1話 ブチ切れた女神ラファエール
記念すべき1話目です。
楽しんで頂けたら幸いです
「こいつは驚いた!あのクソ女神はどうやら俺を殺したいらしい!!」
ここは明らかに雲の中だ、処女雪のように真っ白で美しい雲の中を抜けると、目の前には広大な草原が広がっていた。
って、は?いや、おかしいだろ、俺はさっきまでラファエールとお喋りしてたはずだが……あっ、また悪い癖が出ちゃったのか、冗談だったんだがなぁ....冗談言って死ぬとか、洒落にならないんだけど……
ここが何メートルくらいの高さなのかはよく分からないが、雲の高さってことは、 間違いなく落ちた瞬間にR18指定のグロテスクな画像の、更に3倍ほどグロい状態になってしまうだろう。
ーー落ちたら、痛いかなぁ?
それにしても……風圧がすごい。これなら前世での夢だった生身で空を飛ぶという夢が実現出来ていると言えるんじゃないだろうか!!
ーーいや、まあ、落ちてるだけだけど。
体制を整えようとしたが、いつかテレビで見たように、四肢を上手に使って空中で身体を安定させる事は出来なかった。見た感じ簡単に出来そうだったんだが…せめて、死ぬ時は原型をとどめて死にたかった。
その程度の願いさえ俺には高望みだと言うのか…神よ……
ってかマジであり得ねぇぞ!ちょっと冗談言って見ただけじゃん!おい!返事をしろよクソ女神!!
「……………。」
「返事がっ、ないィ…!…絶対にぃ…聞こえてるはずなのにッ!」
とか何とか独り言を言ってる間に、地面はどんどん近付いている。普通さ、こういうのはヒロインが落ちて来て主人公が助けるっていうのがテンプレでしょ。
男が落ちるとか誰にとっての役得だよ?あ、もしかしたら逆にヒロインに救われるとか?……そうだったら、いいなぁ。誰でもいいから、助けてくれよ……
今の所解決方法も浮かばないし、為す術もなく俺は死んでしまうだろう。正直、ヒロインに救われても惨めなだけだ。
思えば、短い人生だった。 だって……まだ1分も生きてないんだぜ?多分まだ20秒くらいしか生きてないんだぜ?あり得なくね?いや、現実はクソゲーだってよく言うけど、難易度バグりすぎじゃね?
嫌だなぁ童貞のまま死ぬのは…… まあ、俺が住んでいた場所は田舎だったし、高2で童貞ってのは別に珍しくも何とも無かったけど。 ん?あ、ぶつかる……ちょ、マ、マジで助けてくれないのッ!?女神様鬼畜すぎじゃ……
ドグシャッッッブチブチブチッッ!!!
「グボロブベェッッ!!??」
余りにも、余りにも凄惨極まる叫び声を、俺は上げた。意外だ。一応意識がある。この体が特別製だと言うのは本当らしい。前世で自動車に惹かれた時より何倍も痛い、と言うか痛すぎて最早何が何だか分からない、という最悪の状況で、俺は、成る程……このレベルで体がぶっ潰れるとこんな悲鳴が出るのか……と、何故か冷静な頭で考えていた。実にお利口さんな脳味噌だ。
まるでカエルが潰れたような叫び声。という表現はよく聞くが、これの事何だろうか?……いや、もうちょと刺激少なめだろうなぁ……
こんなのカエルが潰れるたびに聞いてたら、気が狂う人が出て来ちゃうよ。
そんな事を考えていると、突然身体が赤く発光し、一瞬のうちに俺の予想を遥かに超えた、超グロテスク状態であったであろう肉片たちが、人の形を形成した。
というか、肉塊が一瞬にして消えた後、突然人の形になった。
「ああ、これが≪完成された吸血鬼≫の<緊急発動>か……最早傷と言っていいかも分からない、このレベルの傷を一瞬で回復とか、とんでもない能力だな」
これ、他人に見られたら間違いなく化け物扱いされるよな……確か、このスキルが発動されると両目がが赤くなるんだっけ?いや、俺の場合右目は魔眼だから左目だけ赤くなるのか……気味が悪いんだろうなぁ、 その光景。 設定した当初は、かっこ良くね?とか考えてたけど、普通に考えたら気持ち悪いだけだよな。
出会った人に、片っ端から嫌われたりしないよね……?
と、ちょっと自分の計算性の無さに呆れ返ってしまったが、ここに来て彼、 アラス・アザトースはあることに気付いた。
「おおっ!これが総ステータス3倍化の影響か……!スッゲー力を感じるぞ!!」
そう、彼のユニークスキルの一つである≪完成された吸血鬼≫は
不老不死 瞬間完全再生 アイテム創造
眷属化 吸血 総ステータス3倍化 緊急発動
思考速度上昇(大)
という、見た瞬間に誰もが「チートやん……」と呟くレベルの代物だった。(そうです。チートなんです)
しかも、彼の身体は特別製だ。超人的な身体能力を女神に保証されている。その更に倍......想像するだけで恐ろしい。(この表現もよく聞くけど想像するだけで恐ろしいとかどんだけビビリだよッ!って話だよね)
「いやぁ〜、あのクソ女神に無理難題を押し付けまくったのが功を奏したな、 このスキルが無かったら今ので完全にゲームオーバーだったわ」
こんなスキルを持っていた俺が何故落ちてる最中にあんなにビビりまくり、前言撤回してまであの女神に助けを求めたかって?
フン、理由を教えてやろう!
それは落ちたら痛いだろうなぁーって思ったからだ。断じて自分のユニークスキルを忘れていたわけではない。無いったら無いのだ。
ホ、ホントだぞ? 嘘なんかじゃ無いんだよ……多分。
それにしても、随分と草が伸びているな。動きにくい事この上ない。
全く人に手を加えられていないのだろう。
遠くには森が見える。落ちている最中に人工物が無いかを確認出来れば良かったのだが……生憎、そんな余裕は無かった。(あの状況でそんな事が出来たらもう人間じゃ無い)
まあ、とりあえずの目標はこの世界の人と接触することだな、通貨の話とか、大陸の話とか、おおまかな物の事は教えてもらったけど、国の名前とか、 人里の場所とかはからっきしだからな。
と、この世界での始めての方針を決めたところで、≪万能の指輪≫の索敵能力に複数の反応があった。このスキルは実に便利だ。
「おっ!ついに俺の初バトルが始まるようだな!さてさて、相手はどんなやつかな〜」
と首を回転させて真後ろを見るとそこには〜ジャジャン!!
なんと体長10メートルほどの巨大な狼が11匹!一体一体がとても美しく、後光がさしているようにさえ見えます!どの狼も銀色の素晴らしい体毛を持っており、僕を見る真っ赤な瞳は、まるで鮮血そのもののようです!!
一言で表すと、メチャクチャ強そう。
と言うか勝てない。
「って、は?いや、え?何これどう考えてもおかしいよね? あっ!僕はきっと疲れているんだ!!そういう時は笑い飛ばせっておじいちゃん言ってたな〜ワッハッハッハッハー!どうだ!僕の疲れは吹き飛んだぞ!」
「 さあ、僕の疲労が作り出した化け物よ!とっとと消えろ!!」
「……グルルルルゥ…」
「ん?おかしいな....悪霊退散ッ!おい!聞いてんのか!?悪霊退散って言ってるんだよ!!」
「グルルゥ…ガゥッ!ガゥッ!!」
何という事でしょう!!
僕の疲労が作り出した怪物はいきなり僕に襲いかかってきました。
いや、さすがに俺でもわかるぞ、
こいつらは本物だ。
あの女神どんだけ怒ってんだよ…
呆然として働こうとしない頭はふと、ここに来る少し前の事を思い出していた。