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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第4章 動き出す物語
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34話 忙しい2年生

起床後、エルフィが作ってくれていた朝食を食べ、歯磨きをして着替え、俺は一階へ降り始めた。


朝起きた時、何故か服が乱れていたが、俺は気にしない。何故か上半身が裸でズボンのチャックが空いていたが、それどころか、太腿の位置までズボンがずらされていたが、それでも俺は気にしない。何故か朝からエルフィのテンションがとんでもなく高かったが、だがしかし、俺は気にしない。


ーー大丈夫…だよね?うん…


いや、流石に俺もアレは異常に思った。しかし、気にしない。気にしたくない。寝てる間に勝手に…とか、洒落にならない。


………本当に心配になってきたぞ…ここのセキュリティが完璧だからって結界張って寝るの忘れてたからな…エルフィの部屋、今度用意しておいて貰おう。うん。


一階についた。視線が集まる。俺は気にすることもなく食堂へと向かった。何時もならここで朝食をとるのだが、今日はもうエルフィお手製の素晴らしい朝食を食べてしまった。それでもここに来たのはいつも、この時間、この場所に皆が集まっているからである。


ーーが、今日は誰もいない。


あれ?何か早く行く必要のある用事でもあったのか?俺は頭を捻るが、どうも思い出せない。


まあ、いいか。どうせ昨日何か連絡されたんだろう。俺は知らん。回れ右して寮を出る。何時も何時も、飽きもせずに集まる視線を少し鬱陶しく思いながらも、だんだん赤みを増してきた陽射しの出処を見た。


日輪が見える。まるで溶けた水銀のようなソレは、半袖からはみ出している腕をジリジリと焼いていた。もう殆ど夏と変わらないそのオレンジ色の光から、俺は思わず目を逸らした。


学園の校舎まで移動するのはそう大した手間では無い。近場に男子寮は建てられているし、どれだけ長くても、10分以内には校舎に入ることが出来る。


こんなに静かな登校は久しぶりだと思いながら、俺は足を進める。目に見える所には巨大な研究施設が肩を窄めて並んでいる。何度見てもうざったいその光景に、俺は少し頭の痛みを感じた。


頬に汗が流れる。それをポケットに入っているハンカチで拭きながら、胸元をパタパタと動かした。何時もならそんな動作一つでも黄色い声が上がる俺の周囲は、女子が一人もいないため静かなままだ。


校門が見えた。ここまで来れば女子と男子の数が半々になる。この学園は本当に様々な種族が集まっている。校門前の騒々しくも微笑ましい喧騒を横切りながら入り口まで歩いた。


俺の歩こうとしている場所に立つ者はいない。モーセになった気分はいいものでは無い。ただ、何時もよりはましだ。何時もならばアラス、リューク、カール、オルドの4人で登校する。


その場合はリュークとオルドに話しかけてくる女子が集まって、『モーセ状態+ハーレム状態』になる。これをアリスだのラフィスだのに見られた暁には一日中ご機嫌取りをしなければならなくなる。理由は分からないが、リュークたちに強要されるのだ。


ーーん?喧騒が止んだな…?


唐突に誰一人として喋らなくなった。これはアリスが登校して来た時によくある現象だ。俺はアリスが来たことを期待して後ろを振り向く。一人は寂しいのだ。この際アリスでもいいや。と、不躾な事を考えていた俺の瞳は不思議な物を視線の先に捉えた。


ーー馬車だ。


真っ白で、高そうなピンクの布がカーテンのように取り付けてある。金の装飾が一面に輝き、異常な程に美しい。感じる魔力。これはーー魔道具?このサイズの魔道具があるのか…?


そもそも、寮からここまではわざわざ馬車を使う程の距離ではない。馬車自体、この島で見ることは滅多に…というか、全く見ない物なのだ。


ふと、話し声が聞こえて来た為、耳を凝らす。


「おい…アレってまさか」

「ああ、噂には聞いてたけどマジかよ…」

「ってことは、やっぱりあの中にいるのは…」

「間違いないな。本当にここの生徒をやってるのか…」


男2人がヒソヒソとそんな事を言い合っている。聞き耳を立てるのを続けようとしたが、馬車の扉があいたのを境に、2人は話すのをやめてしまった。


チッ。と、心の中で舌打ちした俺は、回れ右して歩き出した。歩き出した俺に対し、正気を疑うといった視線を送った数人は、それでも体をズラし、道を作った。


とっととリューク達と合流してエルフィの事を相談したかったのだ。まさか貞操の危機どころか、既に奪われているんじゃないか…それだけが、俺の足を突き動かした。


朝から色々あって苛々しているのだ。あの反応からするに、何処かの王族だろう。公爵家のラフィスを見てもここまでの反応をする奴はいない。俺は王族になんて興味がない。人垣を掻き分けながら俺は進んだ。


「そこのお前!何をしている!!アルメル様に失礼だろう!?」


後ろからそんな声が聞こえて来た。随分と男前なカッコイイ声だ。普段の俺なら当然の様に無視しただろうが、そのイケメンボイスに免じて顔だけを後ろに向けた。


そこには、予想通りかっこいい茶髪の男と、金髪の髪を大胆にツインテールにしている上等なドレスに身を包んだ女の子がいた。彼女はこう…美しい。とかではなく、何と言うか…そう、可愛い女の子だった。


ただ、我儘そうだ。人の性格はある程度顔に出る。あれだな。『手に入らない物が何もない環境で育ちましたよー』という雰囲気がプンプンと匂ってくる。箱入り娘…に近いお姫様だ。


「失礼しました。急いでいまして。どうか、お許しを」


出来るだけ丁寧に、誠意を感じて貰えるよう、態々身体を正面に向けて頭を下げた。面倒事は御免だ。それにしても、この程度の事でそうカッカするなよ…禿げるぞ。


男はそれでも満足がいかなかったのだろう。すぐさま怒りで顔を真っ赤にした。周囲にいた生徒たちは、俺が教団と問題を起こした事を知っているためだろうか?不安そうな顔をする者、興味深そうに目を皿にする者など、様々な反応を見せたが、誰もがすぐに俺の近くから逃げた。


歩み寄る2人を、面倒臭い事になったな…と、思いながら俺は見据えた。2人の乗ってきた馬車は既に帰り始めている。


怒っているのが丸わかりな2人は、俺の前で立ち止まった。慌てた何人かの教師が走ってきたが、アルメルとやらに一睨みされただけで足を止めた。


ちゃんと仲裁しろよ…!!俺はそう怒鳴りつけようと思ったが、流石に酷だ。やめておいた。


「貴方は私が誰だか分かってそんな事を言っているの!?名前を名乗りなさいよ!!!」


アルメルとやらが両手を腰に当て、そこそこある胸を反らしながらそう言った。あの男は「無礼な事を言えば斬り殺してやる!!」と言わんばかりに腰の剣に手をかけている。装飾過多な剣だ。脆そうだな…


それにしても、俺はちゃんも謝ったじゃん。誠意も示したじゃん。頭も、ちゃんと下げたじゃん。急いでたんだよ。仕方ないだろうが。あれか?喧嘩を売っているのか?


ーーいいだろう!そこまで言うなら、一も二もなく戦争だ!!


「名前が知りたいのならばまずは自分から名乗らなければいけない…と、礼儀作法を習う時に教わりませんでしたか?教養のない方が嫌いだ。と言うわけではありませんが、もし高そうな服に身を包むだけで王族になることが出来るのならば、私も今日から王族の仲間入りですね」


ーー空気が一瞬凍った。


俺は『最低限の礼儀作法が見に着いてない奴が嫌いだと言うわけでは無い』と発言したが、実際のところは蛇蝎の如く嫌っている。


別に難しい事を言っている訳では無い。朝起きたらおはよう。夜ならこんばんは。初対面の人には自分から名乗る。その程度の事だ。『礼儀作法』だなんて大仰にいう必要も無い、幼稚園児でも出来ることだ。何故嫌いなのか?と言うことに大した理由は無い。ただ、生理的に受け付けないのだ。


それにしても、我ながら凄まじい罵詈雑言を吐いたもんだな…ってか、アレを一瞬で思いつくって、凄くね?俺、超凄くね?


「き、貴様ぁああああ!!!」

「はいうるさい」


大層な大声をあげて斬り掛かってきた男の剣を『闘気』を纏った手刀で真っ二つし、本人は鳩尾を殴り、気絶させた。


喧しいよ…家の近所でコンクリートに穴を開けようとドリルをガンガン言わせてる工事のおっちゃん並みにうざってぇよ……


悲鳴をあげる生徒。怒号をあげる教師を殺気で黙らせ、真っ青になっているアルメルを真っ直ぐ見つめた。


取り敢えず、ちゃんと弁明すれば怒られないだろ。鳩尾殴って気絶させただけだし。正当防衛だしね。


「彼は気絶させただけですよ。殺した訳ではありません。さて、名前を聞かせて下さい」


『気絶させただけ』その言葉に安堵の声を漏らす人々。俺の事をなんだと思ってるんだ…?いやまぁ、そんな感情は顔には出さないんだけど。


「ジョシュアに…ジョシュアに、何すんのよ!!!」


ーーそう言ったアルメルは莫大な魔力を練り始める。


……いやいやいや、我儘が過ぎんぞ!ちょっとは他人の事を思いやれるようになろうよ!どう考えても俺は悪い事やってないじゃん!!王族なんでしょ!?もうちょい下々の事も考えられるようになれよ!!


と、俺はそう怒鳴りつけようとしたが、すぐに無意味である事を悟った。彼女の魔力は暴走しているのだ。


仮にもここは魔法学園。生徒も教師もそれに瞬く間に気付き、生徒は避難を、教師は結界魔法でアルメルの攻撃を防ごうとした。


「"収束せよ!変質せよ!拡散せよ!我が怒りを雷撃と変え、敵を打ち滅ぼせ"!!≪拡散する電撃(ヴォルティックヴェブ)≫!!!」


雷魔法第二階級≪拡散する電撃(ヴォルティックヴェブ)≫は圧縮させた雷を拡散させる広範囲魔法だ。本来、応用魔法の第二階級は宮殿魔法師が数人掛かりで扱う大技。つまり、こいつは相当な天才。そして恐らくーー


ーーここまでの大技を出して来た事に驚愕する教師陣。雷魔法第二階級を扱える事に恐怖する学園生。教師陣は結界魔法の硬度を限界まで上昇させる。もし、『アレ』が直撃すれば多くの生徒達が死んでしまう。自分達の命に掛けてもそれは防が無れければいけなかった。


目の前に、≪拡散する電撃(ヴォルティックヴェブ)≫が迫って来た。俺ソレを一切見ず、アルメルを見ていた。アルメルは全力を出し切ったようで、気を失って後頭部から地面に倒れてしまった。……それ程大事な人だったのか…悪い事したな。いやまぁ、立ち止まらずに歩いてただけなんだけど。


「"消えろ"」


俺はアルフレッドに教わった≪魔法破壊(マジックブレイク)≫を発動した。純魔力を魔法にぶつけて木っ端微塵にする『コレ』は、無属性魔法に位置する。難易度は最大級。魔力さえあればどんな魔法でも打ち消すソレは、≪拡散する電撃(ヴァルティックヴェブ)≫を跡形もなく消し飛ばした。


俺は呆然とする一同を無視し、アルメルとジョシュアとやらを脇にかかえ、≪瞬間移動(テレポート)≫で保健室に飛んだ。



ーー後に残った彼らは3分間ビクともしなかったという。



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