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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第3章 新たなる出会いたち
31/57

25話 疑惑

「いや〜!呼んでくれてありがとう!ここは夢のような場所だね!まさに天国だよ!!」


リュークは酒に酔っ払った大人のような陽気な声でそう言った。


「ハハハハ…いや、ここは地獄だよ……」


俺は無職になったサラリーマンのような声でそう言った。


ーーふと、周りを見渡してみる。


 ーー丸机に乗せられた色取り取りの料理。響く笑い声。小さいな、しかし腕の立つ音楽団の演奏。様々な酒を運ぶタキシードを着た使用人さんたち。魔法を使った芸をする少人数のサーカス団。遠目には女の子達をナンパするオルドの姿。


 そう、合格者発表も無事に終え、入学式を明日に控えた俺はグランデール家の城で行われている入学パーティーに(拉致られて)参加しているのだ。


 あの試験が終わってからの数日間、俺はヘレンだの何だのに引っ張りだこにされて休む暇なんて一切無かった。疲れに疲れて寝込んだ所でアリスに突然宿を襲撃され、「変な噂を流されたくなかったら大人しくついて来て下さいね〜」とかふざけたことを言われて嫌々ついて来たのだ。


 あの場面で俺が断れば、アリスが泣きながら宿を出て「アラスさんは最低です!」とでも叫びまくり、最悪な状況に陥っていただろう。従うしか無かった。


 来て見てビックリ、庭はパーティー会場になり、知る顔が勢揃い。逃げ道は完全に途絶え、泣く泣く了承して今に至る。


 ーーあの女…いつか復讐してやる…!!


 以前アリスたちの押し入りで始まったパーティーより、数倍の規模を誇るというその野外パーティーは、身内だけでの集まりであり、それはつまり、俺が絶対に参加したくないものの一つだった。


 俺は男友達が『使えないオルド』だけになるだろうと危惧し、リュークを探しに探して連れてきた。実際のところ家名を知っていたし、リューク自身有名だったため、そんなに手間取らなかったのだが。


 ちなみにランド一家はこの場にいない。なんでも王城で取り調べを受けているという話だ。


 うん。着々と話が進んでいるな。早くあいつらが故郷に帰れるようにしてあげたい……


 と、俺が菩薩のような感情を心内に目覚めさせたのも束の間


「ねぇねぇアラス君とリューク君!一緒に女の子達との乱交パーティに以降せぇへん?」


オルドが馬鹿みたいなテンションでそう言って来た。先程までナンパしていたオルドだったが、あえなく撃沈したらしい。


「いいですねぇオルド先輩!ほら!アラスも手伝ってくれよ!!」


この2人はすぐに意気投合した。元がチャラいから感じるところでもあったのだろう。正直、合わせてはいけない2人を合わせてしまった感は強いのだが……ま、喧嘩とかにならなきゃ、問題ないか。


オルドの案にリュークまでもが賛成し、この場はどんちゃん騒ぎだ。2人は肩を抱き合い、「らーんこう!らーんこう!」と叫びまくっている。遠くからそれなりの人数の視線を感じた。まあ、当然だろう。こんな変態、中々お目にかかれないしな。


 それにしても乱交って……あの乱交だよな…?ここ、あの女の子達の家族もいるんだぜ?聞かれたらどうするんだよ……いや、ぶっちゃけ俺もやってみたいけど。


「嫌だよ。乱交パティーしようぜ!なんて馬鹿みたいな事を口に出したら、一体どんな恐ろしい事が起きるか……ただでさえアリスに弱みを握られて、外堀が埋まってきてるのに……」


俺は取り敢えず否定の言葉を口にした。女の子達に変態野郎だと思われるのはお前らだけで十分なんだよ!俺は一人人気を集めて………って、そうじゃないよ。そんな邪な考え、アラス・菩薩・アザトースたる僕が持っているわけが無いよ。多分。


話を戻そう。先程の発言についてだが、実際、俺は着々と外堀を埋められている。アリスはどこに行っても「私の夫がいつも世話をかけて…」とか何とか、巫山戯た事を言いだすのだ。俺の新たな知り合い達は全員が俺とアリスが結婚するのだと信じて疑わない。迷惑だ…迷惑すぎる……


「なんでアリス様と結婚するのが嫌なのか、僕には分からないな…あんな美人は何処にもいないじゃないか!しかも公爵家令嬢!最高の逆玉だよ!!」

「いや、あんな美人はあいつの隣にいるだろうが…」


 俺は横目でアリスとラフィスの様子を見る。あの一帯には絶対に近寄りたくない。なんせラフィスの家族とアリスの家族、しかもエリスの家族までいるのだ。あんな場所に行ったら俺はとんでもない未知の拒絶反応に襲われ、あれよあれよと気絶してしまうだろう。


 ーーそう、今日はラフィスの姉。アリスの両親、兄。エリスの両親。が来ているのだ。とはいえ、病弱だというラフィスのお姉さんは先程退場してしまったが。


 俺はあの人達が近づく気配を察知したらすぐに逃げたしている為、一度も挨拶をしていない。礼儀知らずだと俺自身理解しているが、それでも『家族』には近づきたく無いのだ。


「それにしてもアリスちゃん何でアラス君に惚れ込んどるんやろうか…?アラス・アザトースの情報収集をえらい熱心にし始めてから人が変わったように行動し始めたわ」


オルドが本当に不思議そうな表情を顔に浮かべてそう言う。


「ん?あいつには元々、怠け癖でもあるのか?」

「そうや。アリスちゃんは基本なんもせぇへんねん。まあ、せなあかん事はちゃんとやるんやけど、家ではグータラしてんのが当たり前やったで」


 チッ!またか!また似た所が出て来やがった!あの女、本当に俺と似てやがる。性格も、あの気に入らない『目』も、何もかも似通ってやがる!!……っと、まあそんな事を言っても仕方ないか…それより、何故アリスが人が変わったように行動し始めたのかを考えるのが先決だな。うん。


俺はこのパーティー会場を≪地獄の業火(ヘルフレア)≫で木っ端微塵にしたいという感情に襲われたが、なんとか持ち堪えた。


全く、嫌味なくらい似ているくせに、俺の前では尻尾も出さない…一体何を考えてるんだ…?あいつ。


俺はあいつが隠している物が途轍もなく巨大な物のように思えて、不安で仕方ない。アリスは危険だ。俺の第六感は始めてアリスに出会った時から口うるさく警報を鳴らしている。


「あ、アリス様が近付いてきたよ!ほら!乱交パーティーの事頼んでよアラス!間違いなく桃源郷になるよ!!」

「桃源郷…?針山地獄の間違いだろ」


 アリスとラフィスは2人きり、もしくはアリスとラフィスとエリスの3人でなら仲がいいのに、俺を挟むと途端に仲が悪くなる。正に針の筵だ。


リュークのその言葉に俺は後ろを振り返った。


 うわ、あの女…本当に近付いて来ているじゃないか。後ろには『聖王騎士団』とかいうこの国で断トツトップの実力を誇る魔剣士の騎士団で、若くして団長補佐の役職を得ているというアリスの兄貴がいる。名前は知らないし、興味も無いがな


 ーー逃げるか。そんでもって帰ろう。大体、俺は『家族』近付けない事を条件でここに居るのだ。それを破るなら遠慮する必要もない。


 俺は2人に背を向け、宿に帰ろうとした……のだが、


「アラスさん!帰ったらもう一生口を聞きませんよ!!」


 というラフィスの言葉が脳裏をよぎり、足を止めた。今日パーティに呼ばれ、即座に回れ右をして帰ろうとした俺にラフィスが言った言葉だ。瞬時に立ち止まった俺に対して、オルドやアリス、ゴルドーさんまでもがニヤニヤ笑いを浮かべていたのが印象的だった。


 一生口を聞かないだなんて罰が重すぎる。『あの情報』を耳にするまでは何処かに旅に出ても良かったが、アレを聞いた後ではそうもいかない。どちらにしろ、俺はラフィスとずっと友達でいたいのだ。


ーーついに2人が俺の前に到着した。


「やあ、始めましてになるね。僕はネルガル・フランチューレ。君の噂は王城まで届いているよ」


 ふ〜ん、秀才って感じだね。アリスと同じ蜂蜜色の髪で、185くらいの長身、腰に差してる剣は…業物だな。流石は公爵家だ。俺はすぐに剣に目が写った。アリスの兄になど興味が無いのだ。


だが、挨拶を無視する訳にもいかない。俺は無難な返しを考え、答えた。


「こちらこそ『聖王騎士団』のお噂はかねがね聞き及んでおります」


「ははっ、嘘はつかなくていいんだよ?『聖王騎士団』なんて聞いたことねぇよ!って思ってるでしょ?」


 ーー図星だ。いや、図星だが、そんな事は言わなくてもよかっただろう…?円滑な人間関係を築くつもりが無いのか、それともこれが地なのか。………恐らく後者だな。俺はこんな奴嫌いだ。俺の中でネルガルの友好度は最低の位置を欲しいがままにする事が決定ずけられた。ちなみに、その下には師匠がどっしりと鎮座している。


「あはははは……何を仰ってるのか分かりませんね…あまり自分が所属する団体を卑下しない方がいいですよ?」

「はは。ご忠告痛みいるよ」


 ………チッ!!絶対痛みいって無いだろ!!!俺は心の中で最大級の舌打ちをしながら、少しだけ目の前の男を睨みつけた。


 ネルガルの隣でアリスはニコニコしている。全く裏のなさそうな美しい笑みだ。


 くそッ!まだ会話を続けなくちゃいけないのか…!あの2人はちゃっかり逃げやがったし!オルドだけじゃなくてリュークも役にたたねぇじゃねえか!!!


とりあえず会話を続けなければならない。何を話そうか。いや、話したくなんか無いんだけども。ーーまあ、無難に年齢でも聞こうか。もっと若いと思ってました!とかって言えば、機嫌も良くなってくれるだろう。


「失礼ですが、年齢の方をお聞きしても?」

「うん?ああ、勿論いいとも。僕は今年で21になるんだ」

「ほう。その若さでかの『聖王騎士団』の団長補佐とは…素晴らしい才覚をお持ちなのですね」


俺は尊敬するような眼差しをネルガルに向けた。21歳で若いと褒めても仕方ない。応用編だ!組織ごと褒めてやったぜ!


「はははっ!君は嘘が下手だなぁ。早く帰れよ!って目が語ってるよ?」


ネルガルはその言葉にクスッと笑い、『相手の本心を言い当てる』という生来の悪い癖をこれでもかと発揮している。ネルガルにも別に悪気がある訳ではないのだ。


ハハハハハ……へぇ?こんだけ円滑に話を進めようと俺が骨を砕いてやってんのに、そういう事言うんだ。へぇ……?ぶっ殺ーーーいや、まだだ。これまでの努力を無駄にしてたまるか!こうなりゃヤケだ!どうなるか分かんねえけど、アリスに振ってやる!お前が連れてきたんだから、どうにかしろ!!


「あはははは。お戯れがすぎますよ?ねぇアリスさん?」

「いや〜敬語のアラスさんはいつ見ても気持ち悪いな〜と思って顔を見ていたから話を聞いてなかったんですよね〜。何の話ですっけ?」

「ハッ!ハハハハハハ!!!今すぐてめぇを殺…………いえ、失礼、少々お酒を飲みすぎてしまったようですね。部屋で休眠をとらせて頂いても?」


 危ない危ない。うっかり殺すとか言いそうになっちゃったぜ。流石に家族の前でそれは言えないよな………まぁ、後でど突くけど。


「駄目だよアリス。ちゃんと話を聞いてないと。アリスとアラス君が結婚するって言うから未来の弟君に挨拶しに来ているんだよ?」


 話を聞けよ!!しかも結婚する!?家族にまで話てやがんのか!?ありえねぇぞ!!……いや…この男の薄ら笑い…この結婚話が嘘だと思ってるのか…?


「あの、私は少し飲み過ぎたようなので部屋で休眠をと「うるさいですね。黙ってて下さい」……はい」


 アリスが笑顔だ。満面の笑みだ。怒ってる。何故か知らないけどマジで怒ってる。おっかないな…ここで怒るべきなのは、どう考えても俺だと思うんだが……


「ねぇアラスさん。私達、結婚しますよね〜?」


……こいつ…ここで言質を取るつもりなのか…?家族の前で俺が首を縦に振るのは決定的過ぎる……アリスだって俺が頷かない事は理解しているだろう。何故押し切ろうとしてきたんだ…?分けの分からない事が多すぎる。ここにいても碌な事になりそうに無いな。危険なだけだ。


「いやいや、何を仰っているのですか2人とも。アリスさんもご冗談はよしてください。それでは、私は仮眠を取りますので」


 俺は返事を待たずに背を向けた。こんな茶番に付き合ってられるか。2人の呼び止める声を無視して、俺は紹介された客室に向かった。




▲▽▲




 暫く歩くとその無駄にでかい部屋の入り口が見えて来た。扉を開ける。


 ーー天蓋付きのベット。白く滑らかな壁。高そうな額縁に入れられた美しい絵。流石は公爵家だと言えるだろう。


 俺はシルクの布団に身を包み、ある事について考えていた。どうせ直ぐに呼び戻される。今のうちに考えを整理しておこう。


 俺が考える事とは、アリスの結婚話についてだ。アリスは俺の名が有名になってすぐに俺の事を調べ出したと言う。当初のアラス・アザトースに関しての情報を調べてみたところ


『フェンリル4体を無傷で仕留めた超絶美少年』『リリーの弟子』『最短でSクラス冒険者になった少年』『羽振りがいい』


という情報が出回っていたらしい。


つまり、『力』、『リリーとの関係』、『実績』、『金』だ。


 その中でアリスが魅力に思うところ…やはり、『力』、『顔』、『実績』、大穴で『リリーとの関係』という所だろう。少なくとも『金』はあり得ない。


 では、今挙げた内で、あり得ないのは……『顔』、『実績』か。アリスは他人の容姿には興味がなさそうだし、どのような事をしたのか。といった世間からの評価にも興味はなさそうだ。


 次にあやしいのはのは『リリーとの関係』だが、これも無いだろう。あいつは今までリリーに殊更興味を抱いている風ではなかった。


 ………となると、『力』か。恐らく間違いない。では何故『力』が必要になるのか…?あいつ自身、強大な『力』を誇っているのに、更に力が必要なのか…?


 確かにアリスは弱い。だが、それは俺にとってはであって、普通の人からしたら正真正銘の化け物だ。しかも≪時間の支配者≫の使用条件次第(俺はまだ知らない。聞いても教えてくれないのだ)ではあいつは最強になり得る。なんせあのスキルは無敵なのだ。ーーまあ、対抗策はあるのだが。


 あれだけの力があるっていうのに、それでもまだ足りないのか……?どう考えてもおかしい、はっきりと違和感を感じる。


 確かアリスは俺を教国から守る為に結婚したいと言っていた。何故俺を助けようとしたかについては俺に何らかの価値を見出したからで間違いないだろう。


 だが、何故アリスが『教国がアラス・アザトースを暗殺しようとしている』という情報を手に入れる事が出来たんだ…?


ーー俺は寝返りを打った。


 俺の見たてでは、アリスは『現人神』として崇めたて祀られてはいるが、ラファエール教徒としての権力は一般人と大して変わらない。これは直接アリスに聞いて見てから分かった事だ。俺はある程度の嘘は見抜ける。これは俺の特技の内の一つであり、あの時のあいつの目は嘘をついてい無かった。


 ーーじゃあ、一体何処で…?


 いや、それは情報屋から買い取った情報なのかも知れない。そもそも、アリスは俺の情報を片っ端から集めていたのだ。間違い無く様々な情報を様々な場所から買い取っていただろう。


 そういえば、あの時あいつは気になる事を言っていたな…いや、気になると言うより嘘っぽい事を言っていた。もしかしてあいつーー


 コンコン。


俺の考えを遮り、ノックの音が部屋に響く、俺は上体を起こした。


「アラスさん?気分が優れないんですか?」


ーー心配そうなラフィスの声、俺は胸を撫で下ろした。


 ああ、ラフィスか…安心した。ここでアリスが来ていたらそろそろ既成事実がどうこうって言いそうだったし、不安だったのだ。なんせ一昨日からボディタッチがやたらと多い。ついに色仕掛けを仕掛け出しやがった。アリスの色仕掛けは強烈過ぎる。元がアレなのだ。色仕掛けなんてされたらたまったものではない。本当にやめて欲しい。ニーナの誘惑に理性の壁をズタボロにされた俺にとって、色仕掛けは最悪の手札だ。(最高ともいう)


 …それにしてもパーティーを抜け出して俺の部屋まで来るとは…ラフィスは本当にさやしい奴だな。惚れちゃいそうだぜ!!冗談だけど。


ーーああ、返事をしなければ。


「少し飲み過ぎてな。もう大丈夫だよ」


俺は出来るだけ元気なことを装い、そう言った。既にベットの上からドアの前まで移動している。


「よ、よかったです!あ、あの…お部屋に、入ってもいいですか?」


 ラフィスの不安そうな声。


 部屋に?なんで部屋に入りたいんだ…?ーーま、いっか。俺は部屋に入りたいというラフィスの願いを叶えてあげる事にした。


「ここはラフィスの城だろ?入っていいに決まってるじゃないか」

「お城じゃありません。お屋敷です。じゃあ、失礼しますね?」


 失礼しますね…?うん?妙だな。ラフィスは確かに小心者っぽい所があったが、俺に対しては結構堂々としてた筈なんだが…?あの魔法のことに関しては既に決着がついているし……なんの話をするつもりだ?


ラフィスが扉を開け、部屋に入ってきた。立ち話もなんだ。と、俺はラフィスをソファーまでエスコートし、疑問をぶつけた。


「どうしたんだラフィス?今日は随分と畏まってるな」

「え、えぇ?そうでしょうか…?」


意外そうなラフィスの声、胸元で両手を握りしめ、モジモジしている。ーー可愛い。襲っちゃいたくなる程可愛い。まあ、ラフィスはいつも可愛いんだけどね!!それにしてもーー


「まあ、分からないんだったらそれでもいいんだ。で、何か用?」

「ーーあ、あの…アラスさんとアリスさんは、その…結婚、するんですか?」


ラフィスは不安そうに上目遣いで俺ににそう尋ねて来た。


「………は?」


と、俺は思わず間の抜けた声を出していた。急いで取り繕い、背筋を伸ばし、ラフィスの瞳を正面から捉える、が、ラフィスの顔色は優れない。


 ……それにしてもいきなりだな。結婚の話…そういえばラフィスとの縁談もあったのか。忘れていた。まあ、俺は元々忘れっぽい性格だし、縁談の話を記憶の片隅にも置いていなかった事は、しょうのないことなのだ。そう納得しておこう。うん。


「いや、だから、2人は結婚するんですか?と聞いてるんです」


 ラフィスは少し怒ったように身を乗り出し、そう言った。


「あ、ああ。お前がそんな事を言い出したのが不思議でな。結婚はしない…と、言いたいところなんだが、いつまで逃げおおせるかが問題だよ。俺が思っていたより『現人神』の影響力は強い。いつの日か強制的に結婚させられるんじゃないかとビクビクしてるよ」


 これはマジだ。あいつの影響力は半端じゃない。権力は無くても影響力はあるのだ。もしもあいつが「アラス・アザトースと結婚します!」と世界的にに発表したら…と、思うと震えが止まらない。俺はわざとブルリと震えて見せた。ふっ…俺はこれでも、主演男優賞を狙ってたんだぜ……!(嘘)


「じゃ、じゃあ、アラスさんに結婚の意思は無いんですね?」


ラフィスの保護欲をそそる愛らしい声。思わず抱き締めたくなってしまったが、流石にそんな愚行には走らなかった。ただ、もしアラスが抱きついたとしても、ラフィスは一切の怒りを捨て、顔を真っ赤にしながらもされるがままになるであろう事を、アラスは知らない。


「まあ、無いね。俺はアリスの事が……まあ、嫌いじゃないけど結婚したいほど好きでもない」


俺は大して気負った風でもなく、そう答えて見せた。それを聞いたラフィスの喜びようと言ったら、彦星と織姫の再開もかくやといった様子だ。


「そ、それなら、私との縁談の話、考えて貰えないですか…?あ、あの!私もそんなに悪い気しないですし…」

「ーーい、いや、それはもう断っただろ?俺なんかと結婚しても不幸せになるだけだぞ?」


 俺がそう言うと、ラフィスは途端に顔を顰めた。こんな時でもラフィスの美しさは効果を発揮してしまう。怒っているのを伝えたいのだろうが、シャンデリアに照らされたその顔からは唯、美しいという感情を呼び起こされるだけだ。


ーー俺の座っていた椅子から鳴った、ギシリという不快な音が、部屋中に響いた。


「なんで…?なんでそんな事言うんですかアラスさん…アラスさんらしく無いですよ?アラスさんはもっと自分に自信を持ってて、強くて、優しくて…それが、アラスさんじゃないですか!!」


ラフィスは時折見せるアラスの『弱さ』を見たくなかった。自分が絶対に届かない所へ行ってしまうようで、とても怖いのだ。アラスの異常なまでの『家族』への怯え、異常なまでの『自信』の喪失、異常なまでの自身への『失望』それらがラフィスにはどうしようもなく苦しいものに思えた。


ーー『だが、アラスにはラフィスのそんな気持ちに気づくことは出来ない。』


 自分に自信を持ってて、強くて、優しくて……か、それは俺が追い求めていた事そのものだ。俺の幼い頃からの理想だ。そんでもって出来ればヒーローになりたかった。


ラフィスの慰めさえも、自身への嘲笑に変えてしまう。それが、アラスの『弱さ』だった。


自身への『失望』の言葉は続く。


 だが、今の俺はどうだ?親や親戚、友人も知人も、何もかもを半年も忘れていたんだ。迷惑をかけただろう。悲しんでくれたのかもしれない。だが、俺はそんな皆の事を完全に忘れていたんだ。


忙しかったから、日々、修行に励んでいたから、ズタボロになりながらも、努力を続けていたから、そんな…そんなつまらない言い訳を並び立てる事は、確かに出来る。でも、でも、それはーー


自然と、一筋の涙が頬を伝った。それを見たラフィスは、アラスの事がより一層心配になった。


 最低だ。最低過ぎて涙が出てくる。こんな俺が優しい?そんなわけない。強い?いや、ただの弱虫だ。自分に自信を持ってる?持てる筈が無い。俺は心底自分に失望してるんだ。


ーー思いの丈を吐き出す事もしない自己完結。他人を頼りにせず、自らの事は自分でどうにかしなければいけないという、生来の固定観念が、アラスの行動に拍車を掛ける。


 ーーおい…そんな泣きそうな顔するなよラフィス……


ふと前を向き、ラフィスの表情を見た俺はそう思った。しかし、そんな言葉を口にする事さえ、俺には許されない事のように思える。……思えてしまう。


「なぁ、ラフィス。お前は本当に優しくて魅力的で、可愛い女の子だ。とても俺とは釣り合わないよ」

「そんな事無いですよ!そんな弱気な事言わないで下さい!!」


ラフィスは今度こそ身を乗り出し、俺の両手を掴み、自らの元へと近づけようとした。しかし俺はそれを咄嗟に拒み、すぐに手を机の下に隠した。触られたくない。触れてしまう事が、途方もなく罪深い事のように思えた。


「ーーはは。じゃあラフィスは俺と結婚したいとでも言うのか?同情はよしてくれ。辛いだけなんだ」


 俺は同情されるのが嫌いだ。何よりも嫌いだ。否定された気分になるから。馬鹿にされたような気分になるから。何をかは分からない。ただ、嫌なんだ。


一体全体、何故同情されているのかは分からないが、ラフィスをそうさせる何かを自分が行動で示してしまったのだろう。悪いことをした。謝らなければならないな。


「な、何でですか?なんで相談してくれないんですか?私は信頼出来ないですか?教えて下さいよ!辛いなら助け合いましょうよ!!」


 ラフィスのその呼び掛けは、既に悲鳴に近かった。


 辛いなら助け合う……か。辛くても助けを求めなくていいよう、強くなるための修行だったんだ。助けなんていらない。俺には過去を吹聴する趣味は無い。


ーーー頑固者のアラスは自分の考え方を捨てはしない。ラフィスの言葉は、アラスの胸に届かなかった。



 ーー足音が聞こえて来た。恐らくエリスだろう。ラフィスの帰りが遅いから俺に何かされてるんじゃないかと心配してるのだ。今はきっと鬼の形相だぞ。ハハハハ…


「なぁ、ラフィス。俺は別にラフィスが信頼出来ないわけじゃない。俺は俺の事を誰にも話すつもりは無いんだ。それは明確な救いなんだよ。俺は救いを求められるほど高尚な人間じゃない。でも、心配する必要は無いよ。俺、強いから。強くなったから。だから…その……ゴメン。心配かけて、悪かった」


 俺のその言葉に、ラフィスは悲しみを耐えた表情を見せるばかりで、何も言わなかった。


 ーー乱暴に扉が開かれた。


「おい!貴様お嬢様に何をしている!!」


案の定響き渡るエリスの怒鳴り声。部屋の空気は一新され、重たい雰囲気から和やかな雰囲気へと変貌を告げた。それは、俺とラフィスが、互いにエリスに対して気を遣った為に起きた現象だった。真面目な雰囲気をぶち壊した事を、気負わせないためのーー


「騒ぐなよエリス。俺はオルドやリュークじゃ無いんだ。何もしてないよ」


俺は出来るだけ信じてもらえるように、穏やかな口調でエリスの目をしっかりと見てそう言った。何故かエリスの顔は赤い。風邪でもひいたのだろうか?だとしたら悪いことをした。石造りの廊下はひどく寒い。長々と歩けば、暖かい外との気温の変化のせいで、体調を崩してしまう。


「はい、私が部屋に入れてもられるように頼み込んだんです」


ラフィスの援護射撃により、エリスの顔からは疑いの色が完全に消えた。後に残ったのは何故か真っ赤になっている顔だけだ。


「そ、それならいいんだが…」


どもりながらもエリスは疑って悪かったとその言葉にのせてアラスへと届けた。


 ふ〜ん、エリスはすぐに自らの行動を反省、ラフィスは感情の切り替えが出来るようになっている。2人ともちょっとは成長してるじゃないか。やっぱり『家族』との再開がでかかったのかね?


「もう戻るよ。少し酒を飲み過ぎたから休憩してただけなんだ」

「だ、だがお前は一口も酒なんて飲んでなかったじゃないか」


またまたどもりながら、エリスはそう言った。


 ん?なんで俺が酒を一口も飲んでないことをエリスが知ってるんだ?確かに俺は下戸だから、全く飲んで無いけど…いや、まぁ≪完成された吸血鬼(スクレ・ヴァンピール)≫を使用すれば一切酔わないんだろうけどな。ズルしてるみたいで嫌だし、酒を飲む時には絶対使わないけど。


「なんでそんな事を知ってるんだ?エリス」

「それはお前をずっと見てたからに決まって……い、いや!何でもない!何でもないんだ!そ、そう、勘だ!そんな気がしたんだ!!」

「お、おお。そうなのか……」


 少々エリスの脳味噌が心配になったが、恐らく大丈夫だろう。俺はソファーから立ち上がった。


 ーー開け放たれていた窓から夜風が入り込んだ。俺の頬を撫でたその風は、2人の間を通って何処かに消えた。


 寒いな。



 ーー俺は2人の元へ一歩、足を踏み出した。



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