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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第4章 動き出す物語
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42話 旅立ちの準備と報告

 あれから、ちょうど一週間が経った。


 ブリューセル一家で行われた、ランド一家を送る送別パーティーは誰が予想していたものより遥かに大々的な物となり、話によると王族の方々も忙しい中出席したとの事だ。


 政治的な思想がふんだんに塗り込まれたそのパーティーは、それ故華々しさも増し、当初グランデール家が負担する予定だった予算では足りないということで、現代国王が懐から少なくないお金を散財したという話しまで俺の耳に届いていた。



 ザパァ〜ン…ザパァ〜ン


 と、小気味のいい音がすぐそばから聞こえる。

巨大な岩が積み重なって出来た海岸に、波が押しては引いていった。


 ここはアルテール王国の最西端。

 人界から一直線で魔界を結んだ場合、最も最短距離となる場所。


 ーーそもそもアルテール王国は先の人魔大戦において最も激戦となった場所であり、死んだ者の多い土地だ。


 普及が進み、戦後の傷跡を殆ど消し去ってしまった街の中心地点での行動を主に取っていた俺からすれば、そこは実に新鮮で、生々しい戦争の後を残していると印象ずれられる場所であった。


 足元を見ると、幅0.5ユル(m)にもなろうかという切り傷が5ユルもの距離に渡って刻まれていた。

 相当に剣の腕が立つ闘気使いの付けたものだと、一目で分かった。


 他にも火魔法によってだろうか、岩が溶かされていたり、何か巨大なものによって削り取られたような跡が点々として見える。


 俺にはただ、激戦区だったんだなぁ…と、一体何人の、人や魔族がここで亡くなったんだろうか…?

 と、感慨深げに考える事しか出来なかった。


 空は遠く、陽の光は巨大な何かに遮られて、首筋のみを照らした。


「なあ、アラスくん。しっかり話を聞いているのかね?」


「ああ、すいませんゴルドーさん。ここに来たのが、初めてだったもので…」


「そうか…確かにこの辺りにはまだ、あの戦争の名残がよくみて取れるな。このような所でブリューセル一家の方々とお別れをすることになるとは、何か、不思議な縁を感じるな…」


「はは。全くですね」


 と、そんなたわいも無い会話を眈々と交わす。

 ラフィスもアリスも、エリスもユミルとカールさえも船への荷物運びを手伝っているが、俺はゴルドーと2人、船着場にて何もせずに待っておくようにとランド本人に頼まれた。


 特に恩が深い2人に荷物運びなどさせられないとの事だが、俺にそういうランドの表情には、不思議な優しさがあった。


 本来ならここにいるはずだったラフィスの姉であるフィラミニアさんは、またしても持病の再発によって倒れ込み、あの屋敷(城)にて別れを済ませたとの話しだ。


 俺は再三に渡り直して見せようとゴルドーさんに語りかけているのだが、流石にこれ以上貸しを作られてはラフィスを君に託すだけではすまなくなると、ゴルドーさんは貴族の威信とやらにかけて断り続けている。


 しかし密かに、本当に危ない状態になったら秘密裏に直してしまおうと考えている。

バレなきゃいいのだよ。君。


 ーー実に意外な事に、あの豚への処罰は未だに決まっていない。


 各国による話し合いが幾度となく交わされたが、事態は俺の想像以上に重い展開に進み、このままでは魔界の第一位魔王が収める地にて、大規模な公開処刑がなされる事になりそうだとランドに教えられた。


 公開処刑という裁き方について俺は余りいい心象を持っていない。

 普段は無慈悲な俺も、「流石に犯罪奴隷くらいにしてやればいいのに」とぼやいた所、犯罪奴隷になるくらいなら公開処刑された方がマシだろう。お前は本当におかしな事をいう奴だな。と笑われた。


 一瞬で終わる公開処刑と一生に渡りこき使われ使い潰される犯罪奴隷ならば公開処刑の方がましだとの考え方らしいが、その2つではやはり公開処刑の方が非人道的な気がした俺は、はははと苦笑いを返した。


 何にせよ、一度手を離れてしまったのだ。プタ・テプールの件については、最早どうしようも無い。

 哀れだが、あの豚がケミルさんにした事を思えば、とても助けに行こうとは思えなかった。


「アラスさん!やっと荷物運び終わりました!ほら、褒めて下さい!撫でて下さい!もっと言えば舐めて下さい!」


「何を!?」


「あははは。顔を真っ赤にして…可愛いですね〜アラスさん?」


「可愛いですねじゃねぇんだよ…ゴルドーさんがビックリするだろうが!」


 先程までてんやわんやと騒ぎながら船に様々な荷物を運んでいた皆は、疲れを露わにして船上から降り始めている。

 自分達から進み出たというのに、結構な事だと俺は思ったが、そこに悪感情は無かった。


 途中、船旅のための物資を運んでいた数十人の海兵達がアリス達に自分たちが代わりにやると進言したが、誰一人として首を縦に降るものはいなかった。

 それを見ていると、自然、俺の頬は緩み、気分が高まったのを覚えている。


 ちらりとゴルドーさんを見ると、アリスの言動に驚くでもなく、やれやれ、君も大変だねという表情で俺を見ていた。

 どうやら、アリスが俺に求婚しているという話しは耳に入っているらしい。


 まあ、あれだけ其処彼処で堂々とあのアリスが求婚していれば嫌でも耳に入って来るものなのだろうが。


「いや…アラス君はホンマに羨ましいなぁ…アリスお嬢様がこんなに心を許す相手なんて、そうそうおらへんで」


「五月蝿いなオルド。風紀委員長の仕事はちゃんと済ませたのかよ?一昨日行った時には山のような書類が3、4つ鎮座してたじゃ無いか」


「はは…いや、聞かんでぇな。ホンマに」


「アリスお嬢様!貴方の部下が堂々と職務をサボってますよ!いいんですかー?」


「駄目ですよオルド。アラスさんの言う通りです。今すぐ学園に帰って書類仕事をして来て下さい」


「堪忍してぇな……」


 地面に頭を擦り付けて頼み始めそうな声色だったため、流石に言及するのをやめる。


 遠くを見ると、船を上り下りするために設置された巨大な板で出来た坂の前で、ラフィス、エリス、そしてユミルがブリューセル一家と会話をしていた。


視線を元に戻す。


「それで?ランド達が発つのは後どれくらいなんだ?」


「そうですね〜まあ、せいぜい30分もすれば出港すると思いますよ?何ですかアラスさん、淋しくなっちゃったんですか?」


「違ぇよ。厄介事が消えて清々すると思ってんだよ」


 ははは。素直じゃ無いですね〜というアリスの声が、何時もより数段ウザく聞こえた俺は、返事を返さずランド達の元へと歩き始めた。

 慌ててアリスとオルドがついて来る。


 ゴルドーさんは、船上で船長さんだろうか?長い髭を生やした剛毅そうなオヤジさんと会話をしている。


 巨大な船だ。全長は80ユルを超え、横幅も50ユルを超えているだろう。

見渡す限り全ての物が太陽を遮られ、巨大な影に覆い尽くされている。

 船に乗っている乗組員達は、ここからだと米粒のように小さく見えた。


 始めて目にした時から気付いていたが、この船はガリオン船に形状が似ている。


 ガリオン船とは黒船などの蒸気機関船が作られる前の大型遠洋船の基礎と呼ぶべき船で、大航海時代後半(ワン○ースの話では無い。史実だ)各商会(東インド貿易会社など)の競争が激しくなったおり、速度と戦闘力を兼ね備えた船として大量に生産されたものだ。


 有名なものを上げるとすれば、フランシス・ドレークが世界一周に使用したゴールデン・ハインド号が一番に上がるだろう。


 しかしこの船は決して誰もが知っているというほど有名ではなく、読者諸君にガリオン船を身近に感じてもらうには、この船が1600年代の日本でも生産されていたという事を書き記すべきだろう。


 有名なものを言えば、1607年、徳川家康の命令によって作られたサン・ブエナ・ベントゥーラ号。

 また、1617年、伊達政宗の命令によって作られたサン・フアン・バウティスタ号などがあげられる。


 ちなみに、田中勝介など日本人22名を乗せたサン・ブエナ・ベントゥーラ号が日本で始めてアメリカ大陸に到達し、上陸したと言われている。


 更に言うと、かのパイレーツ・○ブ・カリビアンにて登場した一部の巨大で、偉そうで、高そうな服を着た奴が乗っていた船はこのガリオン船である。


 このように、知らないようで馴染み深いガリオン船。

 くだらない知識を大量に有している俺は、一瞬で目の前の船がガリオン船に酷似していると気付いた。


 この船は海戦においても広く、長い間使用された。

 細部は異なるものの、目の前の船が大規模な戦闘用に作られているのは考えるまでも無かった。


 この王国の重鎮達はこの船出の本当の意味を知っているのだと妙な不安と、安心感を同時に感じた俺は、すぐに周囲の海を見渡す。


 幸いにして、俺が頼んでいた通り周囲を囲む護衛船は一船も無い。

 最後の最後までもっと多くの船を出したいと王国側はランドに伝令していたが、俺は確固として断り続けるようランドに言明していた。


 エメラルドグリーンの海は、白い光を反射させ、船底に透明なまだら模様を作り出していた。


 この船の乗組員はおおよそ2、300人。

 その全てが歴戦の海兵達だ。

 屈強な体を薄い、白を基調とした制服に身を包んだ彼らは、協力して、自分たちの身の丈程もある物資を軽々と運んでいる。


「なんで、ここまでの戦力を用意してるんやろか?これやったら軽い戦争くらい、引き起こせるんとちゃうか?」


 と、ランド達の所まであと少しの距離で、オルドがいった。


『戦争』


 その言葉に過剰な反応を示した海兵は、オルドをギロリと睨みつけ、黙らせた。


 彼らからしたらそれは笑顔で軽々しく口に出せるような発言では無い。

 まして、今は聞きたくも無い単語だろう。


 怯えるオルドと、軽く慰めるアリスを置いて、俺はランドへと声をかけた。


ランド達に近付くと、ラフィスやエリスが手を振って来た。

当然、俺もそれに答える。


ランド達の目の前まで行くとブランが「わー!アラス叔父ちゃんだ!!」と叫んで抱きついて来た。

「僕はまだ叔父ちゃんと呼ばれるような年齢じゃ無い、お兄さんと呼びなさい」

と、何時ものようにゲンコツを落とす。


なおも叔父ちゃん叔父ちゃんとからかってくるブランを、困ったような目で見ながら、俺はランドに話しかけた。


「もう、そろそろだな」


「ああ。世話になった」


 その2言だけで会話が途切れる。

 気を使ってくれたのか、ケミルさんが他の皆を引き連れて船内を見学しに行かないかと話題を切り替えた。


 他のみんなも気を使ってくれたのだろう。あのオルドですらも茶化すことなくケミルの後を追った。


 それを2人して見ていた俺とランドは、皆の姿が壁へと消えたのを境に、お互いを正面から見れるよう、体を動かした。


 最近、調子はどうだ?というランドの言葉に始まり、魔界ではどんなことをするのかなどまで会話に花を咲かせた2人は、ある会話を境に、パッと言葉を閉じ込めた。


 それはそう、『家族』に関する話を、俺がうっかりと口にしてしまった時だったかもしれない。


 波打ち際から響く音は、妙に大きく、海兵達がお互いに出す指示の声は、不思議と遠くから聞こえた。


『家族』

 今思えば、アラスがあの時救いの手を差し伸べてくれたのは、その問題が『家族』に関するものどったからなのでは無いかと、ランドは感じていた。


 あの時、その言葉を聞いた瞬間に、アラスの落ち着き払った瞳は荒波を生み出し、視界からランドその人を追い出したのだ。


 何を見ているのか、何を感じているのかは、大して気にならなかった。

 突然現れた襲撃者を助けるべきか見捨てるべきか、ただ吟味しているように思えたのだ。


 しかし、実際はそうではなかった。

 いや、予想でしか無いため、確実にそうだとは言えないが、ある種の確信をもって、ランドはそうであると断言出来る。


 彼は自分たちにある一定の年齢からの記憶が無いと、そう言い、他の者たちにもそう伝えているという。

 だが、それは真っ赤な嘘なのだろう。


 自分達が家族団欒を享受し、その幸せを分け与えるように、微笑みを向けると、この齢16の少年は決まってバツの悪そうな笑みを浮かべるのだ。


 それは別にランド達を「こんなに浮かれて、愚か者だなぁ」などと嘲るようなものではなく、寧ろ、羨望の色が色濃く伺えた。


 そして彼は決まってこう言うのだ。『少し気分が優れないから、お暇させて貰うよ』と。

 彼に親しいものはそれを悼ましげに見つめ、目を背ける。

 何も知らないのが悔しいと、何の手助けもしてあげられないのが辛いという、そんな表情が脳裏から離れない。


 いつからだろうか?

 ランドは、彼に対し、不思議な感情を抱くようになった。


 それは例えるなら巣から巣立とうと必死に羽を伸ばす雛鳥を見つめる親鳥。

その小鳥は誰よりも大きく、力強いが、誰よりも臆病で、傷付きやすかった。

 

 歳は250以上離れ、種族も違う。

 しかしランドは、自分で気づけてしまうほどの大きな感情を身の内に秘めていることに気付いた。


 それはあの日、あの目を見たことが原因であったのかしれない。

 話題に出そうとすると困ったような顔でその話は辞めてくれと、出会った日から今日まで言われ続けたあの『紅い眼』。


 それは紛れも無くあの魔族を、吸血鬼を象徴する特徴の一つであった。


 感じるのだ。

 金曜の早朝。

 魔族そのものの巨大な魔力を。

 それを放っているのが、アラス・アザトースだと言うことを。


ランドは生唾を飲み込み、この数ヶ月と数週間の間溜め込んでいた感情を曝け出そうと、小さく、だが確実に下唇を重力に任せた。


「なあ、アラス。お前ーー」


ーーその時だった。


ザッザッザッザッ


と、まるで、いつの日か聞いた、軍隊の行進時に響くあの音を、争いの始まりを告げるあの音を、俺とランド、そしてその周囲に居た大勢の海兵達が耳にした。


その音は周囲に響き渡り、反射し、威圧感を増幅させて行く。


近い。

寧ろ、こちらに、向かって来ているかのように感じる。


音の主が、遠くの壁を曲がり、一直線に此方に向かっているのが見える。

人数はざっと30人余り。

予想したよりも人数が少なかったのは、その規則正しい行進ゆえ、音が重なり合っていたためだろう。


身構え、武器をとる海兵達を嘲笑うように近付いてくる彼らは、やっとの事で船内回りを済ませ、外へと出て来たアリスとラフィス、そして何事かと船を降り、駆けつけて来たランドを見た瞬間に止まった。


「報告します!」


4重の壁となり、此方を威圧的に見渡す彼らの中から、一人の、最も巨大な鎧を来た男が一歩前に出て言った。


ランドは慣れた様子で返事を促す。


ーー後になって聞いた話だと、彼らは王国専属の報告隊で、戦場だろうが何処だろうが必ず情報を届けるエキスパートなんだそうだ。


一歩前に出た男の敬礼をした手が、小刻みに震えているのが見て取れた。

表情は鎧兜のせいで見えないが、恐らく青ざめているのだろう。

それは彼だけではなく、その後ろにいる誰もがそのような様子だった。


ただならぬその様子に、誰もが息を潜めた。

彼の口がゆっくりと開き、震えた声で二の句を継いだ。


「エリゾーナ共和国にて、ナベリウス帝国からの進軍による被害があったとの報告!急ぎ援軍を寄越してくれとの連絡がありました!ランド殿は急ぎ王城へお越し下さい!緊急会議が…緊急会議が、開かれます!!!」






ーー空気が、凍った。





ついに物語が動き出す!


ここから長くなりますが、どうか暖かく見守って下さい!

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