれよれのドアを力付くでこじ開け、入っていった。


「何なんだよ一体…」


そう呟いて、俺も店へと入った。


背後では、土煙が轟々と激しく音を立て、闇を包み込んでいたーー




▲▽▲




店を出る。

買い物自体には大した時間はかからなかった。

メモ通りのものを大量に買い込むと、気の良さそうな筋骨隆々のおやっさんがニコニコ顏を崩し、「戦争、気をつけて行ってこいよ」と、その顔に似つかわしくない心配そうな表情で気遣ってくれた事だけが、印象に残った。


「おっ、やっと出てきた。まったく、遅いじゃ無いか。紳士はいつだってレディーより1日早く行動するべきだよ?」


「幾ら何でもそれは早すぎる!!」


「ボクはレディー」


「早すぎる…です」


「じゃあもう一軒行くところがあるんだけど、ついてきてくれるよね?」


その質問には答えず、俺は空を仰ぎ見た。

知らず知らずの内に随分と時間が経っていたようで、日が傾き、空が茜色に染まっている。


正直、余り遅くに帰ると怒られそうで嫌だったが、このちょっとだけ仲良くなった少女をこんな場所に一人放って帰れるほど、俺は薄情では無かった。


「はぁ…分かりましたよ…何処へでも、着いて行きますとも…」


「流石は紳士を自称しているだけの事はあるね。それじゃあ、行こうか」


そう言って勝手に手を繋いできたソフィーに、俺は逆らう事もせずにされるがたまついていく。


ーーにしても、こいつの前では一度も紳士を自称した事なんて無いんだけどなぁ…?


陽を覆い隠した分厚い雲は、全てを冷たく凍えさせ、徐々にその色を濃いものにしていった。


ーーどれだけ歩いただろうか。

既に周りに人影はなく、付き従い、されるがまま引っ張られて歩いていた俺には、現在地がどの辺りなのか、全く分からなくなっていた。


怪しく光る街灯の光のみを頼りに、歩く。


ぽちゃんと、横を通る用水路から音がした。


雨か…?


すぐに次弾が続き、本降りでは無いものの、それなりに強い雨脚となった。

前をいく少女は歩みを止める事なく進み続ける。


「おい、雨が降ってきたぞ。まだ着かないのか?」


「いや、もう近いよ。もう少しだ」


「一体どこに向かってるんだよ…店を出てから1時間以上経ってるぞ…」


「短期は損気、だよ?ほら、もう見えてきた」


「……?いやいや、何も見えないじゃないかソフィーナ。一体何が見えるって言うんだよ…」


周りは雨音に包まれ、闇に飲み込まれた街並みが輪郭のみを映し出している。

両の脇にはボロボロになった小さな家々が立ち並んでいるだけで、何処にも店などというものは見えなかった。


先程と同じように、外見だけを取り繕った店なのだろうか…?


「ああ、やっと着いた…全く、もう少し近くに設置しておけば良かったな…」


「ん?着いた?設置…?おいソフィーナ、お前、一体何を言ってーー」


「はは、『地獄につながる結界に』、着いたって言ったんだよ。ボクはね」


ーー瞬間、周囲の魔力が一瞬で禍々しいものへと変わったの分かかった。

周囲の風景がボロボロの家々から、全ての光を反射する白い空間へと変わっていく。


欠けていたパズルの一ピースが、空から降ってきて、完成間近のパズルへとハマったような感覚を覚えた。


そうだ。

ソフィーナ・ゼルチュナーといえば…


「『殺人姫(チュエ・ラ・プリンセス)』か……!!!」


「全く、気付くのが遅すぎるよ。じゃ、サヨナラだね。オツムのゆるい、怪物さん」




そんな軽い言葉と共に放たれた肉厚の銀のナイフが、謎の魔力に押さえつけられて動けない俺の心臓を、ドスリという鈍い音と共に、貫いたーー




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