表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第4章 動き出す物語
44/57

37話 はじめてのおつかい



あれから数分、ちゃっかり授業をサボっていたアリスは一切の注意を受けず、ジョシュアの看病をしていなかった俺は、例のお転婆お姫様に魔法をぶっ放された。


前回と違ったのはその魔法をアリスが防いだ事だ。

この2人の関係は90度落下する絶叫マシンのようにドンドン冷え切って行く。


それにしても、あのお姫様の国の主教もラファエール教だろうに、アリスとの関係を悪化させていいのだろうか…?

まあ、良いのだろう。うん。知らんけど。


それにしても、そんなに大事な人ならば、授業をサボってでも看病しに来るべきでは無いのかと思い、愚かにもそれを口にした俺は、まず、ジョシュアが大事な人だというのは勘違いだと顔を真っ赤にしたお姫様に怒鳴られ、他国に留学に来ている間に自分がとる行動は国際的な問題にも発展するのがどうたらと、ありがたいお説教を受けた。

まあ、要するに体裁の問題だ。


それならアリスと仲良くしろよ。表向きだけでも。


と言いたくなったが、流石にこれ以上墓穴を掘るつもりはなく、納得したように頷いたのだった。


それにしても、そんなに外目を気にしなくてはならないとは、王侯貴族とはなんとも面倒臭い職業だ。


……あれ?職業だったっけ?

王侯貴族って。

でも、じゃあ、一体なんなんだろう…


ああ、王侯貴族は身分か。

忘れてた。

ま、どうでもいいことだな。


と、まあそんな事を思ったことを覚えている。

さて、何故ここで過去形を使ったかというと、アレが、既に数日前の話だからだ。



いよいよ本格的になってきた夏の暑さが、俺の額に汗を滲ませる。


右を見ても、左を見ても、当然、後ろを見ても、前を見たとて何処も彼処も同じような建物が並んでいる。

視界の全てが研究練だと言っても、恐らく過言ではない。


これだけの研究室の中から、彼女一人用の研究所を見つけなければならないという事実に、俺は頭が痛くなった。


「くそ…何で俺がこんな事をしなくちゃならないんだよ……」


忌々しそうに言葉を吐き捨てた俺は、それでもゆっくりと足を動かす。



鬱陶しい夏風が、俺の背中を押したーー




▲▽▲




ーーアリスの久しぶりの告白から数日、俺はヘレンのーーつまり、学園長の部屋にお呼ばれしていた。


全体的に白を基調としているこの学園にしては珍しく、この辺りは床に赤いカーペットが敷いてあり、所々を真紅、漆黒、黄金色で装飾している。


何故かと問われれば、貴族がよく訪れるから…としか言いようが無い。


そういえば、あの後俺はアリスに自らの身分について尋ねたのだが、


「さぁ〜?平民なんじゃ無いですかねー」


と、適当に答えられてしまった。

アリスは何故かこの数日機嫌が悪い。

意味分からん。

あれか?あの告白が原因なのか?

いつも通りじゃん。

いつも通り断っただけじゃん。

何を怒ってるんだよ……


くそっ、どんな風に謝ればいいだろうか……やはり何か謝罪の品とかを送った方がいいんだろうか…?


あ、ついた。


コンコン。


と、小気味の良い音が辺りに響いた。

当然、俺がドアをノックした音だ。

重厚なこの扉がこのような軽やかな音を奏でることに、俺は相も変わらず酷い違和感を覚えた。


「入っていいわよー」


「ーー服、着てますよね?」


最早形式美化してきたこのやり取りだが、俺にとってはただの言葉遊びで済む問題では無い。

ヘレン程の容姿の女性が、自らの裸体を惜しげも無く晒してくるのだ。

その上、少しでも頬を赤らめれば一週間はからかわれ続ける。

迷惑な事極まりないこの儀式は、当然、


「着てるに決まっているじゃ無いの。ほら、早く入って」


という、何処かうきうきとしたヘレンの肯定から始まる。


何が決まっているだ。

このやり取りをした後に部屋に入って、服を着ていた試しがないじゃ無いか。

っていうか、せめて下着は着ろよ。

それが駄目なら、最低、パンツだけは履いてくれよ…マジで……


と、俺は心の中で思ったが、ブーたれていても話は進まない。


現状、俺は何の用があって呼び出されているのかも知らされていない。

全く、その程度の情報は前以て教えておいて欲しいものだ。


ーーそれにしても、学園長のあの糞みたいな性癖は師匠から感染した物なのだろうか…?

師匠もどこか、裸ん坊万歳といった思想を前面に出す所があった。


例えば、そう、いつも師匠は風呂上がりは決まって上半身裸だった。

確かに師匠の裸体は引き締まっていて、美しく、肉体美とはこの事かと思わせられたものだが、弟子にまでその悪癖を感染させていたとすれば、次会った時、アルフレッド糞野郎には少しだけ痛い目にあって貰う必要がある。


そんな事を考えている内に、俺の表情はドンドン悪戯を考える悪ガキのものへと変わっていった。


「どうかしたの?」


そんな声に、俺は意識を目の前の扉へと慌てて集中させる。

今日は、素っ裸対策にある秘策を用意して来たのだ。


「何でもありませんよ。ーー失礼します」


ドアノブに手を掛ける。瞬時に集中力を高めた俺は、拳銃を汗ばむ両手で握りしめ、凶悪犯罪者の部屋へと突入する警察官の気持ちで、部屋へと押し入った。



瞬時に純魔力を四方に解き放ち、ヘレンの現在地を確かめる。

誤ってヘレンの事を見てしまわないよう、その両目は地面に釘付けになっていた。

人体反応はあの無駄に立派な作業机の下だ。


「そこだ!!!」


と声を張り上げた俺は、≪完成された吸血鬼(スクレ・ヴァンピール)≫の『アイテム創造』で作り上げた簡易的な外套を≪瞬間移動(テレポート)≫を利用してヘレンに無理やり着せようとした。


しかし、一瞬の内にその場から生体反応は絶たれる。

後に残ったのは外套が床に落ちる、小さな音だけ。


ふっ。だが、これも計算通り…って、あれっ!?

何処に行ったんだ学園長…!??


ーー現在、この部屋にはヘレンの生体反応が無い。


「そんな、馬鹿な……」


そんな呟きが、思わず口から出た。

先程生体反応でヘレンの現在地を探し当てた時、学園長は間違いなく素っ裸だった。


あの状態で、この部屋から出て行ったのか……!?


俺の脳裏に戦慄が走った。

常識人(笑)である俺からすれば、ヘレンの行動は信じられないものだったのだ。


ーー素っ裸で外出するなんて、まさか、そんな境地にまで達していたというのか…!?


完全に計算の埒外の出来事だった。

まさか外に逃げられるとは…


だが、当然、俺にはまだ勝機があった。

そう、ヘレンはまず間違いなくこの部屋に帰ってくるのだ。

俺に、自慢の肉体美を見せつけるために…!


次の瞬間、常時展開していた魔力感知に反応があった。


そう、その場所はーー


「頭上か!!!」


そう叫びながらも、俺は真っ先に上を見るという愚行を犯しはしない。


そう、この状況を俺は待ち望んでいたのだ。

瞬時に俺は右腕を空へと突き立てる。

天井の近くから、突如として大きな魔力反応が現れ、次の瞬間、神々しい光が部屋一面を照らし出し出した。


光魔法第三回級≪天使の撃墜(セレスティアルレイ)≫。


天空から大地を貫く光線を降らすその魔法は、これまでに築き上げられてきた魔族との戦争の歴史において、絶対的な破壊力を常に示し続けてきた。


魔族にとってこの光を見ることは殆ど確実な死を目撃するのと変わらないとされている。

一説では、この魔法を一度発動させただけで1万の魔族を打ち滅ぼしたという記述が記載されている記録書があるというのだ。


1万。それを、一瞬でだ。

ただし特殊魔法の第三階級は余りにも大きなリスクを孕んでいる。

そう、その制御の困難さにより、殆どの場合が失敗に終わるのだ。

しかも失敗すれば見方の数万の兵が消し飛ぶというのだからたちが悪い。

これぞ正真正銘の諸刃の剣だと言えるだろう。


それを、俺は極限まで威力を落とし、照明替わりに使う。

光魔法の他の2つは掌から放つタイプであったため、今回の作戦には不向きだった。


瞬時に上を見上げる。

逆光により、ヘレンの肢体は真っ黒な何かにしか見えなくなっていた。


ここで≪瞬間移動(テレポート)≫を使うのは早漏れ野郎のすることだ。

俺は更に、技巧を重ねる。


「『時よ止まれ!ーー汝は、かくも美しい』!!!」


一筋の神々しい光が、俺の姿を照らした。


唯一、俺が短縮詠唱をしなければ使えない魔法。


時空間魔法第三階級≪時間よ止まれ(エル・フィーニス)≫。


現存している魔法師、また、歴史上でも為し得た者がいないとされる、絶対的に不可能な神話級の魔法。


それ程の魔法を、俺は今、惜しげも無く使った。


一瞬で、世界は停止する。


部屋を舞い散る埃も、窓の桟から飛び立とうとしていた小鳥も、風に煽られ、ユラユラと地面に舞い散ろうとしていた木の葉でさえも、ピクリとも動こうとはしない。


だがしかし、それ程の魔法を行使するには相応の対価が必要となる。

当然、それは魔力だ。

しかも、この魔法の行使には、他の第3階級の魔法をして、遠く及ばない消費量を有する。


まあ、それでもアリスの≪時間の支配者(クロノス・エレンホス)≫のように『時間を止めてその対象の意識だけを持続させる』といった事は出来ないため、ユニークスキルである≪時間の支配者(クロノス・エレンホス)≫の支配力からすれば随分と稚拙なものだがーー


それでもーー勝った。


「は、はは、ははは、はははははは!!!」


ざまあみろ!完全に俺の勝ちだぜ!!!


俺は勝利を確信し、高笑いを始めた。

しかし、そう長い間この魔法は使えない。

魔力切れでぶっ倒れてしまうからだ。

俺は外套をヘレンに着せて、作業机の近くにあった椅子へと≪瞬間移動(テレポート)≫し、時間をまた進めた。


「ふはははは!見なさい!!この私の肉体美ー!!!ーーって、あれ?え?どうなってるの??」


とんでも無い事を大声で叫ぶ彼女に、俺は思わず頭を抱えた。

この人…嫁のもらい手居るんだろうか…?

切実に心配だ……


まあ、良く良く考えれば兄弟子が結婚できるかどうかなんて知った事では無い。

俺は最高の気分で真紅の外套に身を包んだヘレンへと体を向けた。


「今回は、完全に僕の勝ちですよ。ほら、早く要件を済ませて下さい。僕はとっとと寮に帰って部屋を涼しくし、冷たくなったベッドにダイブするという大事な予定があるのですーーそれにしても、流石に外に転移するというのは想定外でした。やめた方がよろしいかと。いや、本当に。マジで」


畏まって適当な事を抜かす。

それは言外に『今日の授業はサボります』と言っているようなものだった。

仮にも学園長に向かってのサボります宣言。

常人には中々出来ない凄技だぜ!


ーー俺の言葉に冷静さを取り戻したヘレンは、ひとつ咳払いをした。


「大丈夫よ。女子トイレに転移しただけだわーーそれにしても、授業は?というか、今の、一体何をしたの?」


女子トイレ…成る程、確かにそこなら問題無い…いや、無いのか?

うーん。分からん。

まあ、本人が大丈夫だというのだ。

恐らく、大丈夫…なのだろう。うん。

全く、そうだとは思えないが……


まあいい。話を進めよう。


「はて、何のことでしょう?」


アラスは、恍けたような声を出した。


「いいから、教えなさい。兄弟子命令よ」


ーー偉ぶって命令するヘレン。


なんだその言葉…始めて聞いたぞ……


「いえ、ちょっと秘術を使って時間の流れを遅くしたんです。ーーそれにしても学園長って、本当にいい体してますよね。言い寄ってくる男が後を絶たないんじゃないですか?」


何をしたかについて言及されるのは避けたい。

俺は適当に煽てるような事を言った。


「あら、流石じゃないアラス。その通りよ」


口元に手を当て、オホホホホとお上品に笑って見せるヘレン。

どうやら、言い寄ってくる男などいないらいしい。

可哀想に。


と、失礼な事を考えながらも、表情だけは感心しているかのように装う。


「それで、どのようなご用件なのですか?男なんて選り取り見取りの学園長様?」


「ええ、私は優しい女なの。決して、怖い女などではないわ。そう、『決して』よ」


大事な事だから2回言ったのだろうか?もしかしたらお見合いの時にでも『怖い女』だと言われたのかもしれない。

何にせよ、俺は心の底からヘレンの事を哀れんだ。


余りの悲惨さに下を向いてニヤニヤ笑いを…顰めっ面を顔いっぱいに浮かべていた俺は、ヘレンがニヤリと笑い、鋭い眼差しを向けてきた事に気づかなかった。


「それで、要件だったわね?この優しくて、美しく、聡明な私の言うことなら、賢く、兄弟子思いの貴方は決して逆らわないわよね?」


「は?」


途端に、背中に寒気が走った。

まずい、断らないと…


と、思った俺だったが、死刑宣告は思っていたよりずっと早く言い渡された。


「貴方には、例のクラスマッチについて、『幻影の魔女』ーージュリアナ・リッジウェイにこの手紙を渡してきて貰うわ。ーー当然、受けてくれるわよね?」


例のクラスマッチ…そういえば、そんなものが開催されるとカールが言っていたような気がする。


この糞暑い中、おつかいとか…面倒臭いな…

まあ、仕方が無い。

どうせ断っても押し付けられるのだ。

とっとと終わらせてしまおう。


「……………はい…」


返事をした俺は、ご機嫌を伺うようにヘレンの目を覗き見た。


…………………。


俺は、あんなにも光を失った人間の瞳を未だかつて見たことがなかった。

大人しくおつかいを受けて良かった…と、俺は内心胸を撫で下ろした。

もし断っていたらと考えると、背中に冷や汗がながれた。


それにしても、婚活とはあんなにも生き生きとしていた学園長をこうも暗くするものなのか…恐ろしいな…


ってか…


「『幻影の魔女』については、話だけ聞いていましたが…その、何処にいるかなどは全く知らなくて…」


「研究所にいるわ。研究者なんだから、当然でしょう」


何を言っているの?といった表情でそんな事を言われても困る。


この島の何割が研究施設だと思っているんだ。

研究室なんて歩いて数分で行ける距離でも30以上あるぞ……


困った俺は、立ち往生し、数秒間頭の中で考えを巡らせた。


やはり、いくら機嫌が悪いとはいえ、聞いておくべきだろう。

最悪、迷子になりかねない。


そう決心した俺は、ヘレンに話しかけた。


「その、研究室にいるのは知ったいるんです。出来れば、詳細を教えて頂ければ……」


「ーーあら?まだいたの?丁度今、兄弟子をからかって遊ぶような貴方に、少々躾が必要だと思っていた所なのだけど……」


「は…はは…冗談ですよ。学園長様にこれ以上手間を取らせるような事は致しませんよ…はい……」


からかって遊んでいた事がバレてる…!


逃げよう。そう決心した俺は、オーク材の黒く艶やかなヘレンの机から、封筒に入った手紙を掠め取るように貰い受け、慌てて部屋を出て行った。


「それにしても、アラスのさっきのアレって、もしかしてーーまさか、ね」


ヘレンはふふっと柔らかな笑い声をこぼす。


予め窓もカーテンも閉めていたヘレンは、外套を脱ぎ捨て、服を着た。

午後からは、数人のお偉いさんとの話し合いがあった筈だ。


何時もの学園長としての正装に着替えたヘレンは、窓を開けた。

整えられた美しい庭に、虹色の光が照りつける。




夏がーー始まった。




前回の投稿では、3ヶ月の長きに渡って更新を一切していなかったというのに、その日のpvアクセス数が1万4千となっており、本当に驚きました。


あと4万程で100万pvを突破します。これも皆さんのお陰です!


それと、文章の段落の取り方を少し変えてみました。どちらが見やすいか、感想を頂けるとありがたいです!


これからもよろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ