10話 お友達
記念すべき第10話!!
おや?ラフィスの様子が......?
随分と無口になった2人を引き連れた俺は、この町で最も値段が高い宿に泊まった。
いや、これ貴族の屋敷じゃね?
と思ったが、ラフィスによると貴族用の宿はどこもこんなものらしい。そこで、彼女たちとのと俺用の部屋、つまり、2つの部屋を借りた。本当は 3人部屋を借りようと思ったのだが、2人に拒否された。当然か。
俺は、あたりが暗くなった事を確認し、
わざわざ森の中に≪瞬間移動≫を使って転移した。そう。俺は今から門を通って町に戻り、
『4匹のフェンリルを見つけ、その場で倒した。もう、他にフェンリルはいない筈だ』
と、証言するつもりだ。余り目立つのは好きじゃないが、自分が蒔いた種だ。自分で片付けるのが妥当だろう。
さて、とっとと終わらせてふっかふかのベットで寝るとするか。
そんな事を考えていると、既に門の前まで来ていた。門番さんは別の人だ。……いや、当然だな。まだやってたら労働基準法に違反している。
ーーまあ、この世界にそんなものがあるのかは知らないが。
「すいません、例のフェンリルを片付けて来ました。いやぁ、大変でしたよ。4匹もいましたからね」
と俺が白々しく言った所、
「ほ、本当ですか!?4匹も居たなんて……あれ?貴方一人で殺ってきたんですか?」
と、当然の疑問を質問してくる。まあ、当たり前か。ーーそれにしても殺って来るって……意外と怖いな、この人
「そんな事はどうでもいいんです。早く通して下さい。駆り出されている他の冒険者の方々が可哀想です。」
……いや、流石に今のはどうかと思いましたよ?自分でも。完全に自作自演だもの。
アダ名が自作自演野郎になっても文句言えないもの。でも、仕方ないでしょ?本当の事言えないんだもの!!
………反省しております。
「あ、はい。お止めして申し訳ありませんでした。早く行ってあげて下さい。皆さんの喜ぶ顔が目に浮かびますねっ!」
と、言って満面の笑みを浮かべる門番さん2号。………何なんだこの人、俺を罪悪感で殺すつもりなのか?
……あれ?なんだこれ?目からお水が…いや、泣いてないぞッ?これは……そう!血なんだ!≪紫水晶の魔眼≫の使い過ぎで目から血が出てるんだ!そうに違いない!!
(そんな副作用はありません)
そういえばアレ、最近全然使って無いな…
「はい。急いで行ってきます。……なんかすみませんね、本当に」
俺の最後の言葉に首を傾げている門番さんを尻目に、俺は冒険者ギルドに急いだ。
▲▽▲
「ハァッ、ハァッ、エ、エミィさんいませんか?ちょっと用事があるんですけど!」
と少し声を荒げた演技をしながら言うと、
「おい、あいつだぜ。昼間にフェンリル持ってきたの」
「へぇ、あいつがあのフェンリル2体を1人で倒し、冒険者を始めて10分でAランク入りしたって言う超絶美少年君か?」
「ああ、あのリリーの弟子だって噂されてるんだよな。本当なのかねぇ?」
という会話が聞こえた。ん?俺がリリーの弟子だって噂が流れてるのか?
どうしてそうなった……誰だよそんな噂流した奴!出て来いよ!一体全体何処からリリーの名前が出て来たんだよ!だいたい、何でリリーに負けないように頑張ろうとしてたのにリリーの弟子にされてんだよ!おかしいだろ!それになんでお前らここにいるんだよ!早く捜索に行けよ!
と考えていると、
「お急ぎですか、アラスさん?今忙しいのですが....」
というエミィの声が聞こえて来た。あれ?ちょっとヤツれたか?いや、俺はヤツれたエミィでも十分いけるぞ!何をかって?ナニをだよ。
「はい、急ぎの用です。4匹のフェンリルを倒して来ました。恐らく、もうどこにもフェンリルはいないでしょう」
と言いながら、壊れた台の上に4匹のフェンリルの死体を重ね…るのは無理だったので2体ずつ重ねて置いた。ーーいくら広いとはいえ、流石に窮屈に感じるな。
「ま、またですかッッ!?無傷なのに?一体どうやって倒したんですか!?だいたい、まだ影を見たって言う報告すら挙がってなかったんですよ!?それに、さっきの2体もでしたが、首の所に剣で刺したような穴が1つ有るだけなんですけど!?こんな風に倒すなんて拘束系の魔法でも使ったんですか!?」
(いや、現在の魔法では拘束系の魔法でフェンリルを拘束するのは不可能な筈…では一体どうやって……)
何かを考え出してブツブツ言っているエミィをずっと見ている訳にもいかず、(別に見ていてもよかったのだが)さっき俺の事についてペチャクチャ喋っていた奴らに指示を出した。
「すいません。外で捜索している方々にこの事を伝えて来てくれませんか?お願いします」
と、頭を下げると、固まっていた彼らは、
「わ、分かりました!急いで行ってきます!」
と大声で返事をして走り去った。ふっ、休ませていた身体をちゃんと使えよ?
とか、考えていると、
(サボってた奴らにまで罪悪感を感じる程俺は優しく無い)
「す、すいませんアラスさん。ギルドマスターを呼んで来るので、少しそこで待っていて下さい!」
……次は、8億エルが手に入るんだろうか………?
▲▽▲
その後、ギルドマスターに呼ばれた俺は8億エルを貰い、
「正式に、君をSランクに任命する」
と伝えられた。
何でも、フェンリルを1人で6体も倒したとなれば、もう誰も不満を言ってこないため問題ないらしい。ちなみにSランク冒険者は俺とリリーを含めて9人しか居ないとか。俺は手に入れたお金の中から1千万エルを2人に預け、
「冒険者の皆さんと祝勝会でもして、余ったお金は皆さんで均等に分けるようにしてください」
と伝えて、ギルドを出た。後ろでエミィが、
「1千万エルだなんて幾ら何でも多過ぎますよッ!」
とかって叫んでいたが、別にそんな事はどうでもよかった。その程度の事をしないと俺の気が済まなかったし、だいたい、俺は金には大概無関心なのだ。これは前世の時からそうだったし、どうしようも無い。
ーーいや、どうにかしようとも思わないが。
さあ、早く帰って飯食って風呂入って糞して寝よ。
▲▽▲
ーーこの後、アラス・アザトースという名前が瞬く間に人界全土に知れ渡った。
曰く、冒険者を始めて4時間でSランク冒険者になった、顔を真っ白な仮面で隠した史上最速の超絶美少年。
曰く、≪白銀姫≫リリー・エルフェイドの愛弟子。
曰く、無傷で6体のフェンリルを倒した美少年。しかも、どのフェンリルの首にも、剣で刺したような穴が1つ空いていただけらしい。
曰く、現在最小年のSランク冒険者。
曰く、捜索から帰って来た冒険者達に自腹で1千万エルという大金を出し、『祝勝会』なるものをさせた好少年。
という噂が流れ、人界を震撼させる事になるのだが、この時のアラスには知る由もない。
▲▽▲
「聞きましたよアラスさん!4体のフェンリルを1人で倒してSランク冒険者になった挙句、自腹で1千万エルも出して祝勝会とかいう物を冒険者の皆さんにさせたそうじゃないですか!いつの間にそんなことをしたんですか!?≪白銀姫≫リリーのお弟子さんだって話は本当なんですか!?」
「うるさい…俺は朝に弱いんだよ……後1年寝かせてくれ……」
俺は本っ当に朝に弱いんだ……だいたい、何でお前ら俺の部屋に入ってこれんだよ…
俺は昨日ちゃんと鍵をかけてーー鍵、掛けたっけ?
それにしても、≪白銀姫≫リリー?何だそれ?
「後1年って……幾ら何でも寝過ぎだろ!早く起きてお嬢様の質問に答えろ!!」
……強引に布団を剥ぎ取られ、部屋のカーテンを開けられた。
「や、やめろ……俺に朝日を当てるんじゃない…」
俺は吸血鬼なんだぞ……!日の光を浴びたら死んでしまう…
(彼は吸血鬼じゃありません。それに、吸血鬼としての弱点が無いから≪完成された吸血鬼≫なのです)
「何だそれは?お前は吸血鬼か」
えっ?この世界には吸血鬼いんの?屋敷の書庫にはそんな記述無かったけど。
うん、頭も冴えて来たし、
聞いてみるか。
「おい。2つ質問がある。第1、≪白銀姫≫リリーって何だ?第2、吸血鬼って実在するのか?だ」
「先に私達の質問に答えてください。と言いたい所ですが、特別です。常識を知らないアラスさんの質問に答えてあげましょう。まず、≪白銀姫≫と言うのはリリーさんの二つ名です。アラスさんも本当にSランクになったんならいつかつくと思いますよ?次に吸血鬼ですが普通に居ますよ?確か魔王の中にも居たはずです」
もうラフィスの小言は気にしないぞ、うん。吸血鬼の魔王、かぁ、いつかあって見たいなぁ、それにしても二つ名か……どんな名前になるのだろうか?興味あるな。
「おい、わざわざお嬢様が答えてくれたんだから早く質問に答えろ!」
こいつ…貴族の癖にラフィスの事をお嬢様お嬢様と……お前だってお嬢様だろうが!!っと、まあ、確かにその通りだし、ちゃっちゃと答えるか。
「ああ、昨日の夜、わざわざ≪瞬間移動≫を使って森に行って倒して来た。お前らに黙って行った理由は言ったら着いて来ると言いそうだったから。何故ついて来られたら困るのかは言わなくても分かるな?それと俺がリリーさんの弟子だって話はデマだ。そんな事実は存在しない。これでいいか?」
と言うと、二人は黙ってしまった。
危ない危ない、思わずリリーと言いそうになってしまった。俺がリリーの弟子だという噂は払拭しなければならない。他人行儀にして置かなければ。
それにしても、また罪悪感が……
「わ、私たちは……そんなに頼りないのでしょうか…グスッ! 少なくとも身分が高いせいでお友達が全く出来なかった私にとって、アラスさんは大事なお友達なんです……!確かにちょっと変態さんですが、本当に大事なお友達なんです…グスッ!し、信頼して欲しいとは言いません……でもっ、せめてアラスさんにも私のことをお友達だと思って欲しいんです……!」
何ということだ。ラフィスが泣き始めてしまった。…………え?いや、え?ど、どうすればいいんだ…?泣き始めた女の子に対する対処方なんて俺は知らんぞ!!エリスもその射殺すような視線をやめてくれ!
思えば、前世において、そこそこ顔が広く、友人がたくさんいた俺にとってお友達という存在が自分に必要だ。と思った事は一度も無かった。
だが、次女とはいえ、公爵家の娘だったラフィスには、その……色々あったのだろう。 別居していたってのにも事情がありそうだし………
「ラフィス。泣き止んでくれ。俺はラフィスの事を友達だと思っている。もちろん、エリスの事もな。だいたい、今まで俺には1人しか友人が居なかったんだぜ?俺の方が切実に困ってるんだ。これからもよろしく頼む」
友達が1人しかいないってのはこの世界のみでの話だが。
勿論、この友人とはリリーの事だ。師匠は友人……では無いだろう。師匠は師匠だ。
「友人がたったの1人……可哀想な奴だな、お前。ま、まあ、私も一応お前の事を友人だと思っているぞ。感謝しろ」
アレ?何これカワイイ。
何かツンデレっぽいな、エリスって。
『私もアンタの事を友人だと思ってあげてるんだからねっ!感謝しなさいよ?』
みたいな?
「友達が1人……?なんて可哀想なアラスさん…」
あれ?慰めてたのに逆に慰められてる…いつの間にかラフィス泣き止んでるし。おい、そんな哀れむような目で俺を見るなよ。泣きたくなるだろ……?
「そ、そうだ!お金も手に入ったし、何かプレゼントしてやるよ!正式にお友達になりましたよ記念だ!買い物に行こうぜ!!」
べ、別に悲しくなんか無いんだからねッ!?友達なんか居なくても生きていけるんだよッ!!
…………やめてくれ……もう俺に何も言わないでくれ……
こうして、俺たちは宿を出た。