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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第4章 動き出す物語
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36話 アリスの懸念

 ーー教室が爆破された少し後…




 俺は、ボロボロになった部屋の後片付けを早々に終え、汚れ一つない、真っ白で気味の悪い廊下をコツコツと音を立てながら一人で歩いていた。


 何故いつも数人で行動する俺が背中に哀愁と苛立ち、そして少しの反省を背負いながら歩いているのかというと、あの後、暫く経っても終始ご機嫌斜めなまま、あのお姫様を笑顔のまま威圧し続けていたアリスを軽い気持ちで注意した所、


「だいたい、最近のアラスさんは問題を起こし過ぎなんですよね…まったくもっって…ほんっとうに腹立たしいですね〜。ーー少しは、反省したらどうなんです?」


 と、割とマジな顔で言われた上、教室の誰もが「正にその通りだ!」と言わんばかりの表情で俺を見、首を縦に振っていたため、少しだけ罪悪感を覚えながらも、慌てて逃げ出して来たのだった。


 あのままあの場に留まれば、間違いなくラフィスに「今日一日ずっと正座していて下さい!」という類の事を言われていただろう。ラフィスは時々、躊躇なく恐ろしい事を言う事があるのだ。


 あの時の俺の判断は間違って無かったはずだ…!


 と、心の中で必死に自分の事を弁護する俺だったが、気持ちが上方修正される訳でも無く、謎の罪悪感に、更に気分は更に下方修正されるばかりだった。


 廊下を歩く。


 恐ろしいほど静かなこの校舎は、上空から見ればカタカナのコのような形をしている。現在、アラスはコの一角目ーーつまり、上の部分を歩いているわけだ。


 どの部屋も防音の効果を持つ無属性魔法でコーティングされている為、このような授業中にも関わらず物音のしない状況が出来ている訳だが…


 思わず、ハァ…と小さな溜息が漏れた。幾ら喧騒を好まない(?)俺でも、ここまで人の気配がしないというのは落ち着かないものだ。


 せめてもの救いは、時折、全開に開けられた中庭側の窓から、気持ちのいい音を奏でる風が、髪を撫で付ける事だろう。


 ーー今、俺は保健室に向かっている。今朝の一件で昏倒させてしまった例の偉そうな男を起こしに行く為だ。かなり手加減して打撃を加えたが、それなりの威力はあったはずだし。まだ起きはしないだろう。


 ーー眩いばかりの日差しが中庭側のガラスから射し込んだ。


  ふと、俺は中庭を覗き込んだ。


 中庭には色取り取りの花々が規則正しく植えられており、その周りを囲むように様々な木々が植えられている。


 余程腕のいい庭師を雇っているのだろう、俺の知識の深淵をどれだけ探ったとて剪定の知識など霞程も見つかりはしないが、そんな俺の目からしても大したものであることがありありと分かる出来だった。


 何度見ても感嘆とさせられるその豪奢な庭に、俺は密かに関心を抱いている。別段、花が好きだと言うわけでは無い。


 いや、別に嫌いだと言うわけでは無いのだが、子供の頃からトイレの壁に貼られた『男子たるもの、花なんぞに現を抜かすべきではない。』という詩のような物が印刷された紙を見続けてきたため、潜在意識的に興味が向かないのだ。


 今となっては、


『何て時代錯誤な考え方なんだ…戦時中の軍人さんかよ』


 と鼻で笑うであろうその言葉も、幼い子供からすれば、あれだけの達筆で堂々と書かれているだけで、絶対に守らなければいけない規則のように思えたものだった。


 ーー郷愁に駆られそうになった意識を慌てて戻す。


 そんな俺が何故彩鮮やかな花々の庭に興味を持っているのか、まあ、理由は単純なもので、花々を取り囲んでいる木々の中に数本、桜の木ような物が混じっているためである。


 とはいえ、ヘレン学園長によればあの木は『シェルシェー』という秋に花を咲かせる木だという話だが。


 全く、期待させんなよ…と、何とも自分勝手な理由でシェルシェーを冷たい瞳で一瞥した俺は、歩みを止めていた両足を、重たい物でも括り付けているんじゃないかと勘ぐらせるほどのっそりと動かし始めた。


 何にせよ、今日は授業に出る気分では無い。取り敢えずの暇潰しに看病を選んだ俺の足は、床を這うように進む。保健室は1階に設置されているため、数階分階段を降りなければいけない。


「ああ、憂鬱だな…せめて、看病するなら女の子が良かったな……ーーあ、あいつを女にすれば万事解決するんじゃ…!」


 と、本人が聞けば怒りだす前に背中に寒気が走るであろう言葉を、全く冗談気無く言い放った俺は、少々ふらつきながら階下へと足を進めた。




 ▲▽▲




 数百年の月日を費やして作られたのでは無いかと疑う程に濃く、美しい蜂蜜色の髪。


 肌は透き通る程に白く、頬は美しい桜色をしている。


 高名な人形師に作られたかのような整った容姿に、男が保護欲を覚えるギリギリまで成長した肢体。


 その両の(まなこ)は、純度を限りなく高めた、本物のエメラルドのような光を放っている。


 どれほど言葉を尽くしても決して伝えられない程の美しさを放つ少女…つまり、『現人神たる、アリス・フランチューレ』が保健室のドアの前にいた。


「ーーいや、何で?」


 思わず、そんな言葉が口から這い出た。アリスはそれを愉快そうにニヤつきながら見つめ、さて、何故でしょう?と問うように小首を傾げた。


 何故でしょう?


 と問われても俺に答えが見出せる筈が無い。なんせ、最近のアリスは以前のように異常に求婚するような事が無くなり、少しずつではあるが、俺の中ではただの女友達のような位置付けになってきていたのだ。


 アリスがあのウザったい求婚をパタリとやめたのは、丁度一ヶ月ほど前、俺が、教会からの差し金であったクソッタレ共に啖呵をきったと学園中で噂になり出した頃である。


 今俺に分かるのは、あの邪気のようなものを纏わず、ただ少しだけ小悪魔的な笑みを浮かべているアリスがメチャクチャ可愛いということだけであった。


 何故、今頃になって2人きりになろうとしているんだろうか…?いや、もう一人いるけど。


 取り敢えず、返答しておく。


「あー、授業をサボりたかったから…とか?」


 恐らく…いや、間違いなく間違っているその答えを言う時、余りの馬鹿馬鹿しさに、俺は思わず頬を掻いた。


「段々、口調が砕けて来ましたよね〜。アラスさん。ただ、頭が可哀想なのは相変わらずです」


 ーー頭が可哀想!?


 俺は今までの人生で、そんな罵倒を受けた事は無かったぞ!?何度も言うがな、この脳味噌はかの女神様が絶賛する……って、いやまぁ、そんな事こいつには言って無かったか。それにしても、流石にいまのは少し傷つ…いや、良く良く考えれば…というか、よくよく考えなくてもこの程度の罵倒は受け続けて来た。あの、クソッタレの師匠に、何度馬鹿にされた事か……


  さっき俺のために泣いてくれてたし、ちょっと可愛いな…とか考えてたのにッ!


 さらりと流そう。うん。こんな事を言う奴に親しく接してやる必要は無い。せっかくこの俺が砕けた口調で話始めたというのに…レアなんだぞ!


 ーーあれ?何だろう?目頭が熱く…


 と、心の中で思ったが、口には出すまい。


「俺の頭は、可哀想じゃ無い」


 極めて冷静な口調で俺はそう言った。……言えた、筈だ。


「はははは。この程度の罵倒でそんなに傷付いた顔をするなんて、アラスさんはメンタルが貴方の存在価値のように脆いですねー」


 ………………いや、なんなんだこいつ。最近は大人しくしてるなー。と俺が密かに感心してたのに。というか、最近はこうして2人きりになる機会も全然無かったのに…


「もしかしなくても、それ、俺のこと馬鹿にしてる?」


 取り敢えず、相互の認識にズレが生じている可能性を無くしておく。いや、間違いなくそんな事は無いだろうが。完全に馬鹿にしてるのは、分かりきっているのだが。


「もちろんそうですよ?それより、早く中に入りましょう。わざわざ、教会についての重大で重要な情報を持って来てあげたんですからーー」


 成る程、と俺は知らずのうちに口笛を吹いた。今までの暴言も、その情報を得るために苦戦し、ストレスが溜まっていたために思わず口をついた言葉なのだろう。………うん。そうだよね。そういうことにしておこう。


 ーーよし、そういう事なら真剣になろう。なんだ。保健室の前というエロゲに出てきそうなシュチュエーションのせいで、前みたいに襲われるのかと思ってしまったじゃ無いか。


「別に、そういうことがしたいんなら、私は構わないんですけどねー」


 俺の心を読んだかのようなタイミングで、ジト目のアリスが俺の瞳を覗き込み、言った。相変わらず、怖いくらいに美しい顔立ちをしている。髪が揺れるだけで花の香りが鼻腔をつき、『魅了の魔法(チャーム)』をかけられたように感じた。


「いや、俺が構う」


 しかし、俺の思考は既に冷静沈着なクールモードに移行していた。

 期待していた面白い反応が見られなかったアリスは、不満げに眉を顰める。


ーー危なくなんて、無かったよ?思わず無意識的に唇を近付けていたなんて事実は、存在しないんだよ!?


 ーーそれはさておき、俺は扉の前でムンムンとしているアリスを軽い力で自分の後ろに回し、『今日は用事で来ることが出来ません。怪我をした人は、友人に癒して貰って下さい』という、保健室の教員の必要性を疑わせる、巫山戯た謝罪が込められた手書きの張り紙が貼り付けられたドアを開けた。


 基本的に保健室にいる回復魔法師の数は少ない時で1人、多い時で5人と、結構なバラツキがある。行事がある時であればそれの5、6倍の回復魔法師が集まるが、回復魔法師は絶対数が少なく、殆どの人が貴族に雇われている。


 そのため、学園で仕事をする回復魔法師は貴族達の間で独自のローテーションが組まれているのだ。まあ、友人に頼む。という生徒が比較的に多いため、普段の保険医は仕事が無いのが現状でもあった。


 今日、保険医がたまたま学園にいなかったのは僥倖だったと言えるだろう。仮にも今は授業時間内。鉢合わせると面倒な事になる可能性もあった。


 ーーまあ、アリスが相手である時点で、先生方が何か言うとも思えないがな…


 2人で部屋に入る。部屋には例のジョシュアという男が眠っているベットが四方をカーテンで覆われているだけで、他には何も変わった様子が無かった。


「ここに座って下さい」


 アリスの明るい声が聞こえる。ジョシュアのベットは入り口から一番遠い所にあるが、アリスの指定したベットは入り口から一番近いベットだ。


 というか、男女2人で話し込むのに、ベットの上はいかんだろ…


「いや、俺はそこらにある椅子に座ってーー」


「何か、言いましたか?」


 睨まれてしまった。怖い。しかし、ここで引くわけにはいかないだろう。男には、絶対に引き下がれない時があるのだ。ーーと、祖父が言っていた。


「早く、座って下さいアラスさん。言うこと聞かないと、悲鳴を上げてここを飛び出しますよ?分かってます?ここ、保健室なんですよ?」


 ………………………………。


 ま、まさか、今日、保健室に担当の人が来なかったのって…いや、考え過ぎ、だよな……?


「ほら、隣に座って下さい」


 俺の額に冷や汗が流れた。その汗は、先程の(うわ)ついた考えを芯から冷やし、消失させた。それにしても、本当に事前から計画されていたのだとしたら、どこまで読まれていたのだろうか?アリスの家は公爵家だ。もしかしたらあのお姫様が登校するという情報も事前に入手して…


 しかも、俺が相手に怪我を負わせる事まで予想して?じゃあ、さっき俺に対して注意を促した時も内心では……


「あ、ああ。言っとくが、何もしないからな。絶対だぞ」


 死んだじいさんが言っていた事なんぞに気を取られて道連れにされてたまるか。俺はもう少し現世に留まっていたいのだ。いや、もう一回死んだけど。


「えっ?しない?一体全体何をするんですかアラスさん?ああ、一々言わなくてもちゃんと分かってますよ?もしかしなくても、ナニですよねー?いや、これだから童貞は……」


 アリスは再び俺をからかったが、既に俺は平常心を取り戻していた。日々、俺も成長しているのだ。毎日、0.01μ(ミクロン)ユルくらい。


 またしても期待通りに事が進まなかったアリスは、可愛らしく頬を膨らませた。


 俺は言われた通りアリスの隣に座った。ただ、このままでは会話がしにくい。俺は少し近付いて来たアリスから身体を離し、アリスの顔が見えるように斜めに座った。アリスもつまらなそうな顔をしながら、それに合わせる。


「それで、新しく入った教会の情報っていうのは?」


 真剣に問いかける。その吸い込まれるような瞳に、思わずアリスの頬が赤みを増した。とはいえ、一瞬だが。


「教会がアラスさんの暗殺に本腰を入れ始めました」


 俺の真面目な雰囲気に合わせ、アリスも真面目な話をする時の顔に表情を変えた。


「というのは?」


「ええ、プロの暗殺者を雇ったそうです。それも、今までとは実力が段違いであること間違い無しの面子です。これは、アラスさんも本当に殺されちゃうかもしれませんね〜」


「具体的に、名前は?」


 俺は身体を前に傾け、一字一句逃すまいとアリスの言葉に耳を傾ける。思っていた以上の重要性を持つ情報だ。少しも聞き逃すわけにはいかない。


「『殺人姫(チュエ・ラ・プリンセス)』…Sランク冒険者の一人ですね〜。本名はソフィーナ・ゼルチュナー。まあ、現在は偽名をを使っている。という可能性は少ないでしょう。何でも、彼女は臨時のパーティしか組まず、基本的には一人で仕事をこなしていたそうです。それでも冒険者ですので、複数人と徒党を組んで行動する必要がある場合があります。ですがーー」


「ですが?なんだよ」


 いや、『殺人姫(チュエ・ラ・プリンセス)』という二つ名からして大体予想がつくが。先を促されたアリスは一度頷いて形のいい唇を動かした。


「なんと、彼女とパーティーを組んだものは、絶対に戦死してしまうのです。それも、決して死体が残らないような死に方ばかり。疑問を抱いた何人かの冒険者が彼女の身辺を調べたところ、彼女が仲間を殺していたという証拠がばんっばん見つかったとの事です。以来、彼女の冒険者としての地位は剥奪されましたが、今も尚、彼女がSランク保持者として語られるのは、ただただ彼女の実力がなせる事なんですよ」


 成る程…Sランク冒険者か…確かに、ちょっとだけ危ないかもしれない。

 俺は指を顎に当てて少しだけ思案する。当然、俺自身の事ではなく、他のみんなの安全の事を。


「他には…?そいつ一人だけなのか?」


「いいえ、後2人いる……と、情報が入ったんですが…相手が全然分からないんです。完全にお手上げですねー」


「そうか…後2人か。『殺人姫(チュエ・ラ・プリンセス)』と同列扱いされるんだから、そいつらも強いんだろうな……」


 俺は軽く頭を掻いた。教会と対立するのは問題無いが、周りの奴らに迷惑がかかるのは困る…というか、嫌だ。

 例の魔法も大体覚え終わったし、そろそろ潮時か…


「もしかして、この学園を出て行こうとか、考えてるんですか?アラスさん」


 俺の思考を読んだかのごとく、アリスは言葉を投げかける。こいつ…本当に読心術を使えるんじゃ無いだろうな…


 と思いながらも、俺は大して慌てることも無く、冷静に返答した。


「別に、そんな事はどっちでもいいだろう。俺がこの学園に来た理由だった様々な物は既に手中にしたし、長居する理由もない。そもそも、俺は自分のせいで周りに迷惑がかかるのが大嫌いなんだ」


「まあ、アラスさんはそうでしょうね。アラスさんは、何でも一人でやることを良しとして、しかも本当に何でも一人でやれちゃうんでしょうね〜。それはまぁ、凄いことだと思いますよ」


 意外や意外。アリスは今朝の様子からして、俺が学園を辞めると聞いた瞬間に殴りかかって来るものだと思っていた。どうやら、少々自意識過剰だったらしい。


 アリスの話は続く。


「貴方の周りの人は、誰もが、とまでは言いませんが、貴方に迷惑を掛けて貰える事を期待していますよ。そこを、忘れないで下さいね〜?信頼は、そういった所から生まれるんですし」


 迷惑を掛けられる事を期待している?意味が分からないな。別に、迷惑をかければ信頼が生まれるとも、思えないし…


「覚えておく。思慮するかは分からないけどな。ーーそれで、他には何か無いのか?」


 話を逸らした俺は、元の話へと路線を合わせた。アリスも『仕方ない子ですね〜』と言わんばかりの視線を俺に浴びせ掛けながらも、俺の意を汲み取ってくれた。


「アラスさんが『現人神』であるという噂が、教会内で実しやかに囁かれているそうです。実際、何か心当たりでもあるんじゃ無いんですか?」


 ………あ、やべ、一番踏み込ませちゃいけない所に踏み込ませてしまった。とっとと話を逸らしてーー


「あれ?アラスさん、反応が鈍いですね。もしかして、本当に私の同類なんですか?」


「いや、現人神かどうかってどうやって判別するんだよ。確かに、実力からしたら現人神と大して変わらないかもしれないけど、問題点はそこだろ?」


 自分でも、言っててそこそこ筋の通っている言い訳だと思った。だが、何故か、アリスは縋るような瞳で俺を見つめている。


 ーーどうしたんだ、今日のこいつ。アリスはこんなに弱そうな女の子だったか…?こんなに、儚げだったか…?


 俺は、思わず心にそう問いかける。部屋の空気が少しだけ下がり、ひんやりとしたものが背中をツゥ…と下っていった。


 青い夏が、近づいている。


「私は、怖いんです。怖いんですよアラスさん。現人神には、永遠の命が、永遠の若さが与えられているんです。私は、もしかしたら…いえ、間違いなくーー」


その先は、聞かずとも理解出来た。辛そうに言葉を紡ぐアリスを、俺は手で制した。


 ………そう、か。確かに、そこは視野に入れていなかった。いや、視野に入れる事を、ずっと避けて生きてきた。当然だ。怖いに決まっている。事実、俺でさえ深く考えないように、問題を先延ばしにしているのだ。


 自分の親しい友が老い衰えても、自らは若いまま。送られるのは如何なる感情だろうか?憧れ?いや、違うだろう。そう、親しい友に、大事な人に送られるであろう視線はーー


 背筋に、再び寒気が走った。それは先程までのように我慢出来るものではなく、背中に突如として空洞が空き、そこに大量の氷をぶち込まれるような感覚だった。


もしかしたら、顔が青くなってしまっているかもしれない。そう、そうなのだ。俺も、俺ですらこんなにも怖いのだ。


 軽い気持ちで得た永遠の命。今思えば、あの時、初めて合ったあの時に、ラファエールは俺を止めようとしていたような気がする。既に、いや、生まれた時からその運命(さだめ)を手中のモノにしていたラファエールは、だからこそーー


ーー開きっぱなしの窓から、太陽に熱された風が入り込み、アリスの長い髪が、アラスの頬に触れた。


目の前の少女には、誰かを喪った経験が、あるのだろう。

命を失うという事を、生物として当然の物を得られ無い事を、その時実感したのだろう。

 既に、知っているのだろう。

 もう、諦めているのかもしれない。


 ーー怖い。


 どうしようもなく、怖い。


 昨日一緒に笑いあったエルフィの、冷たい視線。今日、先程あった彼らに送られる、無情な瞳。


 嫌だ。

 考えたくない。

 考えていたら、潰されてしまう。


 ーーそんな、気がした。


 アリスは、一体いつからこんな重みを背負っていたのだろうか?

 年端もいかない、小さい時から、背負って来たのだろうか…?『コレ』を。


 凄いと、思った。

 真似出来ないと、思った。

 そして、何より可哀想だと、思った。


 何て返事をすればいいんだろうか?

 会う人会う人に、常に恐れを抱いて接して来たであろう彼女に、一体、どんな言葉をかければ、慰めに、救いになるのだろうか?


 分からない。

 なにも、分からないのだ。

 現人神だと、俺は、お前と同類だと言えば、彼女は救われるのだろうか?


「ーーすいません。重たい話になっちゃいましたね〜。全く、アラスさんが私にいやらしい視線を向けるのがいけないんですよ?」


気付くと、そんな風に、何時ものように作り笑いを浮かべるアリスが、つまらない冗談を言った。

何時もの、殆ど完成された作り笑いと比べると、余りにも完成度の低いそれを見て、俺は思わず失笑した。


『この、下手くそ野郎が』

随分と遠く感じるようになった、前世の記憶。

儚げに舞う蝶のように揺れるそれらの中から、突如としてその言葉が胸の中心を叩いた。

誰に、言われたのだったか?

もう、よく覚えてもいない。

でも、確か、あれはーー


蝶は心にストローを刺し、穴を開けて(よわさ)を吸った。

さながら、吸血鬼が人間の首元に牙を立て、血液を吸い尽くすように。


なんて、情けないのだろうか。

こんなにも辛いことで押し潰されそうになっている少女の、匙を投げようというのか。 治療を、諦めてしまおうというのか。


許せない。

この後に及んで、彼女を傷つけたかもしれない自分自身に、腹が立つ。


話は終わったと言わんばかりに立ち上がったアリスの小さく、柔らかな手を、俺はしっかりと取った。


窓から差し込んだ、赤い朱い陽の光を、2人は浴びた。


「俺は『現人神』だよ、アリス。間違いなく、お前の同類だ」


信じられないものを見たような目で、審議を確かめるように、助けを求めるような瞳を向ける少女に、優しく微笑みかけ、首をゆっくりと縦に降る男の姿が、そこにはあった。


少女の瞳から、抑え切れない滴がひとつ。胸に飛び込む少女を、俺は優しく抱きとめたーー


「結婚…して下さい!アラスさん!!」


「ーーは?いや、それはねぇよ」



そんな、たわいも無い会話を聞いている者が、いるとも知らずにーー



アラス・アザトースが退室した後。先程までの会話を盗み聞いた男は、呟くような、1人の少女の声を聞いた。



「本当に、結婚、出来れば良かったんですけどね…」



再び、一つの雫が零れ落ちた。




余りにも遅い投稿になってしまい、申し訳ありませんm(_ _)m


前回のテストの結果があまり良くなく、復習に集中していた所、アップデートに失敗してしまい、スマホのデータが全て消えてしまいました。


てっきりこちらのデータも消滅してしまっていると考えていたため、先日ログイン出来た時は本当に驚きました!


皆さんも、アップデートには最新の注意を払ってください。

マジで一切合切のデータが消えます。


勉強に身を入れるため、途轍(とてつ)もない亀更新になりますが、暇つぶし感覚で見て頂けると幸いです!

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