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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第3章 新たなる出会いたち
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32話 教団との接触

 ざわめく外野。

喚く騎士。空気が叫ぶ。

怒り、嘆き、困惑、様々な感情がゴチャゴチャに混ざり合っている。

右手には人肌。

ラフィスが心底傷付いた表情で俺を見る。ただ、その目には俺への心配も写っていた。


『危ない事はしないで下さい…』


瞳から感じたその感情を、真っ直ぐと受け止めた俺はーー



それでも、怒りが収まらなかった。



「あはははは。殺しますよ?貴方」


 冷たい声が空気を切る。

絶対零度のそれに、全ての心の臓が、その細胞の一つ一つに至るまで動きを止めた。

その目に浮かんでいるのは激情。

怒り、殺意、数え切れない程の感情が目の前の騎士を貫いた。


俺は一歩ーーたったの一歩だが、『敵』へと歩みを進めた。


恐れを成して…と、言うよりも、本能的な恐怖に突き動かされて後ろへと下がる『敵』。


俺はそれ(・・)を軽薄な笑みで見た。


『軽薄』


確かにそうであっただろう。

俺の表情を見た者は誰もがそう感じただろうーー


しかし、『敵』は俺の瞳を見てしまった。

そのオッドアイに写るのは楽みを讃えた感情では無かった。

断じて違うーー寧ろ、真逆の何か。

たった一人の『敵』はただ、震えるしかない。



 ドクン。



 ーー何かが、動き出す音がした。




 ▲▽▲





「何なんだろうな…?あの爺いの話って」


 相も変わらずラフィスの手を握りながら、俺はそんな事を呟いた。

俺としては別段誰かへの質問ではなく、ただの独り言だったのが、隣にいる、先程目を覚ました女の子から期せずして返事が帰ってきた。


「モルクスさんは忙しい人ですし、態々呼び出すとなると…結構、重要な話なんじゃないですか?ーーそれと、あからさまにダラけ無いで下さい。失礼にあたりますよ」


 ーー意外な事にラフィスもあの元気爺いの事を知っていた。

有名人らしいのだ。

モルクス爺さん。

何をしたんだろうか…?

興味が湧いた俺だったが、今はそれ以上の興味の対象があった。


「重要な話…ねぇ…?まぁそれはともかく、デートも一応終わったわけだし、多少ダラけたっていいだろ?さっきまでみたく凛々しくしてるの、疲れるんだよ」


「家に帰るまでがデートです!!」


 ーーいや、そんな『お家に帰るまでが遠足です』みたいなこと言われてもな……


 今2人が手を繋いでいるのもラフィスが勝手に俺の手を握った事が要因だ。

積極性皆無のラフィスだったが、『恋人繋ぎ』、『額にキス』を経験したラフィスは今までに無く強気だった。



ーーいつまでそれが続くのかは置いておくとして…だが。



 今日のデートでは絶対にアリスからの妨害があると俺は予想していたのだが、意外な事にそれらは一切なかった。


 まあ、このパターンも予想パターンに無かった訳では無い。

アリスは普段がアレだから勘違いされ易いが、根っこからあんな自分勝手な振る舞いをするやつではないのだ。


ーーと、俺は信じている。

本当かって?

あいつの普段の態度を見てから考えろよ。

え?そうは見えないって?

美人だからそこらへんはどうとでもなるんだよ。


俺はふと、視線を巡らせた。

周りには2人を見るために集まった人の壁。

暇なもんだな…と俺は思ったが、同時に考えつくものもあった。


 周りの人々は2人を見た瞬間に身を引く為、移動は実に楽なのだが、何だか申し訳ない気持ちになってしまう。

その為、俺はこの状態があまり好きではない。


重い空気を取り払おうと、俺は明るい口調でラフィスに話しかけた。


「なあラフィス。教会の悪事とかの噂って聞いたことあるか?」


 その言葉に対し、ラフィスは不思議な顔をした後で考え出した。

俺の真面目な雰囲気を察したのだろう。


 俺はそろそろラファエール教会、つまり『教団』の上層部をどうこうする作戦を開始しようと考えていた。

ニーナがいない為、余り本格的に動く訳では無いが、それでもある程度の邪魔をしておく事に意味はあるだろうと、俺は判断している。


「そうですね…教会の悪事といえば、そこそこ横領とかが見つかっているらしいですが…それがどうしたんですか?」


 ラフィスは不思議そうに俺の顔を覗き見た。2人の歩みが少し遅くなる。


 横領…その程度の情報は既に得ている。

ラフィスに話し掛けたのは世間一般の人がどれだけの情報を知っているという点を明確にするためだったので、知っている情報でも問題ないが、よくよく考えればラフィスはずっと別荘で暮らしていたと言う話だし、この情報量が一般的だと判断するべきではない。


聞く相手を間違えたな……一般の情報量を知れずとも、常識的な事ならある程度しる事が出来るかもしれない。


 ーーじゃあ…


「ラフィス、奴隷制度を促進しているのが教会だという話は知っているか?」


 これを知っているか知っていないかで今後の方針に大きな差が出る。

俺は縋るような目でラフィスを見た。

こういった常識的な部分に関してはラフィスをある程度信用することが出来るのだ。

大事な事だから2回言うが、|ある程度(、、、、)だ。


「えっ!な、何ですかそれ!?知りませんでした!!」


 驚きながらそう叫ぶラフィス。

慌てて殺気を飛ばして集まった視線を逸らす。

ーーこの反応は間違いないな。

『公表されていない』率100%だ。

よし。


次はーー


「じゃあ、ラフィスは『洗礼』ってのを受けた事はあるか?」


 俺はこの質問に関して言えば答えを知っていた。

しかし、それでも確認をする必要がある。

『とある噂』について確認を取りたいのだ。


「それはそうーーでしたっけ?あれ?人族は皆6歳の時に受けるんですけど…それに、その時に魔力量を測りますし…でも、覚えがないですね……」


 ーーふむ…『あの噂』は本当か…にしても、さっきから随分と監視の人数が増えてるな…俺は≪万能の指輪(ワンノン・ジファン)≫の<完全索敵>を行使しながらそう思った。


 何時もであれば俺の監視についている教会の監視人はせいぜい2人程度なのだが、今日は5人もいる。

ーーこりゃなんかあるな…俺は心の中で盛大に舌打ちをした。


 目の前には冒険者ギルドの看板が見える。どうやら喋っている内についていたようだ。

何か聞きたそうな顔をしているラフィスを引っ張って、俺は冒険者ギルドに入ったーー




 ▲▽▲




 中はいつも通り混雑しているーーが、何時もと違う事が一つ。

目の前にパッと見えたのが、『冒険者ギルドのカウンター』ではなく、『10人のご大層な装備に身を包んだ騎士様達』だった事だ。


 俺は大きく溜息をついた。

アホらし。

そう思った俺は固まっているラフィスを引っ張って職務室へ行くために階段を登ろうとした。


「待て!Sランク冒険者、アラス・アザトース!!」


 一番先頭に立ち、1番豪奢な甲冑に身を包んでいるキリッとした男。

30くらいだろうか?

そこそこ強そうだ。

まあ……



 ーー無視。



 俺は階段の一段目に差し掛かった。

この階段は螺旋状になっていて、無駄に芸術的な造りだ。

ーー何故冒険者ギルドに芸術性を求めたのだろうか…?

謎だ。


「よ、呼ばれてますよ!?アラスさん!!」


 叫ぶラフィス。

少々俺の手を握る圧力が上がる。

実に柔らかく、白魚のように白く美しい手だ。

俺はそれを優しく握り返した。

ただまあ、呼びかけについては…



 ーー無視。



 階段の中段まで登る。

既にだいぶ登ってしまった。

てっきり彼らの内の誰かが妨害してくると予想していたのだが…まあ、どっちでもいいか。

俺は視線を前に、足を動かす。


「アラスさん!彼らは『聖教騎士』ですよ!?」


 叫ぶエミィ。

久しぶりだな…。

チラとエミィを見る。元気そうなエミィを見て微笑む。

まあ…



 ーー無視。



 既に俺は階段の最後の段が見える所まで登っている。

もう少しで二階だ。

あの爺さんとお茶でも飲もう。

そんでもってうるさい奴らを徹底的に無視するんだ。

俺はそう、心に決めた。


「ハハハハハハ!愉快じゃ!聖教騎士が完ッ全に無視されておる!!ハハハハハハ!!!」


 …………?

幻聴か?あの爺さんの声があの騎士どもの近くから聞こえたが…思わず下を見る。

相変わらず汚い格好をした(じじ)いが大声で笑っている。

うん。

間違いなくあの爺さんだな…ま、いっか。

勝手にラフィスと2人っきりでお茶しよう。

ということで……



 ーー無視。



 俺はついに2階へと辿り着いた。

相変わらずラフィスはキョロキョロしている。

其れが無性に可愛く思えた俺はよしよしとラフィスの頭を撫でた。

気持ち良さそうに目をつむるラフィスを優しく引っ張り、俺は部屋へと向かおうとする。


「サキテム様が仰っている事が聞こえなかったのか!?我々は貴様に話があってここまで来たんだ!余りにも礼を失してるのでは無いか!?」


 いかにも下っ端っぽい奴の言葉。

なにやら焦っているようだ。

全然威圧感がない。

手を出さないのには何か理由があるのだろう。


 ーーはぁ………もう、面倒だな…いい加減相手してやるか…俺は足を止め階段の上からその場にいる全ての人を睥睨した。


「礼を失する?貴方方の『礼』とは取り敢えず暗殺者を送れるだけ送りつけ、殺せないと気付けば何の知らせもなく現れ『我々の話を聞け!!』と喚く事なのですか?あはは。教会ってのは随分とお偉いのですね?私、知りませんでしたよ」


 両手を振り回し、相手を不快にさせるジェスチャーをとことん見せつけながらそう言いつける。


 何も知らない第三者は、教会が暗殺者を送りつけたと言うことを誰もが信じられず、疑いを持って俺の事を見た。

聖教騎士達は教会を敵に回すような言葉を平然と吐くその男に驚き、正気を疑うような視線を向けた。


 ただ、サキテムとやらとあの爺さんは愉快そうに驚きもせず俺の言葉に耳を傾けていた。


「『暗殺者を教会が送りつけた』という事に証拠はあるのか?」


 サキテムの余裕ぶった声。

その目は俺の事を試すように妖しい光を浮かべている。


おいおい、証拠とか言い出したぞ…これは面倒臭いな。

ーー帰るか。

俺はとっとと帰る事にした。

茶は家に帰って飲めばいい。

面倒ごとは気乗りした時しか関わる気にならない。

それが俺だ。


 俺はラフィスの手をギュッと握った。

驚くラフィスを無視して階段を降りる。

ここで≪瞬間移動(テレポート)≫を使って逃げれば俺の言葉が嘘の様に思われてしまう。

俺は堂々と玄関から出る事にした。


 降りる俺を聖教騎士の9人が取り囲んだ。


「止まれ!質問に答えろ!それとも何か?証拠が無いのにそんな事を言ったのか!?そのような虚言で協会の名誉を傷付けた罪。万死に値するぞ!!」


 先程の男が俺の事を怒鳴りつける。

俺は構わずに歩き続け、大きな欠伸をした。

お前らなんてどうでもいい。

それを表現する行動に、9人の顔は真っ赤に変わる。

当然、照れているのではない。

怒っているのだ。


 俺のその行動に呆然とする者達の中で、元気爺さんの笑い声だけが響いた。


「待て、話をしようじゃないか。暗殺者の件については謝ろう。我々にとってお前は危険因子なのだ」


 サキテムは唐突に、俺にだけ聞こえるよう、耳に口を近付けてそう言った。

その言葉に俺は思わず俺は足を止める。

暗殺者を送りつけた事を肯定する言葉ーーそれは、現時点で出てくるはずの無い言葉だった。


 ーー何を焦っているんだ?


「それは暗殺者を送りつけた事を肯定する。と言うことで良いのですね?」

「どうせ証拠は掴んでいるのだろう?無駄話はやめようじゃないか。お前への要求は一つ、教会まで同行を願いたい」


 ーー確かに俺は証拠を掴んでいる。

ヘレンさんに頼んで送りつけられた暗殺者達を地下施設に閉じ込めているのだが、何人か密書を持っている者がいたのだ。

内容は当然、『アラス・アザトースの暗殺』こんな指令書、プロなら貰って即燃やして灰にする。

それでも持っていたという事は、ど素人でも関係無く雇っていたという事の証拠になり得る。


それにしてもーー『願いたい』ね。

成る程、こいつらの言葉には強制力が無いのか。

無力な一市民だのに対しては何よりも恐ろしい言葉なのだろうが、力のあるものからすれば無視しても何の問題にもならない些事。

ここで帰られれば任務失敗になる彼らからすれば、下手に出てでも俺をここに留めたいって訳だな。


ーー俺は口元に笑みを浮かべた。

決して友好的な笑みでは無い。

その笑みから伝わるのは嘲り、つまり、それは嘲笑だった。


「少しは脳味噌が詰まっているのですね。そこの9人のように、人の皮をかぶったゴミなのかと思っていました」


 俺は馬鹿にしたような目を9人へと向ける。

9人は今にも俺に飛びかかりそうだ。

それを手で制すサキテム。

俺は言葉を続ける。


「残念ながら、私には貴方方の要求を呑む理由がありません。失礼にあたるかもしれませんが、私は貴方方などに構っている時間は無いのです。さて、話は終わりです。お引き取り願いたい」


 その言葉に誰もが息をひそめる(騒がしいのが一人いるが)。

教会の『要求』は、実質的には『お願い』ではない。

『命令』だ。拒否すれば教会に目の敵にされてしまう。


 だが、俺は『それ』を平然と退ける。

未だに喚き続ける9人に哀れむような瞳を向けた。

その視線にサキテムですら思わず黙り込む。


 静寂を割いたのはサキテムだった。


「どうしても、同行して貰えないと…?」


 それは確認。

もし否定の意を唱えればどうなるのか分かっているな?

という脅しの言葉。


 ーーしかし、俺はそれを鼻で笑った。


「これはこれはーー貴方には耳がついておられないようだ。私はお引き取り願いたいと言ったのですが……全く、教会は近年ゴミダメと化していると噂では聞いていましたが、どうやら事実のようですね?ほら、向こうに出口が見えるでしょう?さっさと帰って貰えませんか?それともーー目まで使えないのですか?」


 ブチ切れる一歩寸前ーーを通り越してブチ切れた9人を、なんとか手で制すサキテム。

だが、その目には怒りと嘲笑が浮かんでいた。


ーーあれ?頭イかれた?

ってか、こんだけ暴言吐いてんのに我慢させるとか、中々統率力あるなこいつ。

今のでキレて殴りかかって来てくれてたら、殴って終わりだったのに。


 サキテムは、アラス・アザトースを煽り、手を出させるための作戦を練る。

これは先に手を出した方の負けだ。

もし自分達が力づくでアラス・アザトースを捕らえるーーもしくは、殺したとして、この場にいる人数が多過ぎるため、如何なる隠蔽工作も、無意味と化すだろう。

しかし、それはアラス・アザトースとて同じ。

手を出した方が、負けるーー


サキテムは知らなかった。

アラスは記憶の改竄を行える。

ということを。

この方法でアラスに挑んだ時点でサキテムは負けた。


しかし、それを知る由もないサキテムは、アラスを怒らせ、手を出させる為に、およそ考えつく中でも最悪の手段を用いた。


「ハッ。さっきから疑問に思っていたのだが、貴様の隣にいるのは悪名高き『天使様』じないか?『不良品』が、いつから王都にいるんだ?え?ゴミはいつまでも森の奥に閉じこもっていればいいものを。とっとと死ね!役立たずが!!」


今までの丁寧な口調をかなぐり捨ててのアラス本人ではなくラフィスへの罵倒。

確かに、それはアラスに大きな効果を齎した。



ーー 俺の顔からは一瞬、感情と呼べる全ての色が消えた。



 確実に空気が変わったその部屋において、自らが優位になった事を察した9人が俺へと嘲笑を向けるようとした。


 ーーだが、


 それは叶わない。


 アラス・アザトースの体から流れ出す膨大なーー膨大すぎる魔力に、9人は思わず悲鳴を漏らした。


『アラス・アザトースが切れた』それを瞬時に察した多くの者は、既に逃げ出す事も出来ず、ただ、流れに身を任せるだけだったーー




 〜冒頭に戻る〜




「殺す…?そ、そんな事が許されると思ってるのか……?」


 余りの恐怖に声を震わせるサキテムは、威厳の欠片もなくそう言った。

俺は後ろの9人へは殺気を放ってはいない。

先程の魔力量にものを言わせた脅しの効力は膨大で、有効的だ。


既に恐れから振り払われた9人の目からは困惑が見て取れる。

サキテムの恐怖心が理解出来ないのだ。



 ーーここで一石を投じようか。



「そこの人間の形をとったゴミの皆さん。見てみてください貴方方の団長様を。訳の分からない事に怯え、私と一切目を合わせようとしません。これが教会の上層部がカスの集まりだという決定的な証拠でしょう。先程まで怒鳴り声を上げていた相手に怯え、カスに成り下がる。私の言うことは間違ってますか?」


 再び不快を煽るような声で語りかける。

既にこの場に俺に反論するのもはいない。

飢えた大型の肉食獣の様な目の前の男を、絶対に敵に回したく無いのだ。

だが、激昂する彼らに危険を察知する事は出来なかった。


「な、なんだと!?そのような侮辱、許されると思っているのか!!!」


 賛同する声が幾つも上がる。

教会の熱烈な信者達だ。

それを見る第三者の視線は冷ややかで、哀れみに満ちていた。


「や、やめろ!そのような事を言えば殺されるぞ!!」


 サキテムの必死な叫びに送られるのは、9人からの軽蔑の視線。

敵に恐れをなした将に、誰が従うというのか。

最早、9人を止める者はいなかった。


「舐めやがって!殺してやる!!」


 大凡教会に属する者の言葉だとは思えない暴言を撒き散らしながら、走り出す彼ら。



 ーー俺の口角が、少し歪んだ。



 ドガッッ!!!


 という音と共に砕ける木の板で出来た地面。

既にその場に俺の姿はない。


 ガッ!ベキッ!ガスッ!ボキッ!ザシュッ!ドガンッ!バゴンッ!ボスッ!ボゴンッ!!


 という、凡そ人体から放たれたとは思えない音が、一瞬で辺りに響き渡った。


 ドゴォンッッ!!!


 という音と共に、突如サキテムの顔面が床を貫く。


 ーー次の瞬間、俺はさも当然のようにラフィスの隣に現れる。


こいつらは何故かは分からないがラフィスを『不良品』と呼び、馬鹿にしたのだ。

オマケに『死ね』と抜かしやがった。

万死に値するが……うん。

殺すのはやめておこう。

もっと愉快で屈辱的な罰を与えてやる。

そう考えた俺は風魔法第一階級≪風の舞(ウィンド)≫で騎士達を乱暴に一箇所に集めた。


 吹き荒れる暴風は、誰の服を揺らすことも無く、騎士達だけを正確に集める。

(なんと恐ろしい魔法制御能力じゃ!!!)そう、モルクスは心の中で高笑いした。

これ程の事をするのに、どれほどの技術が必要か…それを知っているのはこの場において、モルクスだけだった。


 集められた騎士達の格好は散々なものだった。

甲冑は凹み、下げていた剣は折れ、何より本人達は死にかけだ。


 ーーこれ以上何をするつもりだ…?


 たまたまその場にいた不幸な者たちは流石に騎士達を可哀想に思ったが、止めようとする者はいない。

誰も火の粉を被りたくなどないのだ。


「やあ騎士の皆さん、聞こえてますか?聞こえてませんね?では、早速罰を与えましょう」


 楽しそうな男の声。

本人はゆったりと彼らに近づいている。


 ーーゴクリ。

そう、生唾を飲む複数の音が手狭になってしまっているこの建物に響く。



 俺がやること。それはーー



 俺の右目が紫色に妖しく光り、横一列に並べられた騎士達の頭以外の全部を紫水晶化させた。

更に2人の外側の騎士は片方が右腕右足、もう片方は左腕左足が紫水晶化していない。


 例えるならばムカデ…のようなもの。

ただ、10人4脚…というか、10人2腕2脚だ。

彼らの身体の側面はくっ付き合い。

完全に固定されている。


ーーいやまぁ、さすがに本場のアレはやらない、可哀想だからではない、生理的に受け付けないからだ。


 それを見た者は(この程度のイタズラが罰…?

思ったより可愛いもんだな…動きが取れなくなるだけじゃないか)と、誰もが思っただろう。

しかし、俺の罰がそんなに甘い物の筈が無い。


「では皆さん。そのまま教国へとお帰り下さい」


 流石に≪風の舞(ウィンド)≫で目を覚ましていた騎士も、民衆達も、完全に押し黙って頭のおかしい奴でも見るような目で俺の事を見る。


ーー俺は何か可笑しな事でも言っただろうか?いや、言ってない。反語です。


 両端にいて、片手片足だけ水晶化していないのはサキテムと先程からギャーギャーうるさかった騎士(ゴミ)さんAだ。

何人かの騎士が昏睡している状態で、2人は目を覚ましていた。


 ーーまあ、≪風の舞(ウィンド)≫で無理矢理起こしたのだが。


「ふ、ふざけるな!!ここから教国までどれほどの時間がかかると思っている!!!」


 叫ぶサキテム。

そういや知らないな…と、俺は首を傾げながら尋ねた。


「どの程度ですか?」


 その言葉に目を丸くするサキテム。


「し、知らないのか?半月だ。馬車を使って半月だぞ!それでもこの状態で教国へと帰れと言うのか!?一体どうやって!!」


 うるさい奴だな…俺は少しだけでサキテムを睨む。

言いかけた言葉を口にせずに押し黙ったサキテムを他所に、俺は騎士さんAを見るーーが、呆然としていて何も考えられないといった様子だ。


可哀想に…ぷっ。


自分で言うのも何だが、俺は悪魔のような男だった。

ーーってか、馬車に乗って半月とか、遠すぎだろ。大体、東京から大阪くらいの距離があるのか…?

うん。こりゃあ死ぬな。

知った事じゃないが。


「ーーまあ、頑張って下さい」


 そう言った俺はそのひと塊りを指定した場所へと転移させた。

転移先で人に重なり、大惨事になるという心配は必要無い。

何故なら俺は彼らをーー


 ドガアァンッッ!!!


 という音が、目の前からムカデ状の塊が消えて暫くし、遠くから聞こえた。

そう、俺は彼らを上空へと飛ばしたのだ。

人にはぶつかっていない……筈だ。多分。まあ、彼らが墜落したのは既に使われていない港。

誰もいやしないさ。

知らんけど。


 さてーー


「爺さん。用事って何?」


 振り返ってそう言うと、モルクスは笑いながら話始めた。


「ハハハハハハ!何て愉快な小僧じゃ!!うむうむ。お主を呼んだのは他でもない。まえに言うとった『二つ名』が決まったから知らせようと思っておったのじゃ。その二つ名はーー『紫水晶の魔王(サタナ・アメティスト)』お主にピッタリじゃな!ハハハハハ!!!」


紫水晶の魔王(サタナ・アメティスト)』。違う世界に来ても『魔王』って呼ばれるんだな…俺は感傷に浸りながらも茫然とした状態の抜けきらないラフィスの手を握り、モルクスとエミィに手を振りながら冒険者ギルドを出た。


 さてーー帰るか。




 俺とラフィスは歩き始めた。

ラフィスに、メチャクチャ叱られながらーー


俺、なんか悪い事したっけ?




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