5話 出会った師匠
5話を投稿します!
俺は今、あり得ない事態に直面していた。
本来、俺に気付かれずに俺の後ろに立つ事は不可能なはずなのだ。
何故かというと、≪万能の指輪≫という、
神器のスキルの中に、索敵系のスキルがあったためである。そう、神器による索敵なのだ。俺の後ろに立てる道理はない。俺の後ろに居るのはどんな奴なのだろうか?
只者ではないのは間違いないが…神器のスキルを無効化するようなスキルでも持っているのか ?先程聞いた声からでは男か女かさえ分からなかった。
「おーい、聞いているかい?そこの坊や」
優しげな声で俺に話しかけてくる。不思議とその声を聞くと安心感が湧いて出てくるな.……
っていうか、
「坊や?私の事ですか?」
そう俺はこれでも身長が173cmあるのだ。
坊やだなんてあり得ない……
って、そうか、今の俺はアラス・アザトースだったな。ラファエールの話しによると俺の肉体年齢は13歳。大人からしたら、十分坊やと呼ばれる年齢だろう。
案の定美しい声の人は不思議そうに、
「そうだけど……?」
と返事をした。
まあ、13のガキが自分が坊やと呼ばれる事に違和感を示す光景はなかなかにおかしな物だっただろう。そういえば、まだ振り返っていなかったな。顔を見ないで話をするのも失礼だし、振り返るか。
そう考えた俺は、予想以上に身長が高かった声の相手(…いや、恐らく男なのだろう)
を見上げるようにして見た。
!!??……ッな、なんだ?この美しさは……!!
金髪金眼の中性的な顔立ちをした、何故か儚げに思える男が、そこにいた。男の美しさは饒舌に尽くし難く、最早、現存する言葉で説明するのが不可能な領域にあるだろう。彼が横に立てば、たったそれだけで、いかに美しい物でも色褪せて見えることは間違いない。
俺は今、今日1日の出来事の中で最も衝撃を感じていた。ーーいや、ラファエールの前例があるため、本当は2番目なのだが。
「あ、ああ、すいません。少々寝ぼけていまして…あの、貴方はここに住んでいるんですよね?」
いや、間違いなくそうだとは思うけど一応確認をしておく。
事実確認は大事なのだ。
「うん。そうだよ。それにしても君のような子供がこんなところに一人で居るなんてね……」
ん?違和感を感じたぞ?なんか引っかかる言い方だな?そんなに辺境の地なのか?
ここ。
「こんな所....ですか?実は私、気付いたらここにいまして...ここが何処だか分からないんです.....教えてもらえませんか?」
「うん。勿論だよ。でも、壁の外は危ないからね。家の中で話をしようか。」
特に断る理由もないな。
「はい。分かりました。」
そう言った俺に優しく微笑みかけると、彼は門を開け、中に入って行った。よし、俺も行くぞ!と威勢良く入ったみたものの、中に入った俺は直ぐにあっけに取られてしまった。
豪邸。まさに貴族の屋敷そのもののような建物が目の前にあった。まさに豪華絢爛。ここまで外見が美しい家を、俺は始めて見た。
壁の中にあるのに、何故かここは光で満ちている。不思議な光景だ。
ここまででかいと管理費とか凄いだろうなぁ。と、庶民じみた事を考えていた俺は、
「さあ、入って」
という彼の言葉に促されるまま、屋敷に入った。
「美しい……」
自然と、そんな言葉が口から出ていた。壁には様々な絵画が飾られており、その手の事に詳しくない俺ですら相当な名画が描いたのだろうと予想を付ける事が出来た。
そんな俺の言葉を聞くと彼は嬉しそうに満面の笑みを作る。
「どうだい?自慢の屋敷なんだ。かなり力を入れてあるんだよ?」
「凄いです…こんなに美しい家を見るのは初めてです。」
俺のその言葉を聞くと、彼はますます嬉しそうに笑った。
(子供の事が好きなのか?)
アラスは、彼がただの人間じゃない事に薄々気付いていたが、何と無く悪い人じゃない気がしていた。
(とは言っても、まだ完全に信用できるって訳じゃあ無いがな)
そんな事を考えているうちに、ついに部屋に到着した。一つの部屋に到着するまで約5分……この屋敷でかすぎじゃね…?おそらく客間なのだろう。幾つかのソファーが一つの机を中心に向かい合わせて置いてある。どれも随分と高そうな代物だ。
力を入れている。その言葉は本当なのだろう。
………メイドさんは…居ないな。
くそッ!見て見たかったのに…リアルメイドを……
「さあ、座ってくれ」
「はい」
彼の言葉通り、彼と向かい会うように座る。そのソファーの座り心地は天にも昇る様で……って、なんでもかんでも褒め称えていたら切りが無いか。
「自己紹介がまだだったね?僕の名前はアルフレッド。この家の家主をしている。君の名前は?」
「私の名前はアラス・アザトースです。気付いた時にはここにいて、それ以前の記憶はありません。」
まあ、嘘だというのはアルフレッドにもバレバレだろう。何たって自分の名前が分かってる癖に記憶がないとか言っているのだ。怪しいにも程がある。
とはいえ、いちいち説明するのも面倒だし、我慢してもらおう。
それにしても、名前だけて家名が無い…?
偽名……なのだろうか? いや、本名なのかもしれないし、何の証拠も無い言いがかりにすぎないが…こんな屋敷に住んでいて、貴族じゃないとは思えないんだが……?
まあ、俺は家名があっても貴族じゃないんだがな。その事を考えると、そんな事もあるのだろう。と思えてくる。 不思議だ。
なんでラファエールはアザトースなんて家名をつけたんだろうか?
「ヘェ〜記憶が無いのか。それは大変だねぇ。そう言えば近くの草原が紫水晶化していたんだけど。何か知らないかい?」
明らかに君の記憶が無いってのは嘘だよね?と、言わんばかりの視線を感じる。
まあ、そうだろうな。 この人がその程度の事に気付く事が出来なかったら、逆に少し驚いてしまう。これの事を心理学用語でロス効果だと言っていたんだったけか……?
いや、少し違うか。
それにしても、これはミスったな。草原を元に戻すの忘れてた。
とは言っても、あんなことが13歳の子供に出来るとは思わないだろうし、信用できないうちは、出来るだけ事実を隠蔽しておくべきかな?まあ、後でちゃんと元に戻すが。
「いえ、知りませんね。紫水晶化とは...不思議な事があるものですね。それより、ここがどこなのか教えて頂ければ有難いのですが……」
「そうか…知らないか。じゃあ仕方ないね。よし、じゃあ当初の目的である、ここがどこなのかっていう説明を始めようか、ここはねーー」
▲▽▲
「ーーっていうことなんだよ。分かったかい?」
「はい。ありがとうございました!」
彼の説明によると、ここは人界で指定された、特S級危険区画という所で、"死の森"という場所らしい。東に少し言ったところにアルトという町があり。更に東に行けばアルテール王国の王都があるとか。
東に少し……か、この人、頭良さそうだけど常識は無さそうだしな…本当に『少し』なのだろうか?
不安だ。
「そうか、それは良かったよ。アラス君はこれからどうするんだい?」
そう、それが問題なのだ。俺は正に一文無し。恐らく、この年じゃどこに行ってもろくに仕事をさせてもらえないだろう。
当然だが。
うーん。いきなりお金が問題で壁にぶち当たるとか…なんか現実的過ぎてロマンがないな……ってかあの女神ある程度の金は渡してくれよ!忘れてたんじゃねーだろーな!?
「いえ…お金も有りませんし、行く当てもないです....ホントにこれからどうしましょう……ハァ…」
いけないいけない。ついつい溜息をついてしまった。それにしてもお金も無ければ行く当てもないとか……前々から思ってたけど、
ちょと難易度高すぎじゃね?
俺のニューライフ。
「へぇー、そうなのかい?じゃあ、この家に住んで見るっていうのはどうだろう?ついでに剣の扱いや、魔法の制御とか、かなり後々役に立つ事を教えてあげられるよ。特に君のその4つのユニークスキル。それの扱いは難しいんじゃないかな?それにしてもユニークスキルを4つも持っている子を見るのは初めてだよ」
「……なッ、何でそんなことアンタが知ってるんだよッッ!?」
思わず椅子をガタガタいわせて立ち上がり、叫んだ俺は思い切り後方へ跳んだ。
いや!特S級危険区画なんて場所に住んでるんだから、この人が普通じゃない事は殆ど確定的だったけれども!俺がこの人に会ってからまだ30分しか立って無いんだぞ!?
ーーアルフレッドが座っている椅子が、ギシリと音をたてる
当然、俺はそんな事この人に言ってないしな……この人、実は俺が思ってるよりずっと危険な人なんじゃ……?
だいたい、俺はユニークスキル≪変幻自在≫でスキルを隠蔽してるはずだ。もし相手のスキルを知る方法があるとして、そんな物は通用しない筈………って、
まだ俺スキルの隠蔽してねーじゃん!!俺がドジ踏んだだけじゃんかよ!!!
ってか、この身体、頭脳明晰って嘘なんじゃ.....さっきから細かい所でミスしまくってるし。
ちなみに≪変幻自在≫は
スキル改変 変装 身長操作 物質変化
声帯変化
という、実に変装に便利なスキルだ。
「おお〜、アンタ、かぁ。いいねぇ調子出て来たんじゃないか?アラス君。君は敬語よりもそっちの喋り方をしてる方が自然でいいよ。まあ、君の疑問も当然だよね。特別に答えてあげるよ」
「もう気付きました。説明は要りません」
「へぇ〜、思ったより頭が回るみたいだね。で、どうだい?僕は才能のある子を育てるのが好きでね、16になるまで僕の弟子にならないかい?」
(思ったよりって何だよ。バカにでも見えたのか?……違うよね…?)
まあ、確かにいい話ではあるだろう。ここで乗る以外の選択肢は無いだろうな。多分。
「…分かりまし……いや、分かったよアルフレッド。これから俺を鍛えてくれ」
「おお、いきなり呼び捨てかい?アラス。まあ、僕は別に構わないけどね。じゃ、これからよろしく。早速だけど、この屋敷を案内しようか」
「分かった。これから、よろしく頼む」
この時、俺はまだ、ただただ幸せな日々が訪れる事に対する希望を、捨ててはいなかった。この選択のせいで地獄を見ることになるとは……
ああ、神よ!
貴方はどんだけ私の事が嫌いなのですか?
マジで勘弁してください!!