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女神より奪いし者 〜最強チートの異世界ライフ〜  作者: シンクレール
第2章 王都への旅路
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13話 アラスの反撃

 話はついた。後はあの豚を倒す前に彼の家族の事を助けないといけない。まあ、それについては方法が無い訳でもない。それより先に……


「ご主人様…良かった……グスッ。死んじゃったかと思って…涙がーー」


 まあ、心配してくれたのは嬉しいが、取り敢えず涙と鼻水でグチャグチャになった顔をどうにかしろ、エルフィ。ーーって、おい!俺の≪神魔の衣≫に顔をなすりつけるなっ!!これ一応神器なんだぞッ!!


「お前…本当に強かったんだな……まさか『魔貴族』に勝つだなんて…それに、お嬢様が魔法を使えていたし…驚きの連続とはこれの事だな…」


 エリスは只々呆然としている。ああ、こいつらの前で実際に闘うのは始めてか。それにしても『魔貴族』って何だ…?この男の事か?それに、お嬢様が魔法を使えていたって…まるで、ラフィスには魔法が使えないかのような言い草だな。


 あいつの魔力総量は凄まじいものだと言う事には前々から気づいていたが、何故か魔法を一切使わないので、不思議に思っていたのだ。


ーーやはり、魔力があっても魔法を使えないタイプだったか。これだけの魔力総量を誇っていれば、師匠の口から何かしらの情報が得られていた筈だ。


 それにしてもさっきの光魔法と闇魔法の混合魔法…アレは俺もリリーと一緒に2ヶ月程研究したことがある。師匠には無駄だと言われたが、この2つの魔法はどの魔法よりも強力だ。


 混ぜ合わせる事が出来ればかなりの戦力UPになるだろうと思い、長い間かけて様々な模索をした。しかし、望んでいた結果は得られ無かった。混合魔法はとにかく知識と理解力、そして直感が必要になる。


 俺は特にこの3つが優れていた。自分で言うのも何だが、俺はこの頃魔法の習得や開発に時間を取られる事は無かった。いつも簡単終わるのが当然だったのだ。


ーーリリーは少々アレな子なのでいつも様々な魔法の習得に時間をかけていたが……


 そんな時、俺の目の前に現れた巨大な壁が光魔法と闇魔法の混合魔法だった。気に入らなかった。俺がどんなに頑張っても全く研究が捗ら無かったのだ。マジでムカついて東側の森を消した。


ーー≪地獄の業火(ヘルフレイム)≫は実に便利な魔法だ。


 そんなこんなでこの2つの魔法を掛け合わせる事は不可能であると立証された訳である。まあ、師匠に「僕はずっとその研究をして来たけど、成果があがった事は一度も無いんだよ」と言われた時に薄々出来ないと言うのには気付いていたが、その時は逆に、「じゃあ、俺が第1人者になってやるっ!」と息巻いたものだ。


ーー無理だったけど。


 それだと言うのにラフィスはそれをやって見せた。凄い。師匠が出来ない事をやるだなんて……尊敬しちまうぜ!ーーまあ、当の本人は涙で頬を濡らしてグッスリと眠ってしまっているのだが。今まで魔法を使えなかったのにいきなりあんな大魔法を使ったのだ。疲れて倒れて当然だな。


 ーーそれにしても、俺はラフィスを泣かせてばっかりだ。今度ラフィスの願いを何でも一つ聞いてやろう。



 さっきの魔法の威力を調べようとして、俺は爆心地に男と一緒に近づいた。


 男の名前はランド・ブリューセルと言うらしい。この世界で始めて会った金髪イケメン君だ。とは言っても、もう君付けされる年齢ではないだろう。見た目は25と言ったところだ。


  しかも驚いた事にもう角は無くなっている。なんでも、隠す為の魔法があるらしい。完全に人族と見分けがつかないな…どうやって見分ければいいのだろうか?


 そういえば、種族によっては見た目と年齢が釣り合わないって師匠が言ってたな。こいつもそうなんだろうか?


あの豚を殺すと決めた俺だが、外面としては何時も通りを装うつもりだ。エリス達に、心配をかけたくない。


先程と何ら変わらない調子で、俺はランドに話しかけた。話題は、万国共通、始めて会話をする人との第一の話題、年齢についてだ。


「おい、お前一体何歳なんだ?」

「272歳だ。それがどうかしたか?」


 ………実に面白いジョークだな。うん。


「……真面目に答えろよ。本当は今何歳なんだ?」

「だから272歳だと言っているだろう?魔貴族の平均寿命は600歳だ。およそ25歳で体の成長が止まり、500歳を超えるまで変化は無い」


 は?マジで?寿命が600?凄えな、何故人族はこんなのに勝てると思ったんだろうか?どう考えても戦闘経験に差が出るだろうに。


 ーーと、そうこうしている内に爆心地についた。普通はここまで徹底的に破壊すれば焦げた感じの匂いの一つでもするものなんだが…なんの匂いもしないな。


 というか、怖すぎるぞこの断面。まるで適温で少し温めたアイスをスプーンで掬った時のように滑らかだ。俺がこの断面を作るにはーーそうだな。火魔法と時空間魔法と土魔法の混合魔法を使用すれば難しく無いか。まあ、殆ど全魔力を消費するだろうが。


 ランドは隣で顔を青ざめさせている。そりゃあそうだろう。この魔法が自分に向かって飛んで来たのだから。当たれば本当に死体も残らなかった筈だ。


「助かった…当たれば間違いなく死んでいたな。ありがとう」

「気にするな。俺も何と無くお前を助けただけだ。義理を感じる必要は無い」


 本当にそうだ。何と無く助けて過剰に感謝されても困る。


「いや、そうはいかない。この件が終れば魔貴族の誇りにかけて礼を尽くす事を誓おう」


 ーーそれが迷惑だって言ったんだけどなぁ。まあ、好意を無碍にする訳にもいかない。


「期待しとくよ」


 俺はそう答えた。それにしても…


「まだあの豚に勝てると決まった訳でもないのに終わった後の話とは、あまり楽観すると足元を掬われるぞ」


 ーー俺みたいにな。正直、あの豚にこんな手駒がいるとは思わなかった。俺の油断のせいであの3人には迷惑をかけた。


 あの後、俺は2人にラフィスを任せて、結界魔法第一階級≪結界結(ボックス)≫に多大な魔力を込めた物の中に入って貰った。

 アレは≪地獄の業火(ヘルフレア)≫3発程度になら耐えられる特別製だ。安心しても問題無いだろう。


 ーーまあ、色んな質問を投げかけて来たので面倒になって無理矢理結界の中にいれたのだが。どうせラフィスにも質問されるのだ。一回で済ませたい。


「いや、お前が手を貸してくれると言うことが堪らなく安心させてくれる。お前は異常に強いからな。≪雷纏(ライテン)≫を使った状態の攻撃を防がれるとは…始めての経験だよ」


 ーーああ、アレか。確かにアレは普通の奴じゃ防げないよな。……ん?こいつは俺達に危害を加えようとしたってのに蹴り一発で許していいものか?俺はともかくラフィスが危険な目にあったのは看過出来ない。他の2人も最悪怪我を負ってもおかしく無かったし……うん。後3発殴ろう。


「おい、ちょっと殴らせろ」

「は?一体なにーー」


 俺は殴った。(横暴だって?返す言葉もありません)闘気は纏わなかったが、それでも痛いだろう。最初は「いきなり何なんだ!?」と言わんばかりの表情をしていが、途中からは納得したような顔をしていた。理解力がある奴は好きだ。


「言っとくが謝らないぞ」

「ああ、確かに蹴り一発じゃ割に合わないな。だが、あの時のお前の瞳ーー」

「答えはノーコメントだ。教えるつもりは無い」


 教えたら面倒な事になりそうな予感がする。そんな事より、俺は≪雷纏≫と言うものが気になった。実に便利そうだ。今から起こす騒動でも役に立ちそうだしな。



「なぁ、頼みがあるんだがーー」




 ▲▽▲




 ーー結局、5分程度で覚える事が出来た。なんでもランドは鬼族らしいのだが、≪雷纏≫は鬼族以外には覚えられない≪固有魔法≫として伝えられて来たらしい。


 俺が頼んでも最初は無駄だと言っていたが、細かい説明を聞いて勝手に理解を深めれば簡単な魔法だった。少なくとも、≪魔法破壊≫に比べればカスみたいな難易度だ。


 この魔法は使い勝手がいい。雷を体に纏うことで雷と同化し、雷のような速度と攻撃力を実現している。ランドが「俺は習得するのに100年かかったのに…」とか言っているが、まあ、気にせず行こう。


 俺が≪雷纏≫を習得しようと右往左往している間、また≪万能の指輪(ワンノン・ジファン)≫に反応があった。ーーまあ、これだけ派手に戦えばこうなるよな……


 反応は3つ。どれも小さい。恐らく警備兵とかだろう。ーーと思ったが、門番さん1号と2号と初見の人だった。初見の人は3号と呼ぼう。


「貴方たち!一体そこで何をーー」


 ランドが、一瞬で全員の意識を刈り取った。素晴らしい手刀だ。恐らく慣れているのであろう彼の動きは、まるで水が流れるようにーーって、おい!ちょっとくらい話をさせてやれよ!!一気に3人ともとか可哀想だろうが!!!


「先を急ごう。恐らくプタ・テプールは魔道具を使って俺が負けた事を察知している」


 ーープタ・テプール。その名前を口に出した時、彼の口調は正に『怒りを抑えきれない』といった様子だった。『家族』を取られて何をされたのか……あの豚のする事だ。考えるまでも無いか。


「ああ、そう。あいつらも可哀想に…それにしても便利な道具があるもんだな」

「人族は便利な物を作るのに長けている。戦闘に関しては話にならないが、技術力だけは評価出来る」


 うん。酷い言われようだな。人族。まあ、ランドはその人族に家族ごと捕らえられてる訳なんだけど。


 ーー先程エリスに聞いたのだが、『魔貴族』を捕らえるということは人界と魔界の関係を著しく悪化させる事らしい。


こんな事をするということは、ナベリウス帝国と繋がっているのかもしれない。


 と言われた。王国に属する貴族が帝国と手を組み大陸を揺るがす大罪を犯している…そう聞いた俺は、更にあの豚を殺す決意を固める。


 俺たち2人は、町に向かって歩き始めた。




 ▲▽▲




 町には以外とすんなり入れた。プタ・テプールに妨害されると思ったのだが…まあ、何か問題がある訳ではない。寧ろラッキーだ。町の人達はこちらを見た瞬間に驚いた顔をしている。大方、いつもの3人と一緒にいないのが不思議なんだろう。


 ーーあの時俺の≪異常な護り(レッツェル・シルト)≫の<自動防壁>を剣が突き破ったのは、ランドの剣が≪刺剣・イクサム≫というSランクの武器だった為だと、のちに判明した。彼が言うには、家宝なのだとか。Sランク武器なら≪神魔の衣(ディオブロ・クライナ)≫と≪異常な護り≫の<自動防壁>を同時に貫いてもおかしくない。


 ーーランドの『家族』の居場所を探る方法については目処が立っている。簡単だ。≪理を断つ者(オルドル・シュナイデン)≫を使えばいい。本当はマジで使いたく無いのだが…まあ、『償い』の為なら妥協しよう。俺は無理矢理そう納得した。


 アレは使いたくないスキルの中でも断トツに嫌いなスキルではあるが、使い勝手がいい。俺は既にペナルティーを2回受けている。多過ぎるって?3年で2回だがら一年と半年で一回。そんなに多い事も無いと思うが…


 時々、師匠は俺とリリーが寝ている間に、冗談みたいに広い"死の森"の何処かに俺たちを転送してサバイバルのような事をさせる事があった。アレは最悪だ。現在地も分からないし方位磁石も無い。なし崩し的に≪理を断つ者≫を使う羽目になった。


 俺とリリーの屋敷に辿り着くまでの最短時間は216時間。つまり9日だ。歴代2位の記録らしい。1位は3日なんだとか。最初は冗談かと思ったが、本当の事らしい。まあ、アレはスキルの問題だからなぁ。


ーーちなみに最低記録は測定不能。つまり死んだとういことだ。死ぬ前に助けろよ師匠…


 と、そんな事を考えていると


「おいっ!そこで止まれ!!これより先には行かせん!!」


 という声がかけられた。ーーいけね。ボケっとしてたから索敵反応あったの気づかなかったよ。


 目の前にいるのはおおよそ100人くらいの騎士や傭兵だ。プタ・テプールが急いで呼び集めたのだろう。たった2人しか敵がいないことに困惑している。大声をあげた1番偉いのであろう人も、口ではああ言っているが、表情は申し訳なさそうだ。


 それにここは町の大通りなのだ。当然、人も大勢いる。真昼間なのだから仕方が無い。多くの人達が此方を興味深そうに見ている。


 ーーランドに相談しようと思ったのだが…こいつらは一応プタ・テプールの部下だ。とりあえず皆殺しとか言われたら対処仕切れない。あの豚はともかく、部下まで皆殺しにするというのは流石に忍びない。相談するのはやめにしよう。


…にしても面倒な事になったな……


「おい!聞いているのか!?プタ・テプール様の命令だ!この町から即刻出て行け!」

「やだよアホらしい。後10秒やる。とっととどけ」

「な、なんだと!?いくらSランク冒険者とはいえ、この人数差で勝てると思っているのか!!」

「ああ、当然だろう。邪魔だ。早く失せろ」


 面倒になった俺は≪紫水晶の魔眼(アメテュスト・ロウーユ)≫を使うことにした。ランドの襲撃の時には≪王格≫がどの程度のものなのかが分からなかった為使わないかったが、こいつら相手なら問題無いだろう。


「戯けたことを言っている場合ではないっ!この町から立ち去れ!!」


既に彼の顔からは申し訳ない無いと言う感情が抜け落ちていることが窺い知れる。気の短いヤツだ。


「10、9、8、7ーー」

「その口を閉じろ!お前らもこんな若造に舐められて悔しく無いのか!!突撃だ!突撃しろ!!!」


悔しいって…殆ど全員が怯えてるじゃないか。町の人たちは興味深そうに見ているし。ランドにまでそういう目でみられていが、当事者たちからすればフェンリルをゴミだと明言してる奴が襲いかかろうとしているのだ。怖いに決まっている。


「6、5、4ーー」

「ですが隊長!彼は一晩で誰にも気付かれずにフェンリル4体を倒してきた猛者です!!正直、我々だけでは無理なのでは…」

「ええい!黙れ!そんな事では騎士失格だぞ!!」

「3、2、1ーー」


もう、終わりだ。結局逃げなかったな。


「もういい!とにかく、全員突げーー「『0』」




次の瞬間、町の一角に紫色の閃光が迸った。


次回決着です。

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