26話 入学式
さて、桜並木に見守られ………と言うのが定番の入学式なのだが、残念ながら桜は花弁一枚さえも見ることが叶わ無かった。『旅愁』と言う歌を思い出していた俺は、現在、最悪な状況下にいた。
俺の周りでは、
「ほら、今日から暫く会えなくなるけど、ちゃんとお勉強頑張りなさいよ?」
「もう、分かってるよ母さん」
「本当でしょうね?休みにはちゃんと帰ってくるのよ?」
とか、
「ねぇ父さん!僕は2人がもっといい生活が出来るようになるために、ここで主席なれるように張るよ!!」
「うん。父さんはお前みたいな立派な子が息子で誇らしいよ…」
「お兄ちゃん!頑張ってね!」
とか、
「なぁ兄貴、本当に学生なんかになっちまうのかい?」
「ふっ。止めてくれるなよ弟分たち。俺はお前たちに楽をさせてやりたいのさ。そんでもって一緒天下を取ってやろうぜ!!」
「「「「あ、兄貴〜!!」」」
とかが繰り広げられている。
ヤバイ。マジで吐き気がする。拒絶反応が出ている。こんな時間がまだ続くのか……?早く入学式始まってくれよ…俺にとって、ここは地獄なんだよ……
と、俺がそんな事を思っていると、
「ねぇアラスさん?子供は何人欲しいですか?寮に入ったら私とい・い・こ・としましょうね〜?」
と、アリスが言ってきた。最近のアリスの発言はどんどん過激になっている。これを放置しているとヤバイ事になる。と俺も理解いるのだが、止める術が思い浮かばない。
俺は小さく溜息を吐いた。
「無理だよ。男子は女子寮に立入禁止だし、その逆も禁止じゃないか。そもそもそんな事しないぞ」
俺は右手を横に振りながら否定の意を示した。
「ええ〜!アラスは≪瞬間移動≫が使えるんだろ?余裕で監視の目をすり抜けられるじゃないか!僕ちんにもそんな魔法が使えたら……フフフフ」
すぐさま上がるリュークの避難の声。
リュークは俺が『時空間魔法』を使えることに気付いてからこんな事ばかり言っている。『時空間魔法』の使い手は国に2人いれば多い方で、途轍もなく珍しい。ま、あの時は13という数字に驚いてたから細かいことにまで気がつかなかったのだろう。この俺様の素晴らしさに跪け!ってね。本当に跪かれたらドン引きするけど。
それにしても怖いよリューク。ラフィスとユルドちゃんがドン引きしてるよ。
そんな会話を続ける俺達をチラリとも見ずに、新入生の女子をニヤニヤした気持ちの悪い笑みを浮かべながら観察していたオルドが、唐突に話を持ちかけた。
「そういえば何なんやろな?学園長のどえらい話って?アラス君なんか聞いとるんとちゃう?」
「え?本当ですかアラスさん?教えてください!」
便乗するラフィスはの周りにはキラキラとした光が満ちている…ように見えなくともない。ラフィスは好奇心旺盛だ。
「いや、今から言う必要ある?もう入学式始まるんだぜ?」
俺は顔が随分と近づいてしまっているラフィスから身を引きながらそう答えた。ラフィスは疑問に思った事を人に聞くとき、顔を極端に近づける癖がある。なんとかして欲しいな…刺激が強過ぎる。俺が誠の紳士でなければ、すでにラフィスの唇は10回以上奪われているだろう。
そうそう、オルドがこの場にいる事に疑問を抱いた者もいるかもしれないが、これは別にオルドが自分の学年も分からない馬鹿で、ノリで入学式について来た。という理由によるものでは無い。この学園において、入学式は全学年出席が規則なのだ。
先程のオルドとラフィスの疑問についてだが、今日は、学園長から重大な発表があると大々的に告知されている。俺は何度も何度もその話を聞かされているが、実に重大な発表だと個人的に判断している。世界を揺るがす程の、と言っても過言ではない……かな?まあ、俺にとってはそれ程のニュースだ。
「へぇ〜?やっぱりアラスさんは知ってるんですね〜?流石は『学園長のお気に入り』です。尊敬しちゃいますね〜」
アリスが拗ねた子犬のような表情でそう言っている。やばい。可愛い………って、本当にヤバイぞ…最近、随分と毒されてきたじゃないか……?
こんな事がバレたら面倒な事になる。ちゃんと隠そう。
「そんな棒読みで褒められても嬉しくないぞ。それにそのあだ名はやめろ」
俺は少し怒ってアリスを叱咤した。実に珍しい事だ。基本的に俺はアリスに甘い。何をされても基本的に気付いた時には許してしまっているのだ。しかし、そのアダ名はいただけない。
『学園長のお気に入り』このアダ名は余りにも俺が学長室に通いつめるている為、教師連中が勝手につけたものだ。ヘレンは基本的に一人を好み、学長室に人を寄せ付けない。そのヘレンがアラス・アザトースだけは例外だといわんばかりに毎日俺を学長室へ招待していた為。あらぬ噂が立ってしまったのだ。
既に『アラス・アザトース』=『学園長のお気に入り』という事は誰でも知っている事になりつつある。教員たちが親しい生徒に冗談でその事を話し、それがどんどん広がってしまったのだ。
これが普通の生徒なら大した噂にもならなかっただろうが、噂の対象がアラス・アザトースともなれば話は別だ。ねずみ算式に話は広がっていった。ヘレンさんは愉快げに笑っていたが、俺としてはたまったものではない。入学前から上級生に目をつけられてしまうのだから。
結局、アラスの特別クラス行きは確定したのだが、ここにいる何人かも一緒に特別クラスに行く事が確定している。まず、≪女神の堅盾≫をぶち破ったラフィス。そして、各属性適性数値が8属性全て90%越えしたアリスだ。
他の奴らは全員Aクラス…だと思っていたのだが、なんとオルドも特別クラスだった。オルドはオルドで天才なんだとか。ちなみにユミルは無属性魔法が90%越え、ランドは爆発魔法が90%越えした為、2年生になるまでに問題を起こさなければSクラスに入れるという話だ。
エリスは学校のサボりすぎで大目玉を喰らい、謹慎処分を受けているらしいが一応Aクラスなのだとか。
……とてもじゃないが、魔法が使えるようには見えないんだが…?と、俺は割と本気でエリスの不正を疑ったが、もしかしたら俺の預かり知らぬ所でエリスも努力しているのかもしれない。取り敢えずは、そう納得しておこう。
ーー基本的にクラス分けはA〜Eの5クラスなのだが、Sクラスは全学年ごちゃ混ぜで、様々な特権が与えられている。つまり、Sクラスには1〜4年生の天才が集められているというわけだ。
さらに、Sクラスの人間はS’aと、S’bに分けられる。当然、前者の方が得られる特権が大きく、授業の参加の拒否。つまり単位をとる必要がない。他にも、施設の無断使用だの、何から何まで許されている。
S’aというのは、お願いだから学園にいてください。将来有名になった時に宣伝して下さい。と、懇願されて学園にいるような存在だ。現在、学園には2人いて、アラスもS'a入りが確定している為、これで3人だ。
授業も受けなくていい。試験は出来れば受けて欲しいが、通学する必要はない。この島の施設はどうぞご自由に使って下さい。と、聞かされている。至れり尽くせりだな。うん。俺はこれを知った時、喜びを隠せなかった。
S'bの特権は極めて少なく、どれも大したものではないが、その中の代表としては、好きなクラスでの授業が認められている。など、そんな程度のものだ。
特別クラスとは団体の名前みたいなもので、本当に『クラス』としての活動は殆どしていない。時々『特別教室』という所で強制参加の集まりがあるだけだ。
まあ、俺は糞真面目に勉強なんてする気などはさらさら無い。『アレ』さえ覚えられればそれでいいのだ。
「そろそろ入学式が始まります!生徒、保護者の皆様は第一訓練ドームにお集まりください!!」
おっと、放送が入ったな。第一訓練ドーム…俺たちが試験を受けた場所か。俺は直ちに第一訓練ドームへと足を向けた。
「ほら、早く行こうよ!カワイコちゃん達が僕を待っている!!」
そんな事を言いながら唐突にリュークが走り出す。
「あ!まってぇなリューク君!独り占めはよう無いで!!」
そんな事を言って、オルドも走り始めた。
「おい!走るな!ただでさえ奇怪な物でも見るかのような視線で見られているのに!!!」
俺は『諌める』を使った。効果はいまひとつのようだ。
現在、俺たちはまたまた避けられている。誰も近付いてこないのだ。これ以上変な目で見られてたまるか!!
……って、もう入って行きやがった…
俺の叫びは無意味だった。膝をついて四つん這いになり、嘆くふりをして見たところ、更に誰も近寄らなくなった。悲しいな……俺は本気で泣きたくなった。
話を進めよう。
基本的に生徒はドームの前の巨大な看板で自分達の座る位置を知ることが出来るが、集団行動の方が何かといいはずだ。…が、もう行っちゃったんなら仕方ない。俺は良くも悪くも大雑把な正確なのだ。
ーー俺たちも、ドームに向かって歩き始めた。
▲▽▲
「はぁ……一体いつまで続くんだよ…」
俺は思わず溜息をついてしまった。ここ、Sクラス用の席には俺以外誰も座っていない。現在進行形で完全に周囲から浮きまくっているのだ。ちなみにラフィスとアリスは家族と一緒にAクラス用の席に座っている。なんでも、Aクラスには大貴族のご子息が多くいるため、向こうに座らなければ行けなくなったらしい。ご苦労な事だ。
ん?一緒に座ればいいだろって?嫌に決まってるだろ。あんな『家族』だらけの場所。
オルドはどうしたって?なんと今現在オルドは行方不明なのだ。さっきまで確かにいたのに……しかも俺以外のSクラスのメンバーは全員サボりか役員の仕事に追われているということで、本当に俺は一人ぼっちでこの場所に座っている。
ドームの中は映画館の席のような状態で椅子が円状に並べられ、それぞれの学年、クラスごとに集まっていた。基本的にAクラスはAクラスの1〜4年生で縦に集まっている。
流石にこれには驚かされた。俺達が試験を受けたドームとは内部が明らかに違うのだ。例えるなら室内運動場からアイドルのコンサート会場になってしまっている。あの魔法をぶっ放しまくった試験会場とは何もかもが違う。正直、師匠は俺にこういう魔法もちゃんと教えるべきだったと思う。戦闘一点張りなのもいいけど、なんか遊び心が足りないんだよなぁ……
ーー既に入学式が始まって数時間、演目には国王からの挨拶とかがあったが、別に興味が無かったし、起こされても無視して眠っていると諦めたのだろう。誰も邪魔をしなくなった。
だが…目が覚めてもまだ教師陣からの挨拶が続いている。総勢26人になるこのウザったい先生方は、あろうことか一人一人長々とした挨拶をプレゼントしてくれやがるのだ。
風魔法で誰にもばれないように全員をギッタンギッタンにしてやろうかと思ったが、後々どうせバレて面倒な事になると分かり切っている為、そんな事はしない。
………あ、やっと終わった。ついに学園長からの挨拶だ。俺はやっとの事でこの入学式が終わる事に安堵の息を漏らし、しっかりとヘレンさんを見据えた。
「こんにちは。本日はお日柄もーー」
から始まった挨拶は終わりを告げ、ついにヘレンさんは本題に入ろうとしていた。
「ーーさて、予告していた通り、今から重大な発表をします!皆さんは『闘気』が『生命力』から作られる事を知っていますね?今まで、『闘気』を研究してきた研究者の方々はそのリスクを改善するために、秘密裏に『魔力』を『闘気』に変換する方法の研究を進めていました」
ざわめきが沸き起こる。誰もそんな事は知らなかったのだ。そう、公爵家の当主ですら。この島は完全に独立していると言っても過言ではない。水も食料も時給自足していける。確かにこの島は王国の監視下にあるが、勝手に研究をすることなんて何ら難しくないのだ。
『闘気』を使い戦う『闘士』は『闘気』生成時の危険性から『魔法師』より社会的に下の立場である事を強要されてきた。しかし、それを改善する為に『魔力』を闘気に変換する試みが行われた。
本来、『魔力』は誰にでも備わっているものだ。魔法の行使が出来ないものは単純にセンスが無いだけ。当然、『闘士』にも『魔力』が備わっている。そして、その『魔力』を『闘気』に変換することが出来れば『闘士』の社会的地位の向上が為される可能性があった。そう、これは正に夢のプロジェクトだったのだ。
しかし。なんという事だろうか。『魔力』を『闘気』に変換する試みは、『生命力』を『魔力』に変換する方法を編み出してしまった。
「ーーこれによって『魔法師』の立場は更に上昇するでしょう。『生命力』を『魔力』にする新たな技術、『生命力魔力転換方法』、略称『生魔転換』は、かつてない『魔法師』と、『闘士』の戦争の火種になるかもしれません。ですが、それでも我々研究者は研究の先に得た物を人々に伝える義務があります。よって、この学園においては『生魔転換』の技術を生徒の皆様に伝えていくつもりです。それをご了承頂けないのなら、退学してもらって構いません。以上。学園長の話でした」
そう言ったヘレンさんは壇上を降りた。水を打ったような静寂が過ぎ、一瞬でその場は怒号が降って出るように巻き散らかされた。
受けない奴は学校やめろ。と言ったようなものだし、貴族からしたら自分達のものであるはずのこの島で勝手な実験が行われていたということなのだ。
だが、それでも学園長に危害を加えようとするものはいない。『真王の子供達』とはそれだけの恐怖を感じさせられる存在のようだ。
ーー入学式は終わった。
叫び散らしながら家路につく貴族の大人。大ニュースに興奮するお偉い『魔法師』たち。最新技術を手に入れられる事を喜ぶ子供達。何もかもが騒がしかった。
中には、そんな安全かどうかも分からないものは覚えたくないと叫ぶものもいる。確かにそうだろう。『生魔転換』は危険な魔法だと言える。だが、俺にとってはとても魅力的な魔法だ。
しかも、俺の生命力は無限だ(正確には少し違うが…)。それはつまり、『生魔転換』を覚える事で無限の魔力を手に入れる事に等しい。俺は必ず『生魔転換』をマスターする。そのために俺はこの国に残ったのだ。俺は決意を固め、拳を強く握りしめた。
ーー強くなれる。その確信を得た俺は歓喜に打ち震えながらも、校舎へと足を伸ばした。




