20話 王都冒険者ギルドにて
『ああ、俺は絶対にこいつと出会うべきでは無かった。誰に、何と言われようとも』
▲▽▲
冒険者ギルドレクルム支部は『ピッグ』と闘ったあの場所から北に3キロユルほど離れた場所にあった。
そもそも、冒険者ギルドは基本的に完全中立を突き通すため、その本部は人界と魔界の両方に置かれている。冒険者ギルドは政治には関与せず、互いに無干渉。戦争時に自分達が危険に陥った時のみ国と協力する事を認められている。
魔界の方は知らないが、人界の本部は『エリゾーナ共和国』に置かれていた筈だ。絶大な影響力を誇る冒険者ギルド本部は、その時代の最も中立的な国に設置される。
まあ、何が言いたいのかというと、王都の冒険者ギルドとはいえ、超凄ぇ建物があったり、超凄ぇ大物がいたりする訳では無い。ということだ。当然、この国にとっては重要人物にあたるが、世界的にみれば大した事無いのだ。そういった人がギルドマスターをやっている。
ようするに何が言いたいかというと、
ーー目の前の爺さんが超ウザい
▲▽▲
俺は色んな人に凝視されながら、未だかつてこれ以上無いほど最悪な気分でギルドの前に立っていた。これまた貴族のお屋敷みたいな建物だ。これだけ立派にしているのは、体裁とか、色々あっての事だろう。
俺の気分が悪い理由は実に簡単。最早形式美と化して来たが、また言わせて貰おう。
どうでしょう皆さん!この絡みつくような視線!視線!!視線!!!
………はぁ〜どうすればこの視線を無くす事が出来るのだろうか…?
よし、少し考えてみよう。ザッと思いつく方法は3つ。
一つ目は≪理を断つ者≫の使用。
二つ目は顔全体に包帯を巻いてミイラ男になること。
三つ目は取り敢えず皆殺しにすることだ。
一つずつ考えてみよう。
まず一つ目の方法はリスクが高すぎるから却下。既に6回も使っているのだ。これ以上の無駄遣いは命取りになる。
二つ目の方法は恐らくだが、そんな事をした方が視線を集めるだろうから却下。もしかしたら不審な男だと思われて捕まるかもしれない。そんな事になったら面倒だ。
三つ目は言わずもがなで却下。当然だ。
策は潰えた。潔く諦めよう。このまま突っ立ってても視線を集めるだけだ。俺はとっとと冒険者ギルドに入った。
中は…まあ、普通だな。正直、装飾とかがもの足りないが、それでも悪くは無いだろう。それにしても…ゴツくて厳つい男たちはこの貴族の屋敷みたいな冒険者ギルドと恐ろしい程ミスマッチだな。
俺は思わずクスリと笑ってしまった。怒られると思ったのだが、彼ら(少数だが彼女らも存在する)は俺に魅入って何の反応も返してはくれない。
男に魅入られるのは気色悪くて嫌だが、そこそこ可愛い女の子もいるし、それでチャラにしてもらおう。俺は早速可愛い女の子がいる受付に向かった。
………あ、あれ?またいつか会いましょうとか感動的な別れをした筈のエミィの姿が見える。幻視だろうか?ヤバイな……俺、そんなにエミィの事が見たかったのか…?
受付の前に立った。あ、そうか。この子はエミィの双子か何かだな?いやぁ運命ってものを感じるよ。
「お久しぶりですアラスさん。これからもよろしくお願いしますね?」
…………。ふ〜む。幻視に続いて幻聴まで聞こえ始めた…重症だな、俺。
「聞いてますかアラスさん?ほら私ですよ。エミィですよ。ひょっとして…もう忘れちゃいました?」
あ、まずい。エミィがちょっぴり悲しそうな顔をしている。女の子にこんな顔をさせてはいけない。
「いやいやエミィ。俺はちゃんと覚えてるよ。それにしても何故こんな場所にいるんだ?」
俺にとってこの場で1番興味があるのはソレだ。もしや、エミィは俺に惚れちゃって追い掛けて来たとか?……まあ、それは無いな。
そんな事を俺が考えていると、
「実はアラスさんに惚れちゃいまして、リウイさんに頼んで王都勤務にしてもらったんです」
「はぁ!?」
あ、思わず声がでた。エミィはクスクスと笑っている。
ーー図ったな!エミィ!!
と、まあ、別にそれはいい。いや、心臓に悪いからあまり良くないのだが、最悪心臓が止まっても俺なら何とかなるだろう。
そんな事より…
「本当の理由は何ですか?エミィさん?」
俺は親しい人に対してイラついたりした時、つまり負の感情を持った時には敬語になる。何度かエミィに対してもこんな態度を見せているので、俺の心中はよくよく察する事が出来るだろう。
「すいませんアラスさん。悪ふざけが過ぎましたね。私はアラスさんと仲がいいという理由で、王都のギルドに頼むから来てくれと懇願されたからここにいる訳です。何故懇願されたのか、分かりますよね?」
うん。ちゃんと謝罪をしたからには許してやろう。偉そうだって?性分なんだよ。それにしても何故懇願されたか…?
一体何故だろう?全然分からん。
「いや、全く持って分からない。教えてくれ」
分からない事は素直に聞こう。俺は分からない事は分からないと言える男なのだ。偉いだろ?
「え?分からないんですか?アラスさんって頭良さそうなのに…」
……これは毒舌とかじゃ無い。純粋に驚いているんだ。だが、そっちの方が心に大きな傷がつくんだよ…!!
「悪かったですねー私は頭が超悪いんですよねーさっさと教えてくれませんかねー」
「よしよし、悪かったね、アラスちゃん」
「俺は赤子じゃねー!!!」
エミィはまたクスクスと笑っている。これがニーナとかのニヤニヤ笑いだったら怒れるのだが、こうもニコニコされると起こるに怒れない。
ーーそういえばニーナ、今日は何時もよりおとなしかったな……一抹の不安が胸を過ったが、まあ、ニーナなら大丈夫だろう。あいつ下手したら俺より強いかもしれないし。
それにしても……
もしかしたら俺の苦手なタイプは純粋な性格の人なのかもしれない……歪んでるな、俺。
まあそれはもういい。
とっとと理由を聞きたい。エミィに先を促そう。
そう、思ったのだが
「では、理由を説明しますね?」
と、先に言われてしまった。
「ああ、教えてくれ」
ここで、人にものを頼む時にはそんな言葉使いでいいんでしたっけ?とか言われたら俺はエミィとの付き合いをやめていたかもしれない。余り合わない人と仲良くしても後々手痛いしっぺ返しを喰らうだけだしな。
まあ、幸いにもそうはならなかった。
「分かりました。端的に言うとですね、アラスさんは怯えられているんですよ。まあ、その容姿からして同じ生物だとは思えないですし、フェンリル4体を無傷で、それも4体とも一撃で倒すのは強過ぎます。警戒されて当然ですね」
ーー俺にとって、1番衝撃的だったのは怯えられているということでは無かった。俺はソレを聞いた瞬間、
へ?俺って同じ生物だとは思われてないの??
と思った。え?酷くね?じゃあ俺って一体何だと思われてるんだ?
疑問に思った俺はその答えをエミィに求めた。
「じゃあエミィ、俺って一体何だと思われてるんだ?」
それに対してエミィは度肝を抜くような言葉を返した。
「ある人は神様だと言っていましたし、他の人は人族に化けた魔王だとも言ってましたし、『現人神』だって話も有力ですね」
神様?魔王?現人神?俺は、空いた口が閉まらなかった。
って、その中に答えあるじゃん。まあ、ラファエール教では『現人神』は一人以上いないって事になってて、既に一人確認されてるって話だし、俺の正体をバラしたりはしないんだけど。
ーー俺がこの10日間何もしてないとでも思ったか?俺はなぁ、必死こいて常識を勉強してたんだよ!!フッ。偉いだろ?これで俺も常識で困ることは無くなった訳だ!!ハハハハ!!
………何も言わなくていい。黙ってろ。
……いや、黙ってて下さい………
ってなわけで、エミィが送られて来た理由も分かった。エミィ、王都につくの早過ぎじゃね?と思ったが、何でも近道があるらしい。
…俺たちの努力は一体……?
まあいい。俺は今、この建物の最上階。つまり3階にいる。理由は簡単、ここのギルドマスターが俺に会いたがっているとかでエミィに連れて来られたのだ。
そもそもそれが目的だったので、俺は喜んでエミィについていった。
エミィが扉をノックする。中からの返事はない。不思議に思ったが、それが合図だったらしい。つまり、許可がおりたようだ。俺はポケットに紹介状が入っているのを確認して、扉をあけた。
ーー第一印象を言おう。最悪だ。その一言に尽きる。
床の至る所にシミ、ガラスの割れた破片などが飛び散り、壁は一体何をしたらこうなるのかが分からない程ボロボロだ。
白い髭を随分と長く生やした老人は、穴だらけのソファーに座っていた。
ーー帰ろう。
こう判断するまでにかかった時間、およそ0.36秒。
即座に回れ右をした俺は
「ハハハハ!待ちたまえアラス・アザトース!!ほらこっちに来なさい!一緒に酒を飲もう!ハハハハハハ!!」
と言う声に呼び止められた。元気良すぎだろこの老いぼれジジイ。俺はここまでハイテンションな奴は好かんぞ。
とりあえずこのまま帰っては今までの苦労が水の泡になってしまうと判断した俺は、更に回れ右をして爺さんを見た。
何歳なのか全くもって分からない。恐らく…というか間違いなく魔法師だろう。この部屋を見たらだれでも分かる事だ。
はぁ、早速憂鬱だ。エミィが同情したような視線を向けてくる。同情するなら金をくれ!!ーーいや、いらんけど。
「始めまして、私の名前はアラス・アザトース。紹介状を頂いたので立ち寄った次第です。それと、今は職務中でしょう。お酒はやめておくべきかと」
俺はとっとと挨拶を終わらせて帰ればいいと判断した。
「おお!礼儀正しい若者は好ましい!儂はモルクス・エンゲルトという者じゃ!硬いことは言わんでいい!ほれ、酒は飲めんのか?ほれほれ〜」
エンゲルト?こいつ四大公爵家の出身か。
四大公爵家は
グランデール家、フリューゲル家、エンゲルト家、メルネル家の四つある。
まあ、四大公爵家なんだから四つあって当然だな。
それにしてもこのジジイ…ウザいな。いや、悪い奴じゃないのは分かるが、とにかくウザい。何故だろうか?やっぱりハイテンションだから?
ーーにしても俺に酒で挑発するとは、愚かな老いぼれだ!
「私が酒を飲めないとでも?私は10樽でも飲み干してみせますよ」
(小さなコップで三杯飲むのが限界です)
「ハハハハハ!そうか!10樽も飲めるのか!!凄い!凄いぞアラス・アザトース!!ハハハハハ!!」
フッ!そうであろう!この俺様に恐れをなすがいい!!
「アラスさん、本当に10樽も飲めるんですか!?」
エミィの、私、驚きました!という声。
……い、いや、飲もうと思えば飲める筈だし、飲めねぇ訳ねぇし。うん…
「あ、ああ、勿論だとも!俺がエミィに嘘をついた事があったか?」
「ありません!」
「そうだろうそうだろう!!ハハハハ!!」
って、あれ?テンションが高くなってきたな。いかんいかん。真面目に話をしなければ。
「すいません。お酒を飲むのは後にして、何か私に言うことがあるのなら聞きますが?」
うん。用がないならとっとと酒を飲もう。エミィを酔わせて連れて帰って……ゲフンゲフン。
「うむ!一つだけ確認しておきたい事がある!!」
ヘぇ、一体何だろうか?
「はい、お答え出来る事ならお答えしますよ」
「アラス!お主は『聖エミュル魔法学園』に通うつもりか?」
聖エミュル魔法学園…エリスに聞いてた魔法学園の正式名称か。それなら答えは是だ。
「はい。そのつもりです」
俺は簡潔に答えた。
「そうかそうか!ハハハハ!!ほれ、この手紙をやろう!!エミュ学の学園長直々の招待状じゃ!!いやあ、あの若造がこんな事をするのは実に珍しい!ハハハハハハ!!!」
直々の招待状?なんだそれ?と疑問を抱いていると、
「モルクス様!大変です!!『現人神アリス』様がおこしになられました!!」
という男の声が扉の外から聞こえて来た。
爺さんは突然立ち上がり、アリス!アリスが来たのか!!と言って走り去ってしまった。
アリス…って、アリス・フランチューレの事か?そいつが『現人神』?何いってんのこいつら。……え?マジでそうなの?
疑問に思った俺は部屋を飛び出し一階に駆けた。後ろからはエミィがついて来ている
アリス・フランチューレ!俺の旅の目的そのもの!!あ、ついに見えたぞ!!
ーー人垣が割れて行く様はまるでモーセのようだ。(モーセって誰だか分かる?ほら変な棒持って『開けゴマ』って叫んだら海が割れたっていうあの人の事だよ)
遠目で見た彼女は今まで会った誰よりも美しかった。ーーいや、マジで。
蜂蜜色の髪は膝まで伸ばされている。背はそれなりに高く、出るところは出て、引っ込んでいる所は引っ込んでいる。なんと言うか、保護欲をそそるギリギリを体現していた。瞳の色は煌めくような金色だ。
俺が今まであった中で最も美しいと思ったのは、彼女の『美』が自然的なものと人工的なものが融合して出来ているからだろう。俺の知り合いの美人さん達は元がいいだけだ、彼女は更にその美しさに磨きをかけている。
目が、合ったーー
俺は直感した。こいつには何が何でも会うべきじゃなかった。と。
美しい瞳の奥底に眠る。無機質な光、女神のような笑みなのに、何故か泣いているように見えた。
俺は、何てことをーー
「ああ、始めましてですねアラス・アザトースさん。いや〜噂に違わぬ容貌の持ち主で驚きましたよ。どうですか?私と、結婚してみません?」
ーーこうして、2人は出会った。




