4話 始めての戦い
第4話です!
さて、記念すべき初バトルが全長10メートルを超える狼11体。という世界最低ランクの運の持ち主であるこの私、アラス・アザトース(この名前はラファエールが付けたものだ)は絶望的な状況に陥っていた。
思えば、とんでもない一日だった。
車に撥ねられ、女神に会い、雲の高さから落とされ、挙句の果てには巨大狼の群れか....
悲惨すぎる……(笑えよ。笑いたいんだろう?)
「ハハハ…夢だったらとっとと醒めてくれよ……」
THE・絶望的!!当然、夢では無い!
ここまでくると最早恐怖すら感じないな。
(というか何も感じない。不感症じゃ無いよ!)
まあ、勝てるかどうかは分からないが、どうにかするしかないだろう。
ーー敵さんも、もう待ってはくれないらしい。
「ウヮオーン!ウヮオーン!!」
まさか、仲間を呼んでいるのだろうか?
ただでさえ勝ち目が薄いのに……だいたい、この戦力差でまだ仲間を呼ぶって…少し堅実過ぎやしないか?
と、考えていると狼のうち一匹が突然襲いかかって来た。
「チッ.....≪異常な護り≫発動!俺を守れ!!」
咄嗟にそう叫んだ俺の判断は中々に的を射ていたと思う。
≪異常な護り≫は
状態異常完全無効化 魔法耐性(大) 全属性耐性(大) 自動防壁
という、≪完成された吸血鬼≫と比べればだいぶ劣るが、それでも素晴らしい防御力を誇るユニークスキルだ。
こと、防御に関してはこのスキルの右に出るものは無いだろう。見事、透明な盾が巨大狼の攻撃を防ぎきった。
「よし!≪一味違う道具箱≫!
<瞬間武装>発動!≪神殺しの黒刀・紅椿≫を抜き身で俺の右手に召喚!!」
≪一味違う道具箱≫はレア度Sの神器で、
付与スキル
持ち主固定 素材解体 気体貯蓄可 瞬間武装
時間凍結
という能力を持っている。
次に召喚した、
≪神殺しの黒刀・紅椿≫もレア度Sの神器で、
付与スキル
持ち主固定 魔法付与 破壊不能 超高速振動
斬れ味最大
という特殊スキルを持っている。
この刀の特筆すべき所はその絶対的な斬れ味にある!<超高速振動>と<斬れ味最大>のコンボで斬れない物など存在しない!!
異常な護りによって召喚された<自動防壁>の盾を使い、巨大狼の首を俺の目の前に誘導した。
「セイッ!!」
という掛け声と共に≪万能の指輪≫の<剣術上昇>によって強化された俺の剣捌きは多少のぎこちなさを残しながらも見事な太刀筋で狼の首を切り飛ばした。
≪紅椿≫で巨大狼を斬った感覚は、豆腐を箸で切った感覚と、大差無かった。
始めて巨大な生き物を殺したことに顔をしかめるが、こればかりは仕方がない。
恐らく、これからも多くの命を奪う事になるのだろうが、
覚悟はある程度してきたのだ。
戦闘に、意識を戻そう。
この≪万能の指輪≫もレア度Sの神器であり、
付与スキル
持ち主固定 剣術上昇 全属性使用可能 総魔力量2倍化 詠唱破棄 完全索敵 透明化
というスキルを持っている。
ふっふっふ〜!1番最後のスキルに注目したまえよ、君!これを何に使うかって?
そんな事はいちいち言わなくても分かるだろう?これはねぇ……○泉とかで○○をするためにあるんだよ。血が滾るだろう?
心の友よ!!
ああ、戦闘に意識を戻すんだったな。
いけないいけない。
さて、仲間の一体を瞬く間に倒した俺に危機感を覚えたのか、後方の巨大狼達はジリジリと後退し、逃げ出そうとしていた。
ーーにしても周りの草が邪魔だな…
だが、先頭の狼がウォーンと一度鳴くと、
恐れを振り払ったかのように突然全員で襲いかかってきた。
「冗談だろ!?マジかよ!オイッ!?クソッ!こうなったら仕方がねぇ……!!余り使いたくなかったが、≪紫水晶の魔眼≫を使うしかないか…」
そう、ここまで使わ無かった俺の右目である魔眼、≪紫水晶の魔眼≫はレア度Sの魔眼であり、俺がラファエールにおふざけで頼んだ結果、マジで許可してもらえた超超イカレチートの魔眼で、能力は、
持ち主固定 破壊不可 片眼鏡物質化 視野範囲内紫水晶化 魔力変化 使用制限 選別眼
である。
この中でもヤバイのが<視野範囲内紫水晶化>というスキルで効果は、
まあ…言葉通りだ。
一応<使用制限>でこのスキルだけは一日に5回しか使えない事になっているが、我ながらこれは酷いと思う。
というかラファエールは俺に何をさせるつもりなのだろうか…?このスキルを手に入れた時、俺は喜びよりも恐怖を感じた。
…俺、大丈夫だよねぇ……? とんでもない事に巻き込まれていたり、してないよねぇ…?
ま、まあ、気合を入れ直そう。
現在発動している≪完成された吸血鬼≫で得た驚異的な身体能力と、≪異常な護り≫の透明な盾を利用した大ジャンプで危機を脱した俺は、およそ地上10メートルの高さで真下を見下ろし、≪紫水晶の魔眼≫を発動した。
半透明な紫色の閃光が迸り、視野範囲内をほんの一瞬だけ照らした。
▲▽▲
……結論から言おう。
巨大狼だけでなく、あの広大だった草原のほとんどが紫水晶化していた。端っこの方にあった森にまでは飛び火しなかったが、
草原は壊滅的な状態だった。
その光景は、異常なほど現実離れした美しさを持つ幻想的なこの草原を、脳に焼き付けようとしているかのようだった。
ーーそれと、笑えることに俺はまた着地に失敗した。俺が落ちた場所は紫水晶化した草の上だったのだ。針山のような草に串刺しにされた俺は、身動きする事ができず、<魔力変化>のスキルを使えばいいという事に気づくまでの3分程、苦しみ続けた。
ボロボロになった服は≪完成された吸血鬼≫の<アイテム創造>を使って修繕したが、スマホなどの事故にあった際に持っていた物は全滅した。ーー思ったより、紫水晶化した物質は硬くなるらしい。吸血鬼化してる状態の俺が暴れてもビクともしなかった。期待できるな。
遠方を見ると最初の遠吠えに対する援軍だったのであろう、7匹の巨大狼が固まっているのが見えた。(可哀想に…)草原が丸々紫水晶化したのだ。当然、巨大狼以外の多くのモンスター達が固まっている。
「うわぁ〜これは酷いな…このスキル使いにく過ぎるし……って!しまった!!<片眼鏡物質化>のスキルを使って範囲指定して使うんだった!!!」
そう、このスキルは危険すぎるから、と、ラファエールに<片眼鏡物質化>のスキルを使っていない時は使うなと言われていたのだ。
……完全に忘れてた…
い、いや、まあ、僕も人間だし、失敗くらいするよね!仕方ない。仕方ない!!
(仕方なくは無い)
まあ、次からは気を付けよう。
一応の反省をした俺は、<片眼鏡物質化>のスキルを常時展開しておくことにした。(別に疲れたりはしない)
その後は水晶化したモンスターの首の部分だけを<魔力変化>のスキルを使って元に戻し、殺した後に全身の紫結晶化を解除して一味違う道具箱に入れる。
という単純作業を3時間程することで、
ほとんどの紫水晶化したモンスターをアイテムボックスに入れることが出来た。
その数、およそ250、そのどれもが10メートル台の巨体であり、正直、この世界のモンスターがどれもこんな阿呆みたいなサイズだったら…と考えると、絶望しか抱けない。
「ハァ〜、やっと終わった〜!動かなかったとはいえ、モンスターを殺す事にも慣れてきたし、さっき見た人工的な壁みたいな物がある場所に行ってみよう!!」
(生き物を殺す事に慣れるのは自分でもどうかと思ったが、この先、この世界で生きて行くには必要な事になるだろう。遅かれ早かれ、慣れなければいけなかった)
そう、彼は先程大ジャンプした折に人工的に作られた壁のような物を見つけていた。
とっさに視界から外す事に成功した為、ことなきを得たが、もし人が住んでいたら…と思うとゾッとする。
まあ、<魔力変化>で元に戻せばいいってだけの話なのだが。
暫く歩くと先程見た壁が見えてきた。その壁は薄汚い赤色のペンキで塗られており、中々に歴史を感じさせてくれる。だが、この草原で立ち続けているのだ。 ただの壁では無いだろう。どういうカラクリだろうか?門の前に立った。頼む…誰かいてくれ!
「すいませーん!誰かいませんかー!!」
「ーー家に、何か用かい?」
その鈴のような美声は、僕の真後ろから聞こえた。