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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第4章 動き出す物語
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39話 幻影の魔女

ついに、100PVアクセスを突破しました!!!


皆さんのお陰です!

これからもよろしくお願いします!!!

 エルフィによると、幻影の魔女は学園から南側、俺が進んだY字路の、もう片方を進んで5軒目にある、他よりも数段大きな研究所に住んでいるという。


 何も知らずにあそこまで行くとか…俺、天才じゃね?

 と思った俺だったが、Y字路で


『こっちに何かある気がする…』


 とか何とか言って全く持って真逆の方向に進んだことを思い出し、一人でに赤面した後、今回の件は誰にも自慢しないでおこうと誓った。


 ーーエルフィが何故『幻影の魔女』の研究室の場所を知っていたのかを尋ねると、俺の予想以上の反応に目を丸くし、悪戯っ子のような笑みを浮かべたエルフィによって長々とした説明がなされた。


要約すると、


『学生区を散歩するとナンパされるので、普段、研究区を散歩するようにしているのですが、一昨日の夕方、他の研究所より一回り大きい研究所の前で、ご主人様のご紹介で面識のあったルークさんにたまたま会い、何をしているのかと聞くと、『幻影の魔女』に用事があったんだ。と答えられたんです』


 との事だった。

 ルークの事だ、少しは授業に出たらどうかな?

 と、学校に来るように促していたのだろう。

 S'aに授業参加の義務が無いとはいえ、一切授業に出ないのでは学園の生徒である意味が無い。

 ルークの主張も当然のものだと言えるだろう。


 そうそう、あの後、エルフィがエリスさんに会ったという話も聞かせてくれた。

 どうやら、エリスの謹慎処分が解けたらしい。


 挨拶くらいしに来てくれてもいいだろうと思ったが、どうせ学園に来るのだ、学園で会った時に挨拶をしようとするのが当然だと考え、その嫉妬に似た、よく分からない感情を沈めた。


 エリスの謹慎処分について、以前単位制の高校に通っていた俺は、今まで一度も学校に来たことの無い生徒は普通退学処分なんじゃ無いのか?

 とヘレンに問うた事がある。


 その時のヘレンの弁によると、何でも、エリスは毎度、試験の際には学園に来ていたのだとか。

 まあ、良く良く考えれば新入試験の成績が幾ら良かろうと、一度も学園に来ない生徒がAクラスに居続ける事は出来ないだろうと思い当たる。


 それにしても、ゴルドーも危険な賭けに出たものだ。

 もしもエリスを尾行されてしまえば、ラフィスの現在地は容易に悟られてしまうというのに……まあ、エリスの今後の人生の事を考えれば、当然の選択とも言えるが。


 そういえば、何とこの学園、3年生までの単位は金で買えるのだそうだ。

 この事について、俺は大して驚きもしなかった。

 前の世界でも、金で単位を買う事の出来る高校や大学があることは知識として知っていた。


 有名な私大の医学部合格を目指す友人の話では、受験の際のテストの点を金で買うことも出来るというのだ。

そもそも、私大の医学部のテストの配点基準が酷く曖昧なものであることは有名な事なんだとか……

 正直、眉唾ものの話だとその時は思ったが、今思えば、私大なんかはそんなものなのかもしれない。


 ーーこの学園は貴族だらけなのだ。その程度の事は大して不思議でもなかった。

 だが、それではエリスが謹慎処分となった事に疑問が残る。


 では、何故エリスが謹慎処分を課されたのか?


 それをヘレンに問うと、エリス自らが申し出たのだと答えられた。

 成る程、そういった所に細かいエリスならば、そう考えるのにも違和感は無い。

 筋の通った話だが、もしもそう言ったのがエリスでは無く、俺だったとしたらこう簡単に話は纏まらなかっただろう。

 なんせ、サボる為の口実にしか聞こえない。


 ーーそんな事を考え、密かに物悲しくなった俺、アラス・アザトースだった。


 さて、と。

 ついに『幻影の魔女』御用達の研究室を発見した俺は備え付けられた数段の階段を軽やかに登り、コンコン、と、ベージュ色のドアをノックした。


 エルフィの説明通り、この研究所は他の研究所より一回り、少し過剰な表現かもしれないが、二回り大きいと言っても遜色はないだろう。

どこもかしこも白で統一されている学園内外とは違い、それぞれ一人一人に与えられた研究所には個人の特性が現れる。


 当然の事だが、研究者一人一人に一戸建ての研究所を贈呈出来るほどの資金も、土地もこの島には存在しない。

この島で得られた資産は王宮に送られ、税として奪われるし、ちっぽけな一つの島に土地が無いのは言うまでも無いことだ。


 その為、見習い研究者は学生寮によく似た研究寮に住むことになる。

この寮は学生寮とは違い平屋で、それぞれ、自らが仕事をする研究施設の付近に設置された寮で生活する。

2回建ての一軒家である研究所に住まうのは、一部のエリートだけなのだ。


 研究者というのは基本的に癖が強い。

そのため、自分専用の研究所を貰った際にはこれが自分の物であるということと、自分は彼処の研究所を割り当てられる程度には優秀なんだぞと示すために、随分と凝った、個性的な装飾を施す。


 例をあげるとするならば、この研究所のお隣さんなんかは壁を7色に塗っている。

 いわゆる虹色だ。


 はっきり言って趣味の悪いことこの上ないが、この程度のものはマシなもので、酷いところは壁一面に天使の絵を書き込み、その上から天使の人形、陶器、銅像などを飾り付けているものもある。


 その上、ドアは天国に通づる扉かよというほどに細かく美しい、精緻な彫刻を所狭しと掘り込み、その上全体が日がな一日じゅう白く輝いていたりする。


 恐らく何らかの魔法だと思うのだが、そんな馬鹿らしい事の為に割り当てられた貴重な魔力を消費するとは、本当に優秀な研究者なのかと深い疑いを抱いてしまう事も度々であった。


 それに比べてこの研究所は酷くシンプルだ。

 しかしそれが逆に、余裕を表しているようで、先程は酷く感心してしまった。


 暫くしても応答が無いので、コンコン。

 と、アラスは再びドアをノックする。

 応答は無い。


「すいませーん!ジュリアナ・リッジウェイさんはいらっしゃいませんかー?」


 …………………………。


 沈黙。


 おかしい。

 こんなに大声を出しているのに、室内では物音一つしない。

 もしかしたら、ジュリアナさんはご就寝していらっしゃるのかもしれない。


 どうしたものか……これはなにか?

 一旦帰って夜になってからもう一度来いとか、そういうアレか?

瞬間移動(テレポート)≫も碌に使えないのに?

 ひたすら歩かにゃならんのに?

 マジで??




 ーーこのドア、蹴破れ無いかな…?


 うーん、ジュリアナさんへの礼儀礼節と俺の怠惰への欲求…この2つを天秤にかけて傾くのは…


 うん。

 出来るよね。

 やってみよう。


 ーー逡巡は一瞬だった。


 壊しても弁償すればいいし、そもそも、これ以上学園長のおつかいに時間を費やす気も更々ない。


 ごめんなさい幻影の魔女さん!

 僕は怠惰へと身を任せます!!


 と、俺が危険な思考を始め、ドアを蹴破るために足を動かそうとしていた所、やっと室内でガタゴトッ!

 という物音がしたのが聞こえた。

 どうやら不法侵入をする必要は無いらしい。

俺は、先程の音の音源であろう『幻影の魔女』さんが扉を開けてくれるのを待った。



 …待った。



 ………待った。



 ………………待った。



 ……………………待っーー「出て来いよッ!!!呼んでるだろうがーー!!!」




 ブチ切れた。




 お客様が来てるんだよ!

 今確実に起きただろうが!!

 二度寝してんじゃねえ!!!



「うっせぇんだよルーーーク!!!何なんだよ!まだバリバリ授業中じゃねぇか!!俺は授業になんか出ねえって、何度説明したら理解できるんだぁッッ!?」



 ーー俺?男か?



 と思ったが、声を思い出してみると、やはり女声だった。

 我を忘れて怒鳴りつけた己を恥じ、少し反省した俺は、そういえば今の声、随分とガサツな感じだったけど、もしかして助手の人か何かだろうか?


 と、考え、研究者にしては、理系の人間が漂わせる『私ってば他人より理知的なのよね〜』という独特の雰囲気が余りに無かったなと思い返す。


 取り敢えず誤解を解かねばと、俺は自分がルークでは無いことと、自らの名前を大声で叫んだ。


 どう考えても近所迷惑以外の何物でも無い行動だが、まだ寝ているのか、それとも文句を言うために労力を消費する事さえ面倒臭いのか、幸いにして、誰一人俺の暴挙を咎める者はいなかった。


 俺が名乗ってから暫くガタゴトドシャバタガチャンゴギャンとやかましい音を響かせていた家の中の物音がようやく収まり、代わりに、バタバタと玄関の方に向かってくる足音が聞こえて来た。


 恐らく部屋の片付けをしていたのだろう。

 そういった気遣いは本当に有難いのだが、流石に、手紙を渡すというだけの用事で女性の部屋に上がり込む程、俺は図々しく無い。


 手紙を渡してとっとと帰ろうと心に決める。


 ガチャリという音と共にドアが空き、一人の、16、17歳程度の少女が現れた。


 ーー驚いた事に、少女は女傭兵が着ているような目が痛いほどの赤い色をしたビキニアーマーの上に、研究者風のボロボロの白衣を着ている。


 髪は暖かい太陽のようなオレンジ色で、それを見るだけで彼女がどのような人物かが分かるようだった。


 ただ、まともな手入れをしていないのは明白で、全体的にボサボサだ。

 寝癖を頑張って直そうとした後が見えなくも無いが、一切の成果は得られていない。


 肌は元は綺麗なクリーム色だったのだろうが、実験のせいだろうか?

 煤か何かで真っ黒になっている所が多い。


 ここまでくると、何故あの赤いビキニアーマーがあれ程鮮やかな色を保ち続けているのか、本当に不思議だった。


 奇抜なファッション、女性がこうなるべきでは無いというお手本になれる程汚らしい身なり、女性特有の、甘く、柔らかな匂いが漂って来ないでも無いが、暫く風呂にも入っていないのだろう、臭い。


 アラスの第一印象としては、『何だ?この不清潔な女は…』だったのだが、何にせよ無礼のお詫びはしなければならない。

 内心を表情に出してしまわないように、細心の注意を払い続ける。


 ーーしかしそれでも、方頬くらいは引きつらせていたかもしれないが。


「す、すまん。ここに来るのはルークぐらいのもんだったからな…てっきり、またルークが学校に来いって説教しに来たのかと思って、つい……」


 ーーアラスの容姿に暫く見惚れていた女性は、顔を赤らめ、斜め下を向いたまま謝罪を口にした。


 下を向いてモジモジしているその行動はやけに様になっていて可愛らしいが、彼女の格好や身なりを鑑みると明らかに不釣り合いだった。


ーーこれがギャップ萌えというやつか……前にもこのくだり、やった気がするけど。


 と密かに感心した俺は、怒鳴ったのは自分も同じだとおそばせながら気付き、居心地が悪くなった。


 慌てて、自分こそ…と言った趣の謝罪をする。


 暫くはお互いがいや自分が…と言い合っていたが、流石に10回も繰り返すと馬鹿馬鹿しくなったのか、示し合わせたように2人は笑い出した。


 結局、お互いが悪かったのだと間をとり、早速本題に入ろうとした俺は、この少々汚いが気の良さそうな少女に、ジュリアナさんを呼んで来るように頼むため、口を開いた。


「すいません。此方にジュリアナ・リッジウェイという方がいるとお聞きして訪ねて来たのですが、いらっしゃいませんか?」


「ーーん?いや、俺だけど?」


「…………はぁ!?」


「いや、だから、俺がジュリアナ・リッジウェイだけど?」


「…………」


 ーー絶句してしまう。


 改めて彼女をじっくりと見つめる。

 確かに顔はいい。

 貴族的な顔立ちをしており、その汚らしい身なりを正せばそれなりに女性として映えはするだろう。


 だが…いや、これが天才的な研究者って…あり得ねぇだろ……


「えーっと、その、本当に……?」


 俺は頭の中で暴れ狂う目まぐるしい思想を無理矢理抑え込み、一応、念のためにと確認をとる。


 このような反応をされる事には慣れているのか、ようやく頬の赤みも取れ、俺の顔をまともに見られるようになったジュリアナは、大きく首を縦に振った。


「まあ、貴族姓のあるやつにゃあ見えねえよな、俺は。だがまあ仕方ねぇのさ、俺は英才教育なんか受けてねぇし、たまたま持ってたユニークスキルが生産系で研究職に向いてるからって理由で研究者やってるだけだしな。所で、お前、アラス・アザトースだってのは本当なのか?」


「え、えぇ…まあ、本当ですけど……」


 さっきまでの反応が嘘のようだなと感心しながら、俺は肯定の意を示した。それにしても、ユニークスキル持ち、それも生産系とは物珍しい。

 少なくとも、今まで俺が知り合ってきた者の中に生産系のユニークスキルを持つ者はいなかった。


「お前が発案したって言って依頼された学園の生徒の制服について話したい事がある。ちょっと寄ってけ。ーーそれと、俺が堅苦しい敬語を使われて喜ぶ人間に見えるのか?普通でいいんだよ、普通で」


「あ、ああ…分かった。ーーそれにしても、制服か…全然計画が進行してるって話を聞かないから、頓挫したのかと思ってたんだが…そう言えば、あんたに依頼したんだったな…」


「なんだ?忘れてたのかよ?全く、あんな無茶な注文、久し振りに受けたよ」


 あはは…と愛想笑いを浮かべた俺は、ドアを開けて催促するジュリアナに、大人しく従い、研究所へと入る。


 研究所の中は薄暗く、ツーンと鼻に来る薬品の匂いで満たされていた。

 俺は風魔法で気流を操り、匂いを遠ざけたいという欲求に駆られたが、ここは天才研究者の研究室だ。

 流石に魔法を使うのは気が引けた。


 よく分からない物が散乱している廊下を進むと、つきあたりに一つの部屋があった。

 廊下にほっぽり出された機材のせいで扉はほんの少しの隙間しか生まなかったが、ジュリアナは迷いなくそこに、そこそこ発達した体を滑り込ませた。


 よくこんな家に人を上がらせられるな…と、呆れから一転、感心の境地に達した俺は、出来るだけ機材に触れないように己の体もドアに滑り込ませる。


 部屋に入ると匂いは更に強くなり、保存用の食材(スルメっぽいもの)などが瓶詰めにされ、紙屑などのゴミが散乱していた。


 ジュリアナは、部屋の中央に置かれた丸テーブルに備えられた椅子に座り込み、ここに座りなさいというジェスチャーと共に、隣の椅子を叩いた。


 ーーここはどうやら生活用の部屋らしい。


 俺は、ジュリアナに指示されるまま席についた。


 席について分かった事だが、テーブルの中央には魔法陣が書かれた紙が机一杯に敷かれていた。

 実に複雑な陣だ。


 成る程、ここをここに繋げる事でここの魔力を調整して…いや、更にここに増幅作用を生み出しているのか…となると、この部分はーー


 ゴホン!


 という一つの咳払いに、俺の思考は現実へと連れ戻される。

横を見ると、ジュリアナは少し自慢気な笑みを送ってきた。


「どうやら、魔法陣は読めるみたいだな。流石は巷を騒がす剣と魔法の天才さんだ。一通り見て、どう思ったんだ?俺に参考として教えてくれ」


 そうだな、まさか本当にお前が天才だとは思わなかったよ。

マジで頭良かったんだな。

正直、嘘をつかれているのかと思っていたよ。


 ーーとは、流石に言えない。

無難に、何処そこの発想が良く、ここをこうしたらここが必要なくなるんじゃ無いかと言ったことを数分話し合った。


 そもそも、今俺の発案によって進められている全生徒制服義務制度は早くも暗礁に乗り上げているのだ。


 理由は幾つか上げられる。


 まず一つ目は貴族が現在着用している物よりも高性能で無ければならないこと。


 二つ目は低コストで無ければならないこと。


 三つ目は平民と貴族が同じものを使う事に過剰反応を示す貴族が多いという事だ。


 他にも幾つか上げられるが、大まかにはこの三つに分類分けされる。


 特に三つ目の問題が大きく、これを解決させるには、何でもいいからその制服を使わせて下さい。

と言わせる程に素晴らしい性能を保持する装備にするしか無いのだ……が、


「やっぱり、半永久的に発動する魔法陣を作るには高価な媒体…まあ、『ドラゴンの爪を粉末状にした物』とかが必要になってくるんだよな……」


 一通り魔法陣に改定を加えた2人は、魔法陣の媒体について話し合っていた。

今、溜息をついたのはジュリアナだ。

 実際は『ドラゴンの爪を粉末状にした物』などという超高級媒体を使用しなくても半永久機関は作れる。


 だが、それでは能力的に心配な所が出てくる。

 要するに、馬力が半端ないエンジンが必要なのだ。


「うーん、じゃあ作ってみれば?媒体の方を」


「媒体をーー作る?」


 ーージュリアナの大きな瞳の瞳孔が一瞬大きくなる。


 所詮は素人の浅知恵。

 出来ればいいな…という夢物語に、ジュリアナは予想以上に反応した。


「媒体って…作れるのか?」


 ーー俺に顔をぐっと近付けるジュリアナに比例するように、俺は体を後ろに逸らした。


 思った以上に真に迫ったその言葉にたじろぎながらも、俺はその質問に対して肯定する。


「まあ、出来るんじゃ無いか?師匠はそれっぽい事言ってたし…それに、自然体の物だけが強力な効果を発揮するなんて法則は無い訳だし…」


 瞬時に顔を元の位置に戻したジュリアナは、左腕を胸元に水平に固定し、その上に右肘を載せて『考える人』のポーズをとり、ブツブツと小声で何かを言い出した。


 どうしたものかとオロオロしていた俺は、ジュリアナがそのポーズを解除した瞬間に胸を撫で下ろした。


「出てけ」


「……へ?」


 思わず変な声が出る。


「何度も言わせるんじゃねぇ!イメージが抜けちまう!!今日の所は今すぐ帰れ!!!」


 少しの間活動を停止した俺は、ああ、成る程そう言うことかとやっとの事で理解を示した。

 何か考えている時に他人が近くにいると集中出来ない。


 確かに前世ではテストの際、少しの休み時間でどうにか詰め込んだ知識が抜けてしまうからと、クラスの奴ら全員に自分に話しかけるなと言いつけていた事を思い出した。


「んじゃ頑張れよ。それと、今度俺のメイドにこの部屋掃除してもらうから」


 そうは言い残すものの、既にジュリアナの意識は俺ではなく、一枚のドデカイ紙へと向いていた。


 しょうがないな…と、呆れ顔を浮かべた俺は、そういえば忘れていたなと学園長からの手紙をテーブルの上にポイっと投げ捨てた。


 最後に、どうせ聞きはしないだろうと理解しながらも別れの言葉を投げかけ、ドアの隙間をくぐって部屋を出る。


 薄暗い家をやっとの思いで這い出た俺は、大きく背伸びをした。

 理由も無しに、空を見上げる。


 そこには、雲一つない大空が広がっていた。ぬるい風が頬をよぎり、金色の髪をもて遊ぶ。




 さて寝るかと、背伸びをやめた俺は右足を踏み出す。灼けた地面が、仄かに気持ちのいい香りを生み出していたーー




感想、誤字脱字等ありましたら、教えて頂けるとありがたいです。

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